笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年10月20日

アメリカ各州での新型H1N1ワクチン接種順位事情

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:36 PM

日本における今回の新型インフルエンザ・ワクチン優先接種順位は、
医療関係者→妊婦・合併症患者→低年齢児童,小学生低学年→小学生高学年→65歳以上高年齢者→その他
となっているのだが、アメリカ各州ではどうなっているのだろう?

Nasal spray H1N1 flu vaccine becoming available 」によれば次のようなことらしい。

多くの州では、日本と同じく、医療関係者や介護関係者が最初の接種順位のようであるが、次のような順位の州もあって、予想以上に、ばらばらの対応のようである。

シカゴでは、医療関係者とともに、消防士など、緊急出動関係者が優先されている。

アラスカでは、2歳から4歳までの学齢前児童が優先されている。

ペンシルベニアでは、5歳から9歳までの児童が優先されている。

これは、この年齢では二回の接種が義務付けられているという時間的な問題と、この年齢帯をもっとも長い間保護しなければならない、という考え方からのようだ。

最初のワクチンは、鼻からの吸入によるフル・ミストだったが、これは、2歳から49歳までの健康な人々対象に限られる。

ワクチン注射は、最初の10月第一週では6百万から7百万服、10月第二週から4千万服、
であり、これによって、妊婦、ハイリスク者、生後6ヶ月から24歳までの子供や学生、喘息、糖尿病、幼児の介護人などの大人をまかなうとしている。

新生児については、ワクチン接種をしないので、その親や家族については、優先的にワクチン接種をすることでカバーする予定のようだ。

また、マサチューセッツ州では、ハイリスクの病気を持たない健常者については、11月まで、ワクチン注射をおくらせてもらうようにしている。

ちょっと変わっているのがミルウォーキーで、ここでは、健常な勤労者を最優先し、その次に、学童、幼稚園、ハイスクールとしている。

そして、10月下旬からは、誰でもオーケーということにしている。

限られたワクチンの各州への分け方だが、人口割で、割り付ける。

接種場所は、医者、病院、公的診療所のほか、ドラッグストアでもオーケーというのが、アメリカらしい。

もっとも、これは、フル・ミストに限られるのかも知れないが。

また、イリノイ州のように、人口密集地区や貧困地区を優先に、郵便番号コード(ZIPコード)で、接種の優先順位を決めている州もある。

このようにみてみると、新型ワクチン接種順位に対する考え方も、さまざまで、日本のような一律対応というわけではないようだ。

日本の接種順位は、基本的には、医療関係者を優先するなどについて見れば、強毒型H5N1鳥インフルエンザのパンデミック対応を踏襲した感じがぬぐえないが、弱毒性だということがわかっている新型H1N1インフルエンザへのワクチン接種対応としては、果たして、この順位でいいのだろうかという疑念はある。

むしろ、児童→小学生→中学生→高校生などを優先したほうが、ターゲットとしては、今回の場合、あっていたのではなかろうか?

また、日本においては、集団接種の可否についての議論も未成熟であったようにも思える。

特に、もっともかかりやすいといわれている、しかも、二回接種を義務付けられている小学生低学年の第一回接種がこのままだと、クリスマスになってしまう、というのでは、あまりに遅すぎると思う。

第二波が、当初予測されたほどのものではないとの見方が広がっている折から、このクリスマスの段階では、大方、第二波は、すでに勝負あったということになるのではないか?というような見方を、私はしているのだが。

いまだに、H5N1鳥インフルエンザ対応のトラウマから抜け出せていない、日本のインフルエンザ対応のように、総じて、見受けられる。

ヒトから豚への新型H1N1感染が懸念されはじめている。

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:34 PM

養豚関係者には嫌われる話とはなるが、そもそも、今回の新型H1N1インフルエンザ・ウイルスが、どこを発祥にしたかといえば、メキシコなりカリフォルニアなりノースカロライナなりに、1998年以降、ここ十数年、養豚地帯で、静かなる循環をしていたH3N1とH1N1との豚におけるハイブリッドウイルスを、その始祖とするという説が有力であるようだ。
参考
やはり新型ではなかった、今回のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス
気になるアメリカの養豚地帯でのH1N1感染拡大
「「今回の新型インフルエンザの祖先ウイルスは、約十年前からつい最近まで、沈黙の循環を続けていた」とする昨日のネイチャーの論文

そこで、ここにきて、今回の新型H1N1インフルエンザ・ウイルスが、今度は、ヒトから豚へ逆感染拡大を続けているのではないか、との懸念を、ニーマン博士などがしている。

このサイト「Pandemic H1N1 Spread in Swine Raises Pandemic Concerns 」などがそうだが、内容は次のとおりである。

かねてから、この問題は、今年4月末に、カナダのアルバータ州やカルガリーなどで人から豚への感染が確認された例があったが、今度は、アメリカのミネソタ州でのことである。

先週金曜日、農業関係当局が発表したところによると、8月26日から9月1日にかけて開催されたミネソタ州博覧会(the Minnesota State Fair)において、一部の大学当局者が研究プロジェクトの一環として、博覧会出品の豚からサンプルを採取したが、そのうち、三頭の豚のサンプルに新型H1N1インフルエンザ・ウイルスが検出されたということである。

この豚は、インフルエンザ症状を示してはいなかったが、関係者の話では、この博覧会には、180万人の来訪者があり、これらの人々から感染したのではないかと、推測している。

また、これらの博覧会出展用豚は、コマーシャル豚とは、隔離されて管理されているといっている。

USDAは、したがって、輸出豚肉の安全性には関係ない、と、強調しているようだ。

この件に関してのUSDAの発表内容は、このサイト「 USDA CONFIRMS 2009 PANDEMIC H1N1 INFLUENZA VIRUS PRESENT IN MINNESOTA FAIR PIG SAMPLE 」をご参照

The U.S. Department of Agriculture’s National Veterinary Services Laboratories は、公式に、この確認をした。

しかし、アメリカ以外に数カ国でも、すでに、豚への新型HN1感染が報告されている。

先にあげたカナダのほか、アルゼンチン、オーストラリア、アイルランド、ノルウェー、イギリスでは、すでに、その確認をし、OIEへの報告をしている。

そのほか、シンガポール、インドネシアにおいても、確認されているようだ。

このようなことから、ヒトから豚への新型H1N1インフルエンザ感染は、相当拡大しているものとおもわれる。

しかし、その事実を持って、例の「豚インキュベーション論」(”mixing vessels”)が再び一人歩きしてしまうと、無用の社会的な混乱を招くことになるので、このことについては、十分な検証が必要のように思える。

後記 2009年10月20日午後8時

日本でも同様のケースが出たようだ。

農林水産省は20日、大阪府内の養豚農場で飼育している豚から、新型インフルエンザの疑いがあるウイルスが確認されたと発表した。府が今月8日に実施した検査をきっかけに発覚したもので、動物衛生研究所(茨城県つくば市)で詳細な検査を行い、ウイルスの型の判定を急いでいる。感染が確定すれば、新型インフルの豚の感染例としてはカナダ、米国などに次ぎ8カ国目。国内で初めてとなる。
大阪府は新型インフルを警戒し、府内の養豚農場に対して年2回前後実施している定期検査の回数を増やすことを検討している。

2009年10月19日

換金回路構築のデザインなき、国民総措置化のみをめざす、民主党政権の経済政策のあやまり

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:41 PM

今の民主党政権の政策を家計にたとえれば、金になる換金回路がなくなって、一億総措置化の社会実現を目指していると、言うほかないようだ。

円高容認で、輸出産業という換金回路は、閉鎖され、農業者戸別所得補償で、せっかく日の目の当たりかけた産業としての農業を、社会保障としての、いじけた農業生産者によるいじけた産業に変えてしまっている。

では、子供手当てが回りまわって、消費を刺激するかといえば、こちらのほうは、デフレの罠( Liquidity Trap)にとっつかまって、家計内埋蔵金と化してしまう様相である。

さらに、では、雇用調整助成金が景気刺激的かといえば、当座の国家的な人件費補助とはなっても、それが自立的に中小企業を動き出しうる呼び水効果は、ゼロである。

すべての国家支出が、デフレの罠にとらえられ、それ以上の累乗的な換金回路の創出にはつながっていかない。

内需振興のお題目は唱えれど、マーケットの累乗的拡大という出口なき、サプライサイド一辺倒の政策イメージしか、ここからは、浮かんでこない。

では、それならば、限られた内需のマーケットの中で、現在の外需のどの部門とどの部門を内需にシフトさせるのか、という具体的な戦略も、不透明である。

ここにも、デフレの罠が大きく立ちはだかっている。

国家としての換金回路構築という発想に立てば、今こそ必要なのは、

換金回路が自立的に創出され、それが、累乗的な族生にいたるまでの、ビッグプッシュ的な国家支出
と、
減税と消費税への税構造のシフト
そして、なによりも、
デフレの罠脱出のための金融政策の転換

なのではなかろうか。

2009年10月17日

タイレノールが幼児のワクチン接種効果をさまたげる、とのチェコの研究

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:43 PM

アセトアミノフェン(acetaminophen)を主成分とする非アスピリンの鎮痛剤である、商品名「タイレノール」が、ワクチンの効果を妨げるという研究結果が、LANCETの10月17日号に発表された。

この研究は、チェコの the University of Defence in Hradec KraloveのRoman Prymula博士のチームによるもので、論文名は、「Effect of prophylactic paracetamol administration at time of vaccination on febrile reactions and antibody responses in children: two open-label, randomised controlled trials
である。

研究内容は次のとおりである。

ワクチン接種後に、抗体反応として熱が出ることが多いが、この熱さましのために,幼児にパラセタモール(para-acetylaminophenol、別名アセトアミノフェン、タイレノール、)を服用させた場合、ワクチンの効果にどのような影響が出るかを、以下の方法で459人の幼児についてみた。

接種したワクチンは、肺炎球菌、Hib、ジフテリア、破傷風、百日咳についてのワクチンである。

幼児にワクチン第一次接種後、そのうち、226人については、ワクチン接種後24時間以内に、6-8時間ごとに一服ずつ3回、パラセタモールを服用させ、233人については、パラセタモールを服用させなかった。

パラセタモール服用グループの226人を第一グループ、パラセタモール非服用グループ利233人を第二グループとすると。

39.5度以上の熱を出したのは、
第一グループ1人、
第二グループ3人

第一回接種後12-15ヵ月経過した後の、二回目のブースター接種の後では

39.5度以上の熱を出したのは、
第一グループ178人のうち3人、
第二グループ172人のうち2人
であった。

ワクチン接種後、38度以上の熱を出した割合をみてみると

パラセタモール服用グループ(第一グループ)については、
第一次接種後42パーセント(94÷226)
第二次接種後36パーセント(64÷178)

パラセタモール非服用グループ(第二グループ)については、
第一次接種後66パーセント(154÷233)
第二次接種後58パーセント(100÷172)

となり、第一次グループの方が著しく、熱を出す割合が少なかった。

このことから、研究グループでは、パラセタモール服用の第一グループの抗体幾何平均(Antibody Geometric mean coefficient;GMC)は、パラセタモール非服用第二グループと比較して、著しく低いと、結論づけた。

2009年10月14日

羽田空港ハブ化とサード・パーティー・リスクの増大

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:46 PM

前原誠司国土交通相が、羽田空港の「ハブ空港」化を鮮明にする方針を打ち出した。

同時に、これまでの成田・国際化を尊重しつつ、羽田の国際化につとめる、という方針を一転し、「成田・羽田の国際・国内の分離を取っ払う」との踏み込んだ発言をした。

さらに、来年10月の第4滑走路完成を機に、24時間態勢で国際便を運航する構想についても、言及した。

関西空港など、羽田以外の拠点空港の今後については、「併せて関西3空港(関空、伊丹、神戸)のあり方を検討していきたい」などと述べた。

ここで、気になるのは、羽田空港の「ハブ空港」化と、24時間態勢化にともなう、サード・パーティー・リスクの増大である。

航空機そのもの自体の安全性は、年々高まっているが、空港におけるサード・パーティー・リスクは、ますます増大しているというのが、世界のハブ空港での趨勢であるからだ。

サード・パーティー・リスクとは、次のようなことである。

航空機事故の原因としては、全体の事故件数に占める割りあいを見ると、着陸34パーセント、離陸16パーセント、最終進入11パーセント、クルージング9パーセント、駐機8パーセント、となっており、圧倒的に、離発着時の事故が多い。

しかし、航空機の発着に伴う発着一回あたりの離陸・着陸のリスクは低減しつつある。

それにもかかわらず、総発着数の増大が、ハブ空港化によって、巨大な数に及ぶことによって、事故確率が増大し、着陸航路や離陸航路のゾーンにおける第三者に対するリスクが、累乗的に増大するということである。

このサード・パーティー・リスクという問題は、比較的に新しい問題であるが、ヨーロッパでは、すでに深刻な問題として捉えられているようだ。

これまで、このサード・パーティー・リスクは、アセスメントの概念では、騒音などの一般的な環境インパクトへのアセスメントの中に包摂されてしまい、環境問題の中のいっぱひとからげの中で扱われてきた。

しかし、イギリスやオランダでは、このサード・パーティー・リスクについて、独立したアセスメントを行うようになってきた。

また、サード・パーティー・リスクには、さらに、二次的なサード・パーティー・リスクが伴う。

それは、航空路下の精製所や発電プラントへのリスクがさらに近隣の住民リスクにつながるという例である。

サード・パーティー・リスクは、二つのリスク(個人的リスク-Individual Riskと社会的リスク- Societal Risk-)に分かれる。

サード・パーティー・リスクの第一次的なリスクを低減しうる対策としては、鳥対策を含め、いろいろとあるが、決定的なリスク低減の方策は、ないようだ。

むしろ、サード・パーティー・リスクのミティゲーション対策としては、ベースとなる離陸発着数の制限や、ハブ空港の分散化、人口稠密化近辺所在空港の分散化というような、マクロの政策のみ効を奏する。

羽田空港の発着数は現在、1時間当たり31便、年間30・3万回であり、今回、4本目のD滑走路(長さ2500メートル)完成後は、1時間当たり40便、年間40・7万回となるようだ。

航空機事故の確率を100万回に0.34の事故率とし、これに24時間態勢によるリスクが加わるとすれば、相当の数字が出てくるが、これに、さらに、第一次のサード・パーティー・リスクと、第二次のサード・パーティー・リスクが加わるというわけだ。

今回の前原発言は、北東アジアのハブ空港化を進める韓国・仁川国際空港などの動きに乗り遅れまいとする気概に満ちたものではあったが、肝心の、現在、世界のハブ空港が抱える新しい問題であるサード・パーティー・リスクの増大という問題には、頭が回らなかったのだろう。

羽田空港ハブ化のみについてみれば、前原さんの言われるような「プラス・サム」とはならないのである。

今後、トピックス的な政策課題にのみ踊らされない、そして、それこそ、効率性に惑わされない、冷静な政策スタンスが、民主党政権全体にも求められるような気がする。

参考 サード・パーティー・リスク・アセスメントに関する参考サイト

The assessment and management of third party risk around a major airport 」 by B. J. M. Alea, and M. Piers

SAFETY IN AND AROUND AIRPORTS

「Third Party Risk around airports

Third Party Risks posed by Air-craft Accidents in the Vicinity of Geneva Airport

THIRD PARTY RISK NEAR AIRPORTS AND PUBLIC SAFETY ZONE POLICY

参考 2008年世界主要空港のトラフィック・データ一覧

Annual Traffic Data

The Top 30 Airports 2008 – Total passenger traffic

The Top 30 Airports 2008 – Cargo traffic

The Top 30 Airports 2008 – Aircraft movements

羽田ハブ空港化とサード・パーティー・リスクの増大

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:44 PM

前原誠司国土交通相が、羽田空港の「ハブ空港」化を鮮明にする方針を打ち出した。

同時に、これまでの成田・国際化を尊重しつつ、羽田の国際化につとめる、という方針を一転し、「成田・羽田の国際・国内の分離を取っ払う」との踏み込んだ発言をした。

さらに、来年10月の第4滑走路完成を機に、24時間態勢で国際便を運航する構想についても、言及した。

関西空港など、羽田以外の拠点空港の今後については、「併せて関西3空港(関空、伊丹、神戸)のあり方を検討していきたい」などと述べた。

ここで、気になるのは、羽田空港の「ハブ空港」化と、24時間態勢化にともなう、サード・パーティー・リスクの増大である。

航空機そのもの自体の安全性は、年々高まっているが、空港におけるサード・パーティー・リスクは、ますます増大しているというのが、世界のハブ空港での趨勢であるからだ。

サード・パーティー・リスクとは、次のようなことである。

航空機事故の原因としては、全体の事故件数に占める割りあいを見ると、着陸34パーセント、離陸16パーセント、最終進入11パーセント、クルージング9パーセント、駐機8パーセント、となっており、圧倒的に、離発着時の事故が多い。

しかし、航空機の発着に伴う発着一回あたりの離陸・着陸のリスクは低減しつつある。

それにもかかわらず、総発着数の増大が、ハブ空港化によって、巨大な数に及ぶことによって、事故確率が増大し、着陸航路や離陸航路のゾーンにおける第三者に対するリスクが、累乗的に増大するということである。

このサード・パーティー・リスクという問題は、比較的に新しい問題であるが、ヨーロッパでは、すでに深刻な問題として捉えられているようだ。

これまで、このサード・パーティー・リスクは、アセスメントの概念では、騒音などの一般的な環境インパクトへのアセスメントの中に包摂されてしまい、環境問題の中のいっぱひとからげの中で扱われてきた。

しかし、イギリスやオランダでは、このサード・パーティー・リスクについて、独立したアセスメントを行うようになってきた。

また、サード・パーティー・リスクには、さらに、二次的なサード・パーティー・リスクが伴う。

それは、航空路下の精製所や発電プラントへのリスクがさらに近隣の住民リスクにつながるという例である。

サード・パーティー・リスクは、二つのリスク(個人的リスク-Individual Riskと社会的リスク- Societal Risk-)に分かれる。

サード・パーティー・リスクの第一次的なリスクを低減しうる対策としては、鳥対策を含め、いろいろとあるが、決定的なリスク低減の方策は、ないようだ。

むしろ、サード・パーティー・リスクのミティゲーション対策としては、ベースとなる離陸発着数の制限や、ハブ空港の分散化、人口稠密化近辺所在空港の分散化というような、マクロの政策のみ効を奏する。

羽田空港の発着数は現在、1時間当たり31便、年間30・3万回であり、今回、4本目のD滑走路(長さ2500メートル)完成後は、1時間当たり40便、年間40・7万回となるようだ。

航空機事故の確率を100万回に0.34の事故率とし、これに24時間態勢によるリスクが加わるとすれば、相当の数字が出てくるが、これに、さらに、第一次のサード・パーティー・リスクと、第二次のサード・パーティー・リスクが加わるというわけだ。

今回の前原発言は、北東アジアのハブ空港化を進める韓国・仁川国際空港などの動きに乗り遅れまいとする気概に満ちたものではあったが、肝心の、現在、世界のハブ空港が抱える新しい問題であるサード・パーティー・リスクの増大という問題には、頭が回らなかったのだろう。

羽田空港ハブ化のみについてみれば、前原さんの言われるような「プラス・サム」とはならないのである。

また、今回の一連の騒ぎの中で、ハブの話は出たが、スポークの話は出なかったようである。

スポークには、国内のスポークもあれば、国際的なスポークもある。

今後、トピックス的な政策課題にのみ踊らされない、そして、それこそ、効率性に惑わされない、冷静な政策スタンスが、民主党政権全体にも求められるような気がする。

参考 サード・パーティー・リスク・アセスメントに関する参考サイト

The assessment and management of third party risk around a major airport 」 by B. J. M. Alea, and M. Piers

SAFETY IN AND AROUND AIRPORTS

「Third Party Risk around airports

Third Party Risks posed by Air-craft Accidents in the Vicinity of Geneva Airport

THIRD PARTY RISK NEAR AIRPORTS AND PUBLIC SAFETY ZONE POLICY

参考 2008年世界主要空港のトラフィック・データ一覧

Annual Traffic Data

The Top 30 Airports 2008 – Total passenger traffic

The Top 30 Airports 2008 – Cargo traffic

The Top 30 Airports 2008 – Aircraft movements

2009年10月13日

「コペンハーゲン気候変動会議での衝突を回避するために、正しい軌道を敷くべし」との話題のロンドン・エコノミストの記事

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:48 PM

Avoiding a crash at Copenhagen – How to get negotiations on the right track for a deal」という最近のロンドン・エコノミスト(古い言い方でしょうかね?)の記事が、地球温暖化気候変動交渉関係者の間で話題になっている。

いわばCO2排出主要国が抜けてしまった京都会議の二の舞を避けるためには、どうしたらいいのか?という現実的な提案なのだが、京都会議で実質主導権を握ったEUからすれば、面白くない提案なのかもしれない。

また、「京都議定書は、実のところ、ざる法だった。」(Yet Kyoto, in truth, has no teeth.)などと言い切っているなど、京都議定書の欠点をことごとくあげつらった論評ぶりも、当時の議長国であった日本にとっても、不快さを覚える記事なのかもしれない。

私も京都会議の時には、各国の議員交流的なサブ・セッション的なものには、亡き橋本竜太郎先生らとともに、参加したが、アメリカのいない諸会議は、気の抜けたもののように感じたことは事実である。

米中をはじめとしたCO2排出主要国を、まず、土俵の中に入れることによって、コペンハーゲン議定書こそ、初めて、有効な議定書となるための現実的な提案なのかもしれない。

なお、この記事に対しては、現在時点で、24のコメントが寄せられているが、このコメントを読んで見るのも、面白いかもしれない。

以下は、その話題の記事の全訳である。

以下、翻訳開始

12月にコペンハーゲンで開かれる気候変動会議に向けた外交上のプロセスは、加速化しつつある。

準備会合は、先週、主要経済フォーラムを終え、今週は、国連気候変動サミットとG20、そして、来週はバンコクでのプレ・コペンハーゲン交渉を控えている、といった状況だ。

世界を動かしている人々は、京都議定書に続く協定に同意しようと、かつてないほど、熱を持ってあたっている。

それほど多くのエネルギーが、この、もっとも手に負えない問題の解決に向けられているということは、いいことだ。

(しかし)不幸なことには、そのエネルギーの多くは、間違った方向に向けられている。

京都議定書は、傷ついた協定である。

そして、もし、交渉者たちが、この(京都議定書にかかげられた)指針に、あまりに闇雲に追随しようとすると、世界は、外交上の列車衝突事故のリスクを持つことで終わってしまう。

アメリカ上院でのこう着状態

ここ一年、重大な気候変動を避けようとする努力にむけて、事態は好転してきた。

アメリカでは、オバマ大統領が選出され、下院は、カーボン排出を抑制するためのWaxman-Markey法(H.R.2454 “American Clean Energy and Security Act of 2009 “)を可決した。

日本では、政権交代後の政権が、2020年までに、温暖効果ガスを1990年レベル対比25パーセント削減するマニフェストを作った。

そして、国連サミットでは、中国の胡錦濤国家主席が、2020年までに、GDP1単位当たりのCO2排出量を05年比で大幅削減するよう努力すると約束した。

しかし、この数ヶ月、アメリカにおける政治的進展は、膠着状態にある。

オバマ政権の問題は、つねに、国際条約を承認するかどうか決定する上院にあるようだ。

だが、アメリカ上院は、あまり、そのような承認をしたくないようだ。

京都議定書の取り決めでは、先進国が数値目標に従うことについて国際的に誓うことを要求されたが、その要求は、受け入れられなかった。

アメリカ上院は、ブッシュ前大統領がそれを破棄するかなり以前に、京都議定書は、拒絶されるであろうということを明らかにしていた。

オバマ政権の計画では、コペンハーゲン会議の前に環境が整うように、Waxman-Markey法を成立させる予定であった。

しかし、多くの上院議員は、Waxman-Markey法についても、乗り気ではなく、したがって、仮に成立したとしても、コペンハーゲン会議には、間に合いそうもないようだ。

したがって、この分だと、オバマ政権は、国内法の環境を整えずして、コペンハーゲン会議に臨む羽目となる。

そして、外国人には、受けられられるが、国内の上院には受けられていない数値目標を、引き受けたり、上院には受けられられるが、外国人には、受け入れられない約束ができない羽目となりうる。

そして、コペンハーゲン会議(COP15)の破綻が、来年のWaxman-Markey法そのものの成立を困難なものとさせてしまう。

ここに、これらとは異なった外交路線へと交渉を進めうるオルタナティブがある。

京都会議でのアプローチは、明らかに成功しなかった。

世界の二酸化炭素排出量は、1997年の京都議定書締結後、25パーセント、増加した。

その増加の理由の一部には、森林伐採のような大きな排出源を除外した議定書であったこともあるが、同時に、潜在的な参加者たちが、国際的に義務的な公約を果たすという考え方に、嫌気をさしていたことも、その理由に挙げられる。

オーストラリアは、他の合意ルートを提案していた。

すべての国は、排出削減プログラムについての「国内的スケジュール」を考え出している。

それは、キャップ・アンド・トレードであったり、低炭素規制であったりしている。

先進国も、同様に、それぞれの排出量を削減することを意図しての数値指定をしている。

これらの公約は、国内法の施行となりうるが、国際的な制裁には、支配されえない。

オバマ大統領が、国々がそれぞれの公約の後押しをしうるサミットの必要性を話した時の意図は、おそらく、このことだったのだろう。

アメリカの立法者たちは、これが一番自分たちの趣味に合うことなのだと、気づいたのだろう。

それで、国際的に義務的な公約がされることを恐れている発展途上国に対して、炭素関税を課すことの正当化として、これを利用できると、彼らは思ったのだろう。

このアプローチに対する反対者たちは、もし、目標が国際的に義務的なものでなかったのなら、そして、その数値目標を実施する順守メカニズムがなかったとしたら、いかなる世界的な合意も、権限のないものになってしまう、との不平をもらしている。

しかし、京都議定書も、、実のところは、ざる法だったのである。

京都議定書は、理論上は、遵守メカニズムを持っている。

すなわち、一定のピリオドにおいて、この目標に合うことに失敗した国は、次のピリオドにおいて、さらに多くの削減をすることになっている。

しかし、それは、実行されないであろう。

排出量の最終決算において、カナダは、京都合意でのカナダの排出量削減目標を29パーセント、上回ったが、そのことでカナダは、罰せられることはないであろうと、誰しも、思っている。

また、国際的な義務的合意が、国々を排出量削減に向かわせるために必要不可欠なものであるとも、誰しも、思っていない。

中国は、そのような数値目標に抵抗しているが、その一方で、近年、他のどの国よりも、排出量を、より、おさえるようにしてきている。

そして、外交上の圧力のもとで、条約に調印するよりも、国内法の施行による手段のほうが、より続く可能性がある。

もし、アメリカが、国際的な義務目標を引き受ける準備があるのなら、それはそれでいい。

しかし、多くのアメリカに対する交渉者が、アメリカに対して、国際的な義務目標以外のオルタナティブがないと、主張すると、それは、危険なことだ。

もし、アメリカの上院議員が、アメリカが、勇み足で、押されている、と感じるとしたならば、彼らは、排出削減に、アメリカとして、約束したがらないであろう。

そして、オバマ大統領が、どのような、削減をしたい気持ちにあろうとも、立法者たちによって支持されない約束は、長期的には、続かないであろう。

コペンハーゲン会議までは、そんなに時間がない。

しかし、オルタナティブな軌道を拓く時間は十分あるのだ。

以上翻訳終わり

民主党政権の暴走をそろそろ止めなければ。

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:47 PM

マニフェストを金科玉条にして、毎日のように、主要な政策変更について、利害関係者との対話を無視し、オルタナティブの提示を欠如させながら、暴走を続ける民主党政権だが、自民党は、いまだに、失意の眠りから覚めてはいぬようだし、かといって、天下の木鐸たるマスコミは、コメンテーターからもなにからも、高みにたった適格なコメントをしていない。

公平な政策評価のスタンスにたった官僚の政治家をいさめる力も、今のところは、消えうせ、転びバテレン官僚オンパレードの様相だ。

これでは、GHQ占領下の官僚よりも、ひどい。

当時のGHQと官僚との橋渡し役をし、時には、GHQの暴走へのいさめ役にも回った、白州次郎のような存在は、いないのであろうか?

要は、日本は大統領制にはないが、議会と政府とは、健全なカウンター・バランス・パワーの関係におかれていなければならない、ということだ。

民主党は、政権党であっても、政府そのものではない。

マニフェストは、政党のものではあっても、政府そのもののものではない。

民主党は、ことあれば、国民に支持されたというが、大統領制下にない以上、鳩山総理自身は、べつに、国民に直接支持されて選ばれたわけではないのだから、その意味では、鳩山政権は、直接、国民に支持されているわけではないのだ。

このわかりすぎる敷居が取れてしまって、野放図になっているのが、現在の何でもござれの、民主党政権の政策変更の乱発なのだ。

その力関係が崩れてしまっていることに、現在の混乱があるのだと思う。

大統領制のもとでは、時に、与党と大統領とは、対立することがある。

そのために、大統領には、拒否権 (veto)が与えられている。

日本においても、議会制民主主義の下で、与党と政府とが対立関係にあってはならぬことはない。

当然、執行する側と、その政府が提案する政策を吟味する側とでは、意見の不一致があるのは当たり前である。

大統領制の下にはない日本においては、総理は、議会決定事項についての拒否権は有しないが、議会側にある与党においては、政府が提示した政策についての健全なカウンター・パワーをもちうる。

総理のもつ解散権は、いわば、集約化された意味での、広義の「拒否権」ともいえる。

とかく、解散権は、野党への牽制権ととらえられがちであるが、実は、議会への牽制権なのである。

今回、横路衆議院議長が、民主党が議員立法を禁止したことについて、疑義・異論を呈したのは、その良き、カウンター・パワー発揮の例であろう。

では、この暴走をどう制御したらいいのだろう。

私は、健全な見識の元での、議長の発言力と行動力に期待したい。

つまりは、「政党の力」ではなく、「議会の力」の発揮なのであり、三木武夫さんではないが、議員が「政党の子」としてではなく、「議会の子」としての見識を求められる時代にあるのである。

2009年10月11日

新型H1N1の第二波は来ないとの憶測広がる。

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:52 PM

10月8日付けのニューズウイークの記事「Areas Hit Hard by Flu in Spring See Little Now」では、アメリカの多くの州では、依然としてH1N1感染者は増加しているが、この春に大感染を広げたニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアでは、第二波と見られる著しい感染増大は、今のところ見られていないところから、当初予想されたこの秋での第二波は、1918年のようなことにはならないのでは、との憶測を伝えている。

すなわち、ニューヨーク市では、この春、75万人の感染者が出たが、この秋には、目だった感染者の増加を見ていないという。

専門家の推測では、この春にニューヨーク市の人口の20パーセントから40パーセントが免疫を獲得したと見られている。

反面、このことは、集団免疫化への動きを鈍らせている。

集団免疫化の効果が出るのは、はしかなどの場合は、人口の90パーセントの免疫化の必要があるというが、今回のH1N1の場合は、せいぜい50パーセント程度であるという。

まさに、行政のワクチン接種の呼びかけにも、「笛吹けど踊らず」の状況で、このままでは、大量のワクチン在庫の山ができるとの懸念も出ているようだ。

第二波を当て込んだワクチンの過発注にとどまらず、カナダのマニトバ州では、遺体袋の過発注問題まで出ているという。

カナダでも、第二波については楽観的で、ある当局者は、「結局、第二波は、情報の流行(epidemic of information)に過ぎなくなるであろう。」といっている。

むしろ、新型よりも、毎年多くの死者をもたらす季節性インフルエンザこそ警戒すべきであるとして、高齢者に対する季節性インフルエンザワクチンの接種を勧めている。

一方、イギリスでも、第二波は、当初予想されたピークよりは、かなり低いものになるのではないか、との憶測が広まっているようだ。

もちろんイギリスにおいても、感染者は、19歳以下を中心にして、刻々増えているが、その増加率は、決して、加速的ではないという。

専門家では、このことをもって、「今回のH1N1の広がりは、”スロー・バーナー”である。」といっている。

スローバーナーと呼ばれる懸念は、H1N1問題が今後、数年にわたり長期化しかねないドリフト変異に対する懸念でもある。

ニューヨーク市のバッファロースクールでは、生徒の一部が、春と秋の二回、軽いH1N1感染症状を見せるという現象が生じているという。

これは、今回のH1N1iについて、抗体の力価(titer)の減少が見られているということである。

ニーマン博士によれば、これは、複数のサブ・クレードのウイルス感染によって、抗原ドリフト(antigenic drift)”といわれる。“ドリフト変異体(Drift variant)”が生成されているのではないか、ということである。
参照「Buffalo School Outbreaks Raise H1N1 Re-Infection Concerns

今回の新型インフルエンザが、今後、季節性インフルエンザとして長期化し存在する可能性も、このことから、ありうる。

また、このことは、今回の新型インフルエンザ・ワクチンの効力がどの程度あるのか、についての疑念も生じさせかねない。

ここにきて、再び、1973年の集団一斉接種による功罪論が噴出している。

この1973年の集団一斉接種で、例のギランバレー症候群問題を引き起こした悪夢が人々を襲ってきたということだ。

「第二波がきそうもないということであれば、何も、リスクを犯して、新型インフルエンザワクチンを接種するまでもない。」との考えの人が増えてきたということだ。

今回、春の感染で獲得した免疫が、現在有効に働いている、ということは、今夏のH1N1が、南半球を回って北半球に戻ってはきたが、その間には、一部のウイルスでのタミフル耐性変異(H274Y変異)を除いては、一部中国やオランダなどを除いては、顕著な劇症性をもたらすウイルスの変異(E627K変異)はなかった、ということである。

1918年の第二波においては、第二波到来最初の25週間で、一週間に百万人の死者が出たが、少なくとも、今回は、そのような状況にはない。

もちろん、気温低下と乾燥がいっそう進むこれからの季節変化には、十分対応しなければならないが、今回の新型インフルエンザに当初描かれていた第二波の恐怖のシナリオは、今のところ、崩れていると見たほうがよさそうだ。

ただ、春の感染で免疫を獲得していない地域もいぜんある、など、地域的には、ばらつきのある対応が、今後、求められてくるようだ。

2009年10月9日

鳩山さんの言う温室効果ガス排出量25%削減目標達成手段には、京都メカニズムは入るのか?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:48 PM

鳩山さんが、教条主義的に、2020年までに温室効果ガス排出量を90年比で25%削減する目標を高らかにうたい上げたのはいいのだが、その達成のための具体的な戦略の中身が、みえてこない。

つまり、90年比25%削減は、国内削減だけの”真水”なのか、それとも、海外での削減分もカウントできる京都メカニズムもカウントに入れての削減なのか、という点がはっきりしていないのである。

各国での温室効果ガス排出量をキャップの水準にとどめるためには、単に、自国での削減による目標達成によるほか、他国での削減量を自国の削減としてカウントできる京都メカニズムがある。
(ちなみに、平成17年4月閣議決定の「京都議定書目標達成計画」における京都メカニズム活用分削減は△1.6%にすぎない。その他、GIS(グリーン投資スキーム、Green Investment Scheme)△3.8%がある。)

もし、鳩山さんが、その京都メカニズムによる削減分もカウントして、90年比25%削減といっているのであれば、それは、説明不足といわざるを得ない。

マーケットメカニズムを利用して、他国での削減量を自国の削減としてカウントできる京都メカニズム(Kyoto Mechanismsまたは、Mechanisms under the Kyoto Protocolともいう。)には、次の三つがある。

①排出量取引(排出権の売買によるもの)

②CDM(クリーン開発メカニズム、Clean Development Mechanism)(途上国対応の削減プロジェクト実施、削減できた部分について、クレジットを受領するもの)、

③JI(共同実施、Joint Implementation)(先進国対応の削減プロジェクト実施し、削減できた部分について、クレジットを受領するもの)

からなっている。

この「Mechanisms under the Kyoto Protocol」を採用している国としては、カナダ、中国、オーストラリア、ニュージーランド、EUなどがある。

アメリカは、京都議定書には、署名はしていないが、シカゴ気候取引所でのFINRA(the Financial Industry Regulatory Authority)の承認下での排出権取引では、世界を引っ張っている。

世界におけるカーボン削減のためのシェーマは、排出権市場も含めて、断片化されており、京都メカニズムを除いては、アメリカのCCXGreen ExchangeRGGIWCI、California Climate Act、EUのEEXEUETS(EU 排出量取引制度)、北欧のBlue NextNord Pool、ロンドンのLEBAECX、オーストラリアのAustralia Carbon Trading Scheme、NSW Abatement SchemeNSWACX、そして、日本の経団連環境自主行動計画に基づくシェーマなどがある。
参考「State and Trends of the Carbon Market 2008

このほか、現在、新たなスキームとして検討されているのが、「REDD」(途上国の森林維持に与えるクレジット)「セクトラル・クレディティング・メカニズム(SCM)」(産業部門別に達成部門に対して与えるクレジット)「NAMAクレジット」(途上国に与えるクレジット)などである。

ここで、注目すべきは、排出権取引の活発化である。

日本は、完全にこの分野では出遅れている。

日本にあるのは、「環境省自主参加型国内排出量取引制度」と「中小企業などCO2排出量削減制度」のみである。

前者は、一応は、キャップ・アンド・トレード方式ではあるが、自主参加のキャップ・アンド・トレードということなので、擬似的なキャップ・アンド・トレード方式といえる。

一部に日本に排出権取引市場を設けようとの構想もあるようだが、日本では、参加人も少なく、流動性の乏しい市場では、設立はもはやムリである。

むしろ、以下に述べるユーロのECXやシカゴ気候取引所のCCXでの取引のほうが現実的であろう。

ユーロのECXとシカゴ気候取引所のCCXは、この分野で世界的な主流を行くものである。

シカゴでは、CO2も含め6種類(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、HFC-ハイドロフルオロカーボン、PFC-パーフルオロカーボン、SF6-六フッ化硫黄、最後の三つは代替フロン)の温暖化ガスの排出権取引が可能である。

シカゴでは、これに加えて、先物取引のCCFEも、加わった。

また、ECXを原資産としたオプションとして、ICE ECX CER Futures Options があるが、これらをヘッジにした各企業の取引もよりいっそう活発になって行くのではなかろうか。

ECXの排出権取引高は、月間500メトリックトンに達している。

また、シカゴ取引所でのCCX排出権取引高も、月間432メトリックトンに達している。

ちなみに、現在の時価相場は、ECXで13.72ユーロ、CCXで10.60ドル程度となっている。

CCXのメンバー・リストを見ると、その多彩さに驚かされる。

航空機では、ロールスロイス、自動車では、フォード、化学では、デュポン、商業では、クノール、その他、コダックなどなど、多士済々である。

中に、変わり種としては、デンマーク大使館やフィンランド大使館なども混じっているのが面白い。

また、地方自治体のアスペン市、オーストラリアのメルボリン市の名前なども見ることができる。

今後、CCXは、インドのNGOや北京のエネルギー関係会社などをも、会員に含めていくようだ。

また、シカゴ気候取引所では、今後、中国やインドでも、排出権取引市場を作っていく計画のようである。

こうしてみると、世界の温室効果ガス排出量削減対策は、マーケットメカニズムに頼った削減策に、大きく傾いているようだ。

鳩山さんのように、削減のキャップを低く(削減目標を高めに)すればするほど、排出権枠の需給関係は、排出権の売り手市場になっていく、という構図のようだ。

鳩山さんへの各国の拍手が、自国内削減の手法によってはできもしないことを言ってしまって、結局は、日本は、京都メカニズムの手法に依存せざるをえなくなり、そのつじつまを合わせのために、京都メカニズム排出権の巨大な買い手となることを見込んでの、巨大なお客さん出現を歓迎する拍手だった。鳩山発言が「日本がキャップ・アンド・トレードを受け入れる」公式宣言となったことへの欧州勢の歓迎拍手だった。などとしたら、情けない。

だから、これらのマーケットメカニズムが働くには、排出枠の売り手と買い手とがバランスをとれたキャップ水準でないと、いたずらな、マーケットの暴走にもつながってしまう可能性も大きいということだ。

たとえ、需給バランスの失調によって、排出権枠の暴騰となっても、では、それをインセンティブにして、マクロで、削減枠の拡大が進むかといえば、そうでもなさそうなのだが。

低ければいい(削減目標が高ければいい)という代物でもないようだ。

その辺も考えての鳩山発言なのかどうか、非常に疑問もある。

はたして、鳩山さんの今回の発言は、この京都メカニズムによるカウントをも含めないで、自国のみの削減努力で、削減目標25パーセントとしているのか、それとも、京都メカニズムによるカウントを含めて、削減目標25パーセントといっているのか、その辺が、ちょっとわからないのだが。

茅陽一さんの指摘によれば、当初民主党は公約に30%目標を掲げていたが、これは“真水”ではなく、森林吸収と京都メカニズム分(現在は京都メカニズム△1.6%+GIS△3.8%=合計5.4%)を含んでおり、これをさらに大きくすることは国際社会も反発するだろうとの指摘もあり、森林吸収と京都メカニズム分を現状とすれば、、削減目標は30-5.4≒25%となる。というあたりが、今回の25パーセント削減の根拠らしいのだが。(つまり、この茅さんの指摘に従えば、今回の25パーセントは、京都メカニズム分を入れない真水分ということになってしまう。となれば、今度は、当初の、そもそもの30%削減目標の根拠はなに?ということになってしまうのだが。)

その辺を白黒はっきりさせないと、いたずらな、削減目標25パーセント目標提示は、産業界に恐怖感をあたえてしまうばかりとなる。

そして、もし、後者だとすると、世界の削減目標到達の多くがカーボン・マーケット・メカニズムに依存しているという現状からすれば、あまりに低いキャップの設定(高すぎる削減目標)は、かえって、健全な排出権市場の育成の妨げになることだけは確かだろう。

後記

このサイト「国連気候変動枠組条約AWG会合@タイ・バンコク 中間まとめ」によると、「タイ・バンコクで開催されていた国連気候変動枠組条約のAWG会合で、南アフリカから「日本の目標は『真水』なのか?」という質問があり、これに対して日本は、「今後の交渉次第(it’s up to negotiation.)であり、現時点ではなんとも言えない」と回答。また、京都議定書の延長を意図していないことについても説明。」との記述がある。

この辺を、日本側はあいまいにしてはおられない状況のように見えるのだが。

さらに後記

経済産業省の近藤洋介政務官は10月13日夜に出演したCS放送「日経CNBC」の番組で、2020年時点の温室効果ガス排出量を90年比25%削減する鳩山政権の中期目標について「基本的には真水(での達成)を目指すべきだ」と述べ、排出権購入以外の国内対策主体で削減を進める考えを明らかにした。

近藤経産政務官は、90年比25%減は「主要排出国が加わるのが大前提。実現可能かと言えば難しい」と指摘する一方、「税金で海外から排出権を買ってくることは目指すべきでない。あらゆる政策と技術力を駆使して実現したい」と強調した。

鳩山政権は90年比25%のうち、どれだけを国内対策で達成するのか明らかにしていないが、この近藤発言が本当だとすれば、鳩山発言は、クレージーといえる。