笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2023年8月30日

欧米の「Farm to School プログラム構想と日本での実現可能性

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:43 PM

 

 

 

学校給食というのは、一種の「公共食糧調達」だが、これに持続的農業を組み合わせた「Farm to School プログラム」をもとに、地元の食材と地元の農場とを結びつける試みがヨーロッパ中心に行われています。

「Farm to School(ファーム・トゥ・スクール)」構想は、地元の農産物を学校の給食で使用することによって、地域農業と教育機関をつなげるものです。

このプログラムは、多くの場合、学童に健康的な食事を提供し、地域の農業を支援するとともに、食品の供給チェーンを短縮して環境負荷を減らす目的があります。

 

世界での「Farm to School」の現状

米国: 米国ではこのプログラムが広く実施されており、政府の支援もあります。 地域の農産物を用いることで、学童の健康、地域経済、環境の三方面での利点が認められています。

 

ヨーロッパ: ヨーロッパでもこの概念は人気があり、特にフランス、イタリア、イギリスなどで積極的に取り組まれています。

 

オーストラリアやニュージーランド: これらの国々も地域コミュニティと学校をつなげるプログラムを展開しています。

 

日本での適用可能性と条件

 

地域農業の振興: 日本は多くの地域で農業が行われているため、地元の農産物を活用するポテンシャルがあります。

 

食文化の継承: 地元の食材を使った給食は、日本の伝統的な食文化を次世代に継承する手段ともなり得ます。

 

規制とガイドライン: 日本の学校給食は非常に厳格な健康基準と栄養基準に従っているため、地元の農産物がこれらの基準を満たしているか確認が必要です。

 

費用: 地元の農産物を使用する場合、コストがかかる可能性があります。しかし、量を大量に購入することで、価格交渉が可能かもしれません。

 

教育と啓蒙活動: 「Farm to School」は単に食材を供給するだけでなく、農業教育や環境教育にもつながるため、これらの側面も考慮に入れる必要があります。 多様なステークホルダーの協力: 地域の農家、学校、地方自治体、親、そして生徒自身が協力し合う必要があります。

 

このような多角的な視点で「Farm to School」プログラムを考えることで、日本でも成功の可能性が高まるでしょう。

CSA(Community Supported Agriculture)の実態

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 4:56 PM

 

CSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)は、農家と消費者が直接パートナーシップを結び、持続可能な農業を推進するモデルです。
このモデルでは、消費者は農産物の「シェア」を前もって購入し、農家はその資金を使って作物を栽培します。
収穫された作物は、シェアを購入した消費者に配分されます。
主な特徴
持続可能性: 多くのCSAは有機農業や環境に配慮した方法で農業を行います。
ローカリズム: 地域の農産物を消費者に提供することで、食品の輸送距離が短縮され、炭素排出が減ります。
コミュニティ参加: CSAはコミュニティのメンバーが農業に関与する機会を提供します。
世界での普及状況
アメリカ: CSAは特にアメリカで人気があり、多くの州にCSAのプログラムが存在します。
ヨーロッパ: 英国、フランス、ドイツなどでもCSAが行われています。
アジア: CSAは中国やインド、日本でも存在しますが、それほど一般的ではありません。
日本でのCSA農業の問題点
規模の小ささ: 日本の農業は比較的小規模なため、多くの作物を提供することが難しい場合があります。
労働力: 若者が都市部に流出しているため、地方の労働力が不足している。
知識と教育: 持続可能な農業の方法についての知識や教育が不足している可能性があります。
市場へのアクセス: 小規模農家が大手スーパーなどの市場に出入りするのは難しい場合が多いです。
価格: 有機農業や持続可能な農業のコストは一般的に高く、全ての消費者に受け入れられる価格で提供することは難しい場合があります。
文化的障壁: 日本では、新しい食のトレンドに対する抵抗感や疑念があるかもしれません。
法的・制度的障壁: 日本の農業政策や規制がCSAの拡大を妨げる可能性があります。
CSAのモデルは非常に魅力的な要素を持っており、持続可能な農業を推進する一つの方法として注目されています。
しかし、その普及と成功にはいくつかの課題と障壁が存在します。

世界の契約農業の実態

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 4:51 PM

契約農業(Contract Farming)は、農家とバイヤー(多くの場合、加工会社や流通会社)が、事前に価格、品質、数量などについて合意した上で取引を行う方法です。

この方法は、農家が安定した収入を確保し、バイヤーが必要な原材料を確保できるというメリットがあります。

世界各地で様々な形で実施されています。

 

安定した収入: 農家は事前に販売先が確定しているため、収入が安定します。

 

技術支援: バイヤーが生産プロセスや品質管理において技術支援を行うケースも多いです。

 

資金調達: 農家は事前にバイヤーから資金を得ることができ、それを生産資本として活用できます。

 

ただし、以下のような課題もあります。

 

バイヤー依存: 農家が特定のバイヤーに依存する形になるため、そのバイヤーが倒産した場合などに問題が生じる可能性があります。

 

価格不公平: 契約が不均衡である場合、農家は不利な価格で取引をしなければならない可能性があります。

日本での契約農業の問題点 日本で契約農業を推進する際には、いくつかの課題が考えられます。

 

小規模農家の問題: 日本の農家は多くが小規模であり、量産が難しい場合が多いです。そのため、大手バイヤーとの契約が取りにくい場合があります。

 

高齢化: 農業従事者の高齢化が進んでおり、新しい方法や技術を導入するのが難しいケースもあります。

 

土地利用の制限: 地域によっては土地利用に厳しい制限がある場合もあり、多様な作物の生産が難しい場合があります。

価格競争: すでに成熟した市場で価格競争が激しい場合、契約農業で得られる利益が限られてしまう可能性があります。

 

これらの問題に対処するためには、政府の支援や地域コミュニティの協力、教育・啓蒙活動などが必要とされます。特に、小規模農家でも参加しやすいような契約形態や、新しい農業技術の導入を促進する仕組みが求められます。

2023年8月29日

2023年8月、ジャクソンホールで植田日銀総裁が話されたこと(要約)

Category: 未分類 – Tags: – Tatsuo Sasayama 6:30 PM

ジャクソンホールにおける植田日銀総裁の講演の抄訳が、日本銀行のサイトから発表されました。
リンクはこれです。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2023/data/ko230828a1.pdf

抄訳でも結構長いので、当方で、1200文字程度に要約しました。
下記です。

パネルセッション「変曲点にあるグローバリゼーション」  植田日銀総裁 

 

1.アジアの貿易と直接投資の変動

日本からの視点と地政学的緊張の影響についての考察。
1970〜80年代の日米貿易摩擦の例やIMFの分析を引用しての展望。

 

私(植田日銀総裁)は貿易論の専門家ではないが、日本からの視点を提供したい。アジアの貿易や直接投資の状況が、地政学的緊張の影響を受けて変化していること、特に日本は生産拠点を中国から他のアジアや北米、日本へとシフトしている動きが見られる。この変化はグローバリゼーションの影響の一部として、また地政学的リスク対策として見ることができる。1970〜80年代の日米貿易摩擦を例に、貿易関係の変動が経済の構造変化をもたらすこと、例えば、日本企業が米国での生産を始めたことなどが挙げられる。「地政学的な問題を受けた世界経済の分断化リスク」について、IMFは米国圏と中国圏の間での直接投資規制が発動すると、世界GDPが大幅に減少し、特に東南アジアが深刻な影響を受けると分析している。

2.日本の貿易・投資の動向

日本の輸出動向、対外直接投資のトレンド、日本政策投資銀行のアンケート結果を基にした分析。
日本企業の生産拠点のシフトや国内生産能力増強に関する考察。

 

日本の輸出動向を見ると、中国向け輸出シェアはコロナ後に一時増加したが、米国やその他アジア向けは安定しており、ベトナムやインドへの輸出は増加している。
日本の対外直接投資では、中国向けは停滞している一方、北米やベトナム、インド向けは増加している。
日本政策投資銀行のアンケートによれば、日本企業が重視する投資先として北米、中国、ベトナム、タイ、インド、インドネシアが挙げられる。
日本企業は、中国からASEANやインド、北米への生産拠点の多様化を進めており、これは地政学的考慮だけでなく、現地の需要増や米国の産業政策の影響も背景にある。
日本企業の国内生産能力増強の動きが目立つが、これは海外生産能力の犠牲によるものではない。
7月の輸出データでは欧州や米国向けが強く、アジア向けは一部減少。
特にハイテク財輸出で中国向けは減少しており、理由についてはわからない。

3.アジアの経済動向とグローバルな影響

アジアの生産拠点の動きや地域経済統合、中国の戦略に関する検討。
中国と米ドルの役割やアジア新興国の地政学的変動に関する展望。

 

複数の業種でアジアにおける生産能力増強が予定されているが、半導体関連では国内強化が顕著である。
アジアの生産拠点の動きが変わる「変曲点」が近いかもしれない。
アジア新興国の地域経済統合は進行中で、グローバル化の動きは持続している。
中国はアジアだけでなく、他地域への生産移管を進め、人民元を戦略的に貿易金融に使用しており、米ドルの役割に変動が見られるかもしれない。

4.日本経済の現状と中央銀行の課題

本年の日本経済のGDP成長率や物価動向、日本銀行の金融政策についての考察。
地政学的リスクや脱グローバル化の動きなどの不確実要因に関する検討。

 

本年の日本経済は、第1四半期のGDP成長率が3.7%増でスタートしている。
この強さは、感染症制約の緩和やインバウンド需要の復活によるものである。
第2四半期も6%成長を記録し、個人消費や設備投資が引き続き好調。
物価面では、輸入物価の上昇が国内物価に波及し、7月には3.1%になった。
しかし、年末に向けては低下が予想される。
日本銀行は、2%の物価安定目標に達していないため、金融緩和を継続する。
一方、製造業の国内生産強化や半導体産業への投資が経済を刺激している。
しかし、中国経済の減速や地政学的リスク、脱グローバル化の動きなど、多くの不確実要因が経済見通しを複雑化させている。
中央銀行はこれらの要因を考慮しながら、適切な政策決定の難しさに直面している。
感染症関連の供給ショックも継続して影響を及ぼし、中央銀行は過去の経験を踏まえ、適切な対応を模索中である。

以上

#変曲点

2023年8月26日

2023年8月、ジャクソンホールでパウエルFRB議長が話されたこと(要約)

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 4:21 PM

昨晩(2023/08/25)、ジャクソンホールでのパウエルFRB議長の講演要旨を五分の一にまとめてあります。

なお、パウエルさん講演全文テキストは、下記URLサイトでみることができます。

https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20230825a.htm

また、当日の講演ビデオは、下記RLで見ることができます。

https://www.youtube.com/KansasCityFed

 

以下はパウエル講演要旨です。

ジェローム・H・パウエル議長はジャクソンホールでの経済政策シンポジウムで講演し、インフレ率を目標の2%に引き下げるというFRBのコミットメントを改めて強調した。

 

FRBはすでに過去1年間政策を引き締めており、自信を持ったインフレが一貫して目標に向かって進むまでさらに利上げする用意がある。

当初は高い需要とパンデミックによる供給の制約によりインフレが急上昇した。

2022年3月までに、インフレを抑制するにはパンデミック関連の需給混乱の緩和と金融引き締めの両方が不可欠であることが明らかとなった。

米国の総合インフレ率は2022年6月に7%でピークに達し、7月までに3.3%に低下した。

変動の激しい食品とエネルギー価格を除いたコアPCEインフレ率は2022年2月に5.4%でピークに達し、7月までに4.3%に低下した。

需要の変化や半導体不足などの供給制約の影響を受ける自動車セクターなどの要因は、インフレが直面する課題を浮き彫りにしている。

全体として、インフレ抑制の一貫した進展を確実にするためには、さらなる金融制限措置が必要であると考えられる。

住宅セクターでは、金融政策の効果がリフトオフ後に明らかになり、2022年には住宅ローン金利が倍増し、住宅着工数、販売数、価格の上昇が減少した。

住宅サービスのインフレがこうした変化を示すまでには時間がかかったが、現在は市場家賃の下落の影響を受けて低下している。

コアPCE指数の半分以上を占める非住宅サービスは、リフトオフ後に大きなインフレ変化を示していない。

このセクターの将来の安定は、価格の安定にとって極めて重要だ。

将来的には、抑制的な金融政策がインフレ管理において大きな役割を果たすことになるだろう。

2%のインフレ率を達成するには、トレンドを下回る経済成長と労働市場の軟化が予想される。

金融環境が引き締まり、通常は経済活動の成長が鈍化しているにもかかわらず、GDP成長率は堅調で、個人消費も引き続き堅調だ。

労働市場は依然としてリバランスを続けており、労働力の供給と需要の両方が変化している。

賃金圧力は緩和し、名目成長率が鈍化しているにもかかわらず、実質賃金の伸びは増加している。

中心目標は引き続き2%のインフレ目標である。

これを達成することは困難であり、特に必要な金融政策の正確なレベルを決定することは困難だ。

金融引き締めが経済とインフレに与える正確な影響と期間は依然として不確実である。

現在の経済状況には、特にインフレと労働市場の動向に関して明らかな不確実性がある。

たとえば、求人数は減少しているものの、失業率は上昇しておらず、労働需要が異常に高いことを示している。

さらに、インフレは現在、以前よりも労働市場の状況により影響を受けているようだ。

こうした不確実性により、金融引き締めの適切な強度を決定することが困難になっている。

少なすぎると目標を上回るインフレが持続する可能性があり、多すぎると経済に悪影響を与える可能性がある。

これへの対応としては、政策調整を決定する前にさまざまなデータを評価する慎重なアプローチが取られるだろう。

最終的な目標は物価の安定であり、これはすべての人に利益をもたらす強力な労働市場にとって極めて重要だ。

以上

2023年8月24日

“Fukushima’s Treated Water Release: Navigating Economic, Environmental, and Reputational Challenges

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 9:08 AM

[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=Aox8NFGzBNU[/embedyt]

Prime Minister Kishida announced plans to commence the release of treated water from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant on August 24, 2023. This decision stems from concerns linked to the plant’s shutdown following the 2011 East Japan Earthquake. The ALPS facility, designed to treat radioactive-contaminated water, has been accumulating water in tanks, leading to potential delays in the plant’s decommissioning schedule.

In a 2016 report by the Tritium Water Task Force, five treatment methods were proposed. Due to feasibility, the options of releasing water vapor and discharging into the ocean were chosen. Initial estimates suggested that releasing into the ocean would be the most economical. However, recent estimates from Tokyo Electric Power Company (TEPCO) indicate that the cost for ocean discharge has risen from an initial 3.4 billion yen to 59 billion yen. This is mainly attributed to unexpected costs associated with constructing an undersea tunnel for the discharge and increased expenses to combat potential reputational damage.

On the topic of reputational damage, both TEPCO and Prime Minister Kishida emphasize the need for measures post the oceanic release of the ALPS-treated water. However, the term “reputational damage” has faced criticism. Detractors argue that the phrase implies that there’s harm due to unwarranted negative perceptions, suggesting that the government and TEPCO might be adopting a victim stance.

Assessment of risks associated with reputational damage remains ambiguous. There are concerns that the use of the term by the government and TEPCO might underestimate the actual risks. Particularly, potential broader ecological impacts and cascading risks from oceanic discharge might not be fully accounted for. On the other hand, releasing as water vapor is seen as a more localized method of managing contaminants, with a more limited risk scope.

In summary, the water release plan from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant is surrounded by extensive debates and concerns. Significant discrepancies between initial and current cost estimates, especially the surge in costs to address reputational damage, could impact the direction and approach of future plans.