10月8日付けのニューズウイークの記事「Areas Hit Hard by Flu in Spring See Little Now」では、アメリカの多くの州では、依然としてH1N1感染者は増加しているが、この春に大感染を広げたニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアでは、第二波と見られる著しい感染増大は、今のところ見られていないところから、当初予想されたこの秋での第二波は、1918年のようなことにはならないのでは、との憶測を伝えている。
すなわち、ニューヨーク市では、この春、75万人の感染者が出たが、この秋には、目だった感染者の増加を見ていないという。
専門家の推測では、この春にニューヨーク市の人口の20パーセントから40パーセントが免疫を獲得したと見られている。
反面、このことは、集団免疫化への動きを鈍らせている。
集団免疫化の効果が出るのは、はしかなどの場合は、人口の90パーセントの免疫化の必要があるというが、今回のH1N1の場合は、せいぜい50パーセント程度であるという。
まさに、行政のワクチン接種の呼びかけにも、「笛吹けど踊らず」の状況で、このままでは、大量のワクチン在庫の山ができるとの懸念も出ているようだ。
第二波を当て込んだワクチンの過発注にとどまらず、カナダのマニトバ州では、遺体袋の過発注問題まで出ているという。
カナダでも、第二波については楽観的で、ある当局者は、「結局、第二波は、情報の流行(epidemic of information)に過ぎなくなるであろう。」といっている。
むしろ、新型よりも、毎年多くの死者をもたらす季節性インフルエンザこそ警戒すべきであるとして、高齢者に対する季節性インフルエンザワクチンの接種を勧めている。
一方、イギリスでも、第二波は、当初予想されたピークよりは、かなり低いものになるのではないか、との憶測が広まっているようだ。
もちろんイギリスにおいても、感染者は、19歳以下を中心にして、刻々増えているが、その増加率は、決して、加速的ではないという。
専門家では、このことをもって、「今回のH1N1の広がりは、”スロー・バーナー”である。」といっている。
スローバーナーと呼ばれる懸念は、H1N1問題が今後、数年にわたり長期化しかねないドリフト変異に対する懸念でもある。
ニューヨーク市のバッファロースクールでは、生徒の一部が、春と秋の二回、軽いH1N1感染症状を見せるという現象が生じているという。
これは、今回のH1N1iについて、抗体の力価(titer)の減少が見られているということである。
ニーマン博士によれば、これは、複数のサブ・クレードのウイルス感染によって、抗原ドリフト(antigenic drift)”といわれる。“ドリフト変異体(Drift variant)”が生成されているのではないか、ということである。
参照「Buffalo School Outbreaks Raise H1N1 Re-Infection Concerns 」
今回の新型インフルエンザが、今後、季節性インフルエンザとして長期化し存在する可能性も、このことから、ありうる。
また、このことは、今回の新型インフルエンザ・ワクチンの効力がどの程度あるのか、についての疑念も生じさせかねない。
ここにきて、再び、1973年の集団一斉接種による功罪論が噴出している。
この1973年の集団一斉接種で、例のギランバレー症候群問題を引き起こした悪夢が人々を襲ってきたということだ。
「第二波がきそうもないということであれば、何も、リスクを犯して、新型インフルエンザワクチンを接種するまでもない。」との考えの人が増えてきたということだ。
今回、春の感染で獲得した免疫が、現在有効に働いている、ということは、今夏のH1N1が、南半球を回って北半球に戻ってはきたが、その間には、一部のウイルスでのタミフル耐性変異(H274Y変異)を除いては、一部中国やオランダなどを除いては、顕著な劇症性をもたらすウイルスの変異(E627K変異)はなかった、ということである。
1918年の第二波においては、第二波到来最初の25週間で、一週間に百万人の死者が出たが、少なくとも、今回は、そのような状況にはない。
もちろん、気温低下と乾燥がいっそう進むこれからの季節変化には、十分対応しなければならないが、今回の新型インフルエンザに当初描かれていた第二波の恐怖のシナリオは、今のところ、崩れていると見たほうがよさそうだ。
ただ、春の感染で免疫を獲得していない地域もいぜんある、など、地域的には、ばらつきのある対応が、今後、求められてくるようだ。