笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年11月28日

D225G変異H1N1新型インフルエンザ・ウイルスに対してワクチン不全ありとWHO確認

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:34 PM

このサイトにおいでいただいた方へ

この情報は11月28日時点での情報です。
今回のウクライナを初めとしたH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異につきましては、このサイト以外にも、私のブログ記事では、下記で取り上げておりますので、あわせてご参照ください。
あたらしい記事順です。

ウクライナ・ノルウェイ・香港共通のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス変異について(11月25日時点)
覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由(11月22日時点)
ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明(11月19日時点)
ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡 (11月9日時点)

2009年11月28日

ウクライナ・ノルウェイ・香港で発見のD225G変異ウイルスについては、私のブログ記事「ウクライナ・ノルウェイ・香港共通のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス変異について」をご参照いただきたいが、ここにきて、イギリスのMill HillにあるWHOの地域センターのNIMR( National Institute for Medical Research) が、金曜日に、これらのD225G変異ウイルスに対しては、現在のワクチンは効力を発しない( D225G Vaccine Failure、ワクチン不全、ワクチンを接種しても十分な抗体が得られない)との確認をしたが、これについてのWHOからの公式的な見解の表明はされないままにあるようだ。(このページの下部にある11月26日のWHOのDr Keiji Fukuda氏のバーチャル記者会見参照)

すなわち、上記のロンドンのMillHillにあるWHOの研究所で確認したところによると、ウクライナから検体のひとつA/Lviv/N6/2009に、ワクチンに対して低いリアクター(低反応陽性)を持つウイルスがあり、その他のウイルスには、タミフル耐性があったとのことである。

これは、D225G変異によって、免疫反応が回避(免疫逃避、 immunological escape)されたとの見方がされている。

参考
D225G Evades Immune Response

これについては、ニューヨークタイムズ紙のDonald McNeil氏の記事「Experts Say Swine Flu Mutations Do Not Warrant New Alarm 」においても、D222G変異やD225G変異についてのワクチン不全懸念が示されている。
参考「Vaccine Failure Confirmed in New York Times by UK National Institute for Medical Research

また、このサイト「Mill Hill Designates Ukraine with D225G a Low Reactor」 では、現在のH1N1新型インフルエンザワクチンが、もうしばらくすると、無用のものとなりかねない、との見方もしている。

問題は、ウイルス検体の採取が、現在は、上気道からのみの採取となっているところから、肺組織にとどまっているD225G変異のウイルスが、発見されにくい状態であり、現在発見されている以上のD225G変異ウイルスが、世界中に蔓延している可能性があること、そして、それに対するワクチンが、D225G変異・D225E変異・D225N変異ウイルスに対しては、ワクチン不全である、ということである。

WHO Silence on D225G Vaccine Mismatch Confuses Media」では、
「4倍量のワクチンを接種しなければ、タイター(力価)が増加しないということは、『ワクチンのミスマッチ』ともいえ、このワクチン接種によっては、タイターを減少させる新たな変異を減少することにはつながらないが、野生タイプの変異ウイルスのみを減少させることにつながる。その結果、ミスマッチしたワクチンを続けて使っていくと、ワクチン耐性ウイルスの増加を生むことになる。」
としている。

また、フランスからの報道では、アジュバント入りのワクチンでなければ、タイター(力価)が増加しないとの風説が流れているようである。
(” Ces nouvelles mutations doivent au contraire inciter tous les Fran醇Mais 醇A aller se faire vacciner, avec adjuvant.”「これらの変異は。逆に、すべてのフランス人をして、アジュバント入りワクチン接種へと、向かわせる。」「“Ces mutations du virus H1N1 doivent 醇Stre prises tr醇Qs au s醇Prieux“」より)

D225G変異ウイルスについては、これまでのウクライナ、ノルウェイ、香港に続いて、フランスでも、同様の変異ウイルスが確認された。

フランスでのD225G変異ウイルスを有している患者は、二人おり、そのいずれも重態であり、そのうちの一人には、タミフル耐性が見られたという。

ブラジルでも同種の変異ウイルスが、見つかっている

参考
2009年11月26日のWHOのバーチャル記者会見でのウイルス変異に関する部分抜粋

(Transcript of virtual press conference with Kristen Kelleher, Communications Officer for pandemic (H1N1) 2009, and Dr Keiji Fukuda, Special Adviser to the Director-General on Pandemic Influenza, World Health Organization 26 November 2009 )

Dr Keiji Fukuda:
Now the last point that I want to address before I throw it open to questions is that in the last several days we have also seen a lot of reports in the media about a mutation and this was specifically raised because it was Norway which recently reported seeing mutations in three patients who had severe disease.

Since then there have been additional reports of the same mutation being seen in viruses in a number of other countries, such as Brazil, China, Japan, Ukraine and the US [CORRECTION FOR ACCURACY: AND MEXICO].

The question is whether this mutation again suggests that there is a fundamental change going on in viruses out there or whether there is a turn for the worse in terms of the severity.

I think that the answer right now is that we are not sure.

I want to answer why we are not sure in a way which explains why more investigations are needed.

As you know these influenza viruses change frequently.

Their gene properties change because these are viruses which frequently undergo mutations and so mutations in and of themselves are not necessarily important and in fact, if every mutation was reported out there, it would be like reporting changes in the weather – saying that there is a temperature difference of one degree one hour and then an hour later, saying there is a temperature increase or decrease of one degree.

This kind of information does not really help anybody.

But, what we try to do when we see reports of mutations is to identify whether these mutations are leading to any kind of changes in the clinical picture – do they cause more severe disease or less severe disease and also we try to look at whether these viruses are increasing out there, suggesting that there may be a change in the epidemiology.

With this particular mutation we have seen that it is reported in people who have severe disease and we have also seen that it is also been reported in people who have milder disease.

Right now one of the questions is, is it really associated with severe disease more often.

The second point that though, is are these viruses becoming more common or are they relatively infrequent.

So again, this requires looking at more viruses over time to get a sense of whether there is a change in the overall prevalence or number of these viruses.

It is these kinds of investigations which require time and it is these kinds of questions which have to be answered before we can fully talk about the importance of one mutation or another mutation.

参考 225ポジションでの変異一覧

RPKVRDQEGRI,>A/Kansas/UR06-0068/2007(H1N1)
RPKVRGQAGRI,>A/Index/1977(H1N1)
RPKVRDQSGRM,>A/Denver/1957(H1N1)
RPKVRDQAGRM,>A/Index/early human
RPKVRDQAGRM,>A/Brevig Mission/1/1918(H1N1)
RPKVRGQAGRM,>A/Index/early swine
RPKVRGQAGRM,>A/swine/Jamesburg/1942(H1N1)
RPKVRGQAGRM,>A/New Jersey/1976(H1N1)
RPKVRDQEGRM,>A/******/index/2009/02/01
RPKVRGQEGRI,>A/Taiwan/01/1986///
RPKVRGQEGRI,>A/Beijing/262/1995///
RPKVRDQEGRI,>A/New Caledonia/20/1999///
RPKVRDQEGRI,>A/Solomon Islands/3/2006/08/21/
RPKVRDQEGRI,>A/Brisbane/59/2007/07/01/
RPKVREQAGRM,>A/swine/Germany/2/1981(H1N1)=1578
RPKVRDQAGR-,>A/******-match/1-2/07(H3N2)
RPKVRDQPGRM,>A/UK/1/1933(H1N1)
RPKVRDQAGRM,>A/Puerto Rico/8-1/1934(H1N1)
RPKVRGQEGRI,>A/Texas/36/1991(H1N1)
RPKVRNQEGRI,>A/Chile/1/1983(H1N1)

One of the D225G cases is a low reactor? 」より

参考
WHO Confirms That The H1N1 Swine Flu Has Mutated In Ukraine – But That We Should Not Worry

D225G変異関連ビデオ

 

2009年11月26日

赤松農相が大潟村に謝罪というが、おかしくね?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:36 PM

赤松広隆農相が、今日、11月26日の秋田県大潟村の視察において、「大潟村は国の政策に翻弄され、苦労されてきた。国の責任だ」と謝罪したというのですが、赤松さん、まず一番の謝罪の相手を間違ってはいませんでしょうか?

大潟村の過去の減反やぶりで、一番迷惑をこうむったのは、秋田県内の非入植者である一般農家なのです。

そして、その減反破りのそのつど、県内減反調整や県間減反調整(都道府県間調整)で、一番肩身の狭い思いをしたのも、県内一般農家なのです。

おそらく、大潟村の県内入植者もそうだったに違いありません。

なぜなら、県内にある自分の出身の村では、減反順守しているのに、自分が県内入植した大潟村では、堂々と減反破りをしていたんですから。

ですから、もし、「国の政策に翻弄」されたとして、謝るのであれば、大潟村よりも先に、秋田県内一般農家に先に謝るのが筋ってもんではないでしょうか。

なぜなら、大潟村にも、順守派(減反順守派)もいたし、彼らのような非順守派(ヤミ米派=過剰作付け派)もいたわけですから、非順守派のかたがたは、その当時、減反を守らないことにより、一定の機会利益を得ていたはずなのですから。

ですから、この論理ですと、当時のヤミ米派には、この時点でコンプライアンス違反をしていたわけですから、国の不作為は問えませんが、当時、減反を遵守していた農民には、国の不作為を問う権利があるということになってしまいますよ。

それでいいのですか?

当時の順守派は、今日の赤松発言を基にして、国賠訴訟に持ち込みますよ。

赤松広隆農相は、明らかに、謝る順序を間違えているとしかいえません。

これでは、まさに、『正直者が馬鹿を見る』の構図です。

まるで、戦争の開戦・敗戦の責任を、従軍兵に対してでなく、まず、逃亡兵に対して、お詫びで頭を下げているのと、おんなじ構図です。

今回の自主作付け派の戸別所得補償にかける思惑などについては、この土門剛さんのサイト『減反破綻の象徴的舞台となるか大潟村(減反補助金で借金チャラ作戦)』なんかを見るとよくわかってくるかもしれません。

つまり、大潟村の自主作付け派にとって、近時のコメ販売環境の変化で、これまでコンプライアンス違反でスキミングしてきたような優位な販売戦略構築が難しくなってきている中で、ここで減反遵守宣言をし、戸別所得補償スキームになだれ込むことによって、自主作付け路線の転換・撤退費用の原資として、戸別所得補償スキームを累積負債整理のツールとして利用しようとしているのではないか、ということについての疑心暗鬼が、県内一般農家の中にはあるということですね。

このかぎりにおいて、県内一般農家は、またしても、彼らの踏み台にされてしまうというわけです。

たとえて言えば、こんなところでしょうかね?

「マンションの管理組合が、マンション管理費を払っている入居者に限って、これから、管理費を大幅に値下げすると決定したとたんに、これまで、マンション管理組合に管理費を払ってこなかった不良入居者が、これからは、管理費をはらいますよ、といって、急に態度を変化させて、管理組合に入会してきた。じゃあ、これまでの滞納してきた不良入居者の滞納管理費累積分は、利息分も含めて、ここで、チャラにしてしまうの?」
っていう感じでしょうか。
「マンションの修繕積立金の不足分は、これまで、残りの入居者の負担分でまかなってきたのに。」って言うのが、これまで減反遵守してきた秋田県内一般農家の言い分となるのでしょう。

だんだん、怒りがこみ上げてきています。

おそらく、秋田県内一般農家も、大潟村の順守派のかたがたも、同じ気持ちでしょう。

追記 2009年12月9日 自ら進んで秋田県一般農民の心の中にあるトラの尾を踏んでしまっている赤松農相

昨日、赤松農相は、記者会見で、『秋田県を戸別所得補償の対象からはずす』との筋違い発言をされているようです。

赤松さんは、上記の大潟村での自らの軽率な発言で、いったんは封印されかけたパンドラの箱を自ら軽率に開け、秋田県一般農民の忘れかけていたヤミ米派との過去の県内確執をふたたび思い出させ、自ら、事態をややこしくされていることに、まだ、お気づきでないらしいのですが。

以下は、昨日の大臣発言の内容です。(ちょっと、取り留めのない雑談調なので、読みづらいのですが。とくに”あれ”という言葉がお好きのようで、この日の記者会見でも、13回も連発されていますね。
現在のペナルティについては、このサイト「農政改革三対策の着実な推進について」ご参照)

「今日は、ちょっと時間があるんでゆっくり話しますが、
例えば、この間、大潟村へ行ってきたと、
そうすると、大潟村で、あれだけ反目し合っていた人たちが、今、本当に仲良くなって、今まで、減反やってきた人、反対してきた人、それが本当に一つになって、これを機会に和解して、みんなでいい大潟村を作ろうということでなっているんですね。
ところが、県の知事や農政部あたりの、そういう地方の幹部が理解してないと、
今、何を言っているかというと、「いやいや、そんな造反してきた、あれやってきたやつは駄目だ」と、
特に自民党の県議会何か、「あんな涌井(徹)みたいなやつ許せるか」と、「あんな者は今までどおり、割り当ては30パーセントだ」なんていうことを、平気で言っているわけです。
じゃあ、30パーセントで、じゃあ、涌井さんにやれと言ったって、今までは作らない30パーセントだから、そんなものは、10パーセントだってなんだって、関係ないんだけども、今度は決められた生産数量目標を守ると言っているわけですから、守るためには、採算を合わせようと思ったら、これは、まあ、全部、今まで、六十何とかまではいかないにしても、少なくとも、これはもう、両方に言っているのですけれども、今まで、あんた、人のあれをかさ上げして、たくさんもらいすぎていたんだから、これは、ちゃんと減らすので、減りますよと、
しかし、あなたも、一ぺんに、みんなと一緒というわけにはいかないから、いろいろな経緯もあるのだから、まあ、そこそこのところで我慢しなさいよということを、僕は、現地で言ってきたのですけれども、
しかし、そういうことが守られずに、ペナルティーはなしだというのが、この大方針ですから、ペナルティーはこれからもやっていくんだみたいなことを、勝手に、地方のそういう人たちが言っていると
まず、県全体で、大潟村を、まず差を付けて、大潟村の中で、また差を付けて、お前は来ないようにやるんだみたいなことをやっていることがあるものですから
これは、8日って今日だっけ。
今日、担当の責任者を現地に行かせて、もしも、そんなふうでやるんだったら、秋田県全体を、その対象から外しますよと、
生産数量目標を守る人たちも含めて、全部、県全体が、最初から割り当て、違う方向でやっているわけですから、これは法律違反だから、やろうと、まだ決まったわけじゃない、やろうとしたとしたら、これは法律違反になるんで、そういうこともあり得ますよということを、大臣の意思だと言って、はっきり言ってこいと言っておきました。
まあ、理解をしていただければ結果としてそうならないと思いますが、まだまだ、地方へ行くと、時代が変わったと、もう今までの仕組みは、百八十度違うんだということを理解していない人は、残念ながら、まだいるということで、その辺の趣旨を、きちっと理解してもらえるようにやっていくということが、私は必要だと思ってます。
だから、これからが、むしろ、大変だなと思っていますがね。」
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/min/091208.html


追記 現在のペナルティの措置の概要

目標未達成の都道府県・地域・農業者への対処( ペナルティ)

( 1 ) 目標を達成したかどうかは、当該地域全体としての主食用作付面積( 全水稲作付面積から加工用米・新規需要米の作付面積を控除したもの) で判定することを基本とする( 作況による生産オーバーが発生した場合は、集荷円滑化対策等で対応)。
ただし、当該地域全体としての主食用販売数量( 総収穫量からくず米・加工用米・新規需要米・区分出荷米の販売予定数量を控除したもの) が生産数量目標の範囲内となっている場合も達成とする。

( 2 ) 2 0 年産の生産調整が目標未達となった都道府県・地域については、
① 2 0 年産の産地づくり対策が、予定通り交付されないことがあり得る。
② 2 1 年産の各種補助事業・融資について、不利な取扱いを受けることがあり得る。
③ 2 1 年産の産地づくり対策について、不利な取扱いを受けることがあり得る。
なお、関係者は目標未達成とならないよう全力をあげることとし、未達となった都道府県・地域の具体的な取扱いについては、2 0 年産の生産調整のステージごとの推進状況・達成状況等を見ながら、適切なタイミングで決定する。

( 3 ) 認定農業者であることが要件となっている農林漁業金融公庫のスーパーL 資金については、今後( 平成1 6 年8 月の借用証書変更以降の借入れに適用)、生産調整非実施となったことを理由に認定農業者の認定が取り消された場合には、繰上償還を求めるとともに、農林水産長期金融協会からの利子助成の措置を停止する。
スーパーL 資金以外の政策融資、融資残補助をはじめとする各種政策支援措置については、災害資金など一定の分野を除き、生産調整非実施者をその対象としない方向で検討する。

参考 私のブログ記事における大潟村問題記事

秋田県の誰がペナルティを科すといったかについては、結局示せなかった、今日の赤松農相記者会見のみっともなさ
赤松農相「秋田を戸別所得補償から外す」トンデモ勘違い発言のソースは?」
赤松農相が大潟村に謝罪というが、おかしくね?」

 

2009年11月25日

ウクライナ・ノルウェイ・香港共通のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス変異について

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:39 PM

このサイトにおいでいただいた方へ

この情報は11月25日時点での情報です。
今回のウクライナを初めとしたH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異につきましては、このサイト以外にも、私のブログ記事では、下記で取り上げておりますので、あわせてご参照ください。
あたらしい記事順です。

D225G変異H1N1新型インフルエンザ・ウイルスに対してワクチン不全ありとWHO確認 (11月28日時点)
覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由(11月22日時点)
ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明(11月19日時点)
ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡 (11月9日時点)

2009年11月25日

ウクライナやノルウェイのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスの変異については、前の私のブログ記事
ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡
ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明
覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由
などで紹介した。

ここにきて、香港でも、ノルウェイと同じ変異を持つウイルスが確認されたという。

ここで、ちょっと、整理をしておこう。

変異は、225ポジションにおける変異である。

ウクライナの場合

10検体のうち、4検体に、HAにおいて、D225G変異を示していたという。

D225G変異を起こしているウイルス名は下記のとおりである。

A/Lviv/N6/2009
A/Ternopil/N11/2009
A/Ternopil/N10/2009
A/Lviv/N2/2009

このうち、1検体については、喉からのものであり、3検体については、肺組織からのものであった。

ノルウェイの場合

5月から10月にかけて採取した検体のうち、すべてが225ポジションにおける変異が見られた。

そのうち、5検体については、D225E変異であった。

ウイルス名は、下記のとおりである。

A/Norway/4023/2009
A/Norway/3478/2009
A/Norway/3059/2009
A/Norway/2690/2009
A/Norway/2674/2009

1検体については、ワイルド・タイプとの混合物とみられるD225であり、D225G変異であった。

ウイルス名は、下記のとおりである。

A/Norway/2924/2009

香港の場合

ノルウェイと同様の変異が見られたとの報道だが、具体的なウイルス名は、発表されていない。

このサイト『專家:甲型H1N1流感變種病毒 中國6月就已發現』によると、変異は、D225G変異とD225E変異(H3ベースで225であり、H1ベースで222である。HA基因222位氨基酸位點變異)であり、その一例は、今年6月にイギリスからの帰国者から見つかったもので、もう一例は、9月に浙江省浙江醫科大學で発見されたものであるとのことである。

また、このサイトによれば、現在、中国では、8例の225變異があるという。

参考
Mutation detected in Hong Kong toddler
香港の新しいH1N1変種情報については、こちらのサイトご参照

「香港衛生署根據挪威公布的變種病毒資料,檢查該署監測系統曾進行的甲型流感病毒樣本的基因序列,結果發現在該署進行的123個基因序列研究,其中有一個病毒樣本曾出現變種,病毒的基因序列亦與挪威出現的致命變種病毒相同。 」
(香港衛生署監督系統は123個のH1N1型インフルのDNA配列に対する研究を行い、男児のサンプルがノルウェーで流行している変異ウイルスと同じであることを発見した。同ウイルスは、タミフルやレレンザに対し、抗薬性は現れていないという。)
本港1歲男童被驗出感染變種甲流病毒(與挪威病毒相同),曾在7月底入住沙田威爾斯醫院。資料圖片

受容体変異について

パターン認識受容体伝達を障害する変異があったかどうかが、最大のポイントのようである。

すなわち、このことは、なぜ、ウクライナで、新型インフルエンザで死亡した患者の肺組織に変異が見られたのか、ということに関係してくる。

すべのインフルエンザ・ウイルスは、細胞に取り付くために、シアル酸を必要とする。

シアル酸には、いろいろな化学的にことなる種類があり、それによって、ウイルスとの親和性がことなる。

鳥インフルエンザ・ウイルスはシアル酸がガラクトースにα 2,3 結合したもの(SAα2,3Gal)を認識し、

ヒト・インフルエンザ・ウイルスは主としてシアル酸がガラクトースにα2,6結合したもの (SAα2,6Gal )を認識する。

ヒトのレセプターの分布は、鳥インフルエンザ・ウイルスの場合と、ヒトインフルエンザ・ウイルスの場合とでは異なり、

ヒト・インフルエンザ・ウイルスの場合のヒトのレセプターの分布は、、ヒトの上部気道の鼻粘膜、副鼻腔、咽頭、気管,気管支の上皮細胞にしかないが、

鳥インフルエンザ・ウイルスの場合のヒトのレセプターの分布は、ヒトの呼吸器の深部(呼吸細気管支と肺胞細胞の一部であり、呼吸細気管支と胞とII型肺胞上皮細胞との間の結合部である非線毛気道細胞-nonciliated bronchiolar cells-にある。)に、多く存在する。

ウイルスの「受容体結合ドメイン」(receptor-binding domain )(RBD)での変異が、ヘマグルチニンをヒト受容体に結合し易くし、人への感染の容易さを決定づけているとされている。

このreceptor-binding site(RBD)は、HAによってamino acids position の何番目に位置するかが異なっているとされている。

ここで、パターン認識受容体伝達を障害する変異があれば、肺組織におけるレセプターが、ヒト・インフルエンザ・ウイルスを認識(SAα2,3Gal)することもありうる、ということになる。

つまり、ヒトから分離されたH1N1ウイルスが、ヒトおよび鳥の両方の受容体に結合できる体制が、変異によって、整うということになる。

あるいは、認識の対象が、鳥のSAα2,3GalとヒトのSAα2,6Galとの混合物であった場合も、肺組織で、SAα2,3Gal以外の混合物を認識することもありうる、ということになる。

ウイルスに好まれるシアル酸をコントロールするのは、ポジション190とポジション225での変異であるといわれる。

そこで、D225G変異またはD225E変異が、受容体変異において、鳥のSAα2,3GalとヒトのSAα2,6Galとのどちらの認識に影響を及ぼすか、ということになるのだが。

D225G変異は、鳥のSAα2,3GalとヒトのSAα2,6Galとをともにターゲットにしうる、とされる。

これらについては、私の以前のブログ記事
人間の上気道が、鳥インフルエンザ感染の場所」という正月以来話題の論文
H5N1インフルエンザウイルスのヒト型受容体への結合を可能にするヘマグルチニンの変異
Haemagglutinin mutations responsible for the binding of H5N1 influenza A viruses to human-type receptors
などもご参照

なぜ、D225G変異が肺を直撃するのか?

これについては、鳥インフルエンザ・ウイルスが認識するSAα2,3Gal受容体がII型肺胞上皮細胞( Type II Alveolar Epithelial Cells )の上にあるためといわれている。

このII型肺胞上皮細胞は、サイトカインの発現を含む免疫防御とともに、肺の表面張力を調整する役割を担っている。

D225G変異によって、H1N1ヒト・インフルエンザウイルスが、本来は、鳥インフルエンザ・ウイルスが認識するSAα2,3Gal受容体を認識してしまうことによって、II型肺胞上皮細胞にとりつき、サイトカインの発現を促す、ということのようだ。

しかし、一方、以下のような説もあるようだ。

すなわち、D225G変異は、感染を阻害する変異でもあるので、増殖はとまらないが、感染は一定の箇所でとどまるということで、ウクライナなどで、肺組織など一定の部分のみがウイルスにおかされているのではないのか、という見方だ。
これについては、「The D225G change in 2009 H1N1 influenza virus is not a concern」をご参照

参考「1918 RBD D225G in Lung Cases in the United States
Cytokine Regulation in Type II Alveolar Epithelial Cells as the Mechanism for Interstitial Pneumonia by Gefitinib」

スペイン風邪とD225G変異との関係

上記のD225G変異またはD225E変異は、1918年と1919年のスペイン風邪においても、見られた変異である。

そのウイルス名は、次のとおりである。

A/New York/1/1918
A/London/1/1919

変異ウイルスでないA/South Carolina/1/18 は、alpha(2,3)(鳥ウイルス認識)を好み、A/New York/1/1918 は、alpha(2,3)(鳥ウイルス認識) と alpha(2,6)(ヒト・ウイルス認識) との両方を好んだ。

A/South Carolina/1/18 は、ポジション225において、変異しておらずDであった。

A/New York/1/1918 は、ポジション225において、変異しており、Gであった。

A/New York/1/1918 は、ポジション190において、DからEに、D190E変異していた。

このD190E変異は、alpha(2,3)(鳥ウイルス認識)とのバインドを好む。

このD190E変異とD225G変異とが、同時に起こると、そのウイルスのα(2,6)への取り付き(バインディング)は、著しく弱まるという。

1918インフルエンザウイルスを用いての、SC18と呼ばれる、1918大流行の原因ウイルスと、SC18とは1つだけアミノ酸が異なるNY18と、2個のアミノ酸が違うAV18と呼ばれるウイルスとを比較した結果、このうちAV18と呼ばれるウイルスは、D190E変異とD225G変異とを同時に起こしており、このAV18ウイルスは、α(2,6)への取り付き(バインディング)がまったくなかったという。
参考「MIT explains spread of 1918 flu pandemic」

CDCのNancy J. Cox 氏をはじめとする59人からなる研究チームのH1N1 新型インフルエンザウイルスの遺伝子分析によれば、8つのセグメントのうち、ヘマグルチニン(H)を含む3つの遺伝子セグメントは、1918年のスペイン風邪のH1N1に由来するものであり、その後、ずっと豚に存在していたものであるが、その間においても、変異はしていなかったとしている。

遺伝子セグメントでは、ポリメラーゼB(PB)遺伝子はヒト由来、他の二つは鳥由来であったとしている。

また、1918年のH1N1とH5N1とは、毒性があることを示す遺伝子セグメントを、同じNS1セグメントにおいて有しているが、今回の新H1N1は、そうではないという。

感染性を示す遺伝子セグメントにおいても、今回の新H1N1は、1918年のH1N1にあったものを失っているという。

参考1.
これまでD225G変異をみせたウイルス名一覧
(ウクライナとノルウェイの分を除く)

01 A/******/index/2009/02/01 (A/swine-flu/index/2009-02-01(H1N1))
02 A/Hiroshima/201/2009/06/17
03 A/Georgia/01/2009/04/27
04 A/Zhejiang-Yiwu/11/2009/09/06
05 A/Zhejiang/DTID-ZJU03/2009/09/07
06 A/Zhejiang/DTID-ZJU02/2009/09/07
07 A/Sao Paulo/53206/2009/07/19
08 A/Sao Paulo/53225/2009/08/01
09 A/New York/04/2009/04/
10 A/Catalonia/NS1706/2009/07/29
11 A/Mexico/InDRE4114/2009//
12 A/Texas/11/2009/04/23
13 A/Texas/05/2009/04/15
14 A/Mexico/3955/2009/04/02
15 A/Cancun-NY/Index/2009/04/15

参考2.
これまでD225E変異をみせたウイルス名一覧

Rhiza Labs FluTracker Forum」から

A/Norway/4023/2009(H1N1)
A/Norway/3478/2009(H1N1)
A/Norway/3059/2009(H1N1)
A/Norway/2690/2009(H1N1)
A/Norway/2674/2009(H1N1)
(A/Catalonia/S1761/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1758/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1748/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1698/2009(H1N1).
A/Catalonia/S1674/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1672/2009(H1N1)
A/Serbia/3547/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1641/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1637/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1632/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1606/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1605/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1604/2009(H1N1)
A/Nagasaki/HA-44/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1592/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1587/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1545/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1479/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1478/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1436/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1379/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1369/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1350/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1333/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1331/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1304/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1300/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1286/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1273/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1272/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1269/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1265/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1260/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1254/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1249/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1248/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1237/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1236/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1227/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1222/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1215/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1209/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1205/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1199/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1187/2009(H1N1
A/Catalonia/S1183/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1182/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1165/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1161/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1120/2009(H1N1)
A/Almati/01/2009(H1N1)
A/Changsha/78/2009(H1N1)
A/California/25/2009(H1N1)
A/Milan/83/2009(H1N1)
A/Milan/80/2009(H1N1)
A/Ancona/05/2009(H1N1)
A/Catalonia/378/2009(H1N1)
A/Italy/172/2009(H1N1)
A/Sapporo/1/2009(H1N1)
A/Catalonia/387/2009(H1N1)
A/Hong Kong/2369/2009(H1N1)
A/Athens/893/2009(H1N1)
A/Paris/2591/2009(H1N1)
A/New Jersey/01/2009(H1N1)

参考3.ポジション225での変異

D225N
ブラジル・サンパウロやニューヨークで見られた変異

D225G
ブラジル・サンパウロ、中国・Zhejiang、日本・広島、アメリカ・テキサス、アメリカ・ジョージア、アメリカ・ニューヨーク、メキシコ、スペイン・カタロニアで見られた変異

D225E
日本・長崎、日本・札幌、中国・香港、アメリカ・ニュージャージー、アメリカ・カリフォルニア、フランス・パリ、スペイン・カタロニア、 カザフスタン・アルマトイ、中国・長沙、イタリア・ミラノ、イタリア・アンコーナ、ギリシャ・アテネ、で見られた変異

その他参考サイト
Re: Sequences at Genbank!
225G Preliminary Worldwide Tracking & Evaluation

H1N1変異を伝える中国のテレビ「H1N1疫情綜合報道 – 午夜最前線 20091122」

Renho氏のマルシェ・ジャポン関連つぶやき

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:38 PM

以下Renho氏のつぶやきから引用

「昨日、農水省のマルシェ・ジャポンを担当する局長から作業中に意見書をいただきました。中身は事業仕分けに係った民間の仕分け人がスーパーに務めていたので、仕分けで取り上げたマルシェ・ジャポン事業に利害関係があるという指摘でした。でも、この方は8年前に退職している。
その後、この方は市議会議員、副市長を経験されていますが、マルシェ・ジャポン事業を仕分けする立場にないという農水省課長の指摘はあてはまらないのでは、と思う。事業自体が廃止と判断された後、この方のことを随分調べたようですが、その力を新たな事業開拓調査に向けてほしいとも思いました。
すみません。意見ペーパーをいただいたのは農水省局長です。一部課長と書いちゃいました。枝野統括とも話し合い、このペーパーは報道陣に公開します。」
http://twitter.com/renho_sha より
以上引用終わり

マルシェ・ジャポンの事業仕分け結果については、こちらのサイトご参照

まあ、つぶやきではあっても、仕分け人であるRenho氏ご自身が、、農林水産省が槍玉にあげた仕分け人の固有名詞を特定できるようなつぶやきをしてしまうことは、そのこと自体、仕分け人失格ともおもわれ、いかがなものかとは、思いますがね。
(もっとも、「なりすまし」ってのがTwitterにいるようですので、ほんもののつぶやきかどうかは、わかりませんが。)

ということで、Renho氏のつぶやきで、結果、特定された話題の仕分け人である山内敬さんの過去の経歴をならべてみると

1947年生まれ。高島高等学校を経て、1970年、早稲田大学第1政治経済学部経済学科卒業。1974年、イズミヤ株式会社入社(衣料販売、広告宣伝担当を経て店舗開発に従事)。2001年10月~2004年12月、今津町議会議員。2005年2月~2005年5月、高島市議会議員。2005年5月より高島市副市長

ということで、まあ、農林水産省がそんなに気にする存在ではなさそうですね。

このなかのイズミヤで何をやっていたかということなんでしょうが。(「まるとく市場」なんてのを問題にしているんでしょうかね。)

以下は構想日本の第129回J.I.フォーラム 2008.04.23
地方議会は必要か での山内敬さんの発言模様

ちなみに、仕分け人の中には、山内敬前副市長とペアだった、海東英和前市長もはいっているということで、結構、この仕分け人の人選って、構想日本加藤氏の個人的なひきでやっているような、ちと、いい加減な感じは受けますね。

今回の仕分け人の人選も、構想日本の過去のJ.I.フォーラム出席者から選んだような感じも見受けられますね。

まあ、これまで、家計簿しか見たことがないひとが、大企業の財務諸表分析しているって感じでしょうか。

 

2009年11月23日

カナダで使用中止となったワクチンについての詳細情報

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:43 PM

情報が錯綜しているようなので、ここで、ちょっと整理してみましょうね。

カナダの衛生当局は11月22日までに、英医薬品大手グラクソ・スミスクラインが製造した新型インフルエンザのワクチン17万回分の使用を中止することを決めました。

その理由として、接種後に通常よりも高い比率で重いアレルギー過剰反応(アナフィラキシーショック)が発生したためです。

とくに、カナダ中部のマニトバ州で、グラクソ製の一定量のワクチンについて、通常1~2例にとどまる重い副作用が6例発生したとのことです。

カナダ政府が使用中止を求めたのは、次のワクチンです。

製品名「Arepanrix」

製造ロット番号「A80CA007A」

リコール対象数量「172,000服」

出荷先
British Columbia, Alberta, Saskatchewan, Manitoba, Ontario and Prince Edward Island

副反応報告
11月7日時点で660万回分供給、うち、副反応報告634例、うち重症例36、うち死亡4例

「Arepanrix」ワクチンの概要

「Arepanrix」ワクチンは、グラクソ・スミスクライン社製のアジュバント(AS03)入りのワクチンです。

ウイルスの培養は、発育鶏卵培養法(embryonated egg culture)によつています。

アジュバントAS03は、スクワレンを使用しているため、アメリカのグラクソのワクチンでは使われていません。

「Arepanrix」ワクチンはカナダ・バージョンでの商品名であり、これは、同社の「Pandemrix 」と実質、同じものです。
参照「Pademrix and Arepanrix adjuvanted vaccines, made by GSK

その「Pandemrix 」は、今回日本が輸入のグラクソのワクチンです。

「パンデムリクス」(Pandemrix)は、モックアップ(mock-up)ワクチンです。
対象とするウイルス株が特定されていない段階で、モデルウイルスを用いて作製されたワクチンで、製造承認はこの段階で得ています。
鳥インフルエンザ・ウイルスH5N1対応ワクチンとして開発されたワクチンのモデルウイルスを、A/Vietnam/1194/2004(H5N1)からA/California/7/2009 (H1N1)に入れ替えて、製造しているものです。

カナダの「Arepanrix」も日本へ輸入の「Pandemrix」も、下記のビデオにありますように、二つの容器と注射器がワンセットになったものです。
1.サスペンション(Suspension)-多服用容器にアンチゲン(antigen)が入っています。
2.エマルジョン(Emulsion)-アジュバント(adjuvant)が入っています。

この1と2を、ミックスして使います。
ただ、混合する前に、二つが、部屋の温度にならなければいけません。
使用方法の詳細は、このサイト「Pandemrix suspension and emulsion for emulsion for injection」をご覧ください。

これらのことから、これらのワクチンは管理が難しいとされています。

「Arepanrix」のパッケージには、「Bubble Wrap」と「Shoe Box」との二種類があります。

「Arepanrix」ワクチンは、三千人以上の治験を経ているとされていてますが、それが、H5N1のモックアップワクチンの前段階での治験を含んでいるのかが明らかでありません。。

カナダでは、生後6ヶ月から3歳以下の幼児については、二回接種、三歳から10歳以下の子供に対しては健康状態に応じて、二回接種、健康な三歳から10歳以下の子供に対しては、一回接種を推奨しています。

しかし、Arepanrixについては、60歳以上、10歳から17歳まで、生後6ヶ月から35ヶ月まで、このいずれの世代についての clinical dataが明らかにされていません。

アナフィラキシーショック(anaphylactic shock )の原因としては、アジュバント(AS03)に含まれている界面活性剤であるpolysorbate 80(Tween80)が原因との見方が有力のようです。
参考「Polysorbate 80 in medical products and nonimmunologic anaphylactoid reactions.
Coors EA, Seybold H, Merk HF, Mahler V
.」

カナダでは、このほか、アジュバントが入っていない、妊婦用のワクチンとして、オーストラリアCSL Ltd社から、「Panvax」を 200000服、輸入しています。

なお、私のブログ記事『H1N1新型インフルエンザ・ワクチン接種回数は、10歳以上は1回接種にすべし』に以前10月初旬に書きましたように、カナダでは、65歳以上のかたに、季節性用のワクチンを接種すると、かえって、H1N1インフルエンザにかかりやすくなるので、季節性用インフルエンザ・ワクチンの接種は、2010年になるまで、待ったほうがいい。」との研究成果がthe B.C. Centre for Disease Controlから発表されています。

これと、今回の一件との関係は、今のところわかっていません。

まあ、ちょっと、皮肉な見方にはなりますが、日本では、すったもんだの政務官の政治主導の右往左往の末、国産ワクチンの一回接種が決まり、結果、当初計画のかなりの数の輸入ワクチンが不要となりそうなのですから、このカナダの一件を、厚生労働省は、ネタなり因縁なりスケープゴートなり渡りに船なりにして、輸入打ち切りできれば、結果、輸入ワクチン過剰在庫への責任逃れができるのかもしれませんね。

以上

参考
アジュバント(AS03)の副作用(副反応)とみられている症状には次のものがあるようです。

ALERT Canadians: Toxic Ingredients in the Arepanrix H1N1 Vaccine will Harm Your Health」から

Pain(疼痛)
Redness(発赤)
Swelling(腫脹)
Fatigue(けん怠感)
Headaches(頭痛)
Arthralgia (joint inflammation)(関節痛)(関節の炎症)
Myalgia (muscle inflammation)(筋肉痛)(筋肉の炎症)
Shivering(震え)
Sweating(発汗)
Swollen lymph nodes(リンパ節の腫大)
Fever(発熱)
Vomiting(嘔吐)
Tingling or numbness of the hands or feet(手足の、うず゛き感、または、しびれ感)
Shortness of breath(息切れ)
Vasculitis (inflammation of the blood vessels)(血管炎)(血管の腫脹)

Serious adverse reactions are as follows(以下は深刻な有害反応)

Blood and lymphatic system disorders (lymphadenopathy)(血液やリンパ系異常)(リンパ節腫脹症)

Psychiatric disorders (insomnia)(精神障害)(不眠症)

Nervous system disorders (dizziness, paraesthesia, inflammation of the central nervous system, inflammation of nerves, autoimmune disorders affecting myelin sheaths of nerves such as Guillain-Barré Syndrome)(神経系疾患)(目まい.知覚異常障害.中枢神経系炎症.神経炎症.ギランバレー症候群のような神経の髄鞘に影響を与えうる自己免疫異常.)

Ear and labyrinth disorders (vertigo)(耳疾患や耳迷路疾患)(目まい)

Respiratory, thoracic and mediastinal disorders (dyspnoea)(呼吸器や胸部や縦隔の異常)(呼吸困難)

Gastrointestinal disorders (nausea, diarrhea, abdominal pain, vomiting, dyspepsia, stomach discomfort)(胃腸異常)(吐き気.下痢.腹痛.嘔吐.消化不良.胃の不快感)

Skin and subcutaneous tissue disorders (pruritus, rash)(皮膚や皮下組織の異常)(掻痒症.発疹)

Musculoskeletal and connective tissue disorders (back pain, musculoskeletal stiffness, neck pain, muscle spasms, pain in extremity)(筋骨格異常、結合組織異常)(背痛.筋骨格の凝り.頸部疼痛.筋攣縮.四肢の痛み)

General disorders and administration site conditions (bruising, asthenia, chest pain, malaise)(さまざまな異常感、投与部位の状態)(挫傷.無力症.胸痛.不安感)

参考
「輸入ワクチンの安全性・非安全性 早分かり一覧

Arepanrixの使用方法のビデオ

(このビデオを見るように、Arepanrixは、二つのコンポーネント(antigenとadjuvant)からなっているので、非常に管理が難しいとされている。)

アジュバント入りワクチンのリスクについてのDr. Roby Mitchellのビデオ

カナダでのワクチン使用中止を伝えるテレビ

 

2009年11月22日

デフレ・スパイラルから逃れられうるマイナス金利のスキームを日本でも検討すべきとき

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:47 PM

昨日、鳩山民主党政権の「デフレ宣言」についてのあまりの無策さをブログ「なんで、いまさら、デフレ宣言なの?」に書き連ねているうちに、途中から、スウェーデン中央銀行やイングランド銀行で目指されている「マイナス金利」の話題へと、途中脱線してしまい、そのうちに、そこの部分だけが、肥大化してしまったので、ここで改めて、そこのマイナス金利の部分だけを取り上げて、ここで再述してみたい。

日本のデフレ・スパイラルの最大の原因は、政策金利の非負制約にあり

つまり、日本がデフレ・スパイラルなりデフレの罠(Liquidity Trap)に陥っているその最大の原因として、政策金利の非負制約という問題がある。

これ以上、政策金利を下げてしまうと金融政策そのものの無力化がおこってしまう、そのまさに、世界の悪しき模範例が、日本のゼロに近い政策金利であり、このことこそが、日本の「失われた十年」を生んだ元凶ともいえるということだ。

バスケット・ボールで、あまりに低い位置でドリブルを繰り返していると、そのドリブル自体が不可能となり、ついには、ボールが床に停止してしまうのと同じ様相だ。

低金利先進国日本を追い越す非負制約回避スキーム作りの動き

リーマン・ショックを境にして、世界各国が低金利へとなだれを打っている。

現時点ですでに政策金利が1パーセントを切っている国は、日本(0.1%)カナダ(0.25%)アメリカ(0.25%)スウェーデン(0.25%)イギリス(0.5%)香港SAR(0.5%)となっている。

しかし、ここに来て、それらの政策金利を限界にまで下げてしまった国の中には、すでに、日本と同様の非負制約での金融政策の行き詰まりを見越し、低金利先輩国の日本を通り越して、非負制約を避けうる措置として、マイナス金利の政策を試行し始めている。

スウェーデンとイギリスだ。

「ネバーアゲイン!真珠湾」ならぬ「ネバーアゲイン!ジャパン’ズ・ロスト・ディケード」(Never Again! Japan’s “Lost Decade”)といったところなのだろう。

マイナス金利スキームの二人の理論的主導者-Willem BuiterとGreg Mankiw-

これらのマイナス金利の理論的な主柱となっているのが、「なんで、いまさら、デフレ宣言なの?」にも書いたように、Willem Buiter氏とGreg Mankiw氏である。

前者のWillem Buiter氏は、デフレの罠から逃れるためには、二つのオプションしかないとしている。

ひとつは、需要喚起策であり、もうひとつは、”Taxing currency”によって、『負の名目金利』(negative nominal interest rate)(マイナス金利)を’carry taxという形で課することである、としている。

スウェーデン中央銀行のマイナス金利スキーム

スウェーデン中央銀行(Riksbank)は、このWillem Buiterの考え方の基に、今年の7月から、次のようなスキームを実施中である。

すなわち、2009年7月2日に、Riksbankは、政策金利(レポ・レート、Repo Rate)を、それまでの0.5パーセントから、0.25パーセントに引き下げた。

同時に、2009年7月8日からは、Riksbankに口座を持つ商業銀行の預金口座の預金金利(Deposit Rate)を、マイナス0.25パーセントへ、Riksbankから商業銀行への貸し出し金利を、0.75パーセントへ変更した。

商業銀行の預金平残がいくらかにもよるが、理論的には、政策金利を0.5パーセントから、0.25パーセントに引き下げても、中央銀行の商業銀行に対する預金金利をマイナス0.25パーセントにすることによって、商業銀行に対する実質金利は、もとの0.5パーセントと実質同じ水準に維持でき、非負制約から一定の解除ができる、という、フローティングの考え方に基づくもののようだ。

これを日本の日銀に当てはめてみると次のようになるであろう。

現在、利息ゼロの日本銀行当座預金をマイナス金利とし、-0.25パーセントにし、無担コール(オーバーナイト物)レートを0.75パーセントにする、と、同じ意味になるのだろう。

ただ、
マネタリーベース=「①日本銀行券発行高」+「②貨幣流通高」+「③日銀当座預金」
なので、③のマイナス金利化によつて、③の平残が減少するであろう分を、①②でどの程度補うか?というところに、中央銀行ベースでの裁量の幅が増えてくるのかもしれない。
今まで、③の残高は、与件でしか過ぎなかったのであろうから。

また、スウェーデンの場合は、商業銀行の中央銀行への預け金のみを対象にしているのだから、やや、限定的なマイナス金利政策とも言えるのだが、これが商業銀行の個人口座預金金利にまでも及ぶには、もう一工夫が必要なのかもしれない。

なんか、これを見ると、FX取引において、ロングもショートも、マイナスのスワップ金利となってしまう、というようなことを連想してしまうのだが。

イングランド銀行(BoE)でも、同様の考え方を検討のようだ。

イングランド銀行では、QE(quantitative easing)と呼ばれる量的緩和措置と同時に、King総裁は、9月時点で、マイナス金利について、スウェーデンの例を引き合いに出して、「スウェーデンのやり方は排除しない。マイナス金利は、ひとつの考え方である。」と、前向きのコメントをしている。

参考「Will UK interest rates go negative?
Taxing currency as a way out of a liquidity trap

Willem Buiterが考えている、よりドラスティックなスキーム

これらの考え方の元になっているWillem Buiterは、さらに、ドラスティックな考え方を持っているようだ。

一言で言えば、『同じ金(カネ)でも、残高として保有していれば、時間価値の損傷を免れるが、通貨として交換機能を行使すると時間価値の損傷を受けるので、人々は、通貨としての機能行使(消費)を先延ばしにし、消費せず、残高として温存するために、デフレの罠が生まれる。だから、残高の価値と通貨の価値をイコール・フッティングにするために、残高に対して、キャリーイング・タックスというべきものを課し、保有残高に対しても、時間損傷が起きるようにすればいい。』という考え方にもとづくもののようで、この考え方は、後に述べるGreg Mankiwの考え方とも、あい通じている。

すなわち、Willem Buiter氏は、名目金利が非負制約を受けないために、次の三つの方法があるとしている。(かなりドラスティックな案ではある。)

①通貨を廃止し、国民すべてが、中央銀行に口座を持つ。その場合、その口座に対しては、プラスの金利とマイナスの金利の両方が時に応じて、かかる。

②通貨の保有に対して、キャリーに応じて税金がかかる。

③新しい貨幣の導入(rallodという名の世界通貨)によって、口座の残高として価値と、交換手段としての通貨の価値とを、デカップリングする。

参照「The wonderful world of negative nominal interest rates, again

このうち、とくに②の考え方は、通貨価値も老化しうるという考え方であり、オプションのタイム・ディケイ(満期が近づくにつれて、オプションの時間価値が減っていく。)の考え方に似ている。

マイナス金利の発想の元は、地域通貨の始祖ゲゼルにあり

この②の考え方をさらにさかのぼると、地域通貨の祖ともいえる存在のゲゼル(Silvio Gesell)の考え方に行き着くことができる。

すなわち、ゲゼルは、通貨へのスタンプを義務付けるという案を提唱し、これによって、通貨の家庭内埋蔵をさけることを意図した。

ひらたくいえば、「毎月10円分のスタンプを貼らないと1万円札は使えませんよ」というような案のようだ。家庭内で貨幣を埋蔵していれば、それに対するキャリーイング・コストがかかるというシステムである。

Greg Mankiwのマイナス金利の考え方

一方、Greg Mankiwのマイナス金利の考え方は、次のようなものである。

「金を借りたよりも少なく返すことを条件に、金を貸すことは、マイナス金利の概念があれば可能である。
rを実質利率として、今日の商品価格をベースにして、明日の商品価格の相対価格をあらわすとすると、1/(1+r)であらわされうる。
経済理論の中で、この明日の商品価格の相対価格を一以下にする必要とする経済理論はあるのか?
在庫負担というものがある限り、私は一以下に相対価格はなりうると思う。
りんごの価格がなしの価格に満たなかった場合、明日の消費価格は、今日の価格に満たない。
もし、人々が、消費することを延期することを望んでいたとすると、明日の消費は、今日の消費よりも、より高価格とならざるを得ない。
このことは、平均の実質利率(r)が負であることを意味している。」

いってみれば、残高として持っていればキャリーイング・コスト・ゼロで減価しないので、ひとびとは、残高を通貨としての機能を行使せず、消費を先延ばしして、残高として退蔵している、というのが、今のデフレの罠の元凶ということになる。

いつまでも腐らないりんごならば、決して、今日、買うことはないだろう。

Greg Mankiwのマイナス金利の考え方については、次のサイトをご参照
Observations on Negative Interest Rates 」「More on Negative Interest Rates
Negative Interest Rates

いつまでも腐らないりんごならば今日は買わない

何やら、この考え方は、ますます、オプションの考え方に極似してくる。

つまり、キャリーイング・コストがゼロでない限り、明日の消費価格は、今日の消費価格よりも、時間価値の損傷を受けるということである。

りんごが腐る時期が、満期日(たとえば一週間後)とすれば、満期日よりも、より期先(つまり、今日)のほうが、時間価値が多いということになる。

幸か不幸か、現在の預金残高ベースでは時間価値の損傷を受けないにもかかわらず、その残高が引き出され、通貨として交換手段の機能をする段になると、その対価となる商品価値は、時間価値の損傷を受けるのだから、人々は、通貨を使わずに、消費を延期し、残高として溜め込むことで、デフレの罠が仕込まれる、ということになりそうだ。

預金残高が通貨として交換手段として消費に向かわせるためには、オプションにおける満期日に近づくほど時間価値が減価するという概念が導入されないと、残高として退蔵され、通貨として消費に回らない。

オプションがSQ日に近くなればなるほど、取引が活発化するのは、このタイム・ディケイがあるがためと、自ら買っていたオプションの行使価格がOTMとなってパーとなってしまうことによるものである。

これらの二つの要因が、満期日前の反対売買を加速させているのである。

マイナス金利政策は、ビッグプッシュ財政政策とのミックス・ポリシーが必要

もっとも、私からいわせれば、これらWillem BuiterとGreg Mankiwの「通貨の残高としての保有にも、通貨の在庫としての、キャリーイングに見合った減価を」という考え方には賛成しうるが、時間価値(セータ)のもうひとつの側面である「満期に近づくほど、ボラティリティの上昇(ガンマやベガ)がある」という仕組みがなければ、片手落ちのように思える。

つまり、このことは、金融政策の課題ではなく、財政政策の課題であり、それは、明日の商品価値の劣化を防ぎ、明日の商品価値の上昇を招きうるようなビッグ・プッシュ政策であると私は思うのだが、どうなんだろう?

これは、ある意味、インフレターゲット政策とのミックス・ポリシーとなるかもしれない。

わかりやすい表現になるか、わかりにくい表現になるかは、ちょっと、あれだが、水面に浮かぶ釣りの浮きが、だんだん、沈んで、動いているかどうか見えなくなってきているときに、インフレターゲット政策が、既存の浮きの上に棒を足して、見えやすくするのであれば、マイナス金利政策は、浮きの浮く中心を下げてしまって、浮きを水面に出してしまう、という政策ってことでどうだろう?

低金利先進国である日本においても、そろそろ、マイナス金利のスキーム構築のための検討が日銀政策当局でなされるべき時に来ているのかもしれない。

藤巻健史氏も、すでに、日本のデフォルトにつながる破滅的な長期金利高騰をみこしての、マイナス金利の日本への導入を、早くから提言しているようだ。

参考文献
Sweden: negative interest rates and quantitative easing
UNCONVENTIONAL MONETARY POLICY: FIGHT DEFLATION BY TAXING CURRENCY
Overcoming the Zero Bound on Nominal Interest Rates: Gesell’s Currency Carry Tax vs. Eisler’s Parallel Virtual Currency.」
Japan’s Lost Decade: Origins, Consequences, and Prospects For Recovery
中央銀行と通貨発行を巡る法制度に ついての研究会報告書

 

覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:45 PM

このサイトにおいでいただいた方へ

この情報は11月22日時点での情報です。
今回のウクライナを初めとしたH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異につきましては、このサイト以外にも、私のブログ記事では、下記で取り上げておりますので、あわせてご参照ください。
あたらしい記事順です。

D225G変異H1N1新型インフルエンザ・ウイルスに対してワクチン不全ありとWHO確認 (11月28日時点)
ウクライナ・ノルウェイ・香港共通のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス変異について(11月25日時点)
ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明(11月19日時点)
ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡 (11月9日時点)

2009/11/22(Sun)

①鳥インフルエンザ・ウイルスはシアル酸がガラクトースにα 2,3 結合したもの(SAα2,3Gal)を認識し、
ヒトインフルエンザ・ウイルスは主としてシアル酸がガラクトースにα2,6結合したもの (SA α2,6Gal )を認識する。

②ヒトのレセプターの分布は、鳥インフルエンザ・ウイルスの場合と、ヒトインフルエンザ・ウイルスの場合とでは異なる。

③ヒトインフルエンザ・ウイルスの場合のヒトのレセプターの分布は、、ヒトの上部気道の上皮細胞にしかない。

④鳥インフルエンザ・ウイルスの場合のヒトのレセプターの分布は、ヒトの呼吸器の深部(呼吸細気管支と肺胞細胞の一部)に、多く存在する。

⑤このヒトの呼吸器におけるヒト・ウイルスと鳥インフルエンザ・ウイルスのレセプター分布の相違は,H5N1 ウイルスが人から人へ伝播しにくい事実にも関係している。

⑥ヒトが鳥インフルエンザ・ウイルスを効率よく伝播するためには,HA がヒト・ウイルスのレセプターを認識できるように変異する必要がある。

⑦ヒトが、鳥インフルエンザ・ウイルスに感染すると、重篤な下部呼吸器障害を引き起こすことがあるのは、このレセプターの分布(呼吸器の深部に鳥インフルエンザ・ウイルスのレセプターがある。)の違いと、ウイルスの変異によるところが大きいと見られる。

⑧今回、ウクライナでの新型インフルエンザ感染者が、いずれも重篤で、しかも、その死亡者を含めた重篤者の肺でのウイルスが、いずれも、D225G変異をおこしおり、上気道でのD225G変異が1つしかなかったということが、上記のことと関係あるのか。

⑨ポジション225変異は、H3N2によく見られるアマンタジン耐性変異であり、H1N1においても、劇症性を付与しうる変異であるされている。

アマンタジン耐性変異であることと、ウクライナとの関係はあるのか?

⑩また、1918年のスペイン風邪において、採取された二つのウイルス A/New York/1/1918 と A/London/1/1919 にも225において、同様のD225G変異が見られたこととの関係はあるのかどうか。

⑪1918年のウイルスのシーケンス分析において、受容体特性は、「SA α2,6Gal」 と、「SAα2,3Gal」と、「SAα2,3GalとSA α2,6Galとの混合」との三つのタイプが見られた。

⑫受容体特性の「SAα2,3Gal」から「SA α2,6」への変化自体は、劇症性を付与するものではない。
「SAα2,3GalとSA α2,6Galとの混合」についてはどうか?

⑬CDCのNancy J. Cox 氏をはじめとする59人からなる研究チームのH1N1 新型インフルエンザウイルスの遺伝子分析によれば、8つのセグメントのうち、ヘマグルチニン(H)を含む3つの遺伝子セグメントは、1918年のスペイン風邪のH1N1に由来するものであり、その後、ずっと豚に存在していたものであるが、その間においても、変異はしていなかったとしている。
遺伝子セグメントでは、ポリメラーゼB(PB)遺伝子はヒト由来、他の二つは鳥由来であったとしている。
また、1918年のH1N1とH5N1とは、毒性があることを示す遺伝子セグメントを、同じNS1セグメントにおいて有しているが、今回の新H1N1は、そうではないという。
感染性を示す遺伝子セグメントにおいても、今回の新H1N1は、1918年のH1N1にあったものを失っているという。

参考 関連する私のブログ記事

やはり新型ではなかった、今回のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス
ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明
ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡

その他関連サイト
Role of sialic acid binding specificity of the 1918 influenza virus hemagglutinin protein in virulence and pathogenesis in mice.」
virus: alpha2,6-sialyllactose-avian flu citations

 

2009年11月20日

ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:27 PM

このサイトにおいでいただいた方へ

この情報は11月19日時点での情報です。
今回のウクライナを初めとしたH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異につきましては、このサイト以外にも、私のブログ記事では、下記で取り上げておりますので、あわせてご参照ください。
あたらしい記事順です。

D225G変異H1N1新型インフルエンザ・ウイルスに対してワクチン不全ありとWHO確認 (11月28日時点)
ウクライナ・ノルウェイ・香港共通のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス変異について(11月25日時点)
覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由(11月22日時点)
ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡 (11月9日時点)

2009年11月19日

かねてからこのブログ「ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡」などでも伝えているウクライナでの新型インフルエンザによる死亡だが、ここに来て、これによる死者は、344人に達したとのことである。

一日あたり16人ずつ死亡者が増加しているというペースのようである。

ここに来て、ウイルスのシーケンスも発表されたが、これによると、10検体のうち、4検体に、HAにおいて、D225G変異を示していたという。

D225G変異を起こしているウイルス名は下記のとおりである。

A/Lviv/N6/2009
A/Ternopil/N11/2009
A/Ternopil/N10/2009
A/Lviv/N2/2009

このうち、1検体については、喉からのものであり、3検体については、肺組織からのものであった。

この4検体を採取した患者はいずれも死亡者であった。

鼻咽頭からの検体については、D225G変異は見られなかったという。

このことから、D225G変異が、肺組織に集中して見られるのかどうかが、関心のもととなっているようだ。

そのためには、この肺組織からの検体が鼻咽頭からの粘液からきているものかどうかを早急に検査しなければならないとしている。

なぜなら、上気道でのウイルスがほとんどなく、肺にウイルスが集中している可能性が強いからだ。

極端には、鼻咽頭からの検体では、陰性を示すことすらあるからだ。

CDCの見解では、ラピッド・テストでは、10パーセントから70パーセントの巾での感度の差があるという。

したがって、状況によっては、実態の10パーセントしか、陽性を示さない場合もあるという。

陰性を示しているラピッド・テストのサンプルは、この場合、より精査をすることが必要であるという。

このD225G変異が肺組織に集中しているということは、H1N1ウイルスが肺組織に集中していることを意味しており、このことが、サイトカイン現象を引き起こしていると見る向きもあるようだ。

このD225G変異は、これまで、すでに、ブラジル・サンパウロ、中国・Zhejiang、日本・広島、アメリカ・テキサス、アメリカ・ジョージア、アメリカ・ニューヨーク、メキシコ、スペイン・カタロニアで見られた変異でもある。

しかし、D225G変異が見られたということは、このウイルスの遺伝子的な歴史背景(multiple genetic backgrounds via recombination)を語るものであるとする見方もある。

すなわち、三種のウイルスの再結合(triple reassortant viruses)にみられる変異であるという説である。

その理由として、1918年から1919年にかけてのスペインかぜにおいて採取された二つのウイルス A/New York/1/1918 と A/London/1/1919 にも225において、同様のD225G変異が見られたことについての懸念から来ているものである。

一方、ノルウェイにおいても、同様の変異を持つ患者が発見された。

H3ナンバリングでは、ポジション222がポジション225にあたる。

また、ロシアにおいては、A/Vladivostok/1/2009二、同様の変異が見つかっている。

ノルウェイの場合は、70人について検査をし、そのうち、8人の患者は死亡している。

D225G変異が見られたのは、このうちの5人であり、そのうちの2人は死亡している。

他の三人は、集中治療室に入っており、重症である。

ここでも、ウクライナと同じく、変異ウイルスは、肺に集中して、発見されているという。

ポーランドにおいても、新型インフルエンザによる死者が急増しているが、これらにもD225G変異があったかどうかについては、今のところ、確認できていないようだ。

備考

これまでD225G変異をみせたウイルス名一覧(ウクライナ分を除く)

01 A/******/index/2009/02/01 (A/swine-flu/index/2009-02-01(H1N1))
02 A/Hiroshima/201/2009/06/17
03 A/Georgia/01/2009/04/27
04 A/Zhejiang-Yiwu/11/2009/09/06
05 A/Zhejiang/DTID-ZJU03/2009/09/07
06 A/Zhejiang/DTID-ZJU02/2009/09/07
07 A/Sao Paulo/53206/2009/07/19
08 A/Sao Paulo/53225/2009/08/01
09 A/New York/04/2009/04/
10 A/Catalonia/NS1706/2009/07/29
11 A/Mexico/InDRE4114/2009//
12 A/Texas/11/2009/04/23
13 A/Texas/05/2009/04/15
14 A/Mexico/3955/2009/04/02
15 A/Cancun-NY/Index/2009/04/15

参考
H5N1Experts.org – View Single Post – swine flu sequences
my supposed index-strain , the virus which I consider the best candidate for the original ancestor virus of all ****** .
Presumably the virus which jumped from swine to a human or (IMO less likely) which reassorted in a human

A/swine-flu/index/2009-02-01(H1N1)
A/******-match/1-2/07(H3N2) (A/Mexflu-match/1-2/07(H3N2))
A/Sw/Index/triple-reassortant/1998(H3N2)

参考
Antigenic and Genetic Characteristics of Swine-Origin 2009 A(H1N1) Influenza Viruses Circulating in Humans

参考
A/Mexflu-match/1-2/07(H3N2)」

参考
Ukraine Dead Increase to 344 – Sequences Released

なんで、いまさら、デフレ宣言なの?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:25 PM

今日の 菅直人副総理の、有効な財政対応策を示さないままでの、ことあらだてての『デフレ宣言』に対して、『いまさら、何で?』との奇異の感を抱かれた方は、私を含めて、多かったのではなかろうか?

本石町日記』さんも、同様の感想を漏らされている。

すでに、低金利にもかかわらず、デフレ効果で、日本の実質金利は、イギリスを抜いて、プラスとなっていることは、誰しもわかっていることである。
(実質金利比較=名目金利-インフレ率
日本2.7パーセント(名目金利=0.1パーセント)、イギリス2.1パーセント(名目金利=0.5パーセント)
参考「REAL INTEREST RATE FORECASTS

「日銀への“圧力”と“牽制”が狙い」との見方もあるが、では、日銀に何ができるかとなれば、政策金利はすでに、非負制約の元になってから久しいし、量的緩和策にしても、日銀自身がいっているとおり、それによる物価引き上げ効果には、限界があるようだ。

鳩山政権は、子供手当てや農業者戸別所得補償などの、直接支払い的な補助金の交付によっての家計需要の増大を意図しているらしいが、これとても、先に私のブログ記事『換金回路構築のデザインなき、国民総措置化のみをめざす、民主党政権の経済政策のあやまり』にも書いたとおり、これらの政府支出は、すべて、デフレの罠( Liquidity Trap)につかまって、家計内埋蔵金と借入金償還財源と化してしまう可能性が高い。

だからといって、今の民主党政権には、ビッグ・プッシュ政策はできない。

意地悪な見方をすれば、政府側が、これらの直接支払い型補助金の景気浮揚効果の限界を知ったので、日銀側に、その責任をふったのではないのか?とも、かんぐられる今日のデフレ宣言だ。

だったら、ことさら、デフレを促進しかねない、円高容認発言を、藤井財務大臣は、なぜ、この秋以降、執拗に、国際社会に発信しつづけたのか?

そのエクスキューズとして、具体的な内需振興策も提示しないまま、藤井財務大臣は、なぜ、『内需振興、内需振興』と、叫びまわったのか?

日銀に長期国債引受までも促しているのであったら、財政法第5条ただし書は、国会の議決なんですから、それこそ、お得意の政治主導で、さっさと野党不在でおやりになればいいだけの話だ。

そして、今日のデフレ宣言後、長期金利は低下し、国債価格は上昇し始めている。

株価はいっそう下落、円高はいっそう進捗といった状況だ。

とくに、週明けの外国為替市場は、一種の『安心感と確信感を持って、いっそうの円高』へと傾くであろう。

国内版のキャピタル・フライトがすでに始まってしまっているという様相だ。

そして、それが一段落すると、今度は、本格的な長期金利の上昇・日本国債へのデフォルト懸念・円売りによる円安反転という、国際版のキャピタル・フライトという、逆のスパイラルが始まるのであろう。

まさに、本格的な日本売りへの開始宣言が、今日の『デフレ宣言』となってしまう。

突破口は、何かあるのか?

やる気であれば、いくつかあるのだろう。

第一は、非負制約の元での残り少ない政策金利の引き下げ巾ではあるが、精一杯の小刻み金利引下げによって、心理的な効果をねらう。

第二は、日銀による大幅な流動性供給(マネタリーベース拡大)と同時に、日銀による国債の大量買い入れと、政府による国債発行と、国債の発行によるビッグ・プッシュによる大型景気浮揚策の着手に取り掛かる。
ちまちました事業仕分け的なものは、ここらで打ち止めとする。

第三は、日銀による米国債の大量購入であり、これによって、バイパス的な、実質的為替介入を狙う。

こんなところだろうか。

第二・第三については、いずれも、度胸が必要な大技だ。

しかも、民主党政権は、ビッグ・プッシュ政策が、亀井さんを除いては、嫌いと来ている。

しかし、私のブログ『リチャード・クー氏の「アメリカは日本の過去の失敗に学べ」論』でも述べたように、クルーグマン氏は、次のように言っている。

「当面巨大化する政府支出は、政府の財政収支を悪化させはするが、経済を支える実際の財政コストは、もっと小さいはずだ。
簡単に計算しても(Back-of-the-envelope calculations )、財政支出が「ただ飯」(Free Lunch)には終わらないことは明らかである。」

つまり、いまや気息奄々たる日本経済にとっては、ビッグ・プッシュというAED(心臓にショックを与え、蘇生させる徐細動器)が必要というわけである。

まあ、ここまでみると、バーナンキさんが過去の日本講演で、日本のインタゲ派にささげた秘策(「日銀が国債を購入し続ければいつかは必ずインフレを招来できるはずである。」というバーナンキの背理法)そのものの一部実行となるようなのだが、どうも、今の、鳩山政権にしても、日銀総裁にしても、「ちんまりとカシコ面した」面々しかいないところから、亀井静香さんは別として、これほどの大技ができる度胸と器量を、持ち合わせているとは思われないのだが。

経済協力開発機構(OECD)のアンヘル・グリア事務総長は「デフレと闘え」と日本を叱咤し、暗に国債買い切りオペ増額などを含む広範な量的緩和措置を示唆したというのだが、そのような弥縫策はものともせず、デフレの罠は、鳩山新政権の目玉政策である直接支払い的補助金のもつ効果を、音もなく家計内埋蔵金として、沈殿・吸着させるためのスキームとしての役割を確実に果たそうとしているようだ。

ところで、青山学院大学の港徹雄さんという方が、青学のメルマガ「青学V-NETマガジン」(2003/2/5 時点でのかなり古い記事ですが。)でこんな提案をしていたが、実現性はどうなんだろう?

かなり、トンデモ案だが、デフレの罠解消策としては、ちょっと興味をひかれる提案ではあった。

「高齢者は低金利でも最も安全性の高い国債を選好しており、2月4日の発行された個人向け国債の購入希望は発行額の何倍にもなっている。
この際、高齢者向けに年利1.5%の高金利国債を30兆円規模発行し、その資金をもって発行済み株式総額の10数%を購入すれば株式市場の需給は一度に逆転し、株式はその正常な価格にまで回復するであろう。」

まあ、個人向け、とくに、高齢者限定での高金利国債を発行して、デフレの罠の元凶の家庭内埋蔵金を引き出すという戦法のようだが、その高金利国債の償還時まで、日本経済が持ち直していれば、結果オーライの話なんだが、もし、そうでないと、現在(国の税収に対する利払い費の比率が10年ぶりに20%超)同様、過去の高金利国債の金利支払いに、国庫はさらに火の車という事態になってしまうのだが。

Willem Buiter(イングランド銀行)によれば、デフレの罠から逃れるためには、二つのオプションしかないとしている。

ひとつは、需要喚起策であり、もうひとつは、”Taxing currency”によって、『負の名目金利』(negative nominal interest rate)(マイナス金利)を’carry taxという形(地域通貨の祖ともいえる存在のSilvio Gesellが考え出した通貨へのスタンプを義務付けるという案に似たもののようだ。「毎月10円分のスタンプを貼らないと1万円札は使えませんよ」というような案のようだ。家庭内で貨幣を埋蔵していれば、それに対するキャリーイング・コストがかかるというシステムのようだ。)で課することであるという。

マイナス金利は、スウェーデン中央銀行(Riksbank)で試行錯誤中である。

2009年7月2日に、Riksbankは、政策金利(レポ・レート、Repo Rate)を、それまでの0.5パーセントから、0.25パーセントに引き下げると同時に、2009年7月8日からは、Riksbankに口座を持つ商業銀行の預金口座の預金金利(Deposit Rate)を、マイナス0.25パーセントへ、Riksbankから商業銀行への貸し出し金利を、0.75パーセントへ変更している。
これらのマイナス金利スキームは、, Greg Mankiw や、Willem Buiterの考え方に沿ったものだ。

商業銀行の預金平残がいくらかにもよるが、理論的には、政策金利を0.5パーセントから、0.25パーセントに引き下げても、中央銀行の商業銀行に対する預金金利をマイナス0.25パーセントにすることによって、商業銀行に対する実質金利は、もとの0.5パーセントと実質同じ水準に維持でき、非負制約から一定の解除ができる、という、フローティングの考え方に基づくもののようですね。

これを日本にあてはめてみると、利息ゼロの日本銀行当座預金をマイナス金利とし、-0.25パーセントにし、無担コール(オーバーナイト物)レートを0.75パーセントにする、ということなんでしょうかね?

ただ、
マネタリーベース=「①日本銀行券発行高」+「②貨幣流通高」+「③日銀当座預金」
なので、③のマイナス金利化によつて、③の平残派、減少する分を、①②でどの程度補うか?というところに、中央銀行ベー図での最良の幅が増えてくるのかもしれない。
今まで、③の残高は、与件でしか過ぎなかったのであろうから。

イングランド銀行でも、同様の考え方を検討のようだ。

スウェーデンのゼロ金利については、『Sweden: negative interest rates and quantitative easing』などをご参照

これについては、『UNCONVENTIONAL MONETARY POLICY: FIGHT DEFLATION BY TAXING CURRENCY』などもご参照

Greg Mankiwのマイナス金利の考え方については、「Observations on Negative Interest Rates 」「More on Negative Interest Rates 」などをご参照

Willem Buiterは、名目金利が非負制約を受けないために、次の三つの方法があるとしている。(かなりドラスティックな案なので、びっくりされないように)
①通貨を廃止し、国民すべてが、中央銀行に口座を持つ。その場合、その口座に対しては、プラスの金利とマイナスの金利の両方が時に応じて、かかる。
②通貨の保有に対して、キャリーに応じて税金がかかる。
③新しい貨幣の導入(rallodという名の世界通貨)によって、口座の残高として価値と、交換手段としての通貨の価値とを、デカップリングする。
これについては、「The wonderful world of negative nominal interest rates, again」をご参照

通貨価値も老化しうるという考え方は、オプションのタイム・ディケイ(満期が近づくにつれて、オプションの時間価値が減っていく。)の考え方に似ている。

いささか、チン案に属するデフレの罠対策だが、このような案に日本のデフレ対策を求める学者もいるようだ。
参考「Overcoming the Zero Bound on Nominal Interest Rates: Gesell’s Currency Carry Tax vs. Eisler’s Parallel Virtual Currency.」
Japan’s Lost Decade: Origins, Consequences, and Prospects For Recovery
日本語文献では、このあたり『 中央銀行と通貨発行を巡る法制度に ついての研究会報告書』が参考になるのかもしれない。

2009年11月19日

直接支払い型インセンティブにおけるトランザクション・コストの増嵩

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:31 PM

民主党政権になってから、新しいスキームのようにもてはやされる直接支払い型補助金なのだが、私がずっと疑問に思っているのは、このスキームの限界は、徴税コストと、補助金配布コストとが、ダブルにかかるのではないのか?との点についての疑念であった。

このサイト「Multifunctional Agriculture: an Institutional Interpretation 」(Konrad Hagedorn )は、私の疑問にいくらかでも答えてくれたサイトである。

ここでは、農業の多面的機能に対するインセンティブとして、ターゲット政策と、直接支払い政策とを選んだ場合、その取引費用(トランザクション・コスト)において、直接支払い型インセンティブは、価格支持政策に比べると、インセンティブの選択においては、ベストの選択とはいえない、としている。

むしろ、面的な制度設定の変更によったほうが、インセンティブ効果はある、としている。

確かに、単純に考えてみれば、先の定額給付金の支払いにおける事務費や送金手数料を含めたトランザクション・コストによって、誰が潤ったかをかんがえてみればよくわかるのだろう。

また、さらに言えば、直接支払いをするためのソフトインフラのあるなしが、これらのトランザクション・コストの低減に寄与するのだろう。

たとえば、小切手支払いの可能性とか、対象者選択のための背番号制などのあるなしが、送金手数料事務費の低減に大きく寄与しうる。

それらのインフラの整備なしで、単純に、直接支払い型補助金に依存するということは、ざるに水を注ぐのと同じ、きわめて、リーケージの多いインセンティブとなるのだろう。

私は、減税か、直接支払いか、との選択のほかに、日本型ドネーションのスキームが必要であると、かねてから思っている。

キリスト教的なチャリティやドネーションの習慣がない日本においては、寄付税制の充実が欠かせないように思える。

これは、国税当局にとっては、徴税の邪魔者スキームとしかとらえられないかもしれないが、今の世の中、日本型ドネーション・システムのスキームは必要に思える。

冠つきの寄付金控除の拡大をすることのほうが、派遣切り・ホームレス対策には有効なのである。