笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年12月2日

市場の反応を見損なっている政府・日銀

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama 6:32 PM

昨日発表された日銀の新型供給手段に対する市場の反応は、冷ややかである。

政府は、11月20日の菅直人さんの「デフレ宣言」で゛、「日銀にも協調していただく」といったことの成果があったとの自画自賛ぶりだが、果たして、そうなのだろうか?

昨日発表の日銀の新型供給手段とは、下記のとおりである。

国債や社債、コマーシャルペーパー(CP)など幅広い証券を担保に、金融機関に対して0・1%の固定金利で3カ月間貸し出す。(日銀では、このことをもって、実質ゼロ金利と強調)

何度でも借り換え(ロールオーバーの意味か?)が可能であり、短期金融市場における金利のさらなる低下を促すことを目的としたものである。

今後、週に1回程度ずつ、8000億円前後の資金供給を行い、当面10兆円の供給目標とするが、特オペとは異なり、特に期限は設けず、今後の需要次第で増額も検討するというものである。

さっそく、今日、日銀は短期金融市場に即日で1兆円の資金を供給すると発表した。

総じて、平成10年3月終了した資金供給(CPなどを担保に金利0.1%で資金供給)の形を変えた復活と見て取れる。

しかし、市場は、別のことを期待していたようだ。

すなわち、平成9年末に終了した資金供給(社債買い取り(最大1兆円)社債買い取り(最大1兆円)企業金融支援特別オペ(社債)の復活と、長期国債買い取り増額(これまでは、金融危機後に年14.4兆円→年21.6兆円②増額)てである。

市場の反応は、次のとおりである。

「国債買い切りオペの増額を予想していたが、国債を担保とする引き受けにとどまった。新たな政策としては小出しの印象がある。」

「これでは、「3カ月の資金供給オペの強化」というにすぎない。」

「これまでの企業金融支援オペとさほど変わらない。」

「今回の措置は、いわゆるターム物をターゲットにした金融政策であり、ロンドン銀行間貸出金利(LIBOR)で6カ月物の米ドルが円を下回るという日米短期金利の逆転現象を解消するためのものに過ぎない。
LIBORの逆転によってドル買いを促進させ、進行した円高の緩和につなげたいだけのことである。」

(6カ月物では
11月16日時点LIBOR金利は
円6カ月物0.51625%、ドル6カ月物0.51781%、ドル円金利格差+0.156ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)
11月17日時点LIBOR金利は
円6カ月物0.51625%、ドル6カ月物0.50625%、ドル円金利格差-1.000ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)
ということで、11月17日の時点で、ドル円LIBOR金利は、それまでの「円< ドル」から「円>ドル」へと逆転
また、5カ月物は
11月17日時点での、円5カ月物は0.45500%、ドル5カ月物は0.42750%、金利格差マイナス2.75ベーシスポイント。
ということで、長めのターム物ではすでに逆転しており、アメリカは、ドルの余剰が強まり運用難に陥っている。)

「新型オペの実施によっても、資金需要が乏しい企業セクターに資金を流し込むことができるかは不透明だ。
金利が下がってもそもそもの需要がないので、設備投資につながらないのだ。」

「せっかく緊急会合を開き、政府も追加経済対策を発表するというのなら、この際は、小出しにせずに、財政支出と国債買い切りを組み合わせたようなパッケージにするべきではなかったのか。」

「白川日銀総裁と鳩山首相との会談で国債買い切りがもちかけられるのならば、「言われてからやる」という意味で、財政支援的色合いとなり、効果は半減してしまう。」

などなどである。

まあ、いってみれば、過日の菅さんの言わずもがなのデフレ宣言において、政府が、デフレの責任があたかも日銀にあるようなものの言い方をしたのに対して、日銀としては、「私たちがせいぜいできるのは、この程度しかありませんよ。」と、暗に政府の怠慢に対し、意趣返しをしたような形のようだ。

もし、政府と日銀とが連携しての大型対策を打ち出すのであれば、このような小出しの措置を、日銀単独で打ち出すのではなく、金融措置と財政措置との連動で、一発で打ち出すのが筋だったのではなかろうか。

しかし、どうも、気になるのが、政府が、国債増発による国民からの指弾を免れるために、日銀の怠慢をあげつらい、日銀に先に、国債買取を打ち出させ、その、後出しジャンケンで、政府は、国債増発を打ち出そうとしていた節が、うかがわれる。

怠慢なのは、日銀というよりは、ポピュリズム政府・鳩山政権なのである。

その意味で、昨日の日銀の小出しの新型供給手段の発表は、「次は、政府の番ですよ。政府が、先に国債増発を言い出さない限りは、日銀が、先に量的緩和や国債買い切り増額を言い出すことはありませんよ。」との暗黙のメッセージを政府側に放ったということなのではなかろうか。

すでに、今日の東京市場は、今朝のニューヨーク市場での株高にもかかわらず、昨日の日銀の新型供給手段への失望売りにより、小反落している。

また、円もいったんは円安に転じたものの、まもなく、元の円高基調に転じている。


参考

金融危機後の日銀の金融緩和策

政策金利
年0.5%→年0.1%

資金供給
社債買い取り(最大1兆円) ※09年末で終了
CP買い取り(最大3兆円) ※09年末で終了
企業金融支援特別オペ(社債、CPなどを担保に金利0.1%で資金供給) ※10年3月で終了
長期国債買い取り増額(年14.4兆円→年21.6兆円)

今回

国債、社債、CPなどを担保に金利0.1%で10兆円資金供給

参考・日銀の国債担保貸付と国債買い入れ

長期国債の保有残高は、日銀券の発行残高以下に抑えるという「銀行券ルール」がある。

今回の担保として国債の認可は、3カ月ごとの借り換えによって、長期国債買い入れと同等の効果はある。

過去の為替介入において、政府は、為替介入資金を管理する外国為替資金特別会計で、国債の一種である政府短期証券(外国為替資金証券)を発行して、金融市場から円資金を借り、日銀を通じて外国為替市場で、その円資金をドルと両替し、それで得たドルで、政府は米国債を買って運用した。
この場合も、この外国為替資金証券は、短期国債であり、原則3ヶ月ものであるが、実際は、借り換えの繰り返しによって、長期固定化していた。

参考
2009年3月18日の記者会見における白川日銀総裁の「銀行券ルール」に関する見解

「長期国債買い入れの増額を技術的に説明する。
銀行券ルールはなかなか一般的になじみがない。
一般的な観念は、中央銀行が内部的に置いている精神規定との感じがあるかもしれないが、決してそうしたものではない。
今年2月から長期国債買い入れオペについて、残存期間別買い入れということを行った。
同じ1兆円の国債を買っても、期間1年であれば1年でなくなり、10年であれば10年間残る。
したがって国債がどれくらい中央銀行のバランスシートに残るかは、年間の買い入れ金額と年間に買い入れた国債の積に依存する。
従来、長期国債の残高をコントロールする上で、日本銀行は買い入れ総額という変数でしかコントロールできなかったが、残存期間別の買い入れで、年間の買い入れ額と残存期間の2つの変数でコントロールができるようになった。
日本銀行は円滑な金融調節を行うため、長期の資金供給手段を一層活用するとし、その時に長期国債の買い入れの増額が適当と判断した」
「銀行券ルールとの関係をもう少し詳しく申し上げると、足もとの銀行券と足もとの長期国債の関係も重要だが、それ以上に重要なのは、この先、両方がどのようなかたちで推移するかという見通し。
もし、将来の銀行券の姿、将来の長期国債の姿を展望しないと、例えば、今期は国債を大幅に増額したが、来期は逆に売らなければならないということになる。
その場合、市場にかく乱的な影響を与えてしまう。
今回の増額ペース、年間21.6兆円の規模で長期国債の買い入れを毎年、行っていくと、長期国債の残高は数年のうちに銀行券発行高に近接していく可能性が高いと推定される。
こうした見通しは、先行きの銀行券の伸びや、オペで入ってくる国債の満期構成にも左右され、不確実性は残るが、さすがにここまで買い入れ金額を増額させると追加的な買い入れ余地は、かなり限定されると見られる」
「銀行券ルールを見直すことはまったく考えていない。
銀行券ルールの意味は2つある。
第1は円滑な金融市場調節を確保すること。第2点は銀行券ルールは長期国債買い入れが国債価格の買い支えや、財政ファイナンスの支援を目的とするものではない、という趣旨を明確にするという役割を果たしている。
したがって銀行券ルールを見直すという考えはない」

参考 今回日銀発表の新型供給手段の概要

「金融緩和の強化について」

・金融緩和の一段の強化=新しい資金供給手段の導入によって、やや長めの金利の更なる低下を促すことを通じ、金融緩和の一段の強化を図る。
・新しい資金供給手段の概要=金利:超低金利・固定(0.1%)。期間:3ヶ月。担保:国債、社債、CP,証貸債権など全ての日銀適格担保。供給額:10兆円程度。
・今回の措置は、政府の取組みとも相俟って、日本経済の回復に向けた動きをしっかりと支援。

日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するため、中央銀行として最大限の貢献を続けていく方針

2009/12/02 追記 日銀資金供給決定後のLIBOR金利の変化

3カ月物円LIBOR
前日0.29375%

本日0.29000%

3カ月物ドルLIBOR
前日0.25531%

本日0.25500%

ドル・円の利回り格差
前日3.8ベーシスポイント(bp)(0.29375%-0.25531%)
本日3.5ベーシスポイント(bp)(0.29000%-0.25500%)
0.3ベーシスポイント(bp)縮小

参考 LIBOR金利推移サイト

LIBOR 日本円金利推移サイト
http://quotes.jp/libor/?c=jpy

LIBOR 米国ドル金利推移サイト
http://quotes.jp/libor/?c=usd

その他
http://quotes.jp/libor/