笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年9月10日

すでにポスト・ドーハラウンドに動き出したか?農林水産省

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 9:11 PM

今回のインドでのWTO非公式閣僚会合で、2010年中での妥結に向けたロードマップがしめされたと同時に、これ以上のモダリティ・テキストの新版は出ずに、昨年12月の第四版モダリティ・テキストをベースに妥結への議論が進められるということが、ほぼ確定した。(この「これ以上のモダリティ・テキストの新版は出ない」という点がポイントですね。)

そこで以下にざっと、日本側の関心項目について、第四版モダリティ・テキストでみてみると

1.重要品目

ということは、かねてからの日本側の重要品目についての主張8%については、実現不可能の線が濃厚になってきており、重要品目は、基本4%、不公平是正2%(追加支払い0.5%関割拡大)に変更はないものとみられる。

もちろん、関税番号(HS Numbers)のサブカテゴリーを使うことで、統計品目番号の9桁をもとにして、有税タリフラインを多くし、結果、実質重要品目を多くしてしまうということもできるのだが、これについては輸出国と輸入国との思惑が異なってくるので、実現は薄いようだ。

そこで、仮に重要品目基本4%、不公平是正2%とみれば、

日本の場合は、タリフ・ラインは、合計1326品目(うち有税タリフライン1024品目)あり、内訳は、コメ17、小麦20、砂糖56、乳製品47(上記の統計品目番号の9桁で見ると、品目の数は、もっと大きくなる。)

この日本のタリフ・ラインの合計1326品目のうち有税タリフライン1024品目
とみると

高関税(現在、コメ(現行関税率778%)、乳製品(218%)、砂糖(379%)、小麦(252%)、でんぷん(583%)、雑豆(403%)、大麦(256%)、コンニャクイモ(1706%)、落花生(737%))を維持しうる日本の重要品目は

1024品目×4%(不公平是正2%)

ということになり、

「日本の重要品目は40」ということになる。

参考「W T O 農 業 交 渉 に 関 す る 情 勢

サブカテゴリーを使った場合には、この数は異なってくる。

2.上限関税

これについては、第四次改訂版においても、設定しない、ということになっている。

3.一般品目に関税率100パーセントを超える品目が残る場合の代償措置

①重要品目全体のTRQ(関税. 割当)の拡大幅を0.5パーセント追加
または
①該当イランの関税削減を2年間短縮して実施
または
①該当ラインの関税削減を10%ポイント追加(2008年12月のテキストでそれまでの5パーセントから10パーセントに変更)

なお、タリフライン数の2パーセントまで実施機関終了後、4年までは、削減後の関税率100パーセント超が許される。

参考「ドーハ・ラウンドの我が国主要論点の状況

そこで、上限関税についてはともかく逃れえても、重要品目についての日本側主張の敗北や、関税率100パーセントを超える品目が残る場合の代償措置についての日本に与える影響の不透明さについては、ドーハラウンドの結果を待たずとも、明白、ということになれば、日本としては、これを見込んだ施策の前倒しスキームが必要となってくる。

日本の農林水産省は、これを視野に入れているかどうかは、わからないが、どうやら、最近の基金実施の早々の停止の動きなどを見ると、すでに、そのスキーム確立にむけての動きはしだしたようだ。

ある民主党議員のブログに、こんなのがあって失笑したのですが—

「農水省の幹部の来訪を受けました。内容は、今後の農水省としての政策課題への取り組みの説明でした。
私たちは、戸別所得補償制度を導入することをマニフェストに書いて選挙を戦い、その結果政権交代が起こりました。これを受けて、農水省としても来年度の戸別所得補償制度のモデル事業実施、その翌年度の本格実施に向けて作業を進めていきたいとの説明でした。」

まあ、議員を訪問するたびに、農林水産省の幹部?の一言一言が、こんな手柄話的材料に使われてしまうのには、ご同情申し上げますが—

それに、民主党さんの国家戦略局がお手本としたイギリスでは、「官僚は政治家と接触してはならない」ってことの趣旨から言えば、それは、国家戦略局が稼動してから、そのチャンネルで官僚は考えればいいことで、この際、早まっての妙な先走り的政策の売り込みは、問題であるともいえますね。

当の国家戦略局の菅さんだって、「役所が政策を語る必要はない」といっているんだから。

官僚の皆さんは、別にあせる必要はないんじゃあないかと–

ただ、ポストWTOドーハラウンド対策の一環として、農業者戸別所得補償制度を使いたい-この際、民主党政権を利用しちまいたい-、との気持ちは、山々ではあるが、その農業者戸別所得補償制度自体が、貿易歪曲的国内支持全体の削減(Overall Trade-Distorting Domestic Support)(OTDS)、ボックスシフトの制限に引っかかってしまう。

となれば、品目横断的経営安定対策と戸別所得補償とのハイブリッドのスキームは考えられないか
品目横断的経営安定対策の、「緑ゲタ」部分、「黄ゲタ」部分、「ならし」部分のうちの、「ならし」部分を「民主ゲタ」に改装しなおすことはできないか
などの思惑が、農林官僚としては、うずうずと渦巻くのは、やむをえないところなのかもしれない。

参考
昨年12月の第四次改訂版テキスト
Comparing U.S. and EU Program Support for Farm Commodities and Conservation
WTO Constraints and the CAP: Domestic Support in EU-25 Agriculture
Change in Global Trade: the CAP and the WTO」
Developments in the WTO and Implications for the CAP
WTO Doha Round: The Agricultural Negotiations
Update on the WTO Trade Negotiations

 

どうしてすすまないのか?エコツーリズム推進法にもとずく推進協議会の設置

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 9:08 PM

かねてから親しくさせていただいている日本エコツーリズムセンターの広瀬敏通さんが、8月20日の朝日新聞の「私の視点×4」で、「エコツアー 推進へ法律の弾力的運用を」と題しての意見を発表されているのを、興味深く読ませていただいた。

そのなかで、自然学校の活動が、縦割りの法律の網の中で、思うようにうごけない規制の網の中にあることを指摘されていた。

このことは、私が主張しているグリーンツーリズムについてもいえ、せっかく、ドイツの農村休暇法に似た「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律 」を制定しても、実質、長年、機能せず、ようやく、構造特区構想によって蘇ったのと似た展開をしているのに気づく。

もっとも、広瀬さんに言わせると、この構造特区による農家民宿にまつわる規制緩和も、農家民宿の認可を取った施設のみに限られ、自然学校には及ばないとの限界もあるようである。

せっかく、推進のための法律を作っても、その制度設計が独りよがりであっては、このように、仏作って魂入れずの状態が続くのだろう。

広瀬さんの提言の中で言われていることなのだが、せっかく、鳴り物入りで作ったエコツーリズム推進法に基づくエコツーリズム推進協議会の各地域での設置状況の進展が遅いのだという。

なるほど、”エコツーリズム推進協議会”という名前がついている会は、あるが、エコツーリズム推進法第5条第1項に基づく推進協議会は、昨日認定第1号(平成20年4月1日の法律施行以来、1年半かかって、ようやく第1号とは–)となつた埼玉県の飯能市(飯能市エコツーリズム推進協議会)を除いては、まだまだのようである。

私は、このエコツーリズム推進法の問題点については、かねてから指摘しておいたことなのだが、やはり、一番の欠点は、県の役割をそのスキームの中にいれていないことが、エコツーリズム推進協議会の設置の歩みを遅らせている最大の原因であると思う。

これは、環境関係ではないが、土地改良などの推進協議会などでの私の経験から言えることだが、県を絡ませないと、市町村がなかなか動きにくいという地域の暗黙の事情があるということだ。

つまり、環境資源を持つ地元にとっては、国のお墨付きよりも、まず、県のお墨付きなのである。

これがあれば、地元の市町村長や市町村議員もまとまるし、ちょっとした調査費程度なら、市や県が何とかしてくれる、そんな力関係なのだ。

その辺の地元における微妙な力関係を無視して、いわば、環境省直轄での市町村協議会のスキームを作ってしまったことが、最大の原因なのだろう。

それと、このエコツーリズム推進法には、あまりに環境資源への立ち入り規正法的な色彩が強すぎ、環境資源を持つ地元にとってのインセンティブ的には、箔をつけるという以外には、ほとんどメリットがないことも、地元が動きにくい一因なのだろう。

いわば環境省内のレンジャー一派が考えたような独りよがり的なスキームが、随所に垣間見られる。

地元振興のお題目は掲げていても、実質的には、環境資源を有する地元の換金回路構築に資するスキームがほとんどないのである。

特定事業者の活動が、地元にとっての換金回路の構築と一体のものでなければならないのではなかろうか。

今回の総選挙で、これらのエコツーリズム推進法制定の旗振りをされた自民党の先生方は、皆、落選されてしまった。

この際、エコツーリズム推進法の見直すべき点は、いち早く見直し、もっとインセンティブの伴った内閣法に格上げ?し、実質、機能しうる推進法に衣替えしたほうがいいように、私には、思える。

備考 エコツーリズムに関する私の関係ブログ記事

コモンズ的視点を欠いたエコ・ツーリズムでいいのか?」
エコツーリズム推進法は, 出来たけど。」
エコツーリズム推進基本方針(案)に関する意見
私のパブリックコメントで、エコツーリズム推進法施行規則が変わった。」