笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年9月19日

転びバテレン官僚はいらない-政権交代でも政策の正当な評価スタンスは失うな-

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 2:05 PM

昨日の赤松広隆新大臣就任で、農林水産省でも、いろいろ、あったようだ。

この記事「井出・農水事務次官:「降伏」 赤松農相と和解 戸別補償批判を撤回」でも、井出道雄農林水産事務次官が6月18日の定例記者会見で、民主党が政権公約に掲げた同制度について「事務作業が大変で現実的ではない」と指摘し、これに対して、民主党は「公務員の政治的中立性を脅かす発言」と猛反発していた、その井出次官が、民主党政権新大臣に就任に当たり、「全面降伏」したため、続投がきまった、との揶揄記事を載せている。

以下引用
赤松広隆農相=が「けじめがつかないなら辞めていただく」と迫ったのに対して、井出次官が発言を事実上撤回し「全面降伏」した。
赤松農相によると、17日の初登庁後に井出次官を呼び「けじめ」を求めたところ、井出次官は「(官僚は)時の政権を支えるのが使命。ご理解いただきたい」と弁明。その上で「政権も政策も大臣も代わった。献身的に徹底的に支えたい」と恭順の意を示したところ、赤松農相が「過去は過去として、力を合わせてやろう」と応じ「歴史的和解」(農相)が実現した。
以上引用終わり

また、別の新聞記事では、

赤松大臣、井出次官に対し、
「けじめをつけずに、はい、あなたが次官ですかとはいかない。けじめがつかないのであれば、お辞め頂くことになるかも知れない」
井出次官、赤松大臣に対し
「時の政権を支えることに理解を頂きたい」
赤松大臣、井出次官に対し、
「官僚としての誇りをもって責任を果たすなら、過去は過去とする」

以上引用終わり

この中での井出次官の発言「「(官僚は)時の政権を支えるのが使命。ご理解いただきたい」、この発言は問題ですね。

この発言を額面どおり受け取れば、「自分の本意ではなかったが、自民党政権の下であったので、心ならずも、農業者戸別所得補償制度の問題点を指摘してしまった。」ということになる。

では、自民党政権下でなければ、農業者戸別所得補償制度に、問題点はまったくないのか?

井出さんの、政策評価に対する、基本的なスタンスは、ゼロだったというのか?

大阪淀川のミヲツクシは、川の流れが変わっても、あえて、身をよじるようなことはしないものだ、。

私がたびたび指摘しているように、この農業者戸別所得補償制度は、WTOコンプライアンス違反であることは明白である。

そういうマクロからの問題提起を、井出さんが、これまで、してきたかどうか、そのあたりが、問題だと思う。

井出さんは、ルビコン川を渡ったつもりなのだろうが、これでは、転びバテレン(伴天連)と揶揄されても仕方がない。

ましてや、今後、注視すべきは、各省庁の事務次官人事が、これまでの一年交代のローテーションで進めることができるのかどうか、非常に不透明なのだから、それを見越してのバテレンとなると、自らの長期政権も視野に入れている、ということになり、これは許せない。

もっとも、今の民主党政権下の農政を、戦後のGHQ統治下の農政と重ね合わせれば、そんなものかもしれない。

赤松さんを平野力三さんにたとえては、申しわけないが。
(余談ですが、私は晩年の平野力三さんに、お会いしたことがあります。選挙区である山梨県で日本農民組合主体で顕彰碑を立てられたというので、父が、平野さんの下で事務次官をつとめた関係で、父ともども参加したのですが。印象にのこっているのは、親族代表で挨拶された平野さんのおじょうさん照子さんが「私もひとの道に習い、最近、やむなく結婚しましたが、父の道はそれでも、ついで行く」などとの意味の挨拶をされて、ただものではない感じがしましたっけ。)

でも、その当時には、もっと骨のある革新農林官僚が輩出したものですが。

まさに、これらの官僚たちの言動を見ると、官僚の夏どころか、秋風寂し五丈原的、官僚の秋をおもわせてしまう。

ところで、山下一仁さんが、今日、面白い記事を出されている。

「主要穀物の完全自給まで公約! 鳩山民主党“農政改革”の幻想と矛盾
である。

山下さんが言われていることは明確で、政策的に矛盾していることは、言わないし、実施しない、ということなのだろう。

それにしても、どちらをみても、転びバテレンの様相では、山下さんも、悲憤慷慨するのも無理はない。

要するに、政策の整合性が取れていないのである。

政策の倫理性といってもいいかもしれない。

私も、自民党でも民主党でもないが、あえて、これらの転びバテレンたちを、山下さんなどと一緒に、斬りこむ、眠狂四郎にならなければならないのかな?などと思っている。

眠狂四郎は、あえて、転びバテレンのオランダ人の父親ジュアン・ヘルナンドに、相対峙したという。

参考
この件に関しての赤松大臣の記者会見の中の部分抜粋(この記者会見、全体的にあっちに行ったりこっちに行ったりの乱調気味の記者会見ですね。まあ、乱調の美とも言いますが。)

その後、幹部職員の紹介ということもあったのですが、「それは、ちょっと待ってくれ」と、なぜかというと、農水省に関わるいろいろこの間、私が就任前に、いろいろな問題があったので、そういうことを解決せずに、けじめもつけずに、「はい、はい、そうですか、あなたが次官ですか」、「あなたが官房長ですか」、というわけには行きませんよということで、特に、皆さんご存じのとおり、6月の井出さんの次官会見についての問題については、これは、もし、その考え方が今もそのままだとすれば、それは大変問題があるので、これはもう、次官が、まず私の所に来てもらって、その辺のところをきちんと、まず質したいと、そして、それなりの結論が出て、けじめがつけられれば、あるいは、けじめがつかないということであれば、これはもう、当然お辞めをいただくということになるかも知れません。そういうことも含めて、まず、それがあってからの話だということで、石破大臣との引き継ぎのあと、話を直接させていただきました。
ご本人からは、これは当然のことながら、時の政権、あるいは農水省の責任者である大臣を、次官として支えるということは、これは是非ご理解をいただきたいと、しかし、政権は変わった、政策も変わった、大臣も替わった、そういう中で、民主党の掲げる戸別所得補償制度をはじめとして、新しい大臣を、責任を持って、献身的に徹底的に支えたいというお話がございましたので、「分かった」と、過去は過去として、そういう熱意で、そして、私なりに解釈すれば、官僚としての誇りを持って、きちんと責任に当たっていただくということであれば、それをよしとして、「お互い力を合わせて、しっかりやりましょう」ということでお話をさせていただきました。

農業者戸別所得補償スキームと受託農業経営事業とのバッティングはないのか?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 2:03 PM

農業者戸別所得補償のスキームと受託農業経営事業との関係について、ちょっと心配になってきましたので、農業協同組合受託農業経営事業と所得税との関係を以下に見てみますと

受託経営事業の場合

受託経営事業収益=委託者事業所得(農業所得)
(受託経営事業から生ずる損益は、委託者に帰属)

委託者が、受託経営事業にかかる農耕に従事したことにより、受託者から受ける報酬=委託者または家族の給与所得+委託者の事業所得(委託者が負担する受託経費のうちの作業費)

所得者の判定=委託者(事業主が委託者と異なる場合には、その推定した事業主)

収入金額および必要経費の計算

農業所得の収入金額=委託者に通知された受託経営事業からの配分見込額-必要経費(当該委託農地にかかる固定資産税+受託経営事業の用に供された減価償却資産の償却費)

委託耕作の場合

委託者の事業所得(農業所得)=委託者の当該農地から生ずる収益(当該農地の受託耕作により委託者から受ける報酬を含む。)

受託農業経営に係る損益の帰属及び損益の委託者ごとの算出方法

総販売額(共済金等を含む)×〔基準収量にもとずく委託者の収量の合計÷基準収量にもとずく受託農業経営による収量の合計〕-受託経費

受託経費の計算

資材費及び共済掛金(面積比例)+事務管理費(面積比例)+水利費その他の負担金(当該委託農地の負担実額)+カントリーエレベーターその他の乾燥調製施設の利用料及び販売経費(収量比例)

以上ですが、戸別所得補償となりますと、受託農業経営事業のほうでも、「販売金額< 生産コスト」の利益が出ない場合となりますが、この場合も、この公式と平仄を合わせないといけないことになるんじゃないかと。

つまり、この場合は、委託者が得た戸別所得補償金額の一部を、今度は逆に、受託者に対して、逆配分しなければならないことになりますよね。

となると、こちらの受託農業経営事業のほうでは、面積割と、収量割と、実額割と、収量ベース、販売ベースなどが、ごっちゃになって、果たして、戸別所得補償においての、受託者と委託者との公平性確保はできるんだろうか?

戸別所得補償の方では、補償金は農作業の受託組織に交付されるとしているようなのですが、これだと、上記の国税庁の見解での「受託経営事業から生ずる損益は、委託者に帰属」と背馳してしまいますね。

さらにいえば、転作団地の受委託などの場合には、受託農家の水稲作業と委託農家の水田とを連担させて転作田とするわけで、連作障害を避けるために、ブロック・ローテーションを組ませることが多いんじゃないかと。

この場合、どうやって、各年度の米・大豆などの戸別所得補償の配分をするのか、ちょっと気になるところです。

これらの集団転作で、とかく、いざこざが起こり、結局は、集団崩壊につながり勝ちなのが、大豆という損なルーレットがいつ回ってくるのか、などという、ローテーションの組み方を原因として起きる場合が多いからです。

この点、もうちょっと検証しなければなりませんが、

ざっと見て、戸別所得補償のスキームは、これらの受委託スキームとバッティングしてくる点が多いように見えますが。

どうなんでしょう?

まあ、頭がいい飯米農家は、逆配分のデメリットから逃れるため、いち早く、受委託事業からめけ出して、飯米偽装農家を演出する輩も出てくるかも知れませんがね。

つまり、協同組合原則の「集まって強くなる」んではなくて、「群れないほうが、メリットがある」という考えが主流になりかねない、ということへの懸念ですね。

ここにきて、WTOドーハラウンド交渉再開に暗雲立ち込める

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 2:01 PM

9月3-4日のインドのWTO非公式閣僚会合で2010年でのドーハラウンド決着にむけたロードマップ合意への大方のコンセンサスを経て、それをうけて、今週9月14日よりジュネーブではじまった30カ国による政府高官会議だが、ここにきて、暗雲が立ち込める状況となってきた。

来週のアメリカ・ピッツバーグでのG20会議では、サミット共同宣言に、ドーハラウンド2010年中決着を意味する何らかの文言が盛り込まれるはずである。

WTOラミー事務局長は、火曜日に、グリーンルームでの会合に主要国や交渉グループを招いて、ロードマップへの合意を取り付けようとした。

また、水曜日には、農業品グループと工業品グループとの並行的な論議の場を設けようとした。

木曜日には、Eルームにおいて、36カ国の会合を開き、金曜日には、高級レベル会合を開いた。

発展途上国は、オープンな包括的な話し合いよりは、二国間または多国間での補足的な話し合いの元に、ボトムアップでの話し合いを希望した。

ラミー事務局長が招いた国は、オーストラリア、ブラジル、中国、EU、インド、日本、アメリカ、カナダ、インドネシア、ニュージーランド、マレーシア、メキシコ、南アフリカの各国のほか、その他の交渉グループの代表などである。

18日の高級事務レベル会合で、年内の詳細な交渉日程を盛り込んだ「工程表」を正式に取りまとめ、ラミー事務局長は、これをピッバーグでのG20で、2010年中の妥結を実現するため、サミットで報告することになった。

今後、10-12月にかけて、次官級の交渉会合を毎月1週間ずつ集中開催することになる。

このように、工程表の合意については、なるほど精力的な日程ではあるが、しかし、実際は、会議はすれど、といった状況のようである。

問題の争点は、

①特別セーフガード・メカニズム(SSM)

②突然の輸入の急増や価格の低下などをもたらすイベント発生の際に、発展途上国に追加関税を課す方法。関税の簡素化についての方法、これらの国々が、これまで関税にのみに頼ってきた手段にかわって、新しくタリフ・ラインを設定することを許すかどうかの問題

③先進国や発展途上国の双方が、同一商品の割り当てを拡大する代わりに、関税引き下げ競争から守りうるセンシティブ品目の設定、

などである。

一方、非農業品目については、非関税障壁などの問題がある。
これは、とくに、南アフリカ、アルゼンチン、ベネズエラ、などの問題となる。

しかし、これらの交渉に妨げとなりうるのは、昨秋以来、日本も含むいくつかの国において、政権の交代があることである。

特に、アメリカでの大統領交代は、おおきな障害となりうると、発展途上国は、指摘している。

オバマ大統領は、アメリカ国内の医療改革にてこずっており、WTOにまで手が回っていない状況である。

また、つい先日の9月9日に、アメリカ次期WTO大使に、Michael Punke 氏を指名したばかりというのも、各国の心配材料となっているようだ。

なにより懸念されているのは、アメリカと中国との中国製タイヤのアメリカ輸入をめぐる、米中の緊張の激化である。

それと、12月のコペンハーゲン気候変動会議で、アメリカが炭素関税を主張すれば、このことがWTOドーハラウンド合意へ大きなさらなる障害となるかもしれない。

参考
Senior Officials Discuss Doha ‘Road-Map’