笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2023年8月29日

2023年8月、ジャクソンホールで植田日銀総裁が話されたこと(要約)

Category: 未分類 – Tags: – Tatsuo Sasayama 6:30 PM

ジャクソンホールにおける植田日銀総裁の講演の抄訳が、日本銀行のサイトから発表されました。
リンクはこれです。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2023/data/ko230828a1.pdf

抄訳でも結構長いので、当方で、1200文字程度に要約しました。
下記です。

パネルセッション「変曲点にあるグローバリゼーション」  植田日銀総裁 

 

1.アジアの貿易と直接投資の変動

日本からの視点と地政学的緊張の影響についての考察。
1970〜80年代の日米貿易摩擦の例やIMFの分析を引用しての展望。

 

私(植田日銀総裁)は貿易論の専門家ではないが、日本からの視点を提供したい。アジアの貿易や直接投資の状況が、地政学的緊張の影響を受けて変化していること、特に日本は生産拠点を中国から他のアジアや北米、日本へとシフトしている動きが見られる。この変化はグローバリゼーションの影響の一部として、また地政学的リスク対策として見ることができる。1970〜80年代の日米貿易摩擦を例に、貿易関係の変動が経済の構造変化をもたらすこと、例えば、日本企業が米国での生産を始めたことなどが挙げられる。「地政学的な問題を受けた世界経済の分断化リスク」について、IMFは米国圏と中国圏の間での直接投資規制が発動すると、世界GDPが大幅に減少し、特に東南アジアが深刻な影響を受けると分析している。

2.日本の貿易・投資の動向

日本の輸出動向、対外直接投資のトレンド、日本政策投資銀行のアンケート結果を基にした分析。
日本企業の生産拠点のシフトや国内生産能力増強に関する考察。

 

日本の輸出動向を見ると、中国向け輸出シェアはコロナ後に一時増加したが、米国やその他アジア向けは安定しており、ベトナムやインドへの輸出は増加している。
日本の対外直接投資では、中国向けは停滞している一方、北米やベトナム、インド向けは増加している。
日本政策投資銀行のアンケートによれば、日本企業が重視する投資先として北米、中国、ベトナム、タイ、インド、インドネシアが挙げられる。
日本企業は、中国からASEANやインド、北米への生産拠点の多様化を進めており、これは地政学的考慮だけでなく、現地の需要増や米国の産業政策の影響も背景にある。
日本企業の国内生産能力増強の動きが目立つが、これは海外生産能力の犠牲によるものではない。
7月の輸出データでは欧州や米国向けが強く、アジア向けは一部減少。
特にハイテク財輸出で中国向けは減少しており、理由についてはわからない。

3.アジアの経済動向とグローバルな影響

アジアの生産拠点の動きや地域経済統合、中国の戦略に関する検討。
中国と米ドルの役割やアジア新興国の地政学的変動に関する展望。

 

複数の業種でアジアにおける生産能力増強が予定されているが、半導体関連では国内強化が顕著である。
アジアの生産拠点の動きが変わる「変曲点」が近いかもしれない。
アジア新興国の地域経済統合は進行中で、グローバル化の動きは持続している。
中国はアジアだけでなく、他地域への生産移管を進め、人民元を戦略的に貿易金融に使用しており、米ドルの役割に変動が見られるかもしれない。

4.日本経済の現状と中央銀行の課題

本年の日本経済のGDP成長率や物価動向、日本銀行の金融政策についての考察。
地政学的リスクや脱グローバル化の動きなどの不確実要因に関する検討。

 

本年の日本経済は、第1四半期のGDP成長率が3.7%増でスタートしている。
この強さは、感染症制約の緩和やインバウンド需要の復活によるものである。
第2四半期も6%成長を記録し、個人消費や設備投資が引き続き好調。
物価面では、輸入物価の上昇が国内物価に波及し、7月には3.1%になった。
しかし、年末に向けては低下が予想される。
日本銀行は、2%の物価安定目標に達していないため、金融緩和を継続する。
一方、製造業の国内生産強化や半導体産業への投資が経済を刺激している。
しかし、中国経済の減速や地政学的リスク、脱グローバル化の動きなど、多くの不確実要因が経済見通しを複雑化させている。
中央銀行はこれらの要因を考慮しながら、適切な政策決定の難しさに直面している。
感染症関連の供給ショックも継続して影響を及ぼし、中央銀行は過去の経験を踏まえ、適切な対応を模索中である。

以上

#変曲点