笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年10月9日

鳩山さんの言う温室効果ガス排出量25%削減目標達成手段には、京都メカニズムは入るのか?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama – 8:48 PM

鳩山さんが、教条主義的に、2020年までに温室効果ガス排出量を90年比で25%削減する目標を高らかにうたい上げたのはいいのだが、その達成のための具体的な戦略の中身が、みえてこない。

つまり、90年比25%削減は、国内削減だけの”真水”なのか、それとも、海外での削減分もカウントできる京都メカニズムもカウントに入れての削減なのか、という点がはっきりしていないのである。

各国での温室効果ガス排出量をキャップの水準にとどめるためには、単に、自国での削減による目標達成によるほか、他国での削減量を自国の削減としてカウントできる京都メカニズムがある。
(ちなみに、平成17年4月閣議決定の「京都議定書目標達成計画」における京都メカニズム活用分削減は△1.6%にすぎない。その他、GIS(グリーン投資スキーム、Green Investment Scheme)△3.8%がある。)

もし、鳩山さんが、その京都メカニズムによる削減分もカウントして、90年比25%削減といっているのであれば、それは、説明不足といわざるを得ない。

マーケットメカニズムを利用して、他国での削減量を自国の削減としてカウントできる京都メカニズム(Kyoto Mechanismsまたは、Mechanisms under the Kyoto Protocolともいう。)には、次の三つがある。

①排出量取引(排出権の売買によるもの)

②CDM(クリーン開発メカニズム、Clean Development Mechanism)(途上国対応の削減プロジェクト実施、削減できた部分について、クレジットを受領するもの)、

③JI(共同実施、Joint Implementation)(先進国対応の削減プロジェクト実施し、削減できた部分について、クレジットを受領するもの)

からなっている。

この「Mechanisms under the Kyoto Protocol」を採用している国としては、カナダ、中国、オーストラリア、ニュージーランド、EUなどがある。

アメリカは、京都議定書には、署名はしていないが、シカゴ気候取引所でのFINRA(the Financial Industry Regulatory Authority)の承認下での排出権取引では、世界を引っ張っている。

世界におけるカーボン削減のためのシェーマは、排出権市場も含めて、断片化されており、京都メカニズムを除いては、アメリカのCCXGreen ExchangeRGGIWCI、California Climate Act、EUのEEXEUETS(EU 排出量取引制度)、北欧のBlue NextNord Pool、ロンドンのLEBAECX、オーストラリアのAustralia Carbon Trading Scheme、NSW Abatement SchemeNSWACX、そして、日本の経団連環境自主行動計画に基づくシェーマなどがある。
参考「State and Trends of the Carbon Market 2008

このほか、現在、新たなスキームとして検討されているのが、「REDD」(途上国の森林維持に与えるクレジット)「セクトラル・クレディティング・メカニズム(SCM)」(産業部門別に達成部門に対して与えるクレジット)「NAMAクレジット」(途上国に与えるクレジット)などである。

ここで、注目すべきは、排出権取引の活発化である。

日本は、完全にこの分野では出遅れている。

日本にあるのは、「環境省自主参加型国内排出量取引制度」と「中小企業などCO2排出量削減制度」のみである。

前者は、一応は、キャップ・アンド・トレード方式ではあるが、自主参加のキャップ・アンド・トレードということなので、擬似的なキャップ・アンド・トレード方式といえる。

一部に日本に排出権取引市場を設けようとの構想もあるようだが、日本では、参加人も少なく、流動性の乏しい市場では、設立はもはやムリである。

むしろ、以下に述べるユーロのECXやシカゴ気候取引所のCCXでの取引のほうが現実的であろう。

ユーロのECXとシカゴ気候取引所のCCXは、この分野で世界的な主流を行くものである。

シカゴでは、CO2も含め6種類(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、HFC-ハイドロフルオロカーボン、PFC-パーフルオロカーボン、SF6-六フッ化硫黄、最後の三つは代替フロン)の温暖化ガスの排出権取引が可能である。

シカゴでは、これに加えて、先物取引のCCFEも、加わった。

また、ECXを原資産としたオプションとして、ICE ECX CER Futures Options があるが、これらをヘッジにした各企業の取引もよりいっそう活発になって行くのではなかろうか。

ECXの排出権取引高は、月間500メトリックトンに達している。

また、シカゴ取引所でのCCX排出権取引高も、月間432メトリックトンに達している。

ちなみに、現在の時価相場は、ECXで13.72ユーロ、CCXで10.60ドル程度となっている。

CCXのメンバー・リストを見ると、その多彩さに驚かされる。

航空機では、ロールスロイス、自動車では、フォード、化学では、デュポン、商業では、クノール、その他、コダックなどなど、多士済々である。

中に、変わり種としては、デンマーク大使館やフィンランド大使館なども混じっているのが面白い。

また、地方自治体のアスペン市、オーストラリアのメルボリン市の名前なども見ることができる。

今後、CCXは、インドのNGOや北京のエネルギー関係会社などをも、会員に含めていくようだ。

また、シカゴ気候取引所では、今後、中国やインドでも、排出権取引市場を作っていく計画のようである。

こうしてみると、世界の温室効果ガス排出量削減対策は、マーケットメカニズムに頼った削減策に、大きく傾いているようだ。

鳩山さんのように、削減のキャップを低く(削減目標を高めに)すればするほど、排出権枠の需給関係は、排出権の売り手市場になっていく、という構図のようだ。

鳩山さんへの各国の拍手が、自国内削減の手法によってはできもしないことを言ってしまって、結局は、日本は、京都メカニズムの手法に依存せざるをえなくなり、そのつじつまを合わせのために、京都メカニズム排出権の巨大な買い手となることを見込んでの、巨大なお客さん出現を歓迎する拍手だった。鳩山発言が「日本がキャップ・アンド・トレードを受け入れる」公式宣言となったことへの欧州勢の歓迎拍手だった。などとしたら、情けない。

だから、これらのマーケットメカニズムが働くには、排出枠の売り手と買い手とがバランスをとれたキャップ水準でないと、いたずらな、マーケットの暴走にもつながってしまう可能性も大きいということだ。

たとえ、需給バランスの失調によって、排出権枠の暴騰となっても、では、それをインセンティブにして、マクロで、削減枠の拡大が進むかといえば、そうでもなさそうなのだが。

低ければいい(削減目標が高ければいい)という代物でもないようだ。

その辺も考えての鳩山発言なのかどうか、非常に疑問もある。

はたして、鳩山さんの今回の発言は、この京都メカニズムによるカウントをも含めないで、自国のみの削減努力で、削減目標25パーセントとしているのか、それとも、京都メカニズムによるカウントを含めて、削減目標25パーセントといっているのか、その辺が、ちょっとわからないのだが。

茅陽一さんの指摘によれば、当初民主党は公約に30%目標を掲げていたが、これは“真水”ではなく、森林吸収と京都メカニズム分(現在は京都メカニズム△1.6%+GIS△3.8%=合計5.4%)を含んでおり、これをさらに大きくすることは国際社会も反発するだろうとの指摘もあり、森林吸収と京都メカニズム分を現状とすれば、、削減目標は30-5.4≒25%となる。というあたりが、今回の25パーセント削減の根拠らしいのだが。(つまり、この茅さんの指摘に従えば、今回の25パーセントは、京都メカニズム分を入れない真水分ということになってしまう。となれば、今度は、当初の、そもそもの30%削減目標の根拠はなに?ということになってしまうのだが。)

その辺を白黒はっきりさせないと、いたずらな、削減目標25パーセント目標提示は、産業界に恐怖感をあたえてしまうばかりとなる。

そして、もし、後者だとすると、世界の削減目標到達の多くがカーボン・マーケット・メカニズムに依存しているという現状からすれば、あまりに低いキャップの設定(高すぎる削減目標)は、かえって、健全な排出権市場の育成の妨げになることだけは確かだろう。

後記

このサイト「国連気候変動枠組条約AWG会合@タイ・バンコク 中間まとめ」によると、「タイ・バンコクで開催されていた国連気候変動枠組条約のAWG会合で、南アフリカから「日本の目標は『真水』なのか?」という質問があり、これに対して日本は、「今後の交渉次第(it’s up to negotiation.)であり、現時点ではなんとも言えない」と回答。また、京都議定書の延長を意図していないことについても説明。」との記述がある。

この辺を、日本側はあいまいにしてはおられない状況のように見えるのだが。

さらに後記

経済産業省の近藤洋介政務官は10月13日夜に出演したCS放送「日経CNBC」の番組で、2020年時点の温室効果ガス排出量を90年比25%削減する鳩山政権の中期目標について「基本的には真水(での達成)を目指すべきだ」と述べ、排出権購入以外の国内対策主体で削減を進める考えを明らかにした。

近藤経産政務官は、90年比25%減は「主要排出国が加わるのが大前提。実現可能かと言えば難しい」と指摘する一方、「税金で海外から排出権を買ってくることは目指すべきでない。あらゆる政策と技術力を駆使して実現したい」と強調した。

鳩山政権は90年比25%のうち、どれだけを国内対策で達成するのか明らかにしていないが、この近藤発言が本当だとすれば、鳩山発言は、クレージーといえる。

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