笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年11月20日

ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:27 PM

このサイトにおいでいただいた方へ

この情報は11月19日時点での情報です。
今回のウクライナを初めとしたH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異につきましては、このサイト以外にも、私のブログ記事では、下記で取り上げておりますので、あわせてご参照ください。
あたらしい記事順です。

D225G変異H1N1新型インフルエンザ・ウイルスに対してワクチン不全ありとWHO確認 (11月28日時点)
ウクライナ・ノルウェイ・香港共通のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス変異について(11月25日時点)
覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由(11月22日時点)
ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡 (11月9日時点)

2009年11月19日

かねてからこのブログ「ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡」などでも伝えているウクライナでの新型インフルエンザによる死亡だが、ここに来て、これによる死者は、344人に達したとのことである。

一日あたり16人ずつ死亡者が増加しているというペースのようである。

ここに来て、ウイルスのシーケンスも発表されたが、これによると、10検体のうち、4検体に、HAにおいて、D225G変異を示していたという。

D225G変異を起こしているウイルス名は下記のとおりである。

A/Lviv/N6/2009
A/Ternopil/N11/2009
A/Ternopil/N10/2009
A/Lviv/N2/2009

このうち、1検体については、喉からのものであり、3検体については、肺組織からのものであった。

この4検体を採取した患者はいずれも死亡者であった。

鼻咽頭からの検体については、D225G変異は見られなかったという。

このことから、D225G変異が、肺組織に集中して見られるのかどうかが、関心のもととなっているようだ。

そのためには、この肺組織からの検体が鼻咽頭からの粘液からきているものかどうかを早急に検査しなければならないとしている。

なぜなら、上気道でのウイルスがほとんどなく、肺にウイルスが集中している可能性が強いからだ。

極端には、鼻咽頭からの検体では、陰性を示すことすらあるからだ。

CDCの見解では、ラピッド・テストでは、10パーセントから70パーセントの巾での感度の差があるという。

したがって、状況によっては、実態の10パーセントしか、陽性を示さない場合もあるという。

陰性を示しているラピッド・テストのサンプルは、この場合、より精査をすることが必要であるという。

このD225G変異が肺組織に集中しているということは、H1N1ウイルスが肺組織に集中していることを意味しており、このことが、サイトカイン現象を引き起こしていると見る向きもあるようだ。

このD225G変異は、これまで、すでに、ブラジル・サンパウロ、中国・Zhejiang、日本・広島、アメリカ・テキサス、アメリカ・ジョージア、アメリカ・ニューヨーク、メキシコ、スペイン・カタロニアで見られた変異でもある。

しかし、D225G変異が見られたということは、このウイルスの遺伝子的な歴史背景(multiple genetic backgrounds via recombination)を語るものであるとする見方もある。

すなわち、三種のウイルスの再結合(triple reassortant viruses)にみられる変異であるという説である。

その理由として、1918年から1919年にかけてのスペインかぜにおいて採取された二つのウイルス A/New York/1/1918 と A/London/1/1919 にも225において、同様のD225G変異が見られたことについての懸念から来ているものである。

一方、ノルウェイにおいても、同様の変異を持つ患者が発見された。

H3ナンバリングでは、ポジション222がポジション225にあたる。

また、ロシアにおいては、A/Vladivostok/1/2009二、同様の変異が見つかっている。

ノルウェイの場合は、70人について検査をし、そのうち、8人の患者は死亡している。

D225G変異が見られたのは、このうちの5人であり、そのうちの2人は死亡している。

他の三人は、集中治療室に入っており、重症である。

ここでも、ウクライナと同じく、変異ウイルスは、肺に集中して、発見されているという。

ポーランドにおいても、新型インフルエンザによる死者が急増しているが、これらにもD225G変異があったかどうかについては、今のところ、確認できていないようだ。

備考

これまでD225G変異をみせたウイルス名一覧(ウクライナ分を除く)

01 A/******/index/2009/02/01 (A/swine-flu/index/2009-02-01(H1N1))
02 A/Hiroshima/201/2009/06/17
03 A/Georgia/01/2009/04/27
04 A/Zhejiang-Yiwu/11/2009/09/06
05 A/Zhejiang/DTID-ZJU03/2009/09/07
06 A/Zhejiang/DTID-ZJU02/2009/09/07
07 A/Sao Paulo/53206/2009/07/19
08 A/Sao Paulo/53225/2009/08/01
09 A/New York/04/2009/04/
10 A/Catalonia/NS1706/2009/07/29
11 A/Mexico/InDRE4114/2009//
12 A/Texas/11/2009/04/23
13 A/Texas/05/2009/04/15
14 A/Mexico/3955/2009/04/02
15 A/Cancun-NY/Index/2009/04/15

参考
H5N1Experts.org – View Single Post – swine flu sequences
my supposed index-strain , the virus which I consider the best candidate for the original ancestor virus of all ****** .
Presumably the virus which jumped from swine to a human or (IMO less likely) which reassorted in a human

A/swine-flu/index/2009-02-01(H1N1)
A/******-match/1-2/07(H3N2) (A/Mexflu-match/1-2/07(H3N2))
A/Sw/Index/triple-reassortant/1998(H3N2)

参考
Antigenic and Genetic Characteristics of Swine-Origin 2009 A(H1N1) Influenza Viruses Circulating in Humans

参考
A/Mexflu-match/1-2/07(H3N2)」

参考
Ukraine Dead Increase to 344 – Sequences Released

なんで、いまさら、デフレ宣言なの?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:25 PM

今日の 菅直人副総理の、有効な財政対応策を示さないままでの、ことあらだてての『デフレ宣言』に対して、『いまさら、何で?』との奇異の感を抱かれた方は、私を含めて、多かったのではなかろうか?

本石町日記』さんも、同様の感想を漏らされている。

すでに、低金利にもかかわらず、デフレ効果で、日本の実質金利は、イギリスを抜いて、プラスとなっていることは、誰しもわかっていることである。
(実質金利比較=名目金利-インフレ率
日本2.7パーセント(名目金利=0.1パーセント)、イギリス2.1パーセント(名目金利=0.5パーセント)
参考「REAL INTEREST RATE FORECASTS

「日銀への“圧力”と“牽制”が狙い」との見方もあるが、では、日銀に何ができるかとなれば、政策金利はすでに、非負制約の元になってから久しいし、量的緩和策にしても、日銀自身がいっているとおり、それによる物価引き上げ効果には、限界があるようだ。

鳩山政権は、子供手当てや農業者戸別所得補償などの、直接支払い的な補助金の交付によっての家計需要の増大を意図しているらしいが、これとても、先に私のブログ記事『換金回路構築のデザインなき、国民総措置化のみをめざす、民主党政権の経済政策のあやまり』にも書いたとおり、これらの政府支出は、すべて、デフレの罠( Liquidity Trap)につかまって、家計内埋蔵金と借入金償還財源と化してしまう可能性が高い。

だからといって、今の民主党政権には、ビッグ・プッシュ政策はできない。

意地悪な見方をすれば、政府側が、これらの直接支払い型補助金の景気浮揚効果の限界を知ったので、日銀側に、その責任をふったのではないのか?とも、かんぐられる今日のデフレ宣言だ。

だったら、ことさら、デフレを促進しかねない、円高容認発言を、藤井財務大臣は、なぜ、この秋以降、執拗に、国際社会に発信しつづけたのか?

そのエクスキューズとして、具体的な内需振興策も提示しないまま、藤井財務大臣は、なぜ、『内需振興、内需振興』と、叫びまわったのか?

日銀に長期国債引受までも促しているのであったら、財政法第5条ただし書は、国会の議決なんですから、それこそ、お得意の政治主導で、さっさと野党不在でおやりになればいいだけの話だ。

そして、今日のデフレ宣言後、長期金利は低下し、国債価格は上昇し始めている。

株価はいっそう下落、円高はいっそう進捗といった状況だ。

とくに、週明けの外国為替市場は、一種の『安心感と確信感を持って、いっそうの円高』へと傾くであろう。

国内版のキャピタル・フライトがすでに始まってしまっているという様相だ。

そして、それが一段落すると、今度は、本格的な長期金利の上昇・日本国債へのデフォルト懸念・円売りによる円安反転という、国際版のキャピタル・フライトという、逆のスパイラルが始まるのであろう。

まさに、本格的な日本売りへの開始宣言が、今日の『デフレ宣言』となってしまう。

突破口は、何かあるのか?

やる気であれば、いくつかあるのだろう。

第一は、非負制約の元での残り少ない政策金利の引き下げ巾ではあるが、精一杯の小刻み金利引下げによって、心理的な効果をねらう。

第二は、日銀による大幅な流動性供給(マネタリーベース拡大)と同時に、日銀による国債の大量買い入れと、政府による国債発行と、国債の発行によるビッグ・プッシュによる大型景気浮揚策の着手に取り掛かる。
ちまちました事業仕分け的なものは、ここらで打ち止めとする。

第三は、日銀による米国債の大量購入であり、これによって、バイパス的な、実質的為替介入を狙う。

こんなところだろうか。

第二・第三については、いずれも、度胸が必要な大技だ。

しかも、民主党政権は、ビッグ・プッシュ政策が、亀井さんを除いては、嫌いと来ている。

しかし、私のブログ『リチャード・クー氏の「アメリカは日本の過去の失敗に学べ」論』でも述べたように、クルーグマン氏は、次のように言っている。

「当面巨大化する政府支出は、政府の財政収支を悪化させはするが、経済を支える実際の財政コストは、もっと小さいはずだ。
簡単に計算しても(Back-of-the-envelope calculations )、財政支出が「ただ飯」(Free Lunch)には終わらないことは明らかである。」

つまり、いまや気息奄々たる日本経済にとっては、ビッグ・プッシュというAED(心臓にショックを与え、蘇生させる徐細動器)が必要というわけである。

まあ、ここまでみると、バーナンキさんが過去の日本講演で、日本のインタゲ派にささげた秘策(「日銀が国債を購入し続ければいつかは必ずインフレを招来できるはずである。」というバーナンキの背理法)そのものの一部実行となるようなのだが、どうも、今の、鳩山政権にしても、日銀総裁にしても、「ちんまりとカシコ面した」面々しかいないところから、亀井静香さんは別として、これほどの大技ができる度胸と器量を、持ち合わせているとは思われないのだが。

経済協力開発機構(OECD)のアンヘル・グリア事務総長は「デフレと闘え」と日本を叱咤し、暗に国債買い切りオペ増額などを含む広範な量的緩和措置を示唆したというのだが、そのような弥縫策はものともせず、デフレの罠は、鳩山新政権の目玉政策である直接支払い的補助金のもつ効果を、音もなく家計内埋蔵金として、沈殿・吸着させるためのスキームとしての役割を確実に果たそうとしているようだ。

ところで、青山学院大学の港徹雄さんという方が、青学のメルマガ「青学V-NETマガジン」(2003/2/5 時点でのかなり古い記事ですが。)でこんな提案をしていたが、実現性はどうなんだろう?

かなり、トンデモ案だが、デフレの罠解消策としては、ちょっと興味をひかれる提案ではあった。

「高齢者は低金利でも最も安全性の高い国債を選好しており、2月4日の発行された個人向け国債の購入希望は発行額の何倍にもなっている。
この際、高齢者向けに年利1.5%の高金利国債を30兆円規模発行し、その資金をもって発行済み株式総額の10数%を購入すれば株式市場の需給は一度に逆転し、株式はその正常な価格にまで回復するであろう。」

まあ、個人向け、とくに、高齢者限定での高金利国債を発行して、デフレの罠の元凶の家庭内埋蔵金を引き出すという戦法のようだが、その高金利国債の償還時まで、日本経済が持ち直していれば、結果オーライの話なんだが、もし、そうでないと、現在(国の税収に対する利払い費の比率が10年ぶりに20%超)同様、過去の高金利国債の金利支払いに、国庫はさらに火の車という事態になってしまうのだが。

Willem Buiter(イングランド銀行)によれば、デフレの罠から逃れるためには、二つのオプションしかないとしている。

ひとつは、需要喚起策であり、もうひとつは、”Taxing currency”によって、『負の名目金利』(negative nominal interest rate)(マイナス金利)を’carry taxという形(地域通貨の祖ともいえる存在のSilvio Gesellが考え出した通貨へのスタンプを義務付けるという案に似たもののようだ。「毎月10円分のスタンプを貼らないと1万円札は使えませんよ」というような案のようだ。家庭内で貨幣を埋蔵していれば、それに対するキャリーイング・コストがかかるというシステムのようだ。)で課することであるという。

マイナス金利は、スウェーデン中央銀行(Riksbank)で試行錯誤中である。

2009年7月2日に、Riksbankは、政策金利(レポ・レート、Repo Rate)を、それまでの0.5パーセントから、0.25パーセントに引き下げると同時に、2009年7月8日からは、Riksbankに口座を持つ商業銀行の預金口座の預金金利(Deposit Rate)を、マイナス0.25パーセントへ、Riksbankから商業銀行への貸し出し金利を、0.75パーセントへ変更している。
これらのマイナス金利スキームは、, Greg Mankiw や、Willem Buiterの考え方に沿ったものだ。

商業銀行の預金平残がいくらかにもよるが、理論的には、政策金利を0.5パーセントから、0.25パーセントに引き下げても、中央銀行の商業銀行に対する預金金利をマイナス0.25パーセントにすることによって、商業銀行に対する実質金利は、もとの0.5パーセントと実質同じ水準に維持でき、非負制約から一定の解除ができる、という、フローティングの考え方に基づくもののようですね。

これを日本にあてはめてみると、利息ゼロの日本銀行当座預金をマイナス金利とし、-0.25パーセントにし、無担コール(オーバーナイト物)レートを0.75パーセントにする、ということなんでしょうかね?

ただ、
マネタリーベース=「①日本銀行券発行高」+「②貨幣流通高」+「③日銀当座預金」
なので、③のマイナス金利化によつて、③の平残派、減少する分を、①②でどの程度補うか?というところに、中央銀行ベー図での最良の幅が増えてくるのかもしれない。
今まで、③の残高は、与件でしか過ぎなかったのであろうから。

イングランド銀行でも、同様の考え方を検討のようだ。

スウェーデンのゼロ金利については、『Sweden: negative interest rates and quantitative easing』などをご参照

これについては、『UNCONVENTIONAL MONETARY POLICY: FIGHT DEFLATION BY TAXING CURRENCY』などもご参照

Greg Mankiwのマイナス金利の考え方については、「Observations on Negative Interest Rates 」「More on Negative Interest Rates 」などをご参照

Willem Buiterは、名目金利が非負制約を受けないために、次の三つの方法があるとしている。(かなりドラスティックな案なので、びっくりされないように)
①通貨を廃止し、国民すべてが、中央銀行に口座を持つ。その場合、その口座に対しては、プラスの金利とマイナスの金利の両方が時に応じて、かかる。
②通貨の保有に対して、キャリーに応じて税金がかかる。
③新しい貨幣の導入(rallodという名の世界通貨)によって、口座の残高として価値と、交換手段としての通貨の価値とを、デカップリングする。
これについては、「The wonderful world of negative nominal interest rates, again」をご参照

通貨価値も老化しうるという考え方は、オプションのタイム・ディケイ(満期が近づくにつれて、オプションの時間価値が減っていく。)の考え方に似ている。

いささか、チン案に属するデフレの罠対策だが、このような案に日本のデフレ対策を求める学者もいるようだ。
参考「Overcoming the Zero Bound on Nominal Interest Rates: Gesell’s Currency Carry Tax vs. Eisler’s Parallel Virtual Currency.」
Japan’s Lost Decade: Origins, Consequences, and Prospects For Recovery
日本語文献では、このあたり『 中央銀行と通貨発行を巡る法制度に ついての研究会報告書』が参考になるのかもしれない。