農林水産省は9日、10年度から全国で実施するコメ戸別所得補償モデル事業の補償対象となるのは、コメ農家の多くが加入している「水稲共済」の加入者(約180万戸)どあり、未加入者が補償対象になるには、前年度の販売実績を証明する書類の提出が必要となる。
というのだが、ここで思い出されるのは、水稲共済である農業災害補償制度が発足するときのGHQとのやり取りである。
当初、農林省では、農業保険制度としたのだが、「掛け金の一部を国庫が代わって負担する制度を保険とはいわない」とGHQが横槍を入れてきて、「国家が災害による農業被害を補償する制度だから、保険というタイトルは、補償というタイトルに改めるべきだ」ということで、現在の農業災害補償制度という名前に落ち着いたという経緯がある。
なぜ、日本の農業保険が、保険のスキームではなくて、補償のスキームになったかだが、当時の日本列島の農業地帯においては、冷害常襲地帯があって、これらの地帯の農業者にとっては、事故率からいって、保険のスキームが成り立たないという事情から発しているとされている。
しかし、昭和36年から38年頃にかけて、強制加入の掛け金掛け捨てに対する不満が全国的に広まり、その慰撫のために、末端共済組合にも、共済金の一部留保を認める制度改正があり、不満の解消を見たという経緯がある。
で、今回「水稲共済」の加入者というのは、その農災掛け金の一部をすでに国庫が負担しているという意味で、すでに国家によるセーフティーネットがかかっている。
掛金は国がおおむね50%の負担(600億円強)をしている。
(掛け金の国庫負担率 農作物共済 水稲・陸稲:50%、麦:50~55% 畑作物共済 畑作物:55%、蚕繭:50% 果樹共済 50% 家畜共済 牛・馬:50%、豚:40% 園芸施設共済 50%
その他、共済組合への事務費負担金(約500億円)・ 特別事務費等補助金(6億円程度)がこれにくわわる。)
今回の戸別所得補償制度によって、ダブルの国家によるセーフティーネットが、災害と価格下落との両方にかかるとすれば、あわせて、現在の農業災害補償制度の見直し論がそれに伴わなければならないはずなのだが、どんなもんなのだろう?
価格下落を国家補償するとすれば、災害は、生産者自身の保険金によってまかなう、という理論的整理も成り立ちうるのだが—
なんやら毅然とした原則を無視した私生ルールが、近時の農政には、まかり通っているようである。