笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年11月19日

野田財務副大臣が「戸別所得補償制度について麦・大豆先行を示唆」というのだが。

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:29 PM

「野田佳彦財務副大臣は19日の記者会見で、マニフェスト(政権公約)の関連予算圧縮で焦点となっている農家への戸別所得補償制度について「本来は(自給率向上を目指す)麦や大豆の方が順番は先だ」と述べ、コメの先行実施を目指す農水省に再考を促す考えを表明した。
麦や大豆の方が予算措置が少なく済むとみられている。」

という記事なのだが、ここには、大きな問題がひとつあって、これまでの地域提案対応型の「産地づくり交付金」の流れ(市町村単位に「地域水田農業推進協議会」設置→「水田農業ビジョン」策定→水田農業交付金運営協会から交付金交付)が、一変してしまい、水田利活用自給力向上事業では、全国一律単価の交付となり、地域での戦略作物へのインセンティブが働かなくなってしまう、という一大重要欠陥が露呈してしまうのだ。

農業関係者の中には、「せっかく、5年前の米政策改革で、単価の設定を地域関係者が戦略的に、自らできるようにしたのに、助成単価の設定に関する地域の裁量権を取り上げ、再び、国に返上させるつもりなのか。」などといきまく筋もあるようだ。

たとえば、ある産地での現在の産地作り交付金の単価は、下記のようになっている。

転作作付10アールあたり助成金額

麦・大麦15000円、
花卉11000円、
果樹6000円、
一般野菜6000円、
景観形成11000円、
飼料作物[産地づくり交付金22000円+新受給調整システム定着交付金16000円])

これが、水田利活用自給力向上事業では、全国一律となってしまうことで、現在、これらの産地では、ようやく定着化したこれら事業の再構築を迫られている、という有様のようである。

水田利活用自給力向上事業では、下記のとおりとなっている

麦、大豆、飼料作物 35000円
新規需要米80000円
そば、菜種、加工用米20000円
その他作物-地域で設定可能 10000円

まだ、単価は、最終決定されていない様だが、生産制限を設けていないという要件からすれば、上記の単価でいけるはずはなく、上記単価をかなり下回ることになるだろう。

このジレンマは、そもそも、新政権の水田利活用自給力向上事業が、品目横断的でもなく、生産制限的でもない、という、性格をもっているがための宿命とも言える。

すなわち、石破茂前農林水産大臣の『米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向』構想にもとずく「減反選択制プラス直接支払い」というスキームから、水田利活用自給力向上事業が逸脱できていないということでもある。

直接支払いという名前がついてはいるものの、それは、ただ、「奨励金的な支払いの形態が生産者へ直に支払われる』というのみの意味のようで、WTO農業協定に定められた直接支払いの定義である「品目横断的であり、生産抑制的であり、生産価格に対しても販売価格に対してもニュートラルな直接支払い」の概念とは、著しく乖離した『イミテーション・直接支払い』のスキームである。

(赤松国務大臣の答弁
これは非常にわかりやすく申し上げると、戸別所得補償ですから、戸別に直接お金を支払いますよ、交付金を払いますよと。もっと極端に言えば、国の機関であります農政局から、農業者の、これは農協に口座があるかもしれません、郵便局かもしれません、そこに直接支払いますよ、振り込みをしますよということなんです。
今まではいろいろな団体を通じて払っていましたが、私どもの言っている戸別というのはそういう意味なんです。直接支払いますよ、そういうことなんです。ぜひそういうことで御理解いただきたい。)(www)(まあ、赤松大臣には、大変失礼なのだが、この程度のご認識のようである。嘆かわしい。)

ここいらで、民主党政権の皆さんは、『直接支払い』の真の意味を再確認され、スキームの再構築にあたられたらよろしいのではなかろうか。

水田利活用自給力向上事業が減反選択制スキームの派生物である以上、この野田財務副大臣のいわれるような、コメ問題と転作作物問題とのスキームのツイン切り離し構想はなかなかむずかしく、こっちが決まらなければ、あっちも決められない、といったトートロジーの輪廻に、農林水産省は悩まされることになるのだろう。

ラドヤード・キップリング(Rudyard Kipling)の「東と西のバラード」(“The Ballad of East and West” 1892)になぞらえて言えば、

「ああ、コメはコメ、転作作物は転作作物、この二つが交わることは決してない。
大地と空が神の審判の前に立つ最後のときまで。
しかし、たがいに地の果てから来ようとも、二人の勇者が向かうときには、 コメもなく転作作物もなく、国境もなく、民族や生まれの違いもない!」
(Oh, East is East, and West is West, and never the twain shall meet,Till Earth and Sky stand presently at God’s great Judgment Seat;
But there is neither East nor West, Border, nor Breed, nor Birth,
When two strong men stand face to face, tho’ they come from the ends of the earth!)

まさに、日本においては、麦、大豆、コメは、シャムの三兄弟なのである。

2009年11月18日

独立行政法人の基金の国庫返納は、運用含み損を実現損にするに過ぎないのでは?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:33 PM

新たな埋蔵金として、行政刷新会議が、事業仕分けの過程で、公益法人や独立行政法人に眠る基金など新たな「埋蔵金」の洗い出しも進め、仕分け作業の前半戦で20の基金などに対し、9000億円から最大1兆円近くを国庫返納すべきだと判定したようなのだが、果たして、どうなのだろう?

たとえば、厚生労働省所管の独立行政法人、福祉医療機構が抱える4基金、計2800億円についてみれば、政府の出資金を元手に設置しその運用益を積み立て、民間非営利団体(NPO)などによる地域福祉事業や障害者スポーツ大会の費用を助成しているというのだが、その肝心の運用益が、リーマン・ショック後の各種運用金融商品の評価損の嵐を、かいくぐっているとは、到底思えない。(上記の福祉医療機構の場合は、政府保証のない財投機関債のようだが。)

ナッシム・タレブさんのように、オプションでヘッジをかけながらの運用でなければ、到底、このリーマン・ショックは、乗り切れていなかったであろう。

運用していないならば別であるが、運用しているとすれば、おそらく、現時点では、元本保証の国債(この場合でも、中途換金調整額が差し引かれる)運用など以外は、運用資産に、巨額の含み損があるに違いない。

なかったら、その基金の運用担当者は、「運用者として、アグレッシブでなかったがゆえに、結果として有能の立場を勝ち得た。」という意味で、この時勢、表彰ものである。

つまり、『返せ』と言われても、返せない、埋蔵どころか、実質、『含み損の埋蔵』に過ぎないような状態で、次年度予算でつなぎながら、市場の回復と、含み損の圧縮を待つしかない、というのが、正直な実情なのではなかろうか?

おそらく、運用している金融商品の額面残高の実現残高は、行政刷新会議が返納をいきまいている埋蔵金の数字の、すくなくとも、三分の一くらいは目減りをしている関係にあるのではなかろうか?

つまり、未実現損(Unrealized Loss)をふくんで、表面残高に計上されているものを、行政刷新会議は、返せ返せと、いきまいている光景なのだとしたら、まさに、取らぬ狸の皮算用ということになる。

まして、運用途中のものを引き上げれば、さらに、それ以上の基金の目減りを招くことになるのだが。

もし、事業仕分け人の方々が、それほどにいきまくのであれば、それぞれの基金の現時点での運用資金の評価損を確定して、誇らしげに語るのであれば、話はわかるのだが。

まして、このような基金においては、自主運用のスキルもない方ばかりなのであろうから、実質的な運用は、金融機関なり証券会社への委託運用の形をとっているのであろう。

実際、ここまで踏み込んでの事業仕分けなんだろうか?

一度、担当者に聞いてみたいものだが。

2009年11月16日

直嶋大臣は、ご自分がしでかしたことの重要性をご認識ないようで

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:34 PM

直嶋正行経済産業相は16日、午前8時50分に発表された7―9月国内総生産(GDP)速報値を事前に石油連盟との懇談会で漏らしたことについて、発表時刻を知らなかったとし、「申し訳なかった。私の責任だ」と陳謝した。経産省内で記者団に語った。

直嶋経産相は、16日午前8時過ぎから行われた懇談会の冒頭あいさつでGDPの数字に言及した。同相は発表時刻を知らされておらず「大丈夫と思って」話してしまったとし、「以降、注意する」と反省。言及した理由について「景気の状況に関心が高く、心配していると思って話した」と釈明した。

発言後に所管の菅直人経済財政担当相に電話でいきさつを報告したとしたが、菅担当相はGDP発表後の記者会見で「(経産相から)報告は聞いたが、経緯説明は聞いていない」と語っている。

経産省関係者によると、石油連盟との懇談会は定期的なもので、石油関連業界と意見交換をすることが目的。16日の懇談会は都内のホテルで午前8時過ぎから午前9時過ぎまで行われたという。

というニュースだが、テレビでの直嶋さんは、薄ら笑いを浮かべた様子で、ご自分がしでかしたことの重要性へのご認識は、ないようだ。

外電もこのことを伝えているが、この直嶋大臣のリークが市場に影響を与えたかどうかについて、このサイト『Japan grows at fastest pace in over two years』では下記のように伝えている。

「リークがインサイダー・トレーディングの可能性を作り出すものではあるものの、このGDPニュースは、公式発表前に市場に到達したようには見えなかった。
たとえば、円は、8時から8時50分の間は、やや下落し、公式発表のときに、急上昇した。」
(While the leak created potential for insider trading, the GDP news did not appear to reach the market before its official release. The yen, for example, fell slightly against the dollar between 8am and 8:50am, only to rise sharply once the official data came out.)

まあ、FX市場は、そんなところだったようだが、株式市場は取引時間前ということで、秘書連中が稼ごうと思えば稼げたイベントであったかもしれないが、直嶋さんという発言母体に、市場が注目しなかった、というのが、不幸中の幸いってところだろう。

ただ、短観と並ぶこのような重要指標を事前に漏らしたというようなことだと、その裏に、インサイダーがあるとして疑われても仕方のないことなのだろう。

米国の雇用統計(ペイロール)は、毎月第1金曜日のNY時間午前8時30分(日本では21時30分、米国が冬時間の時は22時30分)に、米労働省から発表されるのだが、この時刻にあわせて、EUR/USDをその直前で、ロングとショートと両建てにしておいて、発表があって、ロングの場合は、チャートがピーンと跳ね上がったところで、ショートの場合は、チャートが急激に下がったところで、決済っていう戦略もあるくらいだ。

残ったほうは、市場が落ち着いてからクローズということになる。

発表時刻の一秒一刻前まで、チャートは、ぴたりとも動かない、というのは、このイベント指標への管理規制が並々ならぬものとなっていることの、逆の証左でもありうる。

アメリカにおいては、統計上の守秘義務(Statistical Confidentiality )については、次の規定によっている。

Implementation Guidance for Title V of the E-Government Act, Confidential Information Protection and Statistical Efficiency Act of 2002 (CIPSEA) (June 15, 2007)

Title V of the E-Government Act, Confidential Information Protection and Statistical Efficiency Act of 2002 (CIPSEA) (December 17, 2002)

Federal Statistical Confidentiality Order (June 27, 1997)

詳しくは、ホワイトハウスのこちらのサイト「Statistical Programs and Standards」をご覧ください。。

また、フランスのINSEE(フランス国立統計経済研究所:インセ)における『Statistical Confidentiality』(統計情報の守秘義務)の法律的な規制は、 Law n°51-711 of 7 June 1951 で定められ、守秘義務を犯した場合のペナルティは、The French Code pénal (Article 226-13) で規定されている。

参考「Principle 5: Statistical Confidentiality

日本の統計法にも、一応、第41条に守秘義務違反が定められているが、諸外国ほど厳密なものではない。

ましてや、『大臣の守秘義務違反』なぞ、埒外である。

このように、諸外国の規制例を見るように、薄ら笑いで済まされられる問題では決してないのだ。

それは、究極のインサイダー取引につながりうる問題であり、そこに組織的な意図が働きうる可能性があるからなのだ。

本来は、直嶋さんは、辞職ものですね。

藤井財務大臣の不用意な円高容認発言といい、今回のインサイダー疑いまでかかりかねない直嶋発言といい、この鳩山政権は、その辺、ルーズな人材の多い政権構成といえるのかもしれない。

2009年11月14日

システマティックでない事業仕分けの横暴性

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:36 PM

連日報道される民主党政権下での事業仕分けの光景であるが、テレビの画面を意識しすぎてのことなのか、類型的な質問ばかり目立つ。

「関係法人には、天下りの方は何人いらっしゃいますか?」などという質問だ。

池田信夫さんのブログ記事「事業仕分けという人民裁判」に、「ソフトウェアの設計を決めないでデバッグをやるようなもので、問題点を論理的に洗い出せないので、多数決でバグを決めるという乱暴な結果になる。」とあるが、まさに言いえている。

池田さんのブログの別の記事には、あるかたの言として、次のような発言も記載されている。

「何が無駄かという基準がなければ、無駄をなくすことはできない。その基準を決める国家戦略室が開店休業状態なのに、誰がどういう基準で無駄と判断するのか。これはコンピュータでいえば、設計が決まってないのにデバッグをやるようなものだ」

まさに至言である。

GHQ占領下よりもひどい、まさに、狂気の事業仕分けの横暴性が、そこからは見えてくる。

陶片追放的事業仕分けともいえるだろう。

もっとシステマティックな事業仕分け方法があるのでは?と、つくづく思う。

つまり、仕分けの前の下ごしらえがまるでできていないようなのだ。

私なら、最初から公開・平場での議論にかける前に、次のような下ごしらえをしておくだろう。

まず、民間仕分け人を含めて、二日間程度かけて、仕分け人内で、ブレーン・ストーミングを行う。

自分なら、どのような視点から質問するか、などというようなことを、一人15分程度しゃべらせてみる。

1WGあたり5時間だ。

これをWG毎にやって持ち寄ればいい。

いくつか出てきた視点を集めれば、そんなにユニークな一家言を持った仕分け人もいなさそうなので、おおむね、30程度の類型に収まるだろう。

それをスコアリングの手法によって、ウェイト付けをしていく。

「天下りの問題はキーポイントなので、100点満点のうちの20点を与える」などのウェイト付けをし、それをさらに、その項目内において、その程度によって5ランク程度にスコアリングしていく。

つまり、
「天下りが一人もいなければ満額20点、一人いればマイナス5点、理事長が天下りであれば、2.5人分カウントでマイナス12.5点」
などといった具合にである。、

これらのスコアリング項目は、仕分けの事前に、各省庁に提出し、記入してもらう。

これらの集計によって、スコアリングの順位は、大方固まるであろうから、その順序によって、定性的な視点ての、仮のふるいはかけられうる。

これは、定性的な課題を、スコアリングというコンバーターにかけて、定量化する過程でもある。

事業仕分けの当日は、これらのスコアリング項目にあった項目については質問しないのだから、時間は、大幅に節約できる。

つまり、定性的な質問は、事前のスコアリングに任せることができる。

スコアリングで出た一応の仕分けは、救急医療でのトリアージのようなもので、「青タッグ>緑タッグ>黄タッグ>赤タッグ>黒タッグ」ごとに、一応の層別対応ができる。

このような作業は、金融機関の審査部門にいた方なら、誰でも、思いつくことだ。

つまり、二重審査の手順でもある。

個別企業への融資には、その個別企業自体のバランス(資金繰り、貸借対照表分析)の審査と同時に、その属する業界についての審査も、金融機関によっては、個別企業の審査とは別の部門で行われる。

まあ、いって見れば、個別企業の審査がテクニカル分析であるとすれば、後者の業界審査は、ファンダメンタルズ分析であるともいえる。

私が金融機関在職当時、その二重審査で有名だったのは、当時の住友銀行の審査であった。

もっとも、その後の住友銀行の融資先の帰趨を見ると、果たして、その評価はどうだったのか、疑問に思う点はあるにせよ、当時の住友銀行の二重審査は、他の銀行の審査部門からは、一目をおかれるものであった。

この事業仕分けでも、同じようなことがいえる。

インターネット中継で見る限り、相当のロスの議論が、行きつ戻りつしている。

これらのロスは、上記のスコアリング手法によって、大幅に削減できる。

それと、問題なのは、『市民の感覚』というものへの信頼性についての疑念である。

予算は、究極には、インセンティブがあり、そのインセンティブの『機序』がはたらいての効果がある。

これらの事業仕分けに見る『市民の感覚』には、当然といえば当然であるが、その『機序』を見通した指摘は少なかったし、何よりも、代替案の提示をあげえる仕分け人は、皆無といってよかった。

事業仕分けを別の見方からとらえると、『もし、その予算なかりせば』発生したであろう機会費用についての類推測定の場でもありうる。

いわば、「予算の機序のミチゲーション」を判断する場でもある。

ミチゲーション的な考え方における事業仕分けとは、次のようになりうるだろう。

第一段階
「この予算を削除したい。」
→「削除できる」という選択と「削除できない」という選択
→「削除できる」なら第一段階で予算削除。「削除できない」ならば、第二段階へ移行。

第二段階
「第一段階で削除できないとして、この予算を最小化したい。」
→「最小化できる」という選択と、「最小化できない」という選択。
→「最小化できる」できるならば、第二段階で、予算縮小。「最小化できない」ならば、第三段階へ移行。

第三段階
「第二段階で最小化できないとして、この予算措置に代わる効果をもつ、代替案を提示したい。」
→「代替案がないならば、事業廃止」「代替案があれば、その代替案で、実質的に事業継続」

というスキームになるだろう。

再び、トリアージの例を持ち出せば、「青タッグ>緑タッグ>黄タッグ>赤タッグ>黒タッグ」ごとに、『回避・縮小・代替』の対応の仕分けができるというわけである。

まあ、拙速の政策スキームばかり目立つ民主党政権だが、前から私が、「マニフェスト・オブ・マニフェストが必要」などでいっているように、この政権には、まず、「マニフェスト・オブ・マニフェスト」の観点からの見直しが必要に思える。

これこそが、究極の「事業仕分け・オブ・事業仕分け」といえる。

たとえば、マニフェストの主要な位置を占める農業者戸別所得補償方式は、私のブログ記事「「水稲共済」の加入者が戸別所得補償の対象者というのだが、ちょっと、理論的におかしいですね。」にも書いたように、水稲の災害補償である農業災害補償制度と米の所得補償である戸別所得補償制度との、二重の国家によるセーフティーネットがかかることになるのだから、戸別所得補償方式の導入に当たっては、同時に、農業災害補償制度における掛け金二分の一の国庫負担が適切なのかどうなのか、についての再検討も必要になるというわけである。

昨日の地方交付税改革問題にような、制度論をこの平場での議論にゆだねることは、際物狙いの逃げに過ぎない。

それ以前の、マニフェスト・オブ・マニフェストの段階でこなしておくべき課題である。

そうでないと、都合のいいときだけ、『国民のために』のキーワードを振りかざした、人民裁判や極東裁判に匹敵するマニフェスト裁判が、これからも横行していくことになるのだろう。

農道整備事業予算を切られた地元の声の中には、事業を「単独事業としての歴史的な意義は終わっている」としてばっさり切った議員仕分け人の実家の家業が地元の土建業者であることから、「家業のほうでは、さんざ、これまで、農道工事(広域営農団地農道整備事業「雄*東*地区」(雄平フルーツライン)なんかのこといってるのかな?)で飯を食ってきたくせに」などと、くちさがなくも、あらぬ恨み節を言う筋もあるようだ。

まさに、狂気が狂気を増幅させている、といった構図のようである。

いわば、狂気のマニフェストの執行から国民が逃れうるブレーカーが、いま、必要というわけである。

それにしても、昨日の事業仕分け会場に登場された原口総務大臣の思惑は何だったのだろう?

『ただいま、原口大臣のご登場です』などと叫ぶ議員仕分け人の浅はかさも、嫌になるが、こんなかたちで、無言のカリスマ性をしめそう、などという、原口大臣の児戯っぽい、見え透いた下種の魂胆にも嫌になってしまう。

ボトムアップの段階には、大臣は、出る幕ではないのである。

参考1.トリアージでの層別システム一覧

最初は、左上の『歩けるか』『歩けないか』から始まって、『No』であれば『自分で腕や足が動かせるか』にいたり、『No』であれば『呼吸はどうか」にいたり、『通常よりも、早いか遅い』であれば、『患者は、現在以上の医療資源を必要とするか』にいたり、『No』であれば『黒タッグ』—といった具合にして、アミダくじ風にして、一番下の色分類に至る。
色の意味は、各国によって異なります。ご参照「Triage」

null.

参考2.
行政刷新会議ワーキンググループ(WG)評価者名簿

民間有識者

【第1WG】
青木宗明 神奈川大学経営学部教授
安念潤司 中央大学法科大学院教授
井澤幸雄 小田原市職員
石渡秀朗 三浦市職員
石渡進介 弁護士(ヴァスコ・ダ・ガマ法律会計事務所)
内田勝也 情報セキュリティ大学院大学教授兼横浜市CIO補佐監
翁百合 (株)日本総合研究所理事
奥真美 首都大学東京都市教養学部都市政策コース教授
川本裕子 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
田近栄治 一橋大学大学院経済学研究科教授、理事・副学長
辻琢也 一橋大学大学院法学研究科教授
富田俊基 中央大学法学部教授
新倉聡 横須賀市職員
ロバート・アラン・フェルドマン モルガン・スタンレー証券(株)経済調査部長
福嶋浩彦 中央学院大学教授/前我孫子市長
政野淳子 環境行政改革フォーラム幹事

【第2WG】
飯田哲也 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長
石弘光 放送大学学長
市川眞一 クレディ・スイス証券(株)チーフ・マーケット・ストラテジスト
長隆東 日本税理士法人代表社員
海東英和 前高島市長
梶川融 太陽ASG有限責任監査法人総括代表社員
木下敏之 前佐賀市長/木下敏之行政経営研究所代表
熊谷哲 京都府議会議員
河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト
小瀬村寿美子 厚木市職員
露木幹也 小田原市職員
土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授
中里実 東京大学大学院法学政治学研究科教授
福井秀夫 政策研究大学院大学教授
船曳鴻紅 (株)東京デザインセンター代表取締役社長
松本悟 一橋大学大学院社会学研究科教員
丸山康幸 フェニックス・シーガイア・リゾート取締役会長
村藤功 九州大学ビジネススクール専攻長
森田朗 東京大学公共政策大学院教授
吉田あつし 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授
和田浩子 Office WaDa代表

【第3WG】
赤井伸郎 大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授
荒井英明 厚木市職員
小幡純子 上智大学法科大学院長
金田康正 東京大学大学院教授
伊永隆史 首都大学東京教授
高田創 みずほ証券金融市場調査部長チーフストラテジスト
高橋進 (株)日本総合研究所副理事長
中村桂子 JT生命誌研究館館長
永久寿夫 PHP総合研究所常務取締役
西寺雅也 山梨学院大学法学部政治行政学科教授
原田泰 (株)大和総研常務理事チーフエコノミスト
速水亨 速水林業代表
藤原和博 東京学芸大学客員教授/大阪府知事特別顧問
星野朝子 日産自動車(株) 執行役員市場情報室長
松井孝典 東京大学名誉教授
南学 横浜市立大学エクステンションセンター長
山内敬 前高島市副市長/高島一徹堂顧問
吉田誠 三菱商事(株) 生活産業グループ次世代事業開発ユニット農業・地域対応チームシニアアドバイザー
渡辺和幸 経営コンサルタント/(株)水族館文庫代表取締役

国会議員
【全WG】
枝野幸男 衆議院議員
【第1WG】
津川祥吾 衆議院議員
寺田学 衆議院議員
【第2WG】
菊田真紀子 衆議院議員
尾立源幸 参議院議員
【第3WG】
田嶋要 衆議院議員
蓮舫 参議院議員

副大臣・政務官
【全WG】
泉健太 内閣府大臣政務官
大串博志 財務大臣政務官

2009年11月11日

私が農林水産省に提出した戸別所得補償制度に関する意見の全文

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:47 PM

農林水産省で戸別所得補償制度に関する意見の募集をしていましたので、余計なことかとは思いましたが、下記のような意見(原稿用紙換算36枚)を、本日提出しておきました。

ご参考まで、掲載しておきます。

以下、意見の全文

戸別所得補償制度がWTOコンプライアンスに抵触することへの危惧

笹山 登生

今回、 農林水産省から国民に意見を求められている戸別所得補償制度は、その原型を、現在の政権与党の民主党が数年前に掲げた個別(戸別)所得補償制度(後の農業者戸別所得補償制度)においているものとみられます。

この原型が数年前に提示された時点から、私は、この制度のスキームが、著しく、アメリカの当時の2002年農業法における価格変動対応型支払(counter cyclical payments)(CCP)に似ているものと想定し、この個別(戸別)所得補償制度が、WTOにおいて、当時から、アメリカの価格変動対応型支払(CCP)が指弾されていると同様、貿易歪曲的な国内対策として、WTOの場で、今後、指弾されるのではないか?との懸念・危惧をもち、いろいろな場面で主張してきました。
ご参照
当時の私のブログ記事「小沢民主党が掲げる個別(戸別)所得補償制度は、貿易歪曲的補助金ではないのか?」
http://www.sasayama.or.jp/wordpress/?p=653
など。

なお、この当時の価格変動対応型支払は、その後、2008年農業法において「直接・不足払い補助金制度」(The Direct and Counter-cyclical Payment Program (DCP) )になりかわり、従来のスキーム(価格変動対応型支払い+直接固定支払い)にくわえ、 新たに、オプションとして、ACRE支払いが追加されております。

今回、農林水産省から、一枚のペーパーのみの形ではありますが、 正式に「戸別所得補償制度」のスキームが提示され、あきらかになるとともに、私は、ますます、このスキームが、WTOコンプライアンスに抵触することへの危惧・懸念を強めています。

1.戸別所得補償制度のスキーム

今回、 農林水産省ご提示の「戸別所得補償制度に関するモデル対策」を 見る限り、次のようなスキームであると、 解釈されます。

(1).米戸別所得補償モデル事業

米の「生産数量目標」に即した生産を行った販売農家(定義は不明)を対象とし、補償措置を講じる。

A.価格水準にかかわらず交付する定額部分=標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)(家族労働費8割+経営費)
マイナス
標準的な販売価格(過去数年分の平均)

B.補償対象の米価水準=標準的な生産に要する費用

C.補償金額

(A)標準的な生産に要する費用 > (価格水準にかかわらず交付する定額部分+当年の販売価格)
の場合

補償金額=標準的な生産に要する費用-当年の販売価格

(B)標準的な生産に要する費用 <  (価格水準にかかわらず交付する定額部分+当年の販売価格)
の場合

補償金額=価格水準にかかわらず交付する定額部分

「標準的な生産に要する費用」、「標準的な販売価格」、「当年の販売価格」の算定方法については、不明。

(2)水田利活用自給力向上事業

米の「生産数量目標」に即した生産のいかんに関わらず、すべての生産者(定義は不明)を助成対象とし、水田を有効活用し特定品目を生産する販売農家(定義は不明)に対し、主食用米並の所得を確保し得る水準を直接支払いする。

対象品目別に単価(10a当たり)設定

対象品目は
麦、大豆、飼料作物
新規需要米(米粉用・飼料用・バイオ燃料用米、WCS用稲)
そば、なたね、加工用米
その他作物:地域で単価設定可能

2.WTOコンプライアンス判断の前提条件

今回提示された簡単な一枚ペーパーからのみ言えることは、下記の点ではなかろうかと存じます。

(1).「標準的な生産に要する費用」については、「過去数年分の平均」を「家族労働費8割+経営費」などについて、算定すること。

(2).「標準的な販売価格」については、「過去数年分の平均」について、算定すること。

(3).「標準的な生産に要する費用」としながら、中に「家族労働費8割」とあり、一定割合での所得保障でもあること、

(4).米戸別所得補償モデル事業における補償措置は、米の「生産数量目標」に即した生産を行った販売農家を対象とし、水田利活用自給力向上事業による直接支払いは、米の「生産数量目標」に即した生産のいかんに関わらず、すべての生産者を助成対象とし、特定品目を生産する販売農家に対し、行うこと、

(5)「定額部分+アルファ」で補償することはあるが、定額部分の一部をアシキリし補償することはない。

(6)次の項目の要件についての詳細が、示されていない。
A.「販売農家」の定義が不明
B.「すべての生産者」の定義が不明
C.「標準的な生産に要する費用」の算定方法が不明、
D.「標準的な販売価格」の算定方法が不明、
E.「当年の販売価格」の算定方法が不明

前提条件

以上のことから、次のことが言えるかと存じます。

米戸別所得補償モデル事業は、米の「生産数量目標」に即した生産を行った販売農家を対象としている点からは、「生産制限的(production-limiting )」であるといえます。

しかし、「価格の上昇・下降によって、補償金額が上昇・下降」すること、また、「現在の生産が、補償金額と連動」することが、WTOの農業協定のアーティクル6と附属書2に背馳することが懸念されます。

さらに、米に品目を特定している点で、産品特定的(product specific )」であるといえます。

標準的な生産に要する費用の算出において、「家族労働費8割+経営費」とあるのは、WTO農業協定付属書2の中の「7 収入保険及び収入保証に係る施策への政府の財政的な参加」(b) この支払の額は、生産者がこの援助を受けるための適格性を有することとなった年の当該生産者の喪失した収入の七十パーセント以上の額を補償するものであってはならない。」の規定に抵触しえます。。

水田利活用自給力向上事業は、米の「生産数量目標」を守る農家も守らない農家も、対象としている点で、「生産制限的(production-limiting )」ではなく、また、品目を特定(product specific )している点で、品目横断的 (non-commodity specific)ではありません。

「定額部分」 を上回って補償することはあるが、定額部分を下回ることはなく、この「定額部分を上回り補償する部分」についての理論的な説明がありません。

3.アメリカの直接・不足払い補助金制度と、日本の戸別所得補償制度との類似点

アメリカの2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度(DCP:Direct and
Counter-cyclical Payment、2002年農業法でのCCPにおいても価格変動対応型支払いと直接固定支払いについては同様)における「価格変動対応型支払い」「直接固定支払い」「ACRE支払い」の公式は下記のとおりです。
ご参照
私のブログ記事
「覚書-民主党の戸別所得補償制度とアメリカの直接・不足払い補助金制度(DCP:Direct and Counter-cyclical Payment)との違い」
http://www.sasayama.or.jp/wordpress/?p=1097

(1).価格変動対応型支払い

不足払い額単価(CCP PaymentRate)=目標価格(Target Price)-有効価格(Effective Price)

(2).直接固定支払い

直接支払い額単価(Direct Payment Rate)=定率支払いレート(payment rate )×基準面積(base acres )×農場プログラム産出高( farm program yield)×85パーセント

(3).ACRE支払い

従来の「価格変動対応型支払い+直接固定支払い」のオルタナティブであり、ACRE支払いか、「価格変動対応型支払い+直接固定支払い」かのどちらかを二者択一でえらぶ。
過去作付け実績のない作物に切り替えても、補償額に反映できるようになっている。

ACRE保証額=0.9×過去5年平均州単収×過去2年平均全国価格

但し、5年平均は最大最小の年を除く3年平均

二つのスキームの類似点

ここで、つぎの公式の置き換えをして見ますと、日本の戸別所得補償方式と、アメリカの2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度との類似度がわかるかと存じます。

アメリカの不足払い補助金制度の「不足払い額単価(CCP PaymentRate)」=日本の戸別所得補償制度の「価格水準にかかわらず交付する定額部分」

アメリカの不足払い補助金制度の「目標価格(Target Price)」=日本の戸別所得補償制度の「標準的な生産に要する費用」

アメリカの不足払い補助金制度の「有効価格(Effective Price)」=日本の戸別所得補償制度の「標準的な販売価格」

4.現在、WTOドーハラウンド交渉でアメリカの直接・不足払い補助金制度の何が問題になっているのか?

歴史的な経緯を述べる前に、 別に皮肉な意味で掲げるわけではありませんが、 2009年3月12日にWTOで開催された「 committee meeting 」での日本側の意見を見てみましょう。
参照
「Committee focuses on monitoring agriculture commitments」
http://www.wto.org/english/news_e/news09_e/ag_com_12mar09_e.htm

ここでの主要議題は、アメリカの直接・不足払い補助金制度の貿易歪曲度についての各国からの意見聴取でした。

ここで、日本側は、オーストラリア、ブラジルとともに、アメリカの直接・不足払い補助金制度に対し、次のような質問をしています。

「アメリカは、今後ともこれらの支払いが、特定の作物に対して、支持を与えるものではないといい続けて、この支払いを正当化するのですか?」

これらの疑問は、これ以前から、たびあるごとに出されるのですが、これに対するアメリカ側の答えは、いつも、一緒で、

「これらの支払いは、過去の生産実績に基づいて支払われており、かならずしも、特定作物の生産者が支払いの受領者となることは、要求していない。したがって、この支払いは、いかなる特定の作物への支払いでもないことを意味している。」

これらのやり取りが、今度は、ブーメランのごとく、日本側にかえってこないことを念じるばかりです。

WTOドーハ・ラウンドにおけるアメリカ側の四つの誤算

現在の2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度のベースとなっている2002年農業法における価格変動対応型支払は、さらに、 それをさかのぼる1996年農業法の不足払いのスキームを引き継いだものですが、WTOにおいては、たびたび、その支払いが、貿易歪曲的な国内価格支持であると、指弾されてきました。

そこで、アメリカUSDAでは、WTOコンプライアンス違反への各国からの非難を、ドーハラウンド交渉で避けるために、次の四つのテクニカルな手段でかわそうとしてきました。

第一は、不足払いを、 「新・青の政策」として、認めさせようとすること

第二は、譲許ベースのカウントと、実行ベースのカウントが、異なることを利用して、黄色の政策から緑や青の政策への、ボックス・シフトを行うこと、

第三は、品目横断を隠れ蓑にした「デミニミス抜け穴(De Minimis loophole)」を利用すること、

第四は、2008年農業法において、これまでの直接・不足払い補助金制度のオルタナティブとして、 新たに、ACRE支払い(平均作物収入選択プログラム)制度を もうけたこと

しかし、 このいずれも、これまでのWTOドーハラウンドでの交渉では、各国から、否定されております。

すなわち、第一のアメリカの「新・青の政策」提案は、2004年7-8月合意のフレームワーク(「WTO July 2004 Package of Framework Agreements」)でされましたが、その後、 2006年3月22日に、非公式で開かれたコンサルテーション会議において、「従来の青の政策(Old Blue Box)の議論と、今回アメリカ側提案の新・青の政策(New Blue box)とは、隔絶して議論すべき」との意見でまとまりました。

第二のボックス・シフトは、黄色の政策から振り替えられ、水増しされたデミニミスや青の政策のカウントは、譲許ベースではなく、実行ベースでカウントされるため、譲許(約束) 水準での黄色の政策の削減は果たされているが、全体では、ボックス間のやりくりによって、貿易歪曲的国内補助金の総額(全体的削減)は、減額されていない、というトリックです。

黄色のボックスから青のボックスへのボックス・シフト」(box shifting amber box to blue box)または、「補助金の衣替え」(reclassify subsidies)などといわれています。

これを、シーリングと実際適用との間のギャップにある、国内支持政策の水増し(the stretch of water )または、オーバーハング(Overhangまたは、Binding Overhang)といっています。

2005年12月18日の香港でのWTOでの最終合意閣僚宣言(ドーハ作業計画閣僚宣言)のパラグラフ5(On domestic support)において、次のような、「ボックス・シフティング規制ルール」ともいうべきものが付け加えられました。

「貿易歪曲的国内支持全体の削減は、助成合計総量の最終譲許水準、デミニミス及び青の政策の削減の合計の方が全体の削減より小さくても行われる必要がある」

これによって、アメリカのボックス・シフティングを利用した黄色の政策逃れは、誤算に終わりました。

また、これによって、第三の品目横断を隠れ蓑にした「デミニミス抜け穴(De Minimis loophole)」利用も、封じられることとなります。

ちなみに、アメリカのボックスシフティングの実態についてですが、 2001年2月届出の黄色の政策(AMS)では144億ドル、ドーハラウンドでは76億ドルと、68億ドル減少していますが、かわりに、デミニミス+27億ドル、青の政策+48億ドル、緑の政策0、となっており、実質的なTDS(AMS(黄色) +デミニミス+ 青の政策)は、 逆に、7億ドルの増加になってしまっているという現況のようです。

第四のACRE支払い(平均作物収入選択プログラム)制度についても、これまでの2002年農業法でのスキーム以上に黄色の政策であるとの批判が高まっています。

FAPRI(Food and Agricultural Policy Research Institute)が昨年8月に予測したACRE支出の数値によりますと、2009年11,683百万ドル、2010年2,283百万ドル、2011年 2,203百万ドル、2012年2,039百万ドル,2013年1,901百万ドルになるとしています。

アメリカのACREも含めた黄色の政策のシーリングが,年ベースで191億ドルですので、いかに、このACREが貿易歪曲的な働きをしているか、ということが、各国からの警戒心につながっているものと思われます。

先にあげた 2009年3月12日にWTOで開催された「 committee meeting 」でも、アルゼンチン、オーストラリア、カナダの代表が、アメリカのACREについて、黄色の政策ではないことについての説明をアメリカ側に求めたましたが、アメリカ側は、実績がまだ出ていないことを理由に、その説明を拒否したといわれています。

このACREが、黄色の政策に分類される理由として、次のことが挙げられています。

「ACRE支払いが、作付けに基づき、作付面積と平均作物販売価格と収量とに基づく限り、WTOでは、農作物価格支持補助金の黄色の政策のカテゴリーに分類される」

5.WTOドーハラウンド決着で国内農業支持政策は、どう、変革を迫られるのか?

WTOドーハラウンドは、2009年9月のG20での各国の首脳の確約(ピッツバーグ・ステートメント)によって、2010年中での決着が合意されたところですが、今後、新たなモダリティ・テキストの新版が出るかどうかについては、微妙な情勢のようです。

すなわち、一部には、合意のため、新しいテキストの必要性を強調している向きもあるようですが、 これまでの合意点を崩さないためには、すくなくとも、昨年12月の第四版モダリティ・テキストをベースに、妥結への議論が進められるであろうというのが、大方の関係者の見方であり、その意味では、ここにいたるまでのWTO内部での論議に、大幅な変更はないものと推測されます。

残念ながら、日本が最重要項目として主張している、①重要品目の十分な数と柔軟な取扱いの確保、②上限関税の設定阻止、③関税割当の新設、についても、2008年12月6日の改訂モダリティ案と大きく変わることはなさそうです。

そこで、 これまでに出ている昨年12月の第四版モダリティ・テキストをベースに、日本への影響を試算してみますと、次のようになるかともいえます。

第四版モダリティ・テキストにおいては、

助成合計総量の最終譲許水準の削減(Final Bound Total AMS)(FBTA)

貿易歪曲的国内支持全体の削減(Overall Trade-Distorting Domestic
Support)(OTDS)

が打ち出されていますが、

Final Bound Total AMS(助成合計総量の最終譲許水準)(黄色の政策)(黄色の削減)

(1).AMSが400億ドル以上は、70%削減
(2).AMSが150億ドル以上は、60%削減
(3).AMSが150億ドル以下は、45%削減

Overall Trade-Distorting Domestic Support(OTDS)(貿易歪曲的国内支持全体の削減)(全体的削減)
注-OTDS=Final Bound Total AMS( 黄色の政策) +デミニミス+パラグラフ8にもとずく青の政策 この三つの合計額

(1).OTDSが600億ドル以上は、80%削減
(2).OTDSが100億ドル以上は、70%削減
(3).OTDSが100億ドル以下は、55%削減

となっています。

これに変化がなければ、日本のFinal Bound Total AMSは、2000年約束水準で3兆9729億円(431億ドル)ですので、

階層は、
AMSについては、the top tier、
OTDSについては、the middle tier
該当ということで、

AMSは、70パーセント削減、
OTDSについては、農業総生産額の40%以上であることによる追加的努力分が、+5%加算され、70+5=75パーセント削減、
となりそうです。

そこで、日本の一部に、「これまでの日本の黄色の既存削減枠(いわゆる『貯め』)を、「戸別所得補償制度」の原資に使おう」、と主張される向きもあるようですが、果たして、どうなのでしょう?

2000年約束水準で、日本の黄色の政策は、3兆9729億円、これに「デミニミス+パラグラフ8にもとずく青の政策」を加えたのがOTDSですが、2006年では、デミニミス376億円、青の政策701億円となっているようです。

仮に黄色の削減率7割であれば、削減後は
3兆9729億円×30パーセント=1兆2千億円程度(Final Bound Total AMS” ( Amber Box))となります。

しかし、すでに、日本は、2006年時点で、黄色の政策は、5712億円となっており、2000年約束(譲許)水準の14%まで削減しているので、余分に削減している部分は、
30パーセント-16パーセント=1兆2千億円-5712億円=7200億円程度 ということになります。

では、この部分については、今後、あらたに黄色の政策としてつかえるのか?、ということになるのですが、この対象作物を替えないで「黄色の政策から、再び、黄色の政策へ」( “amber to white to re-amber”)のゾンビ的な解釈は、WTOの趣旨からして、通用しないように思えます。

さらに、1995-2000年ベースでの黄色の政策と青の政策とを結合させたCapである「個別産品毎の黄の政策の上限規制」(Commodity-Specific AMS Cap)という品目別AMSの上限があります。
これらは、国別、個別品目別に、モダリティの付属書において一覧表にされます。
これが適用されるとなると、コメ農家救済を主軸としたスキームは、この点からもCombined Capとしての制限を受けうる可能性も大きいといえます。
「個別産品毎の黄の政策の上限規制」(Commodity-Specific AMS Cap)の帰趨如何によって、黄色から黄色への安易なボックス内シフトは、難しくなるのではないでしょうか?

6.WTOドーハラウンド決着後の各国の国内農業支持政策の見直し機運

WTOドーハラウンド決着後は各国の国内農業支持政策は、いずれも、修正を 余儀なくされると思います。

とくに注目されるのは、アメリカのオバマ政権の動きです。

2008年農業法が、ブッシュ政権とオバマ政権との間で誕生したという事情があるにせよ、 ブッシュ政権からの「残された荷物」である、直接・不足払い補助金制度については、ドーハ・ラウンドが決着した時点で、見直したい、という機運が、オバマ政権では、発足当初からあるようです。

オバマ大統領は、2010年予算で、直接支払いのカットを議会に要請したほか、直接支払いの上限を、一人4万ドルに制限すること、CCPについても、6万5千ドルの上限を設けること、その代わりとして、145.000ドル融資限度のマーケティングローンの創設をするなどの対策に乗り出しており、これらのカットにより生じた財源を、環境改善事業などの新興事業部門にシフトさせる考えであるといいます。

この流れからすると、アメリカは、すでに直接支払いの方向から、新しい環境部門への財源のシフトを図りつつあるようです。

これらの動きは、WTO対策であるとも見られています。

すなわち、WTOをいいきっかけにして、巨大な財政支出を伴うこの直接・不足払い補助金スキームを見直したいというインセンティブが強いようです。

日本においても、とくに、品目横断的経営安定対策については、WTOコンプライアンスの点からは、多少の見直しを迫られるのではないかと思っています。

私は、この品目横断的経営安定対策は、WTOコンプライアンスのすれすれを狙った、当時の農林水産官僚の皆様の英知が絞られた傑作であると評価しています。

ただ、この法案提出の時点(2006年6月21日成立)では、アメリカの「新青の政策」が、WTOから認知されるのではないか、との前提がありました。
その後の経緯は、上記のとおりアメリカの「新青の政策」は、認知されませんでした。

品目横断政策には、「げた」部分(生産性条件格差の是正対策)と、「ならし」部分(販売収入の変動緩和対策)の二つがあり、さらに、「げた」部分については、「過去の作付面積に基づく支払い」「年々の生産量等に基づく支払い」がありました。

当時の農林水産省の解釈では、

「過去の作付面積に基づく支払い。」は、現実の生産と関連していないので、緑の政策に該当。いわゆる「緑ゲタ」
「年々の生産量等に基づく支払い。」は、黄色の政策、いわゆる「黄ゲタ」
「ならし」部分(販売収入の変動緩和対策)」は、品目横断的(non-commodity specific)であり、生産調整を伴った「生産制限的(production-limiting )である」との条件の下に、「青の政策」

との見解があったように思えます。

しかし、ドーハ・ラウンドの決着によって、黄ゲタ部分はもちろんですが、緑ゲタについても、「過去の生産にもとずく」との部分が、アメリカ同様、問われかねないし、また、「ならし」部分についても、グレーゾーンの色合いがより強まってくるものと思われます。

7.結論-戸別所得補償についてのWTOコンプライアンス適合度

以上のことから、戸別所得補償についてのWTOコンプライアンス適合度を点検してみましょう。

(1)適合度判断の基準

判断の基準をわかりやすく書いたWTOのサイト

WTO「Domestic support」
http://www.wto.org/english/tratop_e/agric_e/ag_intro03_domestic_e.htm
がこの場合、参考になりそうです。

これによりますと

A.緑の政策の条件

政策原資は、消費者からの移転を伴わう原資を含まないものであって、生産者への価格支持効果を持つものであってはいけない。
政策プログラムにおいては、研究プログラムや、トレーニングプログラムなどを含むものとなる。
生産者に対する直接支払いとしては、生産決定につながらないもの(この支払いが農業生産の経営形態や生産量に影響を与えない、デカップリングされたもの)
直接支払いの量が、支払い後の一定期間のあいだ、 生産、価格、 生産要素に、 リンクするものであってはならないこと。
直接支払いを受けても、それによって、生産を要求されるものではないこと。

その直接支払いの意味するところが、次のものに関係している場合には、別の基準によるものとする。

デカップリング所得補助、所得補償、セーフティーネットプログラム、自然災害救助、構造調整プログラムによったもの、環境プログラムによったもの、地方支援プログラムによったもの、

B.青の政策の条件

支払いは、「一定のエリア」「一定の産品」「一定数の家畜」に対するものであること。
支払いは、「一定の期間における生産の85パーセント以下のもの」に対するものであること。
緑の政策が、デカップリングされた支払いすべてを カバーするのに対して、青の政策は、支払いを受けるためには、なお、 生産は必要ではあるが、 現実の支払いは、現在の生産量に、直接、関係するものであってはならない。

C.デミニミス(De minimis)の条件

農業生産額の5%以下の補助については、品目を特定していない国内支持(品目横断的 (non-commodity specific)な助成)であれば、少量であることから、「デミニミス」として削減対象から除外される。

なお、ドーハラウンドでは、これに追加的制約条項が加わる。

(2)戸別所得補償についてのWTOコンプライアンス適合度判断

上記によって、戸別所得補償についてのWTOコンプライアンス適合度を点検すると、次のようになりえます。

A.米戸別所得補償モデル事業

米戸別所得補償モデル事業は、「生産制限的(production-limiting )」であるが、「価格の上昇・下降によって、補償金額が上昇・下降」し、「現在の生産が、補償金額と連動」している。

判断

1.緑の政策とは、 まったくいえない。 (理由-「この支払いが農業生産の経営形態や生産量に影響を与えない、デカップリングされたもの」ではない。)
2.現実の支払いが、現在の生産量に、直接、関係しており、また、現実の支払いが、現在の販売価格に、直接、関係しているので、青の政策でもない。(理由-「生産は必要ではあるが、 現実の支払いは、現在の生産量に、直接、関係するものであってはならない。」ではない。)
3.生産制限計画による直接支払いであっても、「一定の面積及び生産に基づいて行われる支払」であるとはみなされえない。(理由-価格と連動しているため「一定」(fixed)とはみなされない。付属書2.6「生産に係る国内価格又は国際価格に関連し又は基づくものであってはならない。」に違反)
3.「標準的な生産に要する費用」の計算方式が明らかにされていないので、アメリカの言い訳である「これらの支払いは、過去の生産実績に基づいて支払われている。」と同様の言い訳が通用しうるのかどうかが、明らかではない。(理由-農業協定6項5項(i)違反の可能性、付属書2.6(b)「生産者によって行われる生産の形態又は量(家畜の頭数を含む。)に関連し又は基づくものであってはならない。」に違反)
4.アメリカの2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度と同様、WTOの農業協定のアーティクル6と附属書2に背馳する部分がある。(理由-該当条項は、 第6条の5項(a)(ⅰ)、付属書2の6(b)、付属書2の6(c)、付属書2の7(b)、付属書2の7(c)などであり、とくに、第6条の5項(a)(ⅰ) )
5.「標準的な生産費用」の中で「家族労働8割」とある。(理由-付属書2の7(b)の「当該生産者の喪失した収入の七十パーセント以上の額を補償するものであってはならない。」に違反)
6.米に品目を特定しているため、産品特定的(product specific )である。(理由-第6条4項(a)(ⅱ)「産品が特定されない国内助成であって、その総額が加盟国の農業生産総額の五パーセントを超えないもの」に違反)

以上のことから、しいて言えば、アメリカが過去に提案した「新青の政策」に近いといえるが、アメリカの不足払い補助金制度においては、不足払い額単価が市場年度内の全米平均市場価格の最高値を上回った場合には、不足払い額単価はゼロになるのに対して、戸別所得補償制度においては、「定額部分+アルファ」の補償が行われるという点などをも含め、アメリカの「新青の政策」よりも、より「黄色の政策」に分類されえる。

B.水田利活用自給力向上事業

水田利活用自給力向上事業は、「生産制限的(production-limiting )」ではなく、また、品目を特定(product specific )している点で、品目横断的 (non-commodity specific)ではない。

したがって、まさに、「黄色の政策」そのものの要件を備えている。

結語-WTO非適合型直接支払いからWTO適合型直接支払いへのシフトが必要-

以上のことから、現にWTOで糾弾されている2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度に極似したスキームである戸別所得補償方式を、日本政府が、ドーハ・ラウンド合意間近いこの時点で、しかも、2010年中にドーハ・ラウンド合意を旨とした先月のG20でのピッツバーグ・ステートメントに、 日本の総理が加わっている以上、このタイミングで、この政策を打ち出すことは、たとえ、近時の世界の 保護貿易主義の台頭によって、WTOの結論が翻弄されることはあるであろうにしてみも、 あまりに、無謀であるといえます。

むしろ、この際、ドーハ・ラウンド決着を前提にしての、オバマ政権がすでに志向し始めているような、農政の環境シフトや、農村地域・農業地域の総合的地域政策的観点からの政策樹立といった、パラダイム・シフトが必要のように思えます。

直接払いならどんなスキームでもいいというわけではありません。

WTO適合型直接支払いのスキームもあれば、WTO非適合型直接支払いのスキームもあります。

『日本にも、EU型の直接支払いを導入すべし』とか『直接支払いをしていないのは、日本だけ』論を展開されている政治家の方の想定している「EUの直接支払い」とは、その旧来型のスキームであった、1992年のMacSharry reforms(Old Cap)と呼ばれているWTO非適合型直接支払い(“compensatory payments” と呼ばれる直接支払い)を、ごっちゃにして、いわれている嫌いがあるようです。

MacSharry reformsに対する批判は、大きく二つあって、第一は、財政負担があまりに大きくなってきていること。第二は、必ずしも、生産に対して、ニュートラルではない。との批判でした。

この批判は、今回の日本の戸別所得補償制度にたいしても、そのままの批判点となりえそうです。

直接支払いの先進地域であるEUが、2003年のFischer reform(New Cap)とアジェンダ2000と呼ばれるCAP見直しで目指したのは、まさに、これらのMacSharry reformsに対する批判に応え、CAPをWTO適合型直接支払い(“decoupling’ payments “と呼ばれる直接支払い)とするための改革であり、その内容は、『直接支払いから単一支払いスキーム』(From a direct payments system to a single payment scheme)への転換でありました。

すなわち、それは、farm support (Pillar 1) と rural development (Pillar 2))とからなるもので、完全に生産からニュートラルなデカップリングと、直接支払いを受け取るすべての農民に対して義務付けられる農地の適正な農業・環境条件の維持についての強制クロス・コンプライアンス、そして、農村開発政策の強化に、財源を、直接支払いを減額してもシフトさせる農村開発戦略から成り立っています。

このように、WTOコンプライアンス適合型の直接支払いをしているのは、Fischer reform後のEUだけであり、日本が戸別所得補償制度によって真似ようとしているアメリカの直接支払いも、EUのFischer reform前の直接支払いも、いずれも、WTO非適合型直接支払いだということを銘記しなければならないでしょう。

日本においても、過去の直接支払いの先進国がたどった直接支払いのもつ、宿命的な財政負担のトラウマから回避するためのスキームを、日本版WTO適合型直接支払いのスキームとして、いまから確立しておく必要があります。

以上

参考1. 戸別所得補償制度が抵触するであろうWTO農業協定 アーティクル6と付属書2の該当箇所一覧

農業に関する協定 第四部

第六条 国内助成に関する約束

4 (a) 加盟国は、次の国内助成を現行助成合計総量の算定に含めること及び削減することを要求されない。
(i) 産品が特定された国内助成(自国の現行助成合計量の算定に含めるべきものに限る。)であって、その総額が当該年における一の基礎農産品の生産総額の五パーセントを超えないもの
(ii) 産品が特定されない国内助成(自国の現行助成合計量の算定に含めるベきものに限る。)であって、その総額が加盟国の農業生産総額の五パーセントを超えないもの
(b) 開発途上加盟国については、この4に定める百分率は、十パーセントとする。

5 (a) 生産制限計画による直接支払であって次のいずれかに該当するものは、国内助成を削減する約束の対象とならない。
(i) 一定の面積及び生産に基づいて行われる支払
(ii) 基準となる生産水準の八十五パーセント以下の生産について行われる支払
(iii) 一定の頭数について行われる家畜に係る支払
(b) (a)に定める基準を満たす直接支払に係る削減に関する約束の対象からの除外は、加盟国の現行助成合計総量の算定において当該直接支払の価額を除外することによって行う。

第七条 国内助成に関する一般的規律

1. 各加盟国は、農業生産者のための国内助成措置であって、附属書二に定める基準を満たすことにより削減に関する約束の対象とならないものについて、当該基準を引き続き満たすことを確保する。

2. (a) 農業生産者のための国内助成措置(修正されたものを含む。)及び後に導入された措置であって、附属書二に定める基準を満たすこと又はこの協定の他の規定に基づいて削減の対象から除外されることを示すことができないものについては、加盟国の現行助成合計総量の算定に含める。
(b) 助成合計総量に関する約束が加盟国の譲許表第四部に明記されていない場合には、当該加盟国は、前条4に定める該当する百分率を超えて農業生産者に助成を行ってはならない。

附属書二 国内助成(削減に関する約束の対象からの除外の根拠)

5 生産者に対する直接支払
生産者に対する直接支払(現物による支払及び現に徴収されなかった収入を含む。)による助成であって削減に関する約束の対象から除外されるものとして扱われるものは、1に定める基本的な基準のほか、6から13までに定める直接支払の個別の類型に係る特定の基準を満たすものでなければならない。6から13までに定める直接支払以外の既存の又は新たな類型の直接支払であって削減の対象から除外されるものとして扱われるものは、1に定める一般的な基準のほか、6の(b)から(e)までに定める基準に適合するものでなければならない。

6 生産に関連しない収入支持
(a) この支払を受けるための適格性は、定められた一定の基準期間における収入、生産者又は土地所有者であるという事実、要素の使用、生産水準その他の明確に定められた基準に照らして決定される。
(b) いずれの年におけるこの支払の額も、(a)の基準期間後のいずれかの年において生産者によって行われる生産の形態又は量(家畜の頭数を含む。)に関連し又は基づくものであってはならない。
(c) いずれの年におけるこの支払の額も、(a)の基準期間後のいずれかの年において行われる生産に係る国内価格又は国際価格に関連し又は基づくものであってはならない。
(d) いずれの年におけるこの支払の額も、(a)の基準期間後のいずれかの年において使用される生産要素に関連し又は基づくものであってはならない。
(e) この支払を受けるために、いかなる生産を行うことも要求されてはならない。

7 収入保険及び収入保証に係る施策への政府の財政的な参加
(a) この支払を受けるための適格性は、農業から得られる収入のみを考慮して、過去三年間における若しくは過去五年間のうち収入が最大及び最小の年を除く三年間における総収入(同一又は同様の施策により受けた支払を除く。)の平均の三十パーセントに相当する価額又は純収入を用いて算定した同等の価額を超える収入の喪失があることに基づいて決定される。この条件を満たす生産者は、支払を受けるための適格性を有する。
(b) この支払の額は、生産者がこの援助を受けるための適格性を有することとなった年の当該生産者の喪失した収入の七十パーセント以上の額を補償するものであってはならない。
(c) この支払の額は、収入にのみ関連するものとする。この額は、生産者により行われる生産の形態若しくは量(家畜の頭数を含む。)、当該生産に係る国内価格若しくは国際価格又は使用される生産要素に関連するものであってはならない。
(d) 生産者がこの7の規定に基づく支払及び8の規定(自然災害に係る救済)に基づく支払を同一の年において受ける場合には、これらの支払の総額は、生産者の損失の総額の百パーセント以上であってはならない。

参考2.アメリカがCCPを『青の政策』とする根拠として掲げている農業協定アーティクル6.5(Article 6.5)のドーハラウンドにおける解釈について

アメリカは農業協定6項5項(i)「一定の面積及び生産に基づいて行われる支払」(such payments are based on fixed area and yields)を根拠として、CCPを青の政策として言い張っているが、ドーハラウンド交渉においては、次のようなことになっている。
「WTO agreement on agriculture: The blue box in the July 2004 framework agreement」(Ivan Roberts.abare eReport 2005.4)
http://www.abare.gov.au/publications_html/trade/trade_05/er05_wto.pdf

Extending blue box exemptions to include payments that do not require production and ways that these might be disciplined
(生産することや、規制されるであろう方法を必要としない支払いを含む、『青の政策』の拡大について)

■ Allowing ‘payments that do not require production’ would introduce payments related to prices into the blue box.
(生産を必要としない支払いを青の政策に含めることは、価格に関係した支払いを青の政策に含めることにつながってしまう。)

These payments currently  fall under the amber box. Such a change would make it easier for the United States to ‘achieve’substantial cuts to its amber box payments.
(これらの支払いは、今のところは、黄色の政策に分類される。
上記のような変更は、アメリカにとって、黄色の政策のカットをたやすくしてしまう。)

■ The new blue box provision would allow additional market distorting support and would weaken current WTO domestic support disciplines.
(『新青の政策』条項を設けることは、さらなる貿易歪曲的国内支持を付加することになり、現在のWTOの国内支持規制を弱くさせてしまう。)
It may also enable the United States to meet the Doha Round mandate of achieving ‘substantial reductions in domesticsupport’ without having to change the form or actual level of support to US producers.
(さらに、されは、WTOドーハラウンドにおける『国内支持の実質的な縮減」という命題に、アメリカをして、適合させてしまうことにつながってしまう。)

■ Just stipulating that farmers do not need to produce to receive payments does not mean that those payments will not encourage additional production.
(農民が直接支払いを受けるには、生産することを要しないと規定するということは、それらの支払いが更なる追加的生産を奨励しない、ということを意味するものではない。)

■ If payments are related to prices, such as counter cyclical payments,they are likely to influence production.
(もし、直接支払いが、アメリカのカウンター・サイクリカル支払いのように、価格に関係するものであったなら、)それらの支払いは、生産にたぶんに影響するであろう。)

■ The stipulation of fixed and unchanging bases in blue box criteriain the WTO negotiating agreement will help to limit market distortions arising from growers’ expectations of changing bases in the future.
(WTO農業協定における青の政策の基準である『固定され、変わらないベース』との規定には、生産者が、将来、ベースが変わることを予測しての、市場の歪曲を制限する意味がある。)

■ The weakening of the WTO domestic support rules arising from the inclusion of the new blue box provision (allowing the inclusion of some forms of price related support) could be limited by placing further controls on such support.
(『新青の政策』条項の新設によって、価格に関連した国内支持が寝青の政策に含まれることを許してしまうことで、WTOの国内支持規制が弱まってしまうことは、そのような支持に対し更なるコントロールをすることに限界を与えてしまう。)

The 5 per cent limit on blue box exemptions
(青の政策に対する5パーセント例外制限について)

■ US counter cyclical payments could be included under the new provision in the negotiating agreement to allow blue box exemptions or payments where no production is required.
(アメリカのカウンター・サイクリカル・ペイメントは、新青の政策の下では、青の政策の例外を認められるものに含まれうるし、また、生産が要求されない直接支払いにも含まれうる。)

Under present legislation these payments would be well below the proposed 5 percent limit.
(現在のWTO規制においては、これらの支払いは、5パーセント限界値以下であろう。)

This is largely because the value of the items receiving support payments constitutes only about 25 per cent of the total value ofUS agricultural production.
(これは、大きく、支持支払い対象品目の値が、アメリカの農業生産の総価値のたった25パーセントとしかないことによるものである。)

So the 5 per cent limit is equivalentto 20 per cent of the value of the supported activities.
(したがって、5パーセント制限ということは、支持行為の価値の20パーセントと等しいということになる。)

Maximum countercyclical payments are estimated at US$7billion a year, which is well below the 5 per cent limit which would vary between about US$9.2 billion and US$10.2 billiona year.
(カウンター・サイクリカル・ペイメントの最大支払いは、一年間70億ドルであると評価されており、これは、一年で、92億ドルから102億ドルの間で、変化しうるなかで、5パーセント制限以下になっているものである。)

Under present WTO provisions, the United States already has the ability to provide payments of over 40 per cent of the value of program crops even without the addition of the new blue boxexemption provision in the negotiating agreement.
(現在のWTOの条項によれば、アメリカは、新青の政策の例外条項を設けなくとも、すでに、 カウンター・サイクリカル・ペイメント・プログラムの対象作物の価値の40パーセントを超える支払い能力を備えている。 )

■ The European Union is currently the largest user of blue box exemptions, with its most recently notified use being around 9 per centof its total value of agricultural production.
(EUでは、現在は、青の政策の例外措置を使用している最大のユーザーであり、最近の数値では、農業生産の総価値の9パーセントを使っていると通告されている 。)

This is well above the proposed 5 per cent cap.
(これは、5パーセント以上の数値である。)

■ Under EU reforms, support is being restructured toward single farmpayments on which the European Union seems likely to seek green box exemptions on the grounds of decoupling.
(EU改革によって、これらの支持政策は、単一支払いに向けて、リストラクチャーされており、EUでの直接支払いは、デカップリング・ベースでの緑の政策での例外措置を模索しているように見える。)

Such a transition could enable the European Union to manage its blue box payments to fall within the proposed 5 per cent cap.
(このような直接支払いの移行は、EUをして、これまでの青の政策を5パーセント以下のキャップにとどませるよう管理することを可能にさせうるものとなっている。)

■ In recent years, EU support levels (as indicated by the Aggregate Measurement of Support) have been markedly below the European Union’s permitted limits.
(最近のEUでの支持レベルは、AMSで示される限り、著しくEUが認められているレベルを下回ってきている。)

This would appear to give the EuropeanUnion flexibility to offer marked cuts to AMS limits in the DohaRound without having to reduce its present levels of nonexempt domestic support.
(このことは、現在での例外とならない国内支持の現在のレベルをこれ以上減らさなくても、ドーハラウンドにおけるAMS制限を著しくカットすることへのオファーに対して、 柔軟に対応できることを可能にしているように見える。)

以上

「WTOドーハ・ラウンドは、復活か?棚ざらしか?」とのウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラム

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:45 PM

このサイト「The Doha Development Round: Resurrected or in Limbo? 」では、WTOドーハラウンドが、G20サミットでのコミットメントどおりに2010年で決着を見るためには、次の三つの条件がそろわなければならないとしている。

第一は、アメリカ側の農業交渉におけるいかなる譲歩も、アメリカ国内のビジネスに影響を与える。

いわば、アメリカのドーハラウンドの農業交渉の帰趨とトレードオフとなっているのが、アメリカの労働組合、農業者、中間選挙をひかえるアメリカ議会ということだ。

それに、失業率10パーセント近くにもなっている、アメリカの経済情勢も、絡んでくる。

オバマ政権にとって、貿易問題は、優先課題ではないということだ。

その証拠に、アメリカのWTO大使の席がいまだ空席となったままである。

むしろ、金融規制の問題と、気候変動の問題が、貿易問題に優先している状態だ。

第二は、ここ数ヶ月の間での中国タイヤ問題に象徴される通商紛争の続出がWTO交渉、とくにNAMA交渉にどう影響するかである。

第三は、今年9月のインドでのデリー会議で合意されたことは、今後のプロセスについての合意であり、実質的な合意は、まだ、何もない、ということである。

いわば、2008年交渉をつぶしてしまったインドの贖罪的な献身によるパフォーマンスだったということも言える。

実質的な合意までには、ここ数ヶ月かかるものと見られている。

結論的に言えば、WTO会議は、当面たなざらしに終わり、真の合意への復活はありえない、ということになりそうだ。

さらに、WTOの権威失墜とさせるのは、その一方で、地政学的な、二国間地域経済協定に走る国が多く出てきていることだ。

それに加えて、さらに貿易保護主義的な動きなどが、WTOへの信頼失墜を加速させているとの見方だ

私が農林水産省に提出した戸別所得補償制度に関する意見の全文

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:42 PM

農林水産省で戸別所得補償制度に関する意見の募集をしていましたので、余計なことかとは思いましたが、下記のような意見(原稿用紙換算36枚)を、本日提出しておきました。

ご参考まで、掲載しておきます。

以下、意見の全文

戸別所得補償制度がWTOコンプライアンスに抵触することへの危惧

笹山 登生

今回、 農林水産省から国民に意見を求められている戸別所得補償制度は、その原型を、現在の政権与党の民主党が数年前に掲げた個別(戸別)所得補償制度(後の農業者戸別所得補償制度)においているものとみられます。

この原型が数年前に提示された時点から、私は、この制度のスキームが、著しく、アメリカの当時の2002年農業法における価格変動対応型支払(counter cyclical payments)(CCP)に似ているものと想定し、この個別(戸別)所得補償制度が、WTOにおいて、当時から、アメリカの価格変動対応型支払(CCP)が指弾されていると同様、貿易歪曲的な国内対策として、WTOの場で、今後、指弾されるのではないか?との懸念・危惧をもち、いろいろな場面で主張してきました。
ご参照
当時の私のブログ記事「小沢民主党が掲げる個別(戸別)所得補償制度は、貿易歪曲的補助金ではないのか?」
http://www.sasayama.or.jp/wordpress/?p=653
など。

なお、この当時の価格変動対応型支払は、その後、2008年農業法において「直接・不足払い補助金制度」(The Direct and Counter-cyclical Payment Program (DCP) )になりかわり、従来のスキーム(価格変動対応型支払い+直接固定支払い)にくわえ、 新たに、オプションとして、ACRE支払いが追加されております。

今回、農林水産省から、一枚のペーパーのみの形ではありますが、 正式に「戸別所得補償制度」のスキームが提示され、あきらかになるとともに、私は、ますます、このスキームが、WTOコンプライアンスに抵触することへの危惧・懸念を強めています。

1.戸別所得補償制度のスキーム

今回、 農林水産省ご提示の「戸別所得補償制度に関するモデル対策」を 見る限り、次のようなスキームであると、 解釈されます。

(1).米戸別所得補償モデル事業

米の「生産数量目標」に即した生産を行った販売農家(定義は不明)を対象とし、補償措置を講じる。

A.価格水準にかかわらず交付する定額部分=標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)(家族労働費8割+経営費)
マイナス
標準的な販売価格(過去数年分の平均)

B.補償対象の米価水準=標準的な生産に要する費用

C.補償金額

(A)標準的な生産に要する費用 > (価格水準にかかわらず交付する定額部分+当年の販売価格)
の場合

補償金額=標準的な生産に要する費用-当年の販売価格

(B)標準的な生産に要する費用 <  (価格水準にかかわらず交付する定額部分+当年の販売価格)
の場合

補償金額=価格水準にかかわらず交付する定額部分

「標準的な生産に要する費用」、「標準的な販売価格」、「当年の販売価格」の算定方法については、不明。

(2)水田利活用自給力向上事業

米の「生産数量目標」に即した生産のいかんに関わらず、すべての生産者(定義は不明)を助成対象とし、水田を有効活用し特定品目を生産する販売農家(定義は不明)に対し、主食用米並の所得を確保し得る水準を直接支払いする。

対象品目別に単価(10a当たり)設定

対象品目は
麦、大豆、飼料作物
新規需要米(米粉用・飼料用・バイオ燃料用米、WCS用稲)
そば、なたね、加工用米
その他作物:地域で単価設定可能

2.WTOコンプライアンス判断の前提条件

今回提示された簡単な一枚ペーパーからのみ言えることは、下記の点ではなかろうかと存じます。

(1).「標準的な生産に要する費用」については、「過去数年分の平均」を「家族労働費8割+経営費」などについて、算定すること。

(2).「標準的な販売価格」については、「過去数年分の平均」について、算定すること。

(3).「標準的な生産に要する費用」としながら、中に「家族労働費8割」とあり、一定割合での所得保障でもあること、

(4).米戸別所得補償モデル事業における補償措置は、米の「生産数量目標」に即した生産を行った販売農家を対象とし、水田利活用自給力向上事業による直接支払いは、米の「生産数量目標」に即した生産のいかんに関わらず、すべての生産者を助成対象とし、特定品目を生産する販売農家に対し、行うこと、

(5)「定額部分+アルファ」で補償することはあるが、定額部分の一部をアシキリし補償することはない。

(6)次の項目の要件についての詳細が、示されていない。
A.「販売農家」の定義が不明
B.「すべての生産者」の定義が不明
C.「標準的な生産に要する費用」の算定方法が不明、
D.「標準的な販売価格」の算定方法が不明、
E.「当年の販売価格」の算定方法が不明

前提条件

以上のことから、次のことが言えるかと存じます。

米戸別所得補償モデル事業は、米の「生産数量目標」に即した生産を行った販売農家を対象としている点からは、「生産制限的(production-limiting )」であるといえます。

しかし、「価格の上昇・下降によって、補償金額が上昇・下降」すること、また、「現在の生産が、補償金額と連動」することが、WTOの農業協定のアーティクル6と附属書2に背馳することが懸念されます。

さらに、米に品目を特定している点で、産品特定的(product specific )」であるといえます。

標準的な生産に要する費用の算出において、「家族労働費8割+経営費」とあるのは、WTO農業協定付属書2の中の「7 収入保険及び収入保証に係る施策への政府の財政的な参加」(b) この支払の額は、生産者がこの援助を受けるための適格性を有することとなった年の当該生産者の喪失した収入の七十パーセント以上の額を補償するものであってはならない。」の規定に抵触しえます。。

水田利活用自給力向上事業は、米の「生産数量目標」を守る農家も守らない農家も、対象としている点で、「生産制限的(production-limiting )」ではなく、また、品目を特定(product specific )している点で、品目横断的 (non-commodity specific)ではありません。

「定額部分」 を上回って補償することはあるが、定額部分を下回ることはなく、この「定額部分を上回り補償する部分」についての理論的な説明がありません。

3.アメリカの直接・不足払い補助金制度と、日本の戸別所得補償制度との類似点

アメリカの2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度(DCP:Direct and
Counter-cyclical Payment、2002年農業法でのCCPにおいても価格変動対応型支払いと直接固定支払いについては同様)における「価格変動対応型支払い」「直接固定支払い」「ACRE支払い」の公式は下記のとおりです。
ご参照
私のブログ記事
「覚書-民主党の戸別所得補償制度とアメリカの直接・不足払い補助金制度(DCP:Direct and Counter-cyclical Payment)との違い」
http://www.sasayama.or.jp/wordpress/?p=1097

(1).価格変動対応型支払い

不足払い額単価(CCP PaymentRate)=目標価格(Target Price)-有効価格(Effective Price)

(2).直接固定支払い

直接支払い額単価(Direct Payment Rate)=定率支払いレート(payment rate )×基準面積(base acres )×農場プログラム産出高( farm program yield)×85パーセント

(3).ACRE支払い

従来の「価格変動対応型支払い+直接固定支払い」のオルタナティブであり、ACRE支払いか、「価格変動対応型支払い+直接固定支払い」かのどちらかを二者択一でえらぶ。
過去作付け実績のない作物に切り替えても、補償額に反映できるようになっている。

ACRE保証額=0.9×過去5年平均州単収×過去2年平均全国価格

但し、5年平均は最大最小の年を除く3年平均

二つのスキームの類似点

ここで、つぎの公式の置き換えをして見ますと、日本の戸別所得補償方式と、アメリカの2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度との類似度がわかるかと存じます。

アメリカの不足払い補助金制度の「不足払い額単価(CCP PaymentRate)」=日本の戸別所得補償制度の「価格水準にかかわらず交付する定額部分」

アメリカの不足払い補助金制度の「目標価格(Target Price)」=日本の戸別所得補償制度の「標準的な生産に要する費用」

アメリカの不足払い補助金制度の「有効価格(Effective Price)」=日本の戸別所得補償制度の「標準的な販売価格」

4.現在、WTOドーハラウンド交渉でアメリカの直接・不足払い補助金制度の何が問題になっているのか?

歴史的な経緯を述べる前に、 別に皮肉な意味で掲げるわけではありませんが、 2009年3月12日にWTOで開催された「 committee meeting 」での日本側の意見を見てみましょう。
参照
「Committee focuses on monitoring agriculture commitments」
http://www.wto.org/english/news_e/news09_e/ag_com_12mar09_e.htm

ここでの主要議題は、アメリカの直接・不足払い補助金制度の貿易歪曲度についての各国からの意見聴取でした。

ここで、日本側は、オーストラリア、ブラジルとともに、アメリカの直接・不足払い補助金制度に対し、次のような質問をしています。

「アメリカは、今後ともこれらの支払いが、特定の作物に対して、支持を与えるものではないといい続けて、この支払いを正当化するのですか?」

これらの疑問は、これ以前から、たびあるごとに出されるのですが、これに対するアメリカ側の答えは、いつも、一緒で、

「これらの支払いは、過去の生産実績に基づいて支払われており、かならずしも、特定作物の生産者が支払いの受領者となることは、要求していない。したがって、この支払いは、いかなる特定の作物への支払いでもないことを意味している。」

これらのやり取りが、今度は、ブーメランのごとく、日本側にかえってこないことを念じるばかりです。

WTOドーハ・ラウンドにおけるアメリカ側の四つの誤算

現在の2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度のベースとなっている2002年農業法における価格変動対応型支払は、さらに、 それをさかのぼる1996年農業法の不足払いのスキームを引き継いだものですが、WTOにおいては、たびたび、その支払いが、貿易歪曲的な国内価格支持であると、指弾されてきました。

そこで、アメリカUSDAでは、WTOコンプライアンス違反への各国からの非難を、ドーハラウンド交渉で避けるために、次の四つのテクニカルな手段でかわそうとしてきました。

第一は、不足払いを、 「新・青の政策」として、認めさせようとすること

第二は、譲許ベースのカウントと、実行ベースのカウントが、異なることを利用して、黄色の政策から緑や青の政策への、ボックス・シフトを行うこと、

第三は、品目横断を隠れ蓑にした「デミニミス抜け穴(De Minimis loophole)」を利用すること、

第四は、2008年農業法において、これまでの直接・不足払い補助金制度のオルタナティブとして、 新たに、ACRE支払い(平均作物収入選択プログラム)制度を もうけたこと

しかし、 このいずれも、これまでのWTOドーハラウンドでの交渉では、各国から、否定されております。

すなわち、第一のアメリカの「新・青の政策」提案は、2004年7-8月合意のフレームワーク(「WTO July 2004 Package of Framework Agreements」)でされましたが、その後、 2006年3月22日に、非公式で開かれたコンサルテーション会議において、「従来の青の政策(Old Blue Box)の議論と、今回アメリカ側提案の新・青の政策(New Blue box)とは、隔絶して議論すべき」との意見でまとまりました。

第二のボックス・シフトは、黄色の政策から振り替えられ、水増しされたデミニミスや青の政策のカウントは、譲許ベースではなく、実行ベースでカウントされるため、譲許(約束) 水準での黄色の政策の削減は果たされているが、全体では、ボックス間のやりくりによって、貿易歪曲的国内補助金の総額(全体的削減)は、減額されていない、というトリックです。

黄色のボックスから青のボックスへのボックス・シフト」(box shifting amber box to blue box)または、「補助金の衣替え」(reclassify subsidies)などといわれています。

これを、シーリングと実際適用との間のギャップにある、国内支持政策の水増し(the stretch of water )または、オーバーハング(Overhangまたは、Binding Overhang)といっています。

2005年12月18日の香港でのWTOでの最終合意閣僚宣言(ドーハ作業計画閣僚宣言)のパラグラフ5(On domestic support)において、次のような、「ボックス・シフティング規制ルール」ともいうべきものが付け加えられました。

「貿易歪曲的国内支持全体の削減は、助成合計総量の最終譲許水準、デミニミス及び青の政策の削減の合計の方が全体の削減より小さくても行われる必要がある」

これによって、アメリカのボックス・シフティングを利用した黄色の政策逃れは、誤算に終わりました。

また、これによって、第三の品目横断を隠れ蓑にした「デミニミス抜け穴(De Minimis loophole)」利用も、封じられることとなります。

ちなみに、アメリカのボックスシフティングの実態についてですが、 2001年2月届出の黄色の政策(AMS)では144億ドル、ドーハラウンドでは76億ドルと、68億ドル減少していますが、かわりに、デミニミス+27億ドル、青の政策+48億ドル、緑の政策0、となっており、実質的なTDS(AMS(黄色) +デミニミス+ 青の政策)は、 逆に、7億ドルの増加になってしまっているという現況のようです。

第四のACRE支払い(平均作物収入選択プログラム)制度についても、これまでの2002年農業法でのスキーム以上に黄色の政策であるとの批判が高まっています。

FAPRI(Food and Agricultural Policy Research Institute)が昨年8月に予測したACRE支出の数値によりますと、2009年11,683百万ドル、2010年2,283百万ドル、2011年 2,203百万ドル、2012年2,039百万ドル,2013年1,901百万ドルになるとしています。

アメリカのACREも含めた黄色の政策のシーリングが,年ベースで191億ドルですので、いかに、このACREが貿易歪曲的な働きをしているか、ということが、各国からの警戒心につながっているものと思われます。

先にあげた 2009年3月12日にWTOで開催された「 committee meeting 」でも、アルゼンチン、オーストラリア、カナダの代表が、アメリカのACREについて、黄色の政策ではないことについての説明をアメリカ側に求めたましたが、アメリカ側は、実績がまだ出ていないことを理由に、その説明を拒否したといわれています。

このACREが、黄色の政策に分類される理由として、次のことが挙げられています。

「ACRE支払いが、作付けに基づき、作付面積と平均作物販売価格と収量とに基づく限り、WTOでは、農作物価格支持補助金の黄色の政策のカテゴリーに分類される」

5.WTOドーハラウンド決着で国内農業支持政策は、どう、変革を迫られるのか?

WTOドーハラウンドは、2009年9月のG20での各国の首脳の確約(ピッツバーグ・ステートメント)によって、2010年中での決着が合意されたところですが、今後、新たなモダリティ・テキストの新版が出るかどうかについては、微妙な情勢のようです。

すなわち、一部には、合意のため、新しいテキストの必要性を強調している向きもあるようですが、 これまでの合意点を崩さないためには、すくなくとも、昨年12月の第四版モダリティ・テキストをベースに、妥結への議論が進められるであろうというのが、大方の関係者の見方であり、その意味では、ここにいたるまでのWTO内部での論議に、大幅な変更はないものと推測されます。

残念ながら、日本が最重要項目として主張している、①重要品目の十分な数と柔軟な取扱いの確保、②上限関税の設定阻止、③関税割当の新設、についても、2008年12月6日の改訂モダリティ案と大きく変わることはなさそうです。

そこで、 これまでに出ている昨年12月の第四版モダリティ・テキストをベースに、日本への影響を試算してみますと、次のようになるかともいえます。

第四版モダリティ・テキストにおいては、

助成合計総量の最終譲許水準の削減(Final Bound Total AMS)(FBTA)

貿易歪曲的国内支持全体の削減(Overall Trade-Distorting Domestic
Support)(OTDS)

が打ち出されていますが、

Final Bound Total AMS(助成合計総量の最終譲許水準)(黄色の政策)(黄色の削減)

(1).AMSが400億ドル以上は、70%削減
(2).AMSが150億ドル以上は、60%削減
(3).AMSが150億ドル以下は、45%削減

Overall Trade-Distorting Domestic Support(OTDS)(貿易歪曲的国内支持全体の削減)(全体的削減)
注-OTDS=Final Bound Total AMS( 黄色の政策) +デミニミス+パラグラフ8にもとずく青の政策 この三つの合計額

(1).OTDSが600億ドル以上は、80%削減
(2).OTDSが100億ドル以上は、70%削減
(3).OTDSが100億ドル以下は、55%削減

となっています。

これに変化がなければ、日本のFinal Bound Total AMSは、2000年約束水準で3兆9729億円(431億ドル)ですので、

階層は、
AMSについては、the top tier、
OTDSについては、the middle tier
該当ということで、

AMSは、70パーセント削減、
OTDSについては、農業総生産額の40%以上であることによる追加的努力分が、+5%加算され、70+5=75パーセント削減、
となりそうです。

そこで、日本の一部に、「これまでの日本の黄色の既存削減枠(いわゆる『貯め』)を、「戸別所得補償制度」の原資に使おう」、と主張される向きもあるようですが、果たして、どうなのでしょう?

2000年約束水準で、日本の黄色の政策は、3兆9729億円、これに「デミニミス+パラグラフ8にもとずく青の政策」を加えたのがOTDSですが、2006年では、デミニミス376億円、青の政策701億円となっているようです。

仮に黄色の削減率7割であれば、削減後は
3兆9729億円×30パーセント=1兆2千億円程度(Final Bound Total AMS” ( Amber Box))となります。

しかし、すでに、日本は、2006年時点で、黄色の政策は、5712億円となっており、2000年約束(譲許)水準の14%まで削減しているので、余分に削減している部分は、
30パーセント-16パーセント=1兆2千億円-5712億円=7200億円程度 ということになります。

では、この部分については、今後、あらたに黄色の政策としてつかえるのか?、ということになるのですが、この対象作物を替えないで「黄色の政策から、再び、黄色の政策へ」( “amber to white to re-amber”)のゾンビ的な解釈は、WTOの趣旨からして、通用しないように思えます。

さらに、1995-2000年ベースでの黄色の政策と青の政策とを結合させたCapである「個別産品毎の黄の政策の上限規制」(Commodity-Specific AMS Cap)という品目別AMSの上限があります。
これらは、国別、個別品目別に、モダリティの付属書において一覧表にされます。
これが適用されるとなると、コメ農家救済を主軸としたスキームは、この点からもCombined Capとしての制限を受けうる可能性も大きいといえます。
「個別産品毎の黄の政策の上限規制」(Commodity-Specific AMS Cap)の帰趨如何によって、黄色から黄色への安易なボックス内シフトは、難しくなるのではないでしょうか?

6.WTOドーハラウンド決着後の各国の国内農業支持政策の見直し機運

WTOドーハラウンド決着後は各国の国内農業支持政策は、いずれも、修正を 余儀なくされると思います。

とくに注目されるのは、アメリカのオバマ政権の動きです。

2008年農業法が、ブッシュ政権とオバマ政権との間で誕生したという事情があるにせよ、 ブッシュ政権からの「残された荷物」である、直接・不足払い補助金制度については、ドーハ・ラウンドが決着した時点で、見直したい、という機運が、オバマ政権では、発足当初からあるようです。

オバマ大統領は、2010年予算で、直接支払いのカットを議会に要請したほか、直接支払いの上限を、一人4万ドルに制限すること、CCPについても、6万5千ドルの上限を設けること、その代わりとして、145.000ドル融資限度のマーケティングローンの創設をするなどの対策に乗り出しており、これらのカットにより生じた財源を、環境改善事業などの新興事業部門にシフトさせる考えであるといいます。

この流れからすると、アメリカは、すでに直接支払いの方向から、新しい環境部門への財源のシフトを図りつつあるようです。

これらの動きは、WTO対策であるとも見られています。

すなわち、WTOをいいきっかけにして、巨大な財政支出を伴うこの直接・不足払い補助金スキームを見直したいというインセンティブが強いようです。

日本においても、とくに、品目横断的経営安定対策については、WTOコンプライアンスの点からは、多少の見直しを迫られるのではないかと思っています。

私は、この品目横断的経営安定対策は、WTOコンプライアンスのすれすれを狙った、当時の農林水産官僚の皆様の英知が絞られた傑作であると評価しています。

ただ、この法案提出の時点(2006年6月21日成立)では、アメリカの「新青の政策」が、WTOから認知されるのではないか、との前提がありました。
その後の経緯は、上記のとおりアメリカの「新青の政策」は、認知されませんでした。

品目横断政策には、「げた」部分(生産性条件格差の是正対策)と、「ならし」部分(販売収入の変動緩和対策)の二つがあり、さらに、「げた」部分については、「過去の作付面積に基づく支払い」「年々の生産量等に基づく支払い」がありました。

当時の農林水産省の解釈では、

「過去の作付面積に基づく支払い。」は、現実の生産と関連していないので、緑の政策に該当。いわゆる「緑ゲタ」
「年々の生産量等に基づく支払い。」は、黄色の政策、いわゆる「黄ゲタ」
「ならし」部分(販売収入の変動緩和対策)」は、品目横断的(non-commodity specific)であり、生産調整を伴った「生産制限的(production-limiting )である」との条件の下に、「青の政策」

との見解があったように思えます。

しかし、ドーハ・ラウンドの決着によって、黄ゲタ部分はもちろんですが、緑ゲタについても、「過去の生産にもとずく」との部分が、アメリカ同様、問われかねないし、また、「ならし」部分についても、グレーゾーンの色合いがより強まってくるものと思われます。

7.結論-戸別所得補償についてのWTOコンプライアンス適合度

以上のことから、戸別所得補償についてのWTOコンプライアンス適合度を点検してみましょう。

(1)適合度判断の基準

判断の基準をわかりやすく書いたWTOのサイト

WTO「Domestic support」
http://www.wto.org/english/tratop_e/agric_e/ag_intro03_domestic_e.htm
がこの場合、参考になりそうです。

これによりますと

A.緑の政策の条件

政策原資は、消費者からの移転を伴わう原資を含まないものであって、生産者への価格支持効果を持つものであってはいけない。
政策プログラムにおいては、研究プログラムや、トレーニングプログラムなどを含むものとなる。
生産者に対する直接支払いとしては、生産決定につながらないもの(この支払いが農業生産の経営形態や生産量に影響を与えない、デカップリングされたもの)
直接支払いの量が、支払い後の一定期間のあいだ、 生産、価格、 生産要素に、 リンクするものであってはならないこと。
直接支払いを受けても、それによって、生産を要求されるものではないこと。

その直接支払いの意味するところが、次のものに関係している場合には、別の基準によるものとする。

デカップリング所得補助、所得補償、セーフティーネットプログラム、自然災害救助、構造調整プログラムによったもの、環境プログラムによったもの、地方支援プログラムによったもの、

B.青の政策の条件

支払いは、「一定のエリア」「一定の産品」「一定数の家畜」に対するものであること。
支払いは、「一定の期間における生産の85パーセント以下のもの」に対するものであること。
緑の政策が、デカップリングされた支払いすべてを カバーするのに対して、青の政策は、支払いを受けるためには、なお、 生産は必要ではあるが、 現実の支払いは、現在の生産量に、直接、関係するものであってはならない。

C.デミニミス(De minimis)の条件

農業生産額の5%以下の補助については、品目を特定していない国内支持(品目横断的 (non-commodity specific)な助成)であれば、少量であることから、「デミニミス」として削減対象から除外される。

なお、ドーハラウンドでは、これに追加的制約条項が加わる。

(2)戸別所得補償についてのWTOコンプライアンス適合度判断

上記によって、戸別所得補償についてのWTOコンプライアンス適合度を点検すると、次のようになりえます。

A.米戸別所得補償モデル事業

米戸別所得補償モデル事業は、「生産制限的(production-limiting )」であるが、「価格の上昇・下降によって、補償金額が上昇・下降」し、「現在の生産が、補償金額と連動」している。

判断

1.緑の政策とは、 まったくいえない。 (理由-「この支払いが農業生産の経営形態や生産量に影響を与えない、デカップリングされたもの」ではない。)
2.現実の支払いが、現在の生産量に、直接、関係しており、また、現実の支払いが、現在の販売価格に、直接、関係しているので、青の政策でもない。(理由-「生産は必要ではあるが、 現実の支払いは、現在の生産量に、直接、関係するものであってはならない。」ではない。)
3.生産制限計画による直接支払いであっても、「一定の面積及び生産に基づいて行われる支払」であるとはみなされえない。(理由-価格と連動しているため「一定」(fixed)とはみなされない。付属書2.6「生産に係る国内価格又は国際価格に関連し又は基づくものであってはならない。」に違反)
3.「標準的な生産に要する費用」の計算方式が明らかにされていないので、アメリカの言い訳である「これらの支払いは、過去の生産実績に基づいて支払われている。」と同様の言い訳が通用しうるのかどうかが、明らかではない。(理由-農業協定6項5項(i)違反の可能性、付属書2.6(b)「生産者によって行われる生産の形態又は量(家畜の頭数を含む。)に関連し又は基づくものであってはならない。」に違反)
4.アメリカの2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度と同様、WTOの農業協定のアーティクル6と附属書2に背馳する部分がある。(理由-該当条項は、 第6条の5項(a)(ⅰ)、付属書2の6(b)、付属書2の6(c)、付属書2の7(b)、付属書2の7(c)などであり、とくに、第6条の5項(a)(ⅰ) )
5.「標準的な生産費用」の中で「家族労働8割」とある。(理由-付属書2の7(b)の「当該生産者の喪失した収入の七十パーセント以上の額を補償するものであってはならない。」に違反)
6.米に品目を特定しているため、産品特定的(product specific )である。(理由-第6条4項(a)(ⅱ)「産品が特定されない国内助成であって、その総額が加盟国の農業生産総額の五パーセントを超えないもの」に違反)

以上のことから、しいて言えば、アメリカが過去に提案した「新青の政策」に近いといえるが、アメリカの不足払い補助金制度においては、不足払い額単価が市場年度内の全米平均市場価格の最高値を上回った場合には、不足払い額単価はゼロになるのに対して、戸別所得補償制度においては、「定額部分+アルファ」の補償が行われるという点などをも含め、アメリカの「新青の政策」よりも、より「黄色の政策」に分類されえる。

B.水田利活用自給力向上事業

水田利活用自給力向上事業は、「生産制限的(production-limiting )」ではなく、また、品目を特定(product specific )している点で、品目横断的 (non-commodity specific)ではない。

したがって、まさに、「黄色の政策」そのものの要件を備えている。

結語-WTO非適合型直接支払いからWTO適合型直接支払いへのシフトが必要-

以上のことから、現にWTOで糾弾されている2008年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度に極似したスキームである戸別所得補償方式を、日本政府が、ドーハ・ラウンド合意間近いこの時点で、しかも、2010年中にドーハ・ラウンド合意を旨とした先月のG20でのピッツバーグ・ステートメントに、 日本の総理が加わっている以上、このタイミングで、この政策を打ち出すことは、たとえ、近時の世界の 保護貿易主義の台頭によって、WTOの結論が翻弄されることはあるであろうにしてみも、 あまりに、無謀であるといえます。

むしろ、この際、ドーハ・ラウンド決着を前提にしての、オバマ政権がすでに志向し始めているような、農政の環境シフトや、農村地域・農業地域の総合的地域政策的観点からの政策樹立といった、パラダイム・シフトが必要のように思えます。

直接払いならどんなスキームでもいいというわけではありません。

WTO適合型直接支払いのスキームもあれば、WTO非適合型直接支払いのスキームもあります。

『日本にも、EU型の直接支払いを導入すべし』とか『直接支払いをしていないのは、日本だけ』論を展開されている政治家の方の想定している「EUの直接支払い」とは、その旧来型のスキームであった、1992年のMacSharry reforms(Old Cap)と呼ばれているWTO非適合型直接支払い(“compensatory payments” と呼ばれる直接支払い)を、ごっちゃにして、いわれている嫌いがあるようです。

MacSharry reformsに対する批判は、大きく二つあって、第一は、財政負担があまりに大きくなってきていること。第二は、必ずしも、生産に対して、ニュートラルではない。との批判でした。

この批判は、今回の日本の戸別所得補償制度にたいしても、そのままの批判点となりえそうです。

直接支払いの先進地域であるEUが、2003年のFischer reform(New Cap)とアジェンダ2000と呼ばれるCAP見直しで目指したのは、まさに、これらのMacSharry reformsに対する批判に応え、CAPをWTO適合型直接支払い(“decoupling’ payments “と呼ばれる直接支払い)とするための改革であり、その内容は、『直接支払いから単一支払いスキーム』(From a direct payments system to a single payment scheme)への転換でありました。

すなわち、それは、farm support (Pillar 1) と rural development (Pillar 2))とからなるもので、完全に生産からニュートラルなデカップリングと、直接支払いを受け取るすべての農民に対して義務付けられる農地の適正な農業・環境条件の維持についての強制クロス・コンプライアンス、そして、農村開発政策の強化に、財源を、直接支払いを減額してもシフトさせる農村開発戦略から成り立っています。

このように、WTOコンプライアンス適合型の直接支払いをしているのは、Fischer reform後のEUだけであり、日本が戸別所得補償制度によって真似ようとしているアメリカの直接支払いも、EUのFischer reform前の直接支払いも、いずれも、WTO非適合型直接支払いだということを銘記しなければならないでしょう。

日本においても、過去の直接支払いの先進国がたどった直接支払いのもつ、宿命的な財政負担のトラウマから回避するためのスキームを、日本版WTO適合型直接支払いのスキームとして、いまから確立しておく必要があります。

以上

参考1. 戸別所得補償制度が抵触するであろうWTO農業協定 アーティクル6と付属書2の該当箇所一覧

農業に関する協定 第四部

第六条 国内助成に関する約束

4 (a) 加盟国は、次の国内助成を現行助成合計総量の算定に含めること及び削減することを要求されない。
(i) 産品が特定された国内助成(自国の現行助成合計量の算定に含めるべきものに限る。)であって、その総額が当該年における一の基礎農産品の生産総額の五パーセントを超えないもの
(ii) 産品が特定されない国内助成(自国の現行助成合計量の算定に含めるベきものに限る。)であって、その総額が加盟国の農業生産総額の五パーセントを超えないもの
(b) 開発途上加盟国については、この4に定める百分率は、十パーセントとする。

5 (a) 生産制限計画による直接支払であって次のいずれかに該当するものは、国内助成を削減する約束の対象とならない。
(i) 一定の面積及び生産に基づいて行われる支払
(ii) 基準となる生産水準の八十五パーセント以下の生産について行われる支払
(iii) 一定の頭数について行われる家畜に係る支払
(b) (a)に定める基準を満たす直接支払に係る削減に関する約束の対象からの除外は、加盟国の現行助成合計総量の算定において当該直接支払の価額を除外することによって行う。

第七条 国内助成に関する一般的規律

1. 各加盟国は、農業生産者のための国内助成措置であって、附属書二に定める基準を満たすことにより削減に関する約束の対象とならないものについて、当該基準を引き続き満たすことを確保する。

2. (a) 農業生産者のための国内助成措置(修正されたものを含む。)及び後に導入された措置であって、附属書二に定める基準を満たすこと又はこの協定の他の規定に基づいて削減の対象から除外されることを示すことができないものについては、加盟国の現行助成合計総量の算定に含める。
(b) 助成合計総量に関する約束が加盟国の譲許表第四部に明記されていない場合には、当該加盟国は、前条4に定める該当する百分率を超えて農業生産者に助成を行ってはならない。

附属書二 国内助成(削減に関する約束の対象からの除外の根拠)

5 生産者に対する直接支払
生産者に対する直接支払(現物による支払及び現に徴収されなかった収入を含む。)による助成であって削減に関する約束の対象から除外されるものとして扱われるものは、1に定める基本的な基準のほか、6から13までに定める直接支払の個別の類型に係る特定の基準を満たすものでなければならない。6から13までに定める直接支払以外の既存の又は新たな類型の直接支払であって削減の対象から除外されるものとして扱われるものは、1に定める一般的な基準のほか、6の(b)から(e)までに定める基準に適合するものでなければならない。

6 生産に関連しない収入支持
(a) この支払を受けるための適格性は、定められた一定の基準期間における収入、生産者又は土地所有者であるという事実、要素の使用、生産水準その他の明確に定められた基準に照らして決定される。
(b) いずれの年におけるこの支払の額も、(a)の基準期間後のいずれかの年において生産者によって行われる生産の形態又は量(家畜の頭数を含む。)に関連し又は基づくものであってはならない。
(c) いずれの年におけるこの支払の額も、(a)の基準期間後のいずれかの年において行われる生産に係る国内価格又は国際価格に関連し又は基づくものであってはならない。
(d) いずれの年におけるこの支払の額も、(a)の基準期間後のいずれかの年において使用される生産要素に関連し又は基づくものであってはならない。
(e) この支払を受けるために、いかなる生産を行うことも要求されてはならない。

7 収入保険及び収入保証に係る施策への政府の財政的な参加
(a) この支払を受けるための適格性は、農業から得られる収入のみを考慮して、過去三年間における若しくは過去五年間のうち収入が最大及び最小の年を除く三年間における総収入(同一又は同様の施策により受けた支払を除く。)の平均の三十パーセントに相当する価額又は純収入を用いて算定した同等の価額を超える収入の喪失があることに基づいて決定される。この条件を満たす生産者は、支払を受けるための適格性を有する。
(b) この支払の額は、生産者がこの援助を受けるための適格性を有することとなった年の当該生産者の喪失した収入の七十パーセント以上の額を補償するものであってはならない。
(c) この支払の額は、収入にのみ関連するものとする。この額は、生産者により行われる生産の形態若しくは量(家畜の頭数を含む。)、当該生産に係る国内価格若しくは国際価格又は使用される生産要素に関連するものであってはならない。
(d) 生産者がこの7の規定に基づく支払及び8の規定(自然災害に係る救済)に基づく支払を同一の年において受ける場合には、これらの支払の総額は、生産者の損失の総額の百パーセント以上であってはならない。

参考2.アメリカがCCPを『青の政策』とする根拠として掲げている農業協定アーティクル6.5(Article 6.5)のドーハラウンドにおける解釈について

アメリカは農業協定6項5項(i)「一定の面積及び生産に基づいて行われる支払」(such payments are based on fixed area and yields)を根拠として、CCPを青の政策として言い張っているが、ドーハラウンド交渉においては、次のようなことになっている。
「WTO agreement on agriculture: The blue box in the July 2004 framework agreement」(Ivan Roberts.abare eReport 2005.4)
http://www.abare.gov.au/publications_html/trade/trade_05/er05_wto.pdf

Extending blue box exemptions to include payments that do not require production and ways that these might be disciplined
(生産することや、規制されるであろう方法を必要としない支払いを含む、『青の政策』の拡大について)

■ Allowing ‘payments that do not require production’ would introduce payments related to prices into the blue box.
(生産を必要としない支払いを青の政策に含めることは、価格に関係した支払いを青の政策に含めることにつながってしまう。)

These payments currently  fall under the amber box. Such a change would make it easier for the United States to ‘achieve’substantial cuts to its amber box payments.
(これらの支払いは、今のところは、黄色の政策に分類される。
上記のような変更は、アメリカにとって、黄色の政策のカットをたやすくしてしまう。)

■ The new blue box provision would allow additional market distorting support and would weaken current WTO domestic support disciplines.
(『新青の政策』条項を設けることは、さらなる貿易歪曲的国内支持を付加することになり、現在のWTOの国内支持規制を弱くさせてしまう。)
It may also enable the United States to meet the Doha Round mandate of achieving ‘substantial reductions in domesticsupport’ without having to change the form or actual level of support to US producers.
(さらに、されは、WTOドーハラウンドにおける『国内支持の実質的な縮減」という命題に、アメリカをして、適合させてしまうことにつながってしまう。)

■ Just stipulating that farmers do not need to produce to receive payments does not mean that those payments will not encourage additional production.
(農民が直接支払いを受けるには、生産することを要しないと規定するということは、それらの支払いが更なる追加的生産を奨励しない、ということを意味するものではない。)

■ If payments are related to prices, such as counter cyclical payments,they are likely to influence production.
(もし、直接支払いが、アメリカのカウンター・サイクリカル支払いのように、価格に関係するものであったなら、)それらの支払いは、生産にたぶんに影響するであろう。)

■ The stipulation of fixed and unchanging bases in blue box criteriain the WTO negotiating agreement will help to limit market distortions arising from growers’ expectations of changing bases in the future.
(WTO農業協定における青の政策の基準である『固定され、変わらないベース』との規定には、生産者が、将来、ベースが変わることを予測しての、市場の歪曲を制限する意味がある。)

■ The weakening of the WTO domestic support rules arising from the inclusion of the new blue box provision (allowing the inclusion of some forms of price related support) could be limited by placing further controls on such support.
(『新青の政策』条項の新設によって、価格に関連した国内支持が寝青の政策に含まれることを許してしまうことで、WTOの国内支持規制が弱まってしまうことは、そのような支持に対し更なるコントロールをすることに限界を与えてしまう。)

The 5 per cent limit on blue box exemptions
(青の政策に対する5パーセント例外制限について)

■ US counter cyclical payments could be included under the new provision in the negotiating agreement to allow blue box exemptions or payments where no production is required.
(アメリカのカウンター・サイクリカル・ペイメントは、新青の政策の下では、青の政策の例外を認められるものに含まれうるし、また、生産が要求されない直接支払いにも含まれうる。)

Under present legislation these payments would be well below the proposed 5 percent limit.
(現在のWTO規制においては、これらの支払いは、5パーセント限界値以下であろう。)

This is largely because the value of the items receiving support payments constitutes only about 25 per cent of the total value ofUS agricultural production.
(これは、大きく、支持支払い対象品目の値が、アメリカの農業生産の総価値のたった25パーセントとしかないことによるものである。)

So the 5 per cent limit is equivalentto 20 per cent of the value of the supported activities.
(したがって、5パーセント制限ということは、支持行為の価値の20パーセントと等しいということになる。)

Maximum countercyclical payments are estimated at US$7billion a year, which is well below the 5 per cent limit which would vary between about US$9.2 billion and US$10.2 billiona year.
(カウンター・サイクリカル・ペイメントの最大支払いは、一年間70億ドルであると評価されており、これは、一年で、92億ドルから102億ドルの間で、変化しうるなかで、5パーセント制限以下になっているものである。)

Under present WTO provisions, the United States already has the ability to provide payments of over 40 per cent of the value of program crops even without the addition of the new blue boxexemption provision in the negotiating agreement.
(現在のWTOの条項によれば、アメリカは、新青の政策の例外条項を設けなくとも、すでに、 カウンター・サイクリカル・ペイメント・プログラムの対象作物の価値の40パーセントを超える支払い能力を備えている。 )

■ The European Union is currently the largest user of blue box exemptions, with its most recently notified use being around 9 per centof its total value of agricultural production.
(EUでは、現在は、青の政策の例外措置を使用している最大のユーザーであり、最近の数値では、農業生産の総価値の9パーセントを使っていると通告されている 。)

This is well above the proposed 5 per cent cap.
(これは、5パーセント以上の数値である。)

■ Under EU reforms, support is being restructured toward single farmpayments on which the European Union seems likely to seek green box exemptions on the grounds of decoupling.
(EU改革によって、これらの支持政策は、単一支払いに向けて、リストラクチャーされており、EUでの直接支払いは、デカップリング・ベースでの緑の政策での例外措置を模索しているように見える。)

Such a transition could enable the European Union to manage its blue box payments to fall within the proposed 5 per cent cap.
(このような直接支払いの移行は、EUをして、これまでの青の政策を5パーセント以下のキャップにとどませるよう管理することを可能にさせうるものとなっている。)

■ In recent years, EU support levels (as indicated by the Aggregate Measurement of Support) have been markedly below the European Union’s permitted limits.
(最近のEUでの支持レベルは、AMSで示される限り、著しくEUが認められているレベルを下回ってきている。)

This would appear to give the EuropeanUnion flexibility to offer marked cuts to AMS limits in the DohaRound without having to reduce its present levels of nonexempt domestic support.
(このことは、現在での例外とならない国内支持の現在のレベルをこれ以上減らさなくても、ドーハラウンドにおけるAMS制限を著しくカットすることへのオファーに対して、 柔軟に対応できることを可能にしているように見える。)

以上

戸別所得補償制度の生みの親・篠原孝さんの嘆き節ブログ

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:41 PM

おやおや、といったところである。

事実上、戸別所得補償制度生みの親として、自他共に認められる篠原孝さんが、今日のブログでこんな記事を書いていらっしゃる。

参考「民主党の政策論議の場づくり-09.11.11-」

以下、引用

< 歪められた農業者戸別所得補償>

ちょうどその密着取材を受けているとき、私が長年関わってき農業者戸別所得補償が、来年度は米を先行させるモデル事業で5600億円を予算要求することが決まり大変な衝撃を受けた。

私が手塩にかけて育んできた政策が、音を立てて崩れていく。

麦・大豆・菜種・そば・飼料作物といった土地利用型作物に米並みの所得を補償することにより、米の過剰を減らし自給率も高め‥‥と狙っていたのに、米を先行させては何にもならない。

「馬鹿な‥」と声をあげずにいられなかった。このいびつな形の事業(2011年度に1兆円で開始するのがマニフェスト)は既に政府内で 決定されており、我々は関与しようがないのだ。

以上引用終わり

まあ、また、皮肉っぽくなってしまうが、この戸別所得補償制度と、例の自民党政権の置き土産か、地雷か、時限爆弾かはわからないのだが、「減反選択制プラス直接支払い」のスキームが、引き継いだ民主党政権が、その違いも見分けできないままに、幸か不幸か、渾然一体となって、「直接支払いモト゜キ」のような政策スキームとなって生まれてしまったということなのでしょうかね?
(まさか、『だんな、いいスキーム、用意してまっせ』などといって、一見新品に見える亡妻が残した中古品を売りつけたんじゃあないんでしょうね。それとも、「減反選択制プラス直接支払い」スキームは、トロイの木馬だったのかも?)

全中の馬場部長が、公明党との会談の中で、「農家の戸別所得補償というより、生産調整の追加メリット措置の一環としてとらえている」との認識を示したというのだが、さすがに、よくお分かりになっている、と言う感じだ。

つまり、支払い形態のみ『直接支払い」というだけで、WTO農業協定にもとづく『直接支払い』ではないということですね。

石破前農林水産大臣の下に、構築されてきた減反選択制は、
「米の買い支え政策をやめる代わりに、減反に加わるかどうかは、農家の自立的判断に任せ、減反に参加した農家には、これまで減反奨励金に使った資金を、所得補償に振り向ける」
というスキームとすると。

このスキームにおいては、これまでの減反奨励金とトレード・オフとなるのが、戸別所得補償、ということになってしまうのだが。

石破さんの『米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向』の「選択肢3」
によれば、「生産費の低下スピードと生産調整の「緩和」による米価下落のスピードを調和させることにより、財政負担を抑えることが可能となる。」んだそうですが、まあ、このフローティングのような発想は、善意のマーケットメーカーがいなければ、不可能のスキームのようですね。

まさか、空中給油(米価下落のスピード)しながら飛ぶ戦闘機(生産費の低下スピード)を、オタク的に想像しているわけではないでしょうが。

米の卸は、ギリギリ下限を狙って値決めしてくるに違いありませんから、これじゃあ、永遠に給油ポットをつないで、低空飛行しなくちゃならない羽目におちいりそうですね。

(そういえば、いつだか、昔、豚肉の基準価格を決める小委員長を担当していたときに、今はなき江藤隆美先生から、「おまえ、基準価格の相場は絶対事前に漏らすな。差額関税狙いで、すぐ、台湾に電話するやつがいるから注意しとけ。」っていわれて、業界の厳しさを身を持って味わったことがありましたっけ。

この豚肉の差額関税制度とおんなじようなモラルハザードは、戸別所得補償制度においても、容易に発生しえますね。

すなわち、
価格水準にかかわらず交付する定額部分=標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)(家族労働費8割+経営費)
マイナス
標準的な販売価格(過去数年分の平均)

なんですから、農業関連業界では、ある年あたりから定額部分の相場が大体決まってきたら、「標準的な生産に要する費用」関連業界では、定額部分相場にあわせてのすれすれの高い資材の価格増加を狙ってくるであろうし、いっぽう、「標準的な販売価格』関連業界では、定額部分相場にあわせてのすれすれの低い米の卸の値づけをはかってくる、という構図ですね。
すべて、これ、フリーライダーの裨益の民ってことになるんですね。)

日本の米作り農家が、総ポール・プッシャー(pole pusher、点滴スタンドを押しながら歩く人)となる姿は、見たくないものですね。

インセンティイブの根底の精神は関係なく、財源のシフトと表面的なトレード・オフにばっかり頭がいっちまっている器用貧乏的構想ってとこでしょうかね。

その意味では、生産インセンティイブを直接支払いが持ってしまっている。ということになってしまう。

一方、篠原さんが考えているらしいスキームというのは、生産品目間のハンディをイコールフッティングにするためのインセンティブとして、戸別所得補償を考えていた、というスキームなんでしょうかね。

農業内でのダイバーシフィケーション(多様化)(agricultural crop diversification)を実現するために、この戸別所得補償のスキームを考えられていた節が見られますね。

ここらあたりは、いかにも、ご郷里の風土産業論の三沢勝衛さんのお考えに似ていますね。(三沢さんは松本深志高校、篠原さんは、長野高校、関係ないか。)

生産優位性のないものに、下駄を履かせ、ダイバーシフィケーションによる地域活性化を狙う、という意味での、戸別所得補償、ってとこでしょうかね。

これも、篠原さんの専売特許である地産地食へのインセンティブにもなりえますね。

ですと、こちらのほうは、より、デカップリングのほうの考え方に近くなっているようなんですが。

もっとも、これでも、まだまだ、特定作物への誘導ということになって、ニュートラルな直接支払いということにはなりませんがね。

しかも、今回提示された「水田利活用自給率向上」スキームは、真黄色のキ-ですからね。

身内からこのような反論が出てきては、しかも、戸別所得補償制度の生みの親から、このようなクレームなり異論が出てきているんでは、何やら、おぼつかなくなってきましたね。

それにしても、以上に見た例は、インセンティブには、客観的に申し開きができる理屈がとおっていることが必要、という、ことの、好例なんでしょうね。

ボス交感覚で、農政をやられたんでは、たまったもんではありませんぜ。

それと、大臣記者会見で、長年、秋田県で、減反破りをして、”うぶ”で”おぼこ”な秋田県内土着農民を泣かせてきた「あのかたも、戸別所得補償制度に賛同いただいている」、などと、オピニオンリーダー扱いにして、いうことだけは、やめてほしいですね。

どんだけ、あの方に、秋田県農政は、長年、苦しめられて来たんだか—

あのかたの横紙破りで、正直者が馬鹿を見たのが、過去の秋田県農民だど—-
(減反破りをされた面積の帳尻あわせで県内調整を迫られたのは、この県内土着農民だったんですぞ)

それが今はすつかり、戸別所得補償マンセイ派になっちまっている。

これら戸別所得補償マンセイ派がすぐに口にするのは、『日本においても、EU並みの直接補償を』とか『直接支払いをしていないのは、日本だけ』などと、二の次には、言われるのですが、どうも、これらの方は、その当のEUが、1992年のMacSharry reforms(Old Cap)による巨額の財政負担を伴う直接支払いに耐えかねて、すでに2003年のFischer reform(New Cap)とアジェンダ2000によって方向転換(farm support (Pillar 1) と rural development (Pillar 2))をしているということをご存知ないらしいんですね。

つまり、WTOコンプライアンス適合型の直接支払いをしているのは、Fischer reform後のEUだけ。
日本が真似ようとしているアメリカの直接支払いも、EUのFischer reform前の直接支払いも、いずれも、WTO非適合型直接支払いだってことを、ゆめ、お忘れなく。

あーあ。

「水稲共済」の加入者が戸別所得補償の対象者というのだが、ちょっと、理論的におかしいですね。

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:39 PM

農林水産省は9日、10年度から全国で実施するコメ戸別所得補償モデル事業の補償対象となるのは、コメ農家の多くが加入している「水稲共済」の加入者(約180万戸)どあり、未加入者が補償対象になるには、前年度の販売実績を証明する書類の提出が必要となる。

というのだが、ここで思い出されるのは、水稲共済である農業災害補償制度が発足するときのGHQとのやり取りである。

当初、農林省では、農業保険制度としたのだが、「掛け金の一部を国庫が代わって負担する制度を保険とはいわない」とGHQが横槍を入れてきて、「国家が災害による農業被害を補償する制度だから、保険というタイトルは、補償というタイトルに改めるべきだ」ということで、現在の農業災害補償制度という名前に落ち着いたという経緯がある。

なぜ、日本の農業保険が、保険のスキームではなくて、補償のスキームになったかだが、当時の日本列島の農業地帯においては、冷害常襲地帯があって、これらの地帯の農業者にとっては、事故率からいって、保険のスキームが成り立たないという事情から発しているとされている。

しかし、昭和36年から38年頃にかけて、強制加入の掛け金掛け捨てに対する不満が全国的に広まり、その慰撫のために、末端共済組合にも、共済金の一部留保を認める制度改正があり、不満の解消を見たという経緯がある。

で、今回「水稲共済」の加入者というのは、その農災掛け金の一部をすでに国庫が負担しているという意味で、すでに国家によるセーフティーネットがかかっている。

掛金は国がおおむね50%の負担(600億円強)をしている。
(掛け金の国庫負担率 農作物共済 水稲・陸稲:50%、麦:50~55% 畑作物共済 畑作物:55%、蚕繭:50% 果樹共済 50% 家畜共済 牛・馬:50%、豚:40% 園芸施設共済 50%
その他、共済組合への事務費負担金(約500億円)・ 特別事務費等補助金(6億円程度)がこれにくわわる。)

今回の戸別所得補償制度によって、ダブルの国家によるセーフティーネットが、災害と価格下落との両方にかかるとすれば、あわせて、現在の農業災害補償制度の見直し論がそれに伴わなければならないはずなのだが、どんなもんなのだろう?

価格下落を国家補償するとすれば、災害は、生産者自身の保険金によってまかなう、という理論的整理も成り立ちうるのだが—

なんやら毅然とした原則を無視した私生ルールが、近時の農政には、まかり通っているようである。

えっ?戸別補償制度生みの親・篠原さんの嘆き節ですって?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 8:37 PM

おやおや、といったところである。

事実上、戸別所得補償制度生みの親として、自他共に認められる篠原孝さんが、今日のブログでこんな記事を書いていらっしゃる。

参考「民主党の政策論議の場づくり-09.11.11-」

以下、引用

< 歪められた農業者戸別所得補償>

ちょうどその密着取材を受けているとき、私が長年関わってき農業者戸別所得補償が、来年度は米を先行させるモデル事業で5600億円を予算要求することが決まり大変な衝撃を受けた。

私が手塩にかけて育んできた政策が、音を立てて崩れていく。

麦・大豆・菜種・そば・飼料作物といった土地利用型作物に米並みの所得を補償することにより、米の過剰を減らし自給率も高め‥‥と狙っていたのに、米を先行させては何にもならない。

「馬鹿な‥」と声をあげずにいられなかった。このいびつな形の事業(2011年度に1兆円で開始するのがマニフェスト)は既に政府内で 決定されており、我々は関与しようがないのだ。

以上引用終わり

まあ、また、皮肉っぽくなってしまうが、この戸別所得補償制度と、例の自民党政権の置き土産か、地雷か、時限爆弾かはわからないのだが、「減反選択制プラス直接支払い」のスキームが、引き継いだ民主党政権が、その違いも見分けできないままに、幸か不幸か、渾然一体となって、「直接支払いモト゜キ」のような政策スキームとなって生まれてしまったということなのでしょうかね?
(まさか、『だんな、いいスキーム、用意してまっせ』などといって、一見新品に見える亡妻が残した中古品を売りつけたんじゃあないんでしょうね。それとも、「減反選択制プラス直接支払い」スキームは、トロイの木馬だったのかも?)

全中の馬場部長が、公明党との会談の中で、「農家の戸別所得補償というより、生産調整の追加メリット措置の一環としてとらえている」との認識を示したというのだが、さすがに、よくお分かりになっている、と言う感じだ。

つまり、支払い形態のみ『直接支払い」というだけで、WTO農業協定にもとづく『直接支払い』ではないということですね。

石破前農林水産大臣の下に、構築されてきた減反選択制は、
「米の買い支え政策をやめる代わりに、減反に加わるかどうかは、農家の自立的判断に任せ、減反に参加した農家には、これまで減反奨励金に使った資金を、所得補償に振り向ける」
というスキームとすると。

このスキームにおいては、これまでの減反奨励金とトレード・オフとなるのが、戸別所得補償、ということになってしまうのだが。

石破さんの『米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向』の「選択肢3」
によれば、「生産費の低下スピードと生産調整の「緩和」による米価下落のスピードを調和させることにより、財政負担を抑えることが可能となる。」んだそうですが、まあ、このフローティングのような発想は、善意のマーケットメーカーがいなければ、不可能のスキームのようですね。

まさか、空中給油(米価下落のスピード)しながら飛ぶ戦闘機(生産費の低下スピード)を、オタク的に想像しているわけではないでしょうが。

米の卸は、ギリギリ下限を狙って値決めしてくるに違いありませんから、これじゃあ、永遠に給油ポットをつないで、低空飛行しなくちゃならない羽目におちいりそうですね。

(そういえば、いつだか、昔、豚肉の基準価格を決める小委員長を担当していたときに、今はなき江藤隆美先生から、「おまえ、基準価格の相場は絶対事前に漏らすな。差額関税狙いで、すぐ、台湾に電話するやつがいるから注意しとけ。」っていわれて、業界の厳しさを身を持って味わったことがありましたっけ。

この豚肉の差額関税制度とおんなじようなモラルハザードは、戸別所得補償制度においても、容易に発生しえますね。

すなわち、
価格水準にかかわらず交付する定額部分=標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)(家族労働費8割+経営費)
マイナス
標準的な販売価格(過去数年分の平均)

なんですから、農業関連業界では、ある年あたりから定額部分の相場が大体決まってきたら、「標準的な生産に要する費用」関連業界では、定額部分相場にあわせてのすれすれの高い資材の価格増加を狙ってくるであろうし、いっぽう、「標準的な販売価格』関連業界では、定額部分相場にあわせてのすれすれの低い米の卸の値づけをはかってくる、という構図ですね。
すべて、これ、フリーライダーの裨益の民ってことになるんですね。)

日本の米作り農家が、総ポール・プッシャー(pole pusher、点滴スタンドを押しながら歩く人)となる姿は、見たくないものですね。

インセンティイブの根底の精神は関係なく、財源のシフトと表面的なトレード・オフにばっかり頭がいっちまっている器用貧乏的構想ってとこでしょうかね。

その意味では、生産インセンティイブを直接支払いが持ってしまっている。ということになってしまう。

一方、篠原さんが考えているらしいスキームというのは、生産品目間のハンディをイコールフッティングにするためのインセンティブとして、戸別所得補償を考えていた、というスキームなんでしょうかね。

農業内でのダイバーシフィケーション(多様化)(agricultural crop diversification)を実現するために、この戸別所得補償のスキームを考えられていた節が見られますね。

ここらあたりは、いかにも、ご郷里の風土産業論の三沢勝衛さんのお考えに似ていますね。(三沢さんは松本深志高校、篠原さんは、長野高校、関係ないか。)

生産優位性のないものに、下駄を履かせ、ダイバーシフィケーションによる地域活性化を狙う、という意味での、戸別所得補償、ってとこでしょうかね。

これも、篠原さんの専売特許である地産地食へのインセンティブにもなりえますね。

ですと、こちらのほうは、より、デカップリングのほうの考え方に近くなっているようなんですが。

もっとも、これでも、まだまだ、特定作物への誘導ということになって、ニュートラルな直接支払いということにはなりませんがね。

しかも、今回提示された「水田利活用自給率向上」スキームは、真黄色のキ-ですからね。

身内からこのような反論が出てきては、しかも、戸別所得補償制度の生みの親から、このようなクレームなり異論が出てきているんでは、何やら、おぼつかなくなってきましたね。

それにしても、以上に見た例は、インセンティブには、客観的に申し開きができる理屈がとおっていることが必要、という、ことの、好例なんでしょうね。

ボス交感覚で、農政をやられたんでは、たまったもんではありませんぜ。

それと、大臣記者会見で、長年、秋田県で、減反破りをして、”うぶ”で”おぼこ”な秋田県内土着農民を泣かせてきた「あのかたも、戸別所得補償制度に賛同いただいている」、などと、オピニオンリーダー扱いにして、いうことだけは、やめてほしいですね。

どんだけ、あの方に、秋田県農政は、長年、苦しめられて来たんだか—

あのかたの横紙破りで、正直者が馬鹿を見たのが、過去の秋田県農民だど—-
(減反破りをされた面積の帳尻あわせで県内調整を迫られたのは、この県内土着農民だったんですぞ)

それが今はすつかり、戸別所得補償マンセイ派になっちまっている。

これら戸別所得補償マンセイ派がすぐに口にするのは、『日本においても、EU並みの直接補償を』とか『直接支払いをしていないのは、日本だけ』などと、二の次には、言われるのですが、どうも、これらの方は、その当のEUが、1992年のMacSharry reforms(Old Cap)による巨額の財政負担を伴う直接支払いに耐えかねて、すでに2003年のFischer reform(New Cap)とアジェンダ2000によって方向転換(farm support (Pillar 1) と rural development (Pillar 2))をしているということをご存知ないらしいんですね。

つまり、WTOコンプライアンス適合型の直接支払いをしているのは、Fischer reform後のEUだけ。
日本が真似ようとしているアメリカの直接支払いも、EUのFischer reform前の直接支払いも、いずれも、WTO非適合型直接支払いだってことを、ゆめ、お忘れなく。

あーあ。