笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年10月23日

ワクチン二回接種にこだわって、ワクチンが大量に余らなければいいんですが。

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:33 PM

いったん決まったワクチン一回接種が、政治主導?で、再び、二回接種となったというのだが。

なんでも、この政治主導をされた政務官は、医者出身ということで、それなりの見識を持って主導したのだろうが、問題は、今の予定では、もっとも新型インフルエンザにかかりやすい、また、現にインフルエンザ脳症の事例が多くでている、といわれる小学校低学年の、第一回目の接種が、クリスマス前後となってしまうという、大幅なタイミングのずれの問題なのだが。

これは、二回接種しないと抗体価タイターがどうのこうのという、医学的な問題ではないのだから、とにかく、第二波が来る前に、ワクチンが、もっともかかりやすい世代にいきわたるかどうか、のデリバリーの問題なのだ。

先に、ブログ記事「新型H1N1の第二波は来ないとの憶測広がる。」や「H1N1新型インフルエンザ・ワクチン接種回数は、10歳以上は1回接種にすべし」で書いたように、世界の状況を見ると、第二波は、当初予想されたようなパンデミックの鋭利のカーブを描くことなく、来るようなので、すでに、ピークは、過ぎつつあるという状況ともみえる。

このままでいくと、小学校低学年第一回接種予定のクリスマスのころには、大方、お祭りは終わっているので゛はないのか、というのが、私の見方である。

ただでさえ、世論調査では、ワクチン接種を忌避する人が多いのに加えて、接種二回にこだわって、タイミングを失してしまうと、このままでは、この年末には、大量のワクチン在庫の山ができてしまうことも、十分予想されるのだが。

ましてや、海外からの輸入ワクチンは、世間では、それこそ、ミニマムアクセス米を食わせられるような感じでのアレルギーぶりで嫌がられているようなので、おそらく、こちらのほうは、まして、対象65歳以上と高校生となれば、在庫の山は必至だろう。

まあ、そのことも見込んでの、ワクチン在庫累積への政治責任回避のための、二回接種こだわり論だとしたら、なにをかいわんや、ではあるのだが。

専門家を差し替えてまでの、自らの持論に強引に引きずり込むような政治主導だけは、もう、真っ平である。

当の政務官は、「科学的、医学的に正しいとされたものが、すべて行政判断にならない部分はある」と述べたというのだが、むしろ、その言葉は、あなたのためにあるのだ、といいたい。

WHOが、一回接種を推奨している根底には、ワクチンを、経済力のある富裕国のものの独占にしてはならないとの意思が込められているように思える。

貧困国へのワクチンのドネーションを呼びかけている意図もそこにあるようなのだが゜、日本の厚生労働省の政務官には、そのへんの考えには、到底及び得ないようだ。

後記 2009年10月21日18:16記入

WHOが、ワクチン一回接種を推奨、スイスで、ワクチン返還問題浮上

こんなニュースが入ってきました。

WHOでワクチン研究を率いているマリー・ポール・キーニー(Marie-Paule Kieny)氏は、新型インフルエンザ ( H1N1型 ) の予防接種は1回で十分であり、どのデータも1回の予防接種で間に合うことを示していると述べたとのことです。
参考「WHO – One Dose Of H1N1 Vaccine Should Be Sufficient

一方、欧州医薬品庁 ( EMEA ) のほうでは、このWHOの発表以前から、1回目の接種を受けた3週間後に2回目を受けるよう奨励していました。

そのためスイス政府は、スイスに住む人全員が2回接種を受けられる量の新型インフル用ワクチン1300万本をすでに「ノバルティス社 ( Novartis ) 」と「グラクソスミスクライン社 ( GlaxoSmithKline ) 」から購入していましたので、もし、予防接種を1回で済ませることになった場合、余分のワクチンを製造者側に戻すことが可能か、すでに購入した費用約8400万フラン ( 約75億円 ) は誰が負担するべきかということが、問題になっているとしています。

スイス連邦内務省保健局 ( BAG/OFSP ) のジャン・ルイス・ツルヒャー広報官によると、医薬品会社との契約で機密保持義務が課されており、「まずは認可の決定と医薬品認可機関『スイスメディック ( Swissmedic ) 』の奨励を待つ」としており、また「決定が下るのは早くて10月中旬。予防接種を1回で済ませるか、2回受けることを奨励するかはまだわからない。だが、WHOによる奨励の方向性は正しい」と語っているといいます。

追記 その2 「新型インフルエンザワクチン接種に関する緊急ヒヤリング」の詳細

このブログ「新型インフル 議論そのものを公開 足立政務官ヒヤリング」に、10月19日に厚生労働省内でおこなわれた新型インフルエンザワクチン接種に関する緊急ヒヤリングの様子が、克明に記されています。

問題と思われる主な発言を以下に引用させていただきますと、下記のとおりです。

まづは、尾身イジメの一幕から

尾身

「政務官のリーダーシップに感謝している。恐らく国民も混乱して困っている。専門家会議での評価と結論との間にギャップがあるので説明が必要だと思う。今回は健康な成人200人に対してやった試験の結果で基礎疾患のある人や妊婦まで1回でよいと傾いたかしっかりと説明が必要だろう。そこをご説明してご判断いただきたい。

今回はほとんどのワクチンの専門家にとって嬉しい誤算だったと思う。47年にスペイン風邪の系統からイタリア風邪の系統へと抗原性が変わったので60歳以上の人で90歳に近づけば近づくほど免疫があると言われていた。逆に47年以降に生まれた人には免疫がないという前提だった。ところが200人に対して行った臨床試験の結果、あの最大のメッセージはブースター効果がない、免疫記憶がない全くの新しい感染だとあり得ないほど、ヨーロッパの3つの基準に関して有意にハードルを超えている。それをどう判断するのか。何らかの免疫の記憶がないとああはならないというのが、ほとんどのサイエンティストの考え方。

はっきり言って誰もまだワクチンを打ったことがないのだから現場でどのように反応するかは注意が必要だが、全くの処女の、言葉は悪いが、処女の感染では非常に考えにくい。たとえはH5N1では、あんな反応しない。3つのクライテリアに関して30マイクロだけでなく15マイクロという少量でもヨーロッパの基準を越したことは、これは日英だけでなくオーストラリアも米国でもサイエンティストは大体。。。」

足立

「時間がないからシンプルに。この臨床試験の結果言えることは」

尾身

「結論は何らかの免疫の記憶があっただろう、と。詳しくは系統図で説明するが、結論としては処女感染ではなく何らかの記憶があったために十分に免疫が上がるのだろうと」

足立

「それは結果を考察する前提。結論は」

尾身

「60歳以上の人は免疫に記憶があるだけでなくプロテクションもされているだろう。それより若い人はプロテクションされないけれど記憶がある。実際に感染した人の抗体価の上がり方も新しい感染では考えられないほど早い。そういう状況証拠もあるので、そのように説明されたら国民に分かりやすいのでないか」

足立

「200人の中間報告から言えることは何か。簡潔に」

尾身

「明らかに免疫の上がり方が1回でも十分ある。妊婦の人も免疫は特に健常人と変わらないので恐らく1回でいいだろう。基礎疾患のある人は若干異なるが、しかし免疫学の常識で考えると、免疫の落ちるような疾患でなければ大丈夫だろう」

足立

「だからリザルトとディスカッションを一緒にしないでほしい」

今度は、「政権交代したんでワクチンの回数をかえるべし」とのトンデモ意見が

岩田
「1回打ちの議論をするには何人に接種するのかの議論が欠かせない。ちょうど政権も代わったことだし、国民全員に打つんだという方向に今こそ転換すべきでないか。国民全員に行き渡らせることにすれば1回か2回かという議論は消滅する。幸い多くのワクチンは4週間よりもっと間があいてもブースト効果にはそれほど差がない。まず1回打ってみて、2回打つかどうかは今後のデータを見ながら決めてもよいのでないか。ノアの方舟のように誰を乗せるのかという議論をするのではなくて、東京駅のタクシーのように順番は待つけれど最終的に全員乗れるというのがよいのでないか。」

今度は、政務官から、医療関係者を一回打ちにするのは、日程の関係から、との、トンデモ提案が。この、それこそエビデンスは?って聞きたくなりますね。

足立

「流行の動向を見ていると11月中旬にピークの来る可能性がある。医療従事者を2回打つと次のカテゴリーの人たちが遅くなるということか」

福島

「2週間ほど」

足立

「1回でもよいとした場合は次のカテゴリーは11月はじめから。11月半ばというのは11月6日が3回目の出荷だが、その分ということか。妊婦やティンーエージャーのことはディスカッションとしてエビデンスを持って判断するのは不可能。しかしながら20代から50代の健康人の代表たる医療従事者に関しては1回でよいとするか。それで次のカテゴリーの接種を早めるか、まず決めなきゃならん。仮に次のカテゴリーを始めるとなった場合、その方たちを2回にするのかどうかは次の議論でもよいだろうか」

さらに、政務官からは、「高齢者は遅くなれば二回目接種を諦めるから大丈夫」みたいな、これも、トンデモ発言が

足立

「1回打ちにしたとしても医療従事者が打ち終わらないから第二カテゴリーの人に回らないか」

田代

「100万人というのは、医師と看護師中心にカウントしたもの。全体で110万人か。ただ病院を動かすためには、そのスタッフだけでは当然足りない。コメディカルや院外処方だったら薬局の薬剤師もいるということで、100万人を超えることは想定されていた。ただ具体的な数までは分からない」

足立

「1回でいいのではないかという意見は高齢者の方にも増えてくるだろう。そうなれば国民全員に接種できる可能性が高いだろう。であれば優先順位を変えるべきではなかろう。医療従事者を完全に打ち切る。合わせて、いずれは全員にとメッセージを出すか」

またまた、例の先の発言の方から、「順番が回らなかったらごめんなさいで済ませば」なんてトンデモ意見が

岩田

「ある開業医さんの意見だ。その人は医師1人、看護師1人、事務3人でやっている。事務の人が1人倒れると、その仕事を医師が被らなければならなくなって結局倒れるのは一緒だと言っていた。
プライオリティ・リストは政治の問題。ある程度のコンセンサスを得たらゴーするしかない。納得できない人にはごめんなさいして、関係者全員が満足するなどということはない。打つ打たないじゃなくて、いずれ全員に打つんだけど順番ですよという話にしたらどうか。たとえばPTさんOTさんが倒れたらリハビリはできなくなるけれど、しかしライフラインとしての医療よりは緊急度が低いのでないか。ゆくゆくは必ずあなたにも行き渡りますから待っててください、と。」

なんだ、政務官、もうすでに落としどころ言っちゃってんじゃあないですか。これはまずいぜ。

足立
「20代から50代の健康成人には1回で有効な可能性が高いから医療従事者への1回接種もありうべしということで、第二カテゴリーの方を2週間早く打つかは政治判断で我々で判断させていただく。

第二カテゴリーの人に2回打つかという話だが、その結論はもっと先になるべきだろう。現時点で11月はじめに打ち始めて、その後で1回か2回か決める」

以上

10月16日の意見交換会出席者
・ 厚労省担当者
・ 専門家3人:尾身茂氏(自治医科大学教授)、田代眞人氏(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長)、川名明彦氏(防衛医科大学教授)
〔電話参加:庵原俊昭氏(国立病院機構三重病院長)、岡部信彦氏(国立感染症研究所感染症情報センター長)〕

10月19日の意見交換会出席者
・ 足立政務官、厚労省担当者
・ 専門家2人(16日も出席):尾身茂氏(自治医科大学教授)、田代眞人氏(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長)
・ 専門家3人(19日のみ出席):森澤雄司氏(自治医科大学付属病院臨床感染症センター感染症防御部長)、岩田健太郎氏(神戸大学大学院医学研究科教授)、森兼啓太氏(東北大学大学院医学研究科講師)

皆さん、これが、政治主導の中身のようですぜ。

輸入ワクチンの安全性について厳格な議論が必要

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 3:31 PM

輸入ワクチンについての情報が混乱しているようだ。

日本というひとつの国の中で、
①アジュバントが使われた輸入ワクチンと、アジュバントが使われていない国産ワクチンとが、平行して接種されようとしている、
②しかも、その輸入ワクチンも、ことなったアジュバントを使ったものが、平行して輸入される、
という日本の特殊・異常な事態を踏まえて、果たして、厚生労働省は、接種の回数問題、優先接種順位問題などについて、安全性を元に、十分に議論されているのかどうか、きわめて疑わしい。
足立政務官による妙な政治主導のみが、目に付くいまの事態に、わたくしは、危機感すら覚えている。

ちょっと、整理しておこう。

ポイントを整理すると 、下記のようになるだろう。

①今回の日本への輸入ワクチンは、二社とも、スクワレンを使用したアジュバント入りワクチンである。

②スクワレンを使用したアジュバントを使っているワクチンにはリスクがある。

③今回の日本へ輸入されるワクチンは二社、異なったアジュバントを使っている。
グラクソ・スミスクライン社のアジュバントはAS03、ノバルティスファーマ社のアジュバントはMF59である。
アジュバントAS03とアジュバ ントMF59 とではリスクが異なる

④アジュバントに含まれる界面活性剤であるTween 80(アジュバントAS03とアジュバ ントMF59の両方に含まれている。)とSpan85(アジュバ ントMF59にのみ含まれている。)が不妊などの原因との説がある。

⑤スクワレンを使用したアジュバントには、インターロイキン6の増加によるサイトカインのリスクと湾岸戦争症候群のリスクがあるといわれている。

⑥今回、日本に輸入される二社のワクチン製造過程におけるウイルス培養方法は、同じではなく、二社、異なっている。
グラクソ・スミスクライン社は、発育鶏卵培養法(embryonated egg culture)によっており、
ノバルティスファーマ社は、組織培養法(cell culture)によっている。

⑦後者の動物由来のMDCK組織を使っての組織培養ワクチン(cell culture vaccine 、ノバルティスファーマ社のワクチンのみ。)は、その誘導体であるMDCK-T1に腫瘍原性リスクがあるとの説がある。

⑧今回輸入のグラクソ・スミスクラインのワクチンは、モックアップ(mock-up)ワクチン(対象とするウイルス株が特定されていない段階で、モデルウイルスを用いて作製されたワクチン、製造承認はこの段階で得ている)であり、鳥インフルエンザ・ウイルスH5N1対応ワクチンとして開発されたワクチンのウイルスを、A/Vietnam/1194/2004(H5N1)からA/California/7/2009 (H1N1)に入れ替えて、製造しているものである。

ノバルティスファーマ社と日本が輸入契約した、「セルトュラ」(Celtura)は、Focetriaと同じアジュバントMF59を使ってはいるが、こちらのほうはモックアップ(mock-up)ワクチンではない。

⑨アメリカは、今回、新型インフルエンザワクチンの選定に当たって、アジュバントなしのワクチンであり、MDCK組織を使っての組織培養の製法によらないワクチンを選んだ。

以下は、その詳細についての説明である。

輸入ワクチンは、二社から

約7700万人分のうち、4950万人分は輸入ワクチンで、残る約2700万人分を国産で賄うとしている。
厚生労働省は、10月6日に、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline、GSK、英国)とノバルティスファーマ(Novartis Pharmaceuticals Corporation 、スイス)との輸入契約を締結した。
供給量はGSKが3700万人分、ノバルティスファーマが1250万人分、合計4950万人分である。

海外ワクチンにはアジュバントを使っているワクチンとアジュバントを使っていないワクチンとがある

海外ワクチン(海外製造ワクチン)には、免疫補助剤(アジュバント、adjuvant)を使っているワクチンと、アジュバントを使っていないワクチンとがある。

また、国によって、アジュバントを使ったワクチンの採用をしている国もあれば、アジュバントを使っていないワクチンを採用している国もある。

ちなみに、アメリカでは、今回、新型インフルエンザワクチンには、 アジュバントを使っていないワクチン(unadjuvanted form)を使用している。

(同じプロセスで、次の四社で接種対象年代別に分けて作らせている。
MedImmune LLC(2歳から49歳の健康な人、生ワクチン経鼻投与)、
CSL Limited(18歳以上、投与量は、0.5 ml )、
Novartis Vaccines and Diagnostics Limited(4歳以上、投与量は、0.5 ml )、
Sanofi Pasteur Inc(生後6ヶ月以上、投与量は、生後6ヶ月から35ヶ月までは0.25 ml 、三歳以上は、0.5 ml ).
このうち、MedImmune LLCのみ、鼻吸入式のフル・ミストというLive attenuated ワクチン。後の三社は不活化( Inactivated)ワクチン
参照「H1N1 Swine Flu Update」)

これは、アメリカ国内で使用するアジュバントは、alumと呼ばれるアルミニウム塩(aluminum salts または、Aluminum gels )に限定されているからである。

後記のように、今回のグラクソ・スミスクライン社とノバルティスファーマ社のアジュバントは、スクワレンを使ったものであり、このスクワレンをアジュバントに使った炭素菌ワクチン(BioThraxのAnthrax Vaccine Adsorbed)が、湾岸戦争症候群(Gulf War Syndrome-GWS-)の原因となっているとされている。
このことがあって、アメリカが、アジュバントを使っていないワクチンを使用する理由のようである。
これは、湾岸戦争に従軍した兵士には、炭素菌ワクチン(anthrax vaccines)が従軍時に接種されており、このワクチンは、スクワレン・ベースのMF59を使用していたため、これらの湾岸戦争退役軍人には、スクワレンに対する抗体(anti-squalene antibodies (ASA))がすでにできているといわれている。
これについての参考文献は、こちらのサイト「Squalene-based adjuvants in vaccines」ご参照
また、1976年接種での、ギランバレー症候群副作用問題浮上へのトラウマもあるようだ。
参考「Swine Flu Vaccine: What The Heck Is an Adjuvant, Anyway?」

なお、イギリス、カナダでは、アジュバントを使ったワクチンを使用している。
フランスとドイツは、GSK社のワクチンをボイコットしている。

日本への輸入ワクチンのアジュバントは、二社異なる。

今回、日本が契約しているグラクソ・スミスクライン(GSK、英国)とノバルティスファーマ(スイス)のワクチンは、いずれも、アジュバントを使ったワクチンを製造している。

しかし、注意しなければならないのは、そのアジュバントは、オイル・イン・ウォーター・エマルジョン(oil-in-water emulsion)というタイプでは共通しているものの、そのアジュバントは、両社、ことなるものであるということだ。

グラクソ・スミスクライン(GSK、英国)では、AS03という名のアジュバントを使っており、また、ノバルティスファーマ(スイス)では、MF59という名のアジュバントを使っている。

なお、AS03とMF59 の違いは、次の成分表をご参照

AS03 (Glaxo-Smith-Kline)
squalene 10.68 mg,
DL–tocopherol (Vitamin E)11.86 mg,
polysorbate 80(Tween80) 4.85 mg

MF59 (Novartis)
squalene 9.75 mg,
polysorbate 80(Tween80) 1.175 mg,
sorbitan trioleate(Span85) 1.175mg

参照「Why the epidemiology of swine flu matters

アジュバントを使うメリット

アジュバントを使うメリットとしては、免疫応答性がよくなるという点と、アジュバントを使った生産システムのほうが、ワクチン生産が早く、治験に十分な時間が取れる、という2点が、利点としてある。
また、WHOがワクチンメーカーに対して、免疫応答性促進戦略(antigen sparing strategies)を採用せよとの要請があったため、アジュバントを使用している企業の事情がある。
アジュバントを使ったワクチンは、免疫応答性がいいため、アジュバントを使わないワクチンに比して、免疫反応を4倍押し上げるといわれている。
また、免疫持続性も、アジュバントを使わないワクチンに比べて長いといわれている。
したがって、今回の新型インフルエンザ・ウイルスが、抗原ドリフトしたりして、感染が長く続く場合、このアジュバントを使ったワクチンのほうが効果があるとされている。
なお、通常の季節性インフルエンザワクチンには、アジュバントを使っていないが、肺炎球菌ワクチンや髄膜炎菌感染症ワクチン、Hibワクチンなどには使われている。

グラクソ・スミスクライン社ワクチン使用のアジュバントはAS03というもの

グラクソ・スミスクライン社が使用しているアジュバントAS03は、魚油からとられた有機化合物であるスクワレンに、水とビタミンEとを混ぜたものをつかっている。
グラクソ・スミスクライン社では、通常の季節性ワクチン製造においては、アジュバントを使っていないが、今回の新型インフルエンザ・ワクチンに製造に当たっては、AS03という名のアジュバントを使った。
その理由として、今回の新型インフルエンザ・ワクチンの承認に当たっては、一定の治験を省略しうる” fast-track” 承認(通常の季節性インフルエンザワクチン製造においては、ウイルスのドリフトなどによって、軽度の成分設計の修正については、治験が省略しうる。)が得られなかったため、治験・臨床実験に十分な時間を割くためには、生産スピードが速い、アジュバントを使ったワクチン製造をする必要があったとしている。
参考「Frequently Asked Questions about the swine flu vaccine

A303の安全性については、H5N1鳥インフルエンザ対応ワクチンのテストで、四万三千人のボランティアによるテストで、安全性が確認されているという。(薬事法の「特例承認」適用は、海外での試験結果だけで承認する方式)

ちなみに、グラクソ・スミスクライン社では、すでにH5N1ウイルス(A/Vietnam/1194/2004 NIBRG-14 (WHO標準ワクチン株))とA303アジュバントを使ったH5N1対応ワクチン「Pandemrix」( EMEA承認)を発売しており、今回のワクチンは、それのモックアップ(mock-up)タイプ(対象とするウイルス株が特定されていない段階で、モデルウイルスを用いて作製されたワクチン、製造承認はこの段階で得ている、そっくりさんタイプ)である、H1N1ウイルス(A/California/7/2009)とA303アジュバントを使ったH1N1版Pandemrixといえる。

ノバルティスファーマ社ワクチンで使用のアジュバントはMF59というもの

一方、ノバルティスファーマ(スイス)が使用しているアジュバントMF59は、スクワレン,界面活性剤のポリソルベート80と0ソルビタン・トリオレイン酸(Span85)を含んでおり、これらを乳化したものを0.22μmのフィルターを通し,通過した粒子のみをアジュバントとして用いたものとされている。
MF59の安全性については、ノバルティスファーマ(スイス)は、すでに、「セルトュラ」(Celtura)について、日本の鹿児島県で健康な成人約200人に臨床試験(治験)を実施し、安全性と有効性を確認しているという。
MF59アジュバント・ワクチンの治験結果については、「Trial of Influenza A (H1N1) 2009 Monovalent MF59-Adjuvanted Vaccine — Preliminary Report」をご参照

ノバルティスファーマ社においても、グラクソ・スミスクライン社のPandemrix 同様、すでに、鳥インフルエンザH5N1対応のワクチンFocetria(H5N1)を発売している。

これは、同社の季節性インフルエンザワクチンの Fluad と同様の製造プロセスによるもので、アジュバントには、従来のMF59よりも安定性を高めたとされるMF59C.1を、ともに使っている。

今回、そのモックアップ(mock-up)ワクチンとして、これまでのFocetria(H5N1)を、ウイルスをA/Vietnam/1194/2004(H5N1)からA/California/7/2009 (H1N1)に入れ替えて、Focetria(H1N1)を製造しているものである。

日本が輸入契約した、「セルトュラ」(Celtura)は、Focetriaと同じアジュバントMF59を使ってはいるが、こちらのほうはモックアップ(mock-up)ワクチンではない。

Tween 80とSpan85の安全性について

アジュバントの一部に受胎障害作用があると懸念する専門家がおり、、このアジュバントをつかったワクチンを受胎障害ワクチン(Fertility Impairing Vaccine)という向きもある。

Tween 80

Polysorbate 80(Tween 80)と不妊原因説について、このサイト「SWINE FLU VACCINE INGREDIENTS 」に次のように書かれている。

「ポリソルベート80は、Tween 80として知られているが、これは、化粧品の乳化剤として使われているものである。
そして、子宮頸がんのワクチンのガーダシル(Gardasil)の成分でもあり、このGardasilワクチンは10代の女性に接種されているものである。
この成分は、不妊、悪性転換症痙攣、自然流産、そして、生命にかかわるアナフィラキシー・ショックを起こすことでも知られている。
これまで、Gardasil接種で、28人の死亡が報告されている。」

なお、polysorbate 80(Tween 80)のラットによる不妊実験については、the U.S. Library of Medicine and the National Institute of Healthからの報告書「Delayed effects of neonatal exposure to Tween 80 on female reproductive organs in rats.」がある。

このサイト「Reducing interference between oil-containing adjuvants and surfactant-containing antigens」では、
MF59 の成分の中で、スクアレンが5パーセント、polysorbate 80が0.5パーセント、Span 85が、0.5パーセントあるが、これを重量換算した場合、スクアレン4.3パーセント、polysorbate 80 0.5パーセント、Span 85 0.48パーセントになるとしている。

Span85

薬や化粧品や繊維やペイントなどに乳化剤として、または、防錆剤やシックナーとして、使われる。
殺虫剤の安全性を追求する団体であるPANNA(Pesticide Action Network North America )によると、このSpan85は、殺虫剤としても使われるという。
有する毒性としては、発がん性毒性、生殖毒性、発達毒性、神経毒性があるとされている。

参考「Dangers In The Shots – Components Of H1N1 Vaccines
Squalene Emulsions for Parenteral Vaccine and Drug Delivery」の5ページから11ページに詳しい。

スクワレン(Squalene)を使用したアジュバントのリスク懸念

ここで、留意すべきは、この両社のアジュバント(MF59、A303)とも、スクワレン・ベースのオイルを使っているということである。
スクワレン・ベースのオイルが、リンパ球に抗体を作ることを指令する分子「イン ターロイキン6、または、インターロイキン5」(Lymphocyte IL-6 またはIL-5)の増加を招き、これが、サイトカイン現象を招く、との研究がある。
これについては、AS03もMF59も、ともに、同様の懸念があるのでは、との指摘があるようだ。
参考「Constats corrobor醇Ps sur les dangers d醇Pmesur醇Ps du vaccin H1N1 de Glaxo-Smith-Kline avec l’adjuvant AS03

また、すでに上記に書いたように、湾岸戦争に従軍した兵士には、スクワレンをアジュバントに使った炭素菌ワクチン(AVIP anthrax vaccine)が従軍時に接種されており、これが、湾岸戦争症候群(Gulf War Syndrome-GWS-)の原因となっているとされている。
この炭素菌ワクチンは、スクワレン・ベースのMF59を使用していた。
これについては、「Million TIMES More Squalene In H1N1 Vax Than Caused GWI !!
ANTHRAX VACCINE IMMUNIZATION PROGRAM
をご参照

動物由来のMDCK組織を使っての組織培養ワクチン製法の安全性についてのFDAの懸念点

グラクソ・スミスクライン社のワクチンとノバルティスファーマ社のワクチンとでは、ウイルス培養の過程での製法が異なる。

グラクソ・スミスクライン社のワクチンは、産み落とされてから9-10日たった発育鶏卵(孵化するまでの発育途上の状態の卵の尿膜腔(allantoic cavity)でウイルスを増殖培養する方法のワクチン(embryonated egg culture vaccine)であり、
バルティスファーマ社のワクチンは、動物由来のMDCK組織を使って組織培養する方法のワクチン(cell culture vaccine)
である。

この後者のワクチン製造の過程における動物由来の組織培養( cell culture )による製法の安全性について、アメリカのFDAでは、懸念を示している。

細胞培養(culture-based process )自体は、古くからの技術である。

ノバルティスファーマ社のワクチンでは、新型ウイルス(A/California/04/2009)を、MDCK(Madin-Darby Canine Kidney)細胞内で増殖させたものに、上記のアジュバントMF59を添加させて、製造している。

MDCK細胞の名前は、もともと、1958年に、コッカスパ二エールのオスの成犬(Canine)の腎臓(Kidney)を組織として、カリフォルニア大学バークレー校の、Madin と Derby両氏によって、開発されたことから、この名前がつけられている。

今回のノバルティスファーマ社のワクチン製造は、基本的には、同社の季節性インフルエンザワクチンである Optafluの製法を基にしたものである。

アメリカFDAにおいては、MDCK細胞培養によるワクチンが未承認である。

その理由として、もともとのMDCK細胞には発癌性細胞リスクはないが、MDCK細胞の化学的に形を変えた誘導体(chemically transformed derivative)であるMDCK-T1に発癌性細胞リスク(腫瘍原性-tumorigenicity-)がありうるとして、
A.DNA(Residual DNA)のコンタミネーションがあるか?
ワクチンの最終製品の過程において、すべての細胞が取り除かれるための、フィルタリング技術の確立が必要である。
MDCK細胞は、犬の組織であるが、ワクチン注射によって、人と犬とのDNA(Residual DNA)のコンタミネーションがあるか?
B.偶発的な病原体のコンタミネーションがあるか?
C.ウイルスと細胞との潜在的な相互作用があるか?
などを、FDAは危惧しているようである。
この点についてのFDAの見解は、
FDA: Use of MDCK Cells for Manufacture of Inactivated Influenza vaccines
“Designer”1 Cells as Substrates for the Manufacture of Viral Vaccines
をご参照

参考「Use of Madin-Darby Canine Kidney (MDCK) Cells for Manufacture of Inactivated Influenza Vaccines

ただ、FDA自体も、細胞培養(culture-based process )によるワクチン製造の利点については、認識を示しているようである。

特に、「公共緊急事態準備法」(The Public Readiness and Emergency Preparedness Act (“PREP Act”) の成立によって、個人のワクチン被害への補償が果たされ、不法行為賠償責任(Tort Liability)への免責が図られるという法制度環境の変化が、FDAをして、柔軟な対応へのシフトをさせているものと思われる。

新しいワクチン製造技術の評価については
A New Vaccine Supply Strategy
Flu Vaccines and the Risk of Cancer
What You Need to Know About the New Flu Shots
などをご参照

正確な前提での議論が必要

以上のことから言えるのは、

A.輸入ワクチンが、いずれも、アジュバントを使った免疫応答性の拡大を狙ったワクチンであり、国産ワクチンとは、免疫応答性において4倍と、格段に異なるワクチンであるということ。

B.さらに、同じ輸入ワクチンといっても、グラクソ・スミスクライン(GSK、英国)とノバルティスファーマ(スイス)とでは、使用しているアジュバントが異なるということ。

C.さらに、その使用しているアジュバント(A303とMF59)についての安全性について、いろいろなささやかれ方がされていること。
とくに、界面活性剤Tween 80(ポリソルベート80)とSpan85(ソルビタントリオレエー85)に不妊などを促す原因があるとの一部の説があること。

D.スクワレン・ベースのオイルを使っているアジュバントについては、湾岸戦争症候群(Gulf War Syndrome-GWS-)や、サイトカインにつながる危険性を指摘する専門家もいる。

E.動物由来の組織を使っての組織培養ワクチン製法の安全性についての評価がまだ確立していない。

以上の点を厳格にセパレートしたうえでの、安全性の議論がされるべきであると考えている。

参考
Swine Flu Pandemic To Vaccinate or Not to Vaccinate?」

参考 ワクチン接種優先順位と、接種回数と、国産・輸入ワクチン別割り当ての予測

(1)インフルエンザ患者を診る医療従事者(約100万人) 10月から
100万人×一回接種=100万服
(この順位では、全員、国産ワクチンでまかなえる。)

(2)持病のある人と妊婦(約1千万人) 11月初めから
1千万人×二回接種=2千万人服(累計2千百万服)
(計算上は 国産ワクチンでまかなえそうだが、国産ワクチンは、来年3月までに約2700万人分確保ということだから、一回目接種は国産ワクチンで大丈夫だが、二回目接種の時期がどうなるのだろう?
まさか、免疫応答性が、国産と輸入とでは異なるのだから、一回目国産、二回目輸入というわけにはいかないのだろうから。その辺の検証は、厚生労働省しているんでしょうかね?)

参考「持病がある人」の定義
「慢性呼吸器疾患」(気管支喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、気道分泌物の誤嚥リスク)
「慢性心疾患」「慢性腎疾患」「慢性肝疾患」「神経疾患・神経筋疾患」「血液疾患」「糖尿病」「疾患や治療に伴う免疫抑制状態」「小児科領域の慢性疾患」など

(3)1歳から小学校低学年の子ども(約1千万人) 12月から
1千万人×二回接種=2千万服(累計4千百万服)
(国産ワクチンは、来年3月までに約2700万人分を確保ということだから、国産ワクチンでまかなえるのは、 すでに、(1)(2)で、1100万人分、 割り当てられているので、国産ワクチンの残余は、1600万人分となる。
ただ、 国産ワクチンの生産目標は、来年3月までに約2700万人分確保となっているのだから、 国産ワクチンの生産が遅れれば、「1歳から小学校低学年の子ども」の一回目接種が遅れてしまうことになってしまう。
ここでも、一回目国産、二回目輸入というわけにはいかないのだろう。
また、 輸入ワクチンの輸入時期がずれこむと、 一回目接種すら遅れることもありうるだろう。)

(4)1歳未満の乳児の保護者と優先対象だがアレルギーなどで接種を受けられない人の保護者ら(約200万人) 年明けから
200万人×一回または二回=200万服または400万服
(このあたりは、完全に輸入ワクチン対象となるだろう。)

(5)小学校高学年と中高校生(約1千万人) 1月前半から
1千万人×一回または二回=1千万服または2千万服
(このあたりは、完全に輸入ワクチン対象となるだろう。)

(6)持病のない高齢者(約2100万人) 1月前半から
二千百万人×一回または二回=二千百万服または四千二百万服
(このあたりは、完全に輸入ワクチン対象となるだろう。これまでの累計は、5400万人分、全員一人一回接種とした場合には、ここまでは、全員国産ワクチンでまかなえる勘定となる。)

(6)残余(残余は、7700万人-5400万人=2300万人)