2009年11月11日
おやおや、といったところである。
事実上、戸別所得補償制度生みの親として、自他共に認められる篠原孝さんが、今日のブログでこんな記事を書いていらっしゃる。
参考「民主党の政策論議の場づくり-09.11.11-」
以下、引用
< 歪められた農業者戸別所得補償>
ちょうどその密着取材を受けているとき、私が長年関わってき農業者戸別所得補償が、来年度は米を先行させるモデル事業で5600億円を予算要求することが決まり大変な衝撃を受けた。
私が手塩にかけて育んできた政策が、音を立てて崩れていく。
麦・大豆・菜種・そば・飼料作物といった土地利用型作物に米並みの所得を補償することにより、米の過剰を減らし自給率も高め‥‥と狙っていたのに、米を先行させては何にもならない。
「馬鹿な‥」と声をあげずにいられなかった。このいびつな形の事業(2011年度に1兆円で開始するのがマニフェスト)は既に政府内で 決定されており、我々は関与しようがないのだ。
以上引用終わり
まあ、また、皮肉っぽくなってしまうが、この戸別所得補償制度と、例の自民党政権の置き土産か、地雷か、時限爆弾かはわからないのだが、「減反選択制プラス直接支払い」のスキームが、引き継いだ民主党政権が、その違いも見分けできないままに、幸か不幸か、渾然一体となって、「直接支払いモト゜キ」のような政策スキームとなって生まれてしまったということなのでしょうかね?
(まさか、『だんな、いいスキーム、用意してまっせ』などといって、一見新品に見える亡妻が残した中古品を売りつけたんじゃあないんでしょうね。それとも、「減反選択制プラス直接支払い」スキームは、トロイの木馬だったのかも?)
全中の馬場部長が、公明党との会談の中で、「農家の戸別所得補償というより、生産調整の追加メリット措置の一環としてとらえている」との認識を示したというのだが、さすがに、よくお分かりになっている、と言う感じだ。
つまり、支払い形態のみ『直接支払い」というだけで、WTO農業協定にもとづく『直接支払い』ではないということですね。
石破前農林水産大臣の下に、構築されてきた減反選択制は、
「米の買い支え政策をやめる代わりに、減反に加わるかどうかは、農家の自立的判断に任せ、減反に参加した農家には、これまで減反奨励金に使った資金を、所得補償に振り向ける」
というスキームとすると。
このスキームにおいては、これまでの減反奨励金とトレード・オフとなるのが、戸別所得補償、ということになってしまうのだが。
石破さんの『米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向 』の「選択肢3」
によれば、「生産費の低下スピードと生産調整の「緩和」による米価下落のスピードを調和させることにより、財政負担を抑えることが可能となる。」んだそうですが、まあ、このフローティングのような発想は、善意のマーケットメーカーがいなければ、不可能のスキームのようですね。
まさか、空中給油(米価下落のスピード)しながら飛ぶ戦闘機(生産費の低下スピード)を、オタク的に想像しているわけではないでしょうが。
米の卸は、ギリギリ下限を狙って値決めしてくるに違いありませんから、これじゃあ、永遠に給油ポットをつないで、低空飛行しなくちゃならない羽目におちいりそうですね。
(そういえば、いつだか、昔、豚肉の基準価格を決める小委員長を担当していたときに、今はなき江藤隆美先生から、「おまえ、基準価格の相場は絶対事前に漏らすな。差額関税狙いで、すぐ、台湾に電話するやつがいるから注意しとけ。」っていわれて、業界の厳しさを身を持って味わったことがありましたっけ。
この豚肉の差額関税制度とおんなじようなモラルハザードは、戸別所得補償制度においても、容易に発生しえますね。
すなわち、
価格水準にかかわらず交付する定額部分=標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)(家族労働費8割+経営費)
マイナス
標準的な販売価格(過去数年分の平均)
なんですから、農業関連業界では、ある年あたりから定額部分の相場が大体決まってきたら、「標準的な生産に要する費用」関連業界では、定額部分相場にあわせてのすれすれの高い資材の価格増加を狙ってくるであろうし、いっぽう、「標準的な販売価格』関連業界では、定額部分相場にあわせてのすれすれの低い米の卸の値づけをはかってくる、という構図ですね。
すべて、これ、フリーライダーの裨益の民ってことになるんですね。)
日本の米作り農家が、総ポール・プッシャー(pole pusher、点滴スタンドを押しながら歩く人)となる姿は、見たくないものですね。
インセンティイブの根底の精神は関係なく、財源のシフトと表面的なトレード・オフにばっかり頭がいっちまっている器用貧乏的構想ってとこでしょうかね。
その意味では、生産インセンティイブを直接支払いが持ってしまっている。ということになってしまう。
一方、篠原さんが考えているらしいスキームというのは、生産品目間のハンディをイコールフッティングにするためのインセンティブとして、戸別所得補償を考えていた、というスキームなんでしょうかね。
農業内でのダイバーシフィケーション(多様化)(agricultural crop diversification)を実現するために、この戸別所得補償のスキームを考えられていた節が見られますね。
ここらあたりは、いかにも、ご郷里の風土産業論の三沢勝衛さんのお考えに似ていますね。(三沢さんは松本深志高校、篠原さんは、長野高校、関係ないか。)
生産優位性のないものに、下駄を履かせ、ダイバーシフィケーションによる地域活性化を狙う、という意味での、戸別所得補償、ってとこでしょうかね。
これも、篠原さんの専売特許である地産地食へのインセンティブにもなりえますね。
ですと、こちらのほうは、より、デカップリングのほうの考え方に近くなっているようなんですが。
もっとも、これでも、まだまだ、特定作物への誘導ということになって、ニュートラルな直接支払いということにはなりませんがね。
しかも、今回提示された「水田利活用自給率向上」スキームは、真黄色のキ-ですからね。
身内からこのような反論が出てきては、しかも、戸別所得補償制度の生みの親から、このようなクレームなり異論が出てきているんでは、何やら、おぼつかなくなってきましたね。
それにしても、以上に見た例は、インセンティブには、客観的に申し開きができる理屈がとおっていることが必要、という、ことの、好例なんでしょうね。
ボス交感覚で、農政をやられたんでは、たまったもんではありませんぜ。
それと、大臣記者会見で、長年、秋田県で、減反破りをして、”うぶ”で”おぼこ”な秋田県内土着農民を泣かせてきた「あのかたも、戸別所得補償制度に賛同いただいている 」、などと、オピニオンリーダー扱いにして、いうことだけは、やめてほしいですね。
どんだけ、あの方に、秋田県農政は、長年、苦しめられて来たんだか—
あのかたの横紙破りで、正直者が馬鹿を見たのが、過去の秋田県農民だど—-
(減反破りをされた面積の帳尻あわせで県内調整を迫られたのは、この県内土着農民だったんですぞ)
それが今はすつかり、戸別所得補償マンセイ派になっちまっている。
これら戸別所得補償マンセイ派がすぐに口にするのは、『日本においても、EU並みの直接補償を』とか『直接支払いをしていないのは、日本だけ』などと、二の次には、言われるのですが、どうも、これらの方は、その当のEUが、1992年のMacSharry reforms(Old Cap)による巨額の財政負担を伴う直接支払いに耐えかねて、すでに2003年のFischer reform(New Cap)とアジェンダ2000によって方向転換(farm support (Pillar 1) と rural development (Pillar 2))をしているということをご存知ないらしいんですね。
つまり、WTOコンプライアンス適合型の直接支払いをしているのは、Fischer reform後のEUだけ。
日本が真似ようとしているアメリカの直接支払いも、EUのFischer reform前の直接支払いも、いずれも、WTO非適合型直接支払いだってことを、ゆめ、お忘れなく。
あーあ。
2009年11月10日
このサイト「Signs that swine flu may have peaked 」では、いろいろな見方を載せている。
たしかに、州によって、ばらつきがあるようだ。
フロリダでは、著しく、感染の衰えが見られるというし、一方、依然として、感染の拡大を示す数字を示しているところもあるという。
フロリダの郡の中にも、ばらつきがあるようだ。
学校、老人ホーム、刑務所、会社などでの感染数は、明らかに減っているという。
ここ二週間で、公立学校での集団感染は見られないという。
また、新型を理由にして、救急措置を求める患者数も、9月に比べて、明らかに減っているという。
これは、新型が出ない昨年の状況と、ほぼ、同じ状態で、通常の季節性インフルエンザでの事態の推移から予測すれば、新型インフルエンザのピークは過ぎつつあるのではないか、との見方をする専門家も多い。
地域によって感染のばらつきが見える要因のひとつとして、感染報告の時間的な遅れがあるという。
たいていの地域では、一週間か二週間単位での感染者の報告があるが、地域によっては、数週間前の報告があがっているという。
専門家の一部では、ピークは、すでに、10月末に来ていた、との見方をしている。
しかし、連邦当局では、それを言うのは、早計であるとしている。
たとえ、第二波が過ぎたとしても、第三波が来ないとは、誰しも、いえないからだという。
たとえば、1957年秋のアジアかぜの場合、1958年初頭に再び流行し、それが春まで続いた、という例がある。
また、季節性インフルエンザで見るように、最初は穏やかな症状であったのに、それに続いての外来ピーク、入院ピーク、死亡者ピークが、時間差でその後、続いていく。
したがって、今が、それらを含めての全体のピークにあるとは、なかなかいえないのだという。
これらの見極めは、今後、数週間のモニターを待たなければならないのだという。
しかし、一方で、ワクチン接種が、完全にタイミングを失したものになるとの指摘もある。
つまり、初動でのワクチンのデリバリーの乱れが、適切な時期でのワクチン接種のタイミングを逃し、新たな犠牲者を一方で生んでいる、という指摘である。
このことは、日本においても、言いうる現象であるかもしれない。
このサイト「For many, vaccine will be available after flu peaks 」では、カナダのトロントの保健当局が、住民に対して、新型インフルエンザ感染ピークを過ぎた後も、ワクチン接種を勧めなけれはならない事情を次のように書いている
現在のところは、ワクチン接種に行列を作っている状態であるが、クリスマスのころには、保健当局は、今度は、逆に、住民に対して「どうかワクチンを打ってくれ」と懇願する立場にいるであろう、としている。
ワクチン接種から抗体ができるまで、10日かかるわけだから、少なくとも、今月末から12月上旬まで接種すれば、ピークに間に合うはずだが、クリスマスに接種したのでは、ピークを過ぎての抗体となり、ワクチン接種自体、何の意味もなくなるわけだ。
そして、保健当局が気づいたときには、周囲には、不要になったワクチンの在庫の山ばかり、ということになるからだ。
カナダでの感染ピークは、11月下旬から12月初旬であるとしている。
まあ、このニュースは、日本の厚生労働省にとっても、他人事ではない深刻さであろう。
何しろ、一回接種論を、足立政務官が、政治主導で覆して、一番、インフルエンザ脳症にかかりやすい小学生高学年の接種をクリスマスまで伸ばしてしまったのだから。
抗体ができるのは、正月明けでは、第三波が来ないことには、政治責任は、まぬがれ得まい。
2009年11月9日
このサイトにおいでいただいた方へ
この情報は11月9日時点での情報です。
今回のウクライナを初めとしたH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異につきましては、このサイト以外にも、私のブログ記事では、下記で取り上げておりますので、あわせてご参照ください。
あたらしい記事順です。
D225G変異H1N1新型インフルエンザ・ウイルスに対してワクチン不全ありとWHO確認 (11月28日時点)
ウクライナ・ノルウェイ・香港共通のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス変異について (11月25日時点)
覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由 (11月22日時点)
ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明 (11月19日時点)
2009年11月9日
ウクライナで、この2週間で、80名が呼吸器疾患で死亡しており、現在、同様の疾患の患者が40万人いるという。
そのいずれも、H1N1新型インフルエンザにかかっているところから、、WHOから、非常事態チームが派遣され、現地で監視に当たっている。
ウクライナ政府は、学校や大学の三週間の閉鎖を決め、各種イベントの取りやめも決めた。
ウクライナ大統領は、現在、三種類のウイルスが感染とているとし、その変異について危惧しているという。
WHOの緊急事態チームは、患者から9つのサンプルを、ロンドンのミルフィルにある研究センターに持ち帰り、その分析に当たっている。
分析結果の詳細は、明らかにされてはいないが、大きな変異は、見られず、小さな変異にとどまっているという。
ニーマン博士は、ポジション225での変異ではないかとしている。
ポジション225変異は、H3N2によく見られるアマンタジン耐性変異であり、H1N1においても、劇症性を付与しうる変異であるされている。。
ポジション225での変異としては、
D225N (ブラジル・サンパウロやニューヨークで見られた変異).
D225G (ブラジル・サンパウロ、中国・Zhejiang、日本・広島、アメリカ・テキサス、アメリカ・ジョージア、アメリカ・ニューヨーク、メキシコ、スペイン・カタロニアで見られた変異).
D225E (日本・長崎、日本・札幌、中国・香港、アメリカ・ニュージャージー、アメリカ・カリフォルニア、フランス・パリ、スペイン・カタロニア、 カザフスタン・アルマトイ、中国・長沙、イタリア・ミラノ、イタリア・アンコーナ、ギリシャ・アテネ、で見られた変異)
の変異がすでに、各国で見られているという。
ウクライナに隣接するオーストリア、ハンガリー、スロベニアは、ウクライナに対して、ワクチンや消毒液の援助を行っている。
ウクライナと国境を接しているスロベニアでは、接している5つの国境ラインのうち、2つを封鎖した。
ウクライナでは、すでに医薬品やマスクなどの不足状態に陥っている。
一方、この事態は、大統領と首相が争う1月の大統領選挙にも、大きく影響するものと見られている。
参考
「Swine Flu Outbreak Sparks Mutation Fears 」
「H1N1 Genetic Changes in RBD Raise Pandemic Concerns 」
アメリカ・アイオワ州の13歳の飼い猫が、新型H1N1にかかったと、当局が発表した。
この猫の飼い主も、新型H1N1に感染しているという。
すでに、猫も飼い主も、回復しているという。
おそらく、今回の新型H1N1で、猫が感染したのは初めてのようで、ペット愛好者に恐怖を呼び起こしているようだ。
このことに対して、専門家は、次のようにいっている。
「このことは、何も珍しいことではなく、フェレットや家畜にもかかっていることだ。
今のところ、猫→猫→人間への感染ということは見られない。
しかし、種から種への感染はありうることだ。
また、この感染の過程で、ウイルスが変異するかどうかだが、いまのところ、確認されていない。
猫が、熱があったり、突然眠くなったり、元気がなくなったようであったら、すぐ、検査をしたほうがいい。
また、猫が別に病気を持っている場合には、人間と同じように、合併症がおこる。
今のところ、猫に対するワクチンはない。」
以下は、その猫のビデオです。
参考
「Veterinarians try to calm H1N1 fears 」
「H1N1 virus has started to threaten cats too!!!」
2009年11月3日
この「戸別所得補償制度に関する意見の募集について 」からリンクされている 「戸別所得補償制度に関するモデル対策 」が戸別所得補償制度の概要というもののようだが、きわめて不親切な解説なので、わかりずらい。
文章がたったの7行と、それに説明なしの簡単なポンチ絵。
ポンチ絵には、脚注も、ありゃしない。
このあたりも、「政治主導」だったんかしら?(w)
これで、どうやって判断するの?
意見募集するからには、その意見の元となりうる政策のプレゼンテーションは、しっかり綿密にやってもらいたいものだ。
そうでなければ、意見の仕様がない。
もっとも、それがねらいなのなら、それまでだが—
特に知りたいのが、標準的な生産に要する費用、標準的な販売価格、当年の販売価格、の算定方法だ。(このあたりは、突っ込みどころ満載なのに、これについては、何にも書いてないじゃあないですか。)
そこで、こちらのほうで、ここに書かれてあるポンチ絵から判断して、かわって説明を補足してあげると、次のようなことらしい。
標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)(家族労働費8割+経営費)
マイナス
標準的な販売価格(過去数年分の平均)
=
価格水準にかかわらず交付する定額部分
補償対象の米価水準=標準的な生産に要する費用
ではあるが、これが補償金額というわけではない。
補償金額
①標準的な生産に要する費用 > 〔定額部分(標準的な生産に要する費用-標準的な販売価格)+当年の販売価格〕
の場合
補償金額=定額部分+(標準的な生産に要する費用-当年の販売価格-定額部分)=標準的な生産に要する費用-当年の販売価格
②標準的な生産に要する費用 < 〔定額部分(標準的な生産に要する費用-標準的な販売価格)+当年の販売価格〕
の場合
補償金額=〔定額部分(標準的な生産に要する費用-標準的な販売価格)+当年の販売価格〕-当年の販売価格=定額部分(標準的な生産に要する費用-標準的な販売価格)
価格水準にかかわらず交付する定額部分というのは、ここ数年の慢性的な標準的赤字部分についての補償を意味しているようですね。
そこで
①当年の販売価格が例年よりも低く、定額部分を加えても、標準的な生産費用に達しない場合は、
標準的な生産費用に達するまでは「定額部分+アルファ」で補償します。
②当年の販売価格が例年よりも高く、定額部分を加えると、標準的な生産費用をオーバーしてしまう場合には、
「標準的な生産費用水準に達した時点で定額部分の一部をアシキリにする」ようなことはしないで、定額部分まるまる補償します。
ということらしいのですが。
まあ、こうしてみると、この公式を、そのまま、アメリカの「2002年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度(DCP:Direct and Counter-cyclical Payment)」の公式に当てはめてみると、そのそっくり度がわかるんですが。
参照「覚書-民主党の戸別所得補償制度とアメリカの直接・不足払い補助金制度(DCP:Direct and Counter-cyclical Payment)との違い」
http://www.sasayama.or.jp/wordpress/?p=1097
「2002年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度(DCP:Direct and Counter-cyclical Payment)の公式」
は、上記のブログ記事で書いたとおり、次のものですね。
不足払い額単価(CCP PaymentRate)=目標価格(Target Price)-有効価格(Effective Price)
ここで、
不足払い額単価(CCP PaymentRate)=戸別所得補償制度での「価格水準にかかわらず交付する定額部分」
目標価格(Target Price)=戸別所得補償制度での「標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)(家族労働費8割+経営費)」
有効価格(Effective Price)=戸別所得補償制度での「標準的な販売価格(過去数年分の平均)」
とおきかえてみますと、そっくりですね。
で、
アメリカのほうの「標準的な生産に要する費用=補償対象の米価水準」である
目標価格(Target Price)の算出は、ヒストリカルな統計データから、the direct payment rate, market price 、 loan rateを勘案し、法定のベンチマーク(statutory benchmark)として算出
標準的な販売価格の算出は、ちょっと複雑になっていて、
有効価格(Effective Price)=
直接支払い額(Direct Payment Rate)(直接支払い額単価(定率支払いレート(payment rate )×基準面積(base acres )×農場プログラム産出高( farm program yield)×85パーセント)
+
市場年度内に農業生産者が農作物の販売で受け取る全米平均市場価格の高い数値
+
商品農作物の全米での平均ローンレート(the commodity national loan rate 融資単価)の高い数値
となっています。
(目標価格-直接支払額)が、市場年度内の全米平均市場価格の最高値を上回った場合は、不足払い額(CCP PaymentRate)は、ゼロとなる。—こちらのほうは、アシキリありですね。
直接支払い額単価(Direct Payment Rate)=定率支払いレート(payment rate )×基準面積(base acres )×農場プログラム産出高( farm program yield)×85パーセント
このアメリカの2002年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度(DCP:Direct and Counter-cyclical Payment)が、いま、WTOで黄色の政策(amber box)として指弾され、では、「新・青の政策(New Blue Box)として、認知させようと画策したが、これも失敗し、WTOから、その改革をせまられているのは、農林水産省も、先刻ご承知のはずなのですが—
おまけに、2008年農業法にもとずき、オプションとして付け加えられたACRE支払いについても、アルゼンチン、オーストラリア、カナダの代表からの厳しい批判にあっているという有様。
よりにもよって、アメリカの、今見直しを迫られている旧バーションの貿易歪曲的スキームを、日本が、この時期になって、いまさら、まねをするとは、これいかに?
(アメリカの「2002年農業法に基づく直接・不足払い補助金制度」支払いについての近時のドーハ・ラウンド交渉での論点については、このサイト「Can the United States Meet Its Prospective Doha Commitments under the 2008 Farm Bill?
http://www.inai.org.ar/sitio_nuevo/archivos/20-02-2009%20Final%20report%20US%20subsidies.pdf
をご参照)
ちなみに、WTOガ認める緑の政策の条件と、直接支払いの条件を、以下に掲げておきますが、もし、個別所得補償方式が上記のスキームであるとすると、かなりの部分で、WTOコンプライアンスに背馳してしまうことになりますね。
緑の政策の条件
①支払いは、現在の価格と関連してはいけない。 (「当年の販売価格」は、まさに、「現在の価格」ですよね。)
②支払いは、現在の生産と関連してはいけない。(「標準的な生産に要する費用」の算出で、大いに、「現在の生産」と関係してきてしまいますね。)
③支払いは、何らかの生産を要求されての支払いであってはならない。
直接支払いの要件
①その支払いが、生産の決定にリンクしてはいけない。(「水田利活用自給力向上事業」は、品目別の直接支払いですよね。品目横断(non-commodity specific)では、ありませんよね。明らかな産品特定的な助成(commodity specific) ですよね。どうして、こんな時代錯誤的なスキームを、いまさら引っ張り出してきたんだろう?)
②直接支払いを農業者が受領することによって、この支払いが、農業生産のタイプや生産量に影響を与えるものであってはならない。(個別所得補償のほうがいいってんで、すでに、農地の貸し手は、受託・委託スキームから抜け出し始めていて、「農業生産のタイプ」に大影響を与え始めていますね。)
③この直接支払いの金額が、その後の一定期間における生産、価格、生産要素とリンクしたものであってはならない。 (当年の「標準的な生産に要する費用」も「標準的な販売価格」も、「過去数年分の平均」のうちの一年分としてカウントされ、その後も「補償金額」は,因となり、果となって、グルグルとローリングして、計算されていくのですから、完全に、「補償金額」は「その後の一定期間における生産、価格」にリンクしてきますよね。)
④直接支払いを受けても、それによって、生産を要求されるものではない。
⑤その直接支払いの意味するところが、次のものに関係している場合には、別の基準によるものとする。
デカップリング所得補助、所得補償、セーフティーネットプログラム、自然災害救助、構造調整プログラムによったもの、環境プログラムによったもの、地方支援プログラムによったもの
知らぬが仏とは、怖いもんですね。
それに比べて、品目横断的経営安定対策は、WTOコンプライアンスをスレスレすり抜けたスキームの傑作のようにも見えてしまいますね。
これには、今の井出道雄事務次官も、今はなき須賀田菊仁さんも携わったスキームで、WTOコンプライアンスすり抜けスキームとしては、歴史にのこる名スキームと、評価したいですね。(ww)
それにしても、まあ、よくも、こんな不親切な説明で国民の意見募集をするものだと、あきれ返る。
しかも、10月23日にサイトにあげて、締め切りが平成21年11月10日(火曜日)正午必着というのは、あまりにひどすぎるんじゃあないかと。
意見があまりこないことを意図しての、通過儀礼以外の何者でもありませんね。
これは。
2009年11月2日
緊急追加(2009年11月23日)
本日報道されております、カナダで使用禁止になった新型インフルエンザ・ワクチンの詳細につきましては、別のサイトを設けました。
「カナダで使用中止となったワクチンについての詳細情報 」
にお越しください。
2009年10月23日
輸入ワクチンの安全性・非安全性を理解するための10のポイント
①今回の日本への輸入ワクチンは、二社とも、スクワレンを使用したアジュバント入りワクチンである。
②スクワレンを使用したアジュバントを使っているワクチンにはリスクがある。
③今回の日本へ輸入されるワクチンは二社、異なったアジュバントを使っている。
グラクソ・スミスクライン社のアジュバントはAS03、ノバルティスファーマ社のアジュバントはMF59である。
アジュバントAS03とアジュバ ントMF59 とではリスクが異なる
④アジュバントに含まれる界面活性剤であるTween 80(アジュバントAS03とアジュバ ントMF59の両方に含まれている。)とSpan85(アジュバ ントMF59にのみ含まれている。)が不妊などの原因との説がある。
⑤スクワレンを使用したアジュバントには、インターロイキン6の増加によるサイトカインのリスクと湾岸戦争症候群のリスクがあるといわれている。
⑥今回、日本に輸入される二社のワクチン製造過程におけるウイルス培養方法は、同じではなく、二社、異なっている。
グラクソ・スミスクライン社は、発育鶏卵培養法(embryonated egg culture)によっており、
ノバルティスファーマ社は、組織培養法(cell culture)によっている。
⑦後者の動物由来のMDCK組織を使っての組織培養ワクチン(cell culture vaccine 、ノバルティスファーマ社のワクチンのみ。)は、その誘導体であるMDCK-T1に腫瘍原性リスクがあるとの説がある。
⑧今回日本が輸入のグラクソのワクチン「パンデムリクス」(Pandemrix)は、モックアップ(mock-up)ワクチン(対象とするウイルス株が特定されていない段階で、モデルウイルスを用いて作製されたワクチン、製造承認はこの段階で得ている)であり、鳥インフルエンザ・ウイルスH5N1対応ワクチンとして開発されたワクチンのモデルウイルスを、A/Vietnam/1194/2004(H5N1)からA/California/7/2009 (H1N1)に入れ替えて、製造しているものである。
ノバルティスのワクチン「フォセトリア」(Focetria)はモックアップ(mock-up)ワクチンであるが、「セルトュラ」(Celtura)は、モックアップ(mock-up)ワクチンではない。
⑨アメリカは、今回、新型インフルエンザワクチンの選定に当たって、
アジュバントなしのワクチン
であり、
MDCK組織を使っての組織培養の製法によらないワクチン
を選んだ。
⑩これに対し、日本では、輸入・国産両ワクチン交えて、
アジュバントありのワクチン(輸入)とアジュバントなしのワクチン(国産)
とがあり、
しかも、
アジュバントありのワクチン(輸入)では、
異なったアジュバント(AS03とMF59)を使ったワクチン
や
異なったウイルス培養法(発育鶏卵培養法と組織培養法)
でのアジュバントありのワクチンがあり、
輸入ワクチンのうちの一つ(グラクソのワクチン)は、モデル・ウイルスを、鳥インフルエンザ・ウイルス(H5N1)から新型インフルエンザ・ウイルス(H1N1)へシフトさせたモックアップ・ワクチンであり
これらが混在して、
モックアップ・ワクチン段階での治験も含めての、わずかな治験の元に接種されようとしている。
参考
スイス政府は10月30日、ノバルティスとグラクソ・スミスクラインの新型インフルエンザ用ワクチンを認可したと発表した。
ただ、
グラクソのワクチン「パンデムリクス」(Pandemrix)については、
成人についてのデータは十分である。
しかし、妊婦についての必要臨床データは、まったくない。
18歳未満の子供についての必要臨床データは不十分である。
この理由から、SwissMedicとしては、「パンデムリクス」(Pandemrix)の妊婦と18歳未満の子供と60歳以上の成人への認可を留保する。
しかし、60歳以上の成人男女への接種については、スイス衛生局(FOPH.Federal Office of Public Health )の勧告のもとであれば使うことができる。
ノバルティスのワクチン「フォセトリア」(Focetria)については、
すでに、欧州医薬品審査庁(EMEA.European Medicines Agency)の認可が出ているので、SwissMedicとしては、EMEAの認可決定を基にする。
これ(EMEAの認可)に従えば、「フォセトリア」(Focetria)は、成人男女と生後6カ月以上の子供への使用を勧告する。
妊産婦と、授乳母への接種については、スイス衛生局(FOPH.Federal Office of Public Health )の最新の勧告に沿って、主治医が、潜在的な利点と欠点について、比較検討し、接種の有無を決定しなければならない。
ノバルティスのワクチン「セルトュラ」(Celtura)については、
SwissMedicとしては、現在、このワクチンのNobel Combinationについて、試験中である。
なお、今回、SwissMedicが、この「セルトュラ」(Celtura)について、はっきりしたコメントをしていないひとつの理由として、「セルトュラ」(Celtura)のバクテリア汚染の可能性が指摘されている。
the Swiss daily Tages-Anzeiger のレポート によると、SwissMedicは、「セルトュラ」(Celtura)のtest batchesに、バクテリア汚染をみつけたという。
SwissMedicは、このレポートを否定も肯定もしていないという。
一方、ノバルティス側は、「バクテリアの汚染はなく、この組織培養法の過程は、発育鶏卵培養法よりも、クリーンであり、この製造過程は、ここ数年の同社ワクチンの製造過程と同じものである。」と、している。
しかし、この「セルトュラ」(Celtura)は、日本が輸入するワクチンのひとつとされており 、今後のSwissMedic及び、EUでの安全性の確認に注目する必要がある。
参照サイト「Swissmedic grants authorisations for pandemic flu vaccines 」
「Switzerland restricts use of GlaxoSmithKline swine flu vaccine 」
「Novartis denies problems with swine flu vaccine 」
「Die wichtigsten Infos zur Schweinegrippe-Impfung 」)
以下は、そのそれぞれについての詳細説明である。
①輸入ワクチンは、二社から
約7700万人分のうち、4950万人分は輸入ワクチンで、残る約2700万人分を国産で賄うとしている。
厚生労働省は、10月6日に、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline、GSK、英国)とノバルティスファーマ(Novartis Pharmaceuticals Corporation 、スイス)との輸入契約を締結した。
供給量はGSKが3700万人分、ノバルティスファーマが1250万人分、合計4950万人分である。
②海外ワクチンにはアジュバントを使っているワクチンとアジュバントを使っていないワクチンとがある
海外ワクチン(海外製造ワクチン)には、免疫補助剤(アジュバント、adjuvant)を使っているワクチンと、アジュバントを使っていないワクチンとがある。
また、国によって、アジュバントを使ったワクチンの採用をしている国もあれば、アジュバントを使っていないワクチンを採用している国もある。
ちなみに、アメリカでは、今回、新型インフルエンザワクチンには、 アジュバントを使っていないワクチン(unadjuvanted form)を使用している。
(同じプロセスで、次の四社で接種対象年代別に分けて作らせている。
MedImmune LLC(2歳から49歳の健康な人、生ワクチン経鼻投与)、
CSL Limited(18歳以上、投与量は、0.5 ml )、
Novartis Vaccines and Diagnostics Limited(4歳以上、投与量は、0.5 ml )、
Sanofi Pasteur Inc(生後6ヶ月以上、投与量は、生後6ヶ月から35ヶ月までは0.25 ml 、三歳以上は、0.5 ml ).
このうち、MedImmune LLCのみ、鼻吸入式のフル・ミストというLive attenuated ワクチン。後の三社は不活化( Inactivated)ワクチン
参照「H1N1 Swine Flu Update 」)
これは、アメリカ国内で使用するアジュバントは、alumと呼ばれるアルミニウム塩(aluminum salts または、Aluminum gels )に限定されているからである。
後記のように、今回のグラクソ・スミスクライン社とノバルティスファーマ社のアジュバントは、スクワレンを使ったものであり、このスクワレンをアジュバントに使った炭素菌ワクチン(BioThraxのAnthrax Vaccine Adsorbed )が、湾岸戦争症候群(Gulf War Syndrome-GWS-)の原因となっているとされている。
このことがあって、アメリカが、アジュバントを使っていないワクチンを使用する理由のようである。
これは、湾岸戦争に従軍した兵士には、炭素菌ワクチン(anthrax vaccines)が従軍時に接種されており、このワクチンは、スクワレン・ベースのMF59を使用していたため、これらの湾岸戦争退役軍人には、スクワレンに対する抗体(anti-squalene antibodies (ASA))がすでにできているといわれている。
これについての参考文献は、こちらのサイト「Squalene-based adjuvants in vaccines」 ご参照
また、1976年接種での、ギランバレー症候群副作用問題浮上へのトラウマもあるようだ。
参考「Swine Flu Vaccine: What The Heck Is an Adjuvant, Anyway?」
なお、イギリス、カナダでは、アジュバントを使ったワクチンを使用している。
フランスとドイツは、GSK社のワクチンをボイコットしている。
③日本への輸入ワクチンのアジュバントは、二社異なる。
今回、日本が契約しているグラクソ・スミスクライン(GSK、英国)とノバルティスファーマ(スイス)のワクチンは、いずれも、アジュバントを使ったワクチンを製造している。
しかし、注意しなければならないのは、そのアジュバントは、オイル・イン・ウォーター・エマルジョン(oil-in-water emulsion)というタイプでは共通しているものの、そのアジュバントは、両社、ことなるものであるということだ。
グラクソ・スミスクライン(GSK、英国)では、AS03という名のアジュバントを使っており、また、ノバルティスファーマ(スイス)では、MF59という名のアジュバントを使っている。
なお、AS03とMF59 の違いは、次の成分表をご参照
AS03 (Glaxo-Smith-Kline)
squalene 10.68 mg,
DL–tocopherol (Vitamin E)11.86 mg,
polysorbate 80(Tween80) 4.85 mg
MF59 (Novartis)
squalene 9.75 mg,
polysorbate 80(Tween80) 1.175 mg,
sorbitan trioleate(Span85) 1.175mg
参照「Why the epidemiology of swine flu matters 」
④アジュバントを使うメリット
アジュバントを使うメリットとしては、免疫応答性がよくなるという点と、アジュバントを使った生産システムのほうが、ワクチン生産が早く、治験に十分な時間が取れる、という2点が、利点としてある。
また、WHOがワクチンメーカーに対して、免疫応答性促進戦略(antigen sparing strategies)を採用せよとの要請があったため、アジュバントを使用している企業の事情がある。
アジュバントを使ったワクチンは、免疫応答性がいいため、アジュバントを使わないワクチンに比して、免疫反応を4倍押し上げるといわれている。
また、免疫持続性も、アジュバントを使わないワクチンに比べて長いといわれている。
したがって、今回の新型インフルエンザ・ウイルスが、抗原ドリフトしたりして、感染が長く続く場合、このアジュバントを使ったワクチンのほうが効果があるとされている。
なお、通常の季節性インフルエンザワクチンには、アジュバントを使っていないが、肺炎球菌ワクチンや髄膜炎菌感染症ワクチン、Hibワクチンなどには使われている。
⑤グラクソ・スミスクライン社ワクチン使用のアジュバントはAS03というもの
グラクソ・スミスクライン社が使用しているアジュバントAS03は、魚油からとられた有機化合物であるスクワレンに、水とビタミンEとを混ぜたものをつかっている。
グラクソ・スミスクライン社では、通常の季節性ワクチン製造においては、アジュバントを使っていないが、今回の新型インフルエンザ・ワクチンに製造に当たっては、AS03という名のアジュバントを使った。
その理由として、今回の新型インフルエンザ・ワクチンの承認に当たっては、一定の治験を省略しうる” fast-track” 承認(通常の季節性インフルエンザワクチン製造においては、ウイルスのドリフトなどによって、軽度の成分設計の修正については、治験が省略しうる。)が得られなかったため、治験・臨床実験に十分な時間を割くためには、生産スピードが速い、アジュバントを使ったワクチン製造をする必要があったとしている。
参考「Frequently Asked Questions about the swine flu vaccine 」
A303の安全性については、H5N1鳥インフルエンザ対応ワクチンのテストで、四万三千人のボランティアによるテストで、安全性が確認されているという。
ちなみに、グラクソ・スミスクライン社では、すでにH5N1ウイルス(A/Vietnam/1194/2004 NIBRG-14 (WHO標準ワクチン株))とA303アジュバントを使ったH5N1対応ワクチン「Pandemrix 」( EMEA承認)を発売しており、今回のワクチンは、それのモックアップ(mock-up)タイプ(対象とするウイルス株が特定されていない段階で、モデルウイルスを用いて作製されたワクチン、製造承認はこの段階で得ている、そっくりさんタイプ)である、H1N1ウイルス(A/California/7/2009)とA303アジュバントを使ったH1N1版Pandemrixといえる。
⑥ノバルティスファーマ社ワクチンで使用のアジュバントはMF59というもの
一方、ノバルティスファーマ(スイス)が使用しているアジュバントMF59は、スクワレン,界面活性剤のポリソルベート80と0ソルビタン・トリオレイン酸(Span85)を含んでおり、これらを乳化したものを0.22μmのフィルターを通し,通過した粒子のみをアジュバントとして用いたものとされている。
MF59の安全性については、ノバルティスファーマ(スイス)は、すでに、日本の鹿児島県で健康な成人約200人に臨床試験(治験)を実施し、安全性と有効性を確認しているという。
MF59アジュバント・ワクチンの治験結果については、「Trial of Influenza A (H1N1) 2009 Monovalent MF59-Adjuvanted Vaccine — Preliminary Report 」をご参照
ノバルティスファーマ社においても、グラクソ・スミスクライン社のPandemrix 同様、すでに、鳥インフルエンザH5N1対応のワクチンFocetria(H5N1) を発売している。
これは、同社の季節性インフルエンザワクチンの Fluad と同様の製造プロセスによるもので、アジュバントには、従来のMF59よりも安定性を高めたとされるMF59C.1を、ともに使っている。
今回、そのモックアップ(mock-up)ワクチンとして、これまでのFocetria(H5N1)を、ウイルスをA/Vietnam/1194/2004(H5N1)からA/California/7/2009 (H1N1)に入れ替えて、Focetria(H1N1) を製造しているものである。
⑦Tween 80とSpan85の安全性について
アジュバントの一部に受胎障害作用があると懸念する専門家がおり、、このアジュバントをつかったワクチンを受胎障害ワクチン(Fertility Impairing Vaccine)という向きもある。
Tween 80
Polysorbate 80(Tween 80)と不妊原因説について、このサイト「SWINE FLU VACCINE INGREDIENTS 」に次のように書かれている。
「ポリソルベート80は、Tween 80として知られているが、これは、化粧品の乳化剤として使われているものである。
そして、子宮頸がんのワクチンのガーダシル(Gardasil)の成分でもあり、このGardasilワクチンは10代の女性に接種されているものである。
この成分は、不妊、悪性転換症痙攣、自然流産、そして、生命にかかわるアナフィラキシー・ショックを起こすことでも知られている。
これまで、Gardasil接種で、28人の死亡が報告されている。」
なお、polysorbate 80(Tween 80)のラットによる不妊実験については、the U.S. Library of Medicine and the National Institute of Healthからの報告書「Delayed effects of neonatal exposure to Tween 80 on female reproductive organs in rats.」 がある。
このサイト「Reducing interference between oil-containing adjuvants and surfactant-containing antigens 」では、
MF59 の成分の中で、スクアレンが5パーセント、polysorbate 80が0.5パーセント、Span 85が、0.5パーセントあるが、これを重量換算した場合、スクアレン4.3パーセント、polysorbate 80 0.5パーセント、Span 85 0.48パーセントになるとしている。
Span85
薬や化粧品や繊維やペイントなどに乳化剤として、または、防錆剤やシックナーとして、使われる。
殺虫剤の安全性を追求する団体であるPANNA(Pesticide Action Network North America )によると、このSpan85は、殺虫剤としても使われるという。
有する毒性としては、発がん性毒性、生殖毒性、発達毒性、神経毒性があるとされている。
参考「Dangers In The Shots – Components Of H1N1 Vaccines 」
「Squalene Emulsions for Parenteral Vaccine and Drug Delivery 」の5ページから11ページに詳しい。
⑧スクワレン(Squalene)を使用したアジュバントのリスク懸念
ここで、留意すべきは、この両社のアジュバント(MF59、A303)とも、スクワレン・ベースのオイルを使っているということである。
スクワレン・ベースのオイルが、リンパ球に抗体を作ることを指令する分子「イン ターロイキン6、または、インターロイキン5」(Lymphocyte IL-6 またはIL-5)の増加を招き、これが、サイトカイン現象を招く、との研究がある。
これについては、AS03もMF59も、ともに、同様の懸念があるのでは、との指摘があるようだ。
参考「Constats corrobor醇Ps sur les dangers d醇Pmesur醇Ps du vaccin H1N1 de Glaxo-Smith-Kline avec l’adjuvant AS03 」
また、すでに上記に書いたように、湾岸戦争に従軍した兵士には、スクワレンをアジュバントに使った炭素菌ワクチン(AVIP anthrax vaccine)が従軍時に接種されており、これが、湾岸戦争症候群(Gulf War Syndrome-GWS-)の原因となっているとされている。
この炭素菌ワクチンは、スクワレン・ベースのMF59を使用していた。
これについては、「Million TIMES More Squalene In H1N1 Vax Than Caused GWI !! 」
「ANTHRAX VACCINE IMMUNIZATION PROGRAM 」
をご参照
⑨動物由来のMDCK組織を使っての組織培養ワクチン製法の安全性についてのFDAの懸念点
グラクソ・スミスクライン社のワクチンとノバルティスファーマ社のワクチンとでは、ウイルス培養の過程での製法が異なる。
グラクソ・スミスクライン社のワクチンは、産み落とされてから9-10日たった発育鶏卵(孵化するまでの発育途上の状態の卵の尿膜腔(allantoic cavity) でウイルスを増殖培養する方法のワクチン(embryonated egg culture vaccine)であり、
バルティスファーマ社のワクチンは、動物由来のMDCK組織を使って組織培養する方法のワクチン(cell culture vaccine)
である。
この後者のワクチン製造の過程における動物由来の組織培養( cell culture )による製法の安全性について、アメリカのFDAでは、懸念を示している。
細胞培養(culture-based process )自体は、古くからの技術である。
ノバルティスファーマ社のワクチンでは、新型ウイルス(A/California/04/2009)を、MDCK(Madin-Darby Canine Kidney)細胞内で増殖させたものに、上記のアジュバントMF59を添加させて、製造している。
MDCK細胞の名前は、もともと、1958年に、コッカスパ二エールのオスの成犬(Canine)の腎臓(Kidney)を組織として、カリフォルニア大学バークレー校の、Madin と Derby両氏によって、開発されたことから、この名前がつけられている。
今回のノバルティスファーマ社のワクチン製造は、基本的には、同社の季節性インフルエンザワクチンである Optaflu の製法を基にしたものである。
アメリカFDAにおいては、MDCK細胞培養によるワクチンが未承認である。
その理由として、もともとのMDCK細胞には発癌性細胞リスクはないが、MDCK細胞の化学的に形を変えた誘導体(chemically transformed derivative)であるMDCK-T1に発癌性細胞リスク(腫瘍原性-tumorigenicity-)がありうるとして、
A.DNA(Residual DNA)のコンタミネーションがあるか?
ワクチンの最終製品の過程において、すべての細胞が取り除かれるための、フィルタリング技術の確立が必要である。
MDCK細胞は、犬の組織であるが、ワクチン注射によって、人と犬とのDNA(Residual DNA)のコンタミネーションがあるか?
B.偶発的な病原体のコンタミネーションがあるか?
C.ウイルスと細胞との潜在的な相互作用があるか?
などを、FDAは危惧しているようである。
この点についてのFDAの見解は、
「FDA: Use of MDCK Cells for Manufacture of Inactivated Influenza vaccines 」
「“Designer”1 Cells as Substrates for the Manufacture of Viral Vaccines 」
をご参照
参考「Use of Madin-Darby Canine Kidney (MDCK) Cells for Manufacture of Inactivated Influenza Vaccines 」
ただ、FDA自体も、細胞培養(culture-based process )によるワクチン製造の利点については、認識を示しているようである。
特に、「公共緊急事態準備法」(The Public Readiness and Emergency Preparedness Act (“PREP Act”) の成立によって、個人のワクチン被害への補償が果たされ、国やワクチンメーカーの不法行為賠償責任(Tort Liability)への免責が図られるという法制度環境の変化が、FDAをして、柔軟な対応へのシフトをさせているものと思われる。
新しいワクチン製造技術の評価については
「A New Vaccine Supply Strategy 」
「Flu Vaccines and the Risk of Cancer 」
「What You Need to Know About the New Flu Shots 」
などをご参照
⑩アメリカ使用のH1N1新型インフルエンザ・ウイルス・ワクチンのチメロサールと水銀の含有量一覧
CSL Limited
チメロサール 0.01%(1:10000)
水銀 24.5 mcg/0.5ml
Novartis Vaccines and Diagnostics Limited
チメロサール 0.01%(1:10000)
水銀 25 mcg/0.5ml
Sanofi Pasteur Inc
チメロサール 0.01%(1:10000)
水銀 25 mcg/0.5ml
MedImmune LLC
チメロサール 0%(1:10000)
水銀 0 mcg/0.5ml
濃度 1:10,000
= 0.01% 濃度
= 50 マイクログラム/0.5 mL あたり
1 マイクログラム
= 1mcg
= 1グラムの百万分の一
小児用ワクチンのほとんどは、0.5 mL (ミリリットルの半分)で提供される。
したがって、濃度のほとんどは、”per 0.5 mL.” で報告されている。
チメロサールの半分は、水銀なので、
チメロサール濃度0.01%のワクチン
= 0.005% 水銀濃度
= 25 マイクログラムの水銀/ワクチン0.5mLあたり
(ちなみに、
食卓に供される魚の平均水銀含有量=23マイクログラム/魚8オンスあたり
8オンス=226796185マイクログラム=226グラム
魚1グラムあたりでは、
23÷226=0.10マイクログラム)
参考「Thimerosal Content in Some US Licensed Vaccines」
その他の構成成分については、このサイト「Components of H1N1 Influenza A Vaccines 2009/10 」をご参照
以上
2009年10月31日
10月27日に閣議決定した「新型インフルエンザ対策特別措置法案」ならびに「独立行政法人地域医療推進機構法案」による措置のポイントは、新型インフルエンザ・ワクチンの接種が予防接種法に規定されてる「二類疾病」接種に入っていないことによる措置だ。
「二類疾病」接種に準じるセーフティー・ネット
現在、65歳以上の季節性のインフルエンザワクチン接種は、予防接種法に規定されてる「二類疾病」接種である。
一方、今回の新型インフルエンザ・ワクチン接種は、予防接種法に規定されてる「二類疾病」接種措置の埒外にある任意接種である。
しかし、任意接種ではあるものの、国の事業として医療機関に委託して実施する以上、接種行為に起因する被害も救済する必要があるとし、「二類疾病」接種とイコールフッティングにするために、「二類疾病」接種に準じるセーフティー・ネットを、今回の「新型インフルエンザ対策特別措置法案」ならびに「独立行政法人地域医療推進機構法案」の二法案によって、措置するものである。
一類疾病と二類疾病との違いは
では、そもそも、現在の65歳以上についての季節性インフルエンザ・ワクチン接種が、どのような過程で、予防接種法に組み入れられてきたのだろうか。
予防接種法第二条三項において、「二類疾病」(個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的として、この法律の定めるところにより予防接種を行う疾病)として、インフルエンザは規定されている。
一類疾病と二類疾病との違いは、
一類疾病に対する接種は、集団予防目的であり、国民に予防接種を受けるよう義務付けが規定されている法定接種である。
これは、さらに、定期接種(一類)と臨時接種とに分けられうる。
二類疾病に対する接種は、個人予防目的であり、国民に予防接種を受けるよう義務付けが課せられていない非法定接種である。
任意接種と一般的に言っているが、やや、この区分には、グレーゾーンがあるようだ。
つまり、任意接種には、法律に基づかない任意の予防接種もあるが、この二類疾病に対する接種は、強いていえば、法律に基づいた任意の予防接種ともいえるのだが—
だから、接種の義務を伴わないにもかかわらず、65歳以上の対象者には、毎年、季節性インフルエンザのシーズンになると、9月中旬あたりに、公的機関からの通知がくるということだ。
二類疾病に対する接種は、さらに、定期接種(二類)と臨時接種とに分けられうる。
任意接種というヌエ的概念が生まれていく過程
問題は、接種の義務付けが課せられていない二類疾病の接種に対しても、一類疾病に対する接種同様のセーフティーネットが、どうしてもうけられているのか?ということなのだが。
それは、日本のインフルエンザ・ワクチンの任意接種のヌエ的歴史に立ち戻ることになる。
すなわち、
1962年に、厚生省が都道府県知事に勧奨を通知したことにより、インフルエンザワクチンが勧奨接種に組み入れられ、学校での集団接種が始まった。
1967年に、インフルエンザワクチンの接種年齢を三歳以上との勧告が出された。
1972年には、インフルエンザワクチンが、HAワクチンに切り替えられた。
1976年の予防接種法の改正によって、インフルエンザワクチンは、臨時接種(臨時の義務接種)とされた。
1979年には、群馬県前橋市で、1人の児童がインフルエンザワクチン接種後に痙攣を起こしたが、国は、それが副作用であることを認めなかったため、前橋市医師会は、1980年から集団接種停止を決めた。
1987年には、インフルエンザワクチン接種率の著しい減少もあり、保護者の同意を重視する実質的任意接種となった。
2001年に、予防接種法の改正で、現在の一類疾病と二類疾病との仕分けができ、二類疾病に、高齢者のインフルエンザが含まれることになった。
この一連の歴史を見ると、実質、任意接種であるにもかかわらず、二類疾病である65歳以上高齢者に対して、一類疾病に対する接種同様のセーフティーネットが設けられているのは、インフルエンザワクチンの副作用についての訴訟が、今後あるかも知れないことを想定しての、、ある種の行政責任回避の担保であるとも見て取れる。
ワクチン訴訟の相手は、新三種混合(MMR)ワクチン大阪訴訟に見るとおり、ワクチンを製造した法人に対するものと、国の法人への指導監督義務違反についてのものがあるが、それ以外に、国の不作為に対する国家賠償法に基づく、責任の問い方もありうる。
今回の「新型インフルエンザ対策特別措置法案」ならびに「独立行政法人地域医療推進機構法案」によって、実質、新型インフルエンザワクチン投与が、二類疾病とイコール・フッティングでのセーフティー・ネットが整備されたとしても、この、もともとの、実質、任意接種であるにもかかわらず、65歳以上高齢者への季節性インフルエンザワクチン接種について、二類疾病として、一類疾病に対する接種同様のセーフティーネットが設けられてことについての、任意接種という言葉のヌエ性を払拭することはできないわけである。
法律に基づく任意接種と、法律に基づかない任意接種との混在
平成十二年十一月三十日中川智子議員提出質問趣意書
「インフルエンザ予防接種の問題に関する質問主意書 」
に対して、当時の厚生労働省は、平成十三年一月二十三日(内閣衆質一五〇第七〇号)において、次のような答弁をしている。
「第百四十七回国会に提出した予防接種法の一部を改正する法律案(以下「法案」という。)においては、御指摘のとおり現行の予防接種の対象者に課されている予防接種を受けるように努める義務を二類疾病に係る定期の予防接種の対象者には課さないものとしており、この点については法律に基づかない任意の予防接種との違いはない。
しかしながら、平成十二年一月二十六日付けの公衆衛生審議会の意見において「高齢者を対象としてインフルエンザの予防接種を行うため、予防接種法の対象疾病にインフルエンザを追加するべきである。」、「市町村が実施しやすく、被接種者や接種医が、安心して、接種を受けやすくまた接種することができるように、定期の予防接種としての体制を活用していくべきである。」等とされていること、健康被害が生じた場合に公費による救済制度を設ける必要があること等から、法案においてはインフルエンザを二類疾病として位置付けることとしたものである。
中略
予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)においてどのような疾病を二類疾病として位置付けるかについては、各々の年齢層において等しく感染又は発病する可能性がある疾病のうち予防接種の安全性及び有効性が確認されているもの(一類疾病を除く。)の中から、当該疾病の発生予防や公費による健康被害救済の必要性等を総合的に勘案して選定されることになると考えている。
中略
法案は、高齢者を対象としてインフルエンザの予防接種を行うことを目的として、予防接種法の対象疾病にインフルエンザを追加すること等を内容としていたものであり、政府として、同法に基づき児童に対してインフルエンザの予防接種を行うことは考えていない。なお、現行の予防接種法に基づく予防接種の実施に当たっては、市町村等に対して各医療機関で行う個別接種を原則とする旨の技術的な助言を行っているところであり、インフルエンザが同法の対象となった場合にも、個別接種を原則とする旨の徹底を図っていく考えである。」
任意接種という概念が国の責任をあいまいにしている
ここで、重要と思われるのは、次の箇所である。
「政府として、同法に基づき児童に対してインフルエンザの予防接種を行うことは考えていない。」
この点に、実質,法定接種的であるにもかかわらず、任意接種であると言い切らねばならない、国の苦しさが見える。
また、今回の法改正が、単に、予防接種法第二条三項の改正では、済まされえない、隠されたドミノへの国のおそれの存在がある。
今回の「新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済等に関する特別措置法案」においては、「今回の新型インフルエンザ・ワクチンは、非法定接種であり、ワクチン接種に伴う副反応に対する救済はこの特別立法措置で対応する」、との整理である。
ここで、問題なのは、国の責任についてである。
非法定接種とする限り、国の責任は、問われない。
しかし、今回の新型インフルエンザワクチンを、国民が、すべて、任意として、接種を受けているかといえば、そうではない。
つまり、国が、事実上の接種優先順位を決めている以上、接種を受ける国民の選択権は、その時点で、著しく、狭められている。
ブリンカー(遮眼革)をつけた馬がまっすぐ動かざるを得ないのを、「これは、馬が任意で動いているのだ。」というのと、これは同じことである。
国が、ワクチンの優先接種対象者順位を決め、事実上、国が接種勧奨し、国民に対する個人として努力義務を課している以上、この接種は、決して、任意接種ではない。事実上、完全な法定接種である。
医師の責任も、この法律によっては、免責とはなっていない。
「善きサマリア人法」(Good Samaritan Law) のある国であれば、この措置でいいかもしれないが、日本には、アメリカのあるごとき、「善きサマリア人法」はないのだから、医師にとっては、依然として過酷な心理的な負担を迫られていることには、変わりないのだ。
国立大学医学部長会議は10月22日に、「新型インフルエンザ・ワクチンの接種は、現在任意接種との位置付けだが、安全性についてまだ十分なデータの蓄積がなく、副作用が出た場合に個々の医師が法的責任を問われる可能性があるので、予防接種法に基づく法定接種とするべき」との長妻昭厚生労働相あての要望書をまとめたが、無理からぬ要望ではある。
海外ワクチンメーカーに対する政府補償は、限定的であるべき
ましてや、輸入ワクチンについては、治験もほとんどない状態で、国民は、やむにやまれぬ任意接種という形となる以上、輸入ワクチンの安全性を、国民に情報開示できなかったり、治験による安全性をおこたった場合には、国の不作為は、問われうる。
今回の法案では、輸入ワクチンによる副作用被害が出た場合、海外メーカー側の訴訟費用や損害賠償金を政府が肩代わりするとの規定はあるが、ここにも、国の責任は、すっぽり抜け落ちている。
いわば、ここでは、海外ワクチンメーカーに対する政府補償(Government indemnification)を担保するための、肩代わりを果たす、という形をとっているようである。
しかし、この政府補償(Government indemnification)の範囲については、いろいろな考え方があるようである。
このサイト「Pandemic Influenza:CanWe Develop a GlobalVaccine Policy?」 では、Chironからのワクチンメーカーの法的責任と政府補償の可能性についての見解に対して、Gordon, Lance K氏が、次のように言っている。
「商業ベースの責任保険でも、限られてはいるが、利用可能である。
政府も、非常事態に対応して使用されるワクチンに対する補償は用意できる。
しかし、政府補償は、あらかじめ準備された状況で、発生するわけではない。
政府補償がカバーできるのは、製薬会社の自家保険または、商業保険によって、カバーできない部分についての法的責任についてのみ、カバーするだけである。」
“Commercial product liability insurance, although limited, is available, noted Gordon.
Also, the U.S. government can provide indemnification for a vaccine used in an emergency response, but indemnification does not occur in the preparedness context.
Government indemnification only covers liability that is not covered by the company’s self-insurance or commercial insurance.”
モラルハザードのオンパレードにならなければいいのだが–
今回の政府の「輸入ワクチン製造会社訴訟費用無条件丸抱え」スキームは、あまりに、足元を見られた対応のようにも、見える。
つまり、国は、接種被害国民と輸入ワクチン製造業者との間に立つ、ブローカー様・身元保証人的役割しか果たしていないのだ。
その意味では、非常に言葉は悪くなるが、今回の新法案は、間接的な政府保証の元での、「海外輸入ワクチン訴訟促進法」として悪用されうるモラルハザードの可能性が大いにありうる。
たくみにダミーを経由した間接的「無過失補償・無過失免責スキーム」では、その隙間をつくモラル・ハザードの発生を阻止しえないように思える。
日本にも必要な日本版「公共緊急事態準備法」の整備
以上の構図から見えてくることは、今回のパンデミックという緊急事態の前で、行政・医師・ワクチンメーカー・市民が、、四すくみをしているという事態である。
あるかもしれない副作用・副反応に、立ちすくみをしている間に、年少者の犠牲者が次々と倒れていく、そのような構図でもある。
今回の「新型インフルエンザ対策特別措置法案」のような弥縫措置では、いつまでたっても、パンデミックがおこるたびに、同じような混乱が繰り返されるばかりである。
ここで、参考にすべきは、アメリカの、「公共緊急事態準備法」(The Public Readiness and Emergency Preparedness Act (“PREP Act”) である。
アメリカにおいても、ワクチンの使用による訴訟問題の発生には、頭を悩ますものがある。
そこで、この、「公共緊急事態準備法」においては、まず、保健社会福祉省が、疾病の流行などの措置に関するクレームや損害賠償請求についての不法行為賠償責任(Tort Liability)からの免責についてのPREP Act宣言を出す。
ただし、この場合は、意図的な違法行為(willful misconduct) はのぞくものとする。
同時に、政府が直接的に与えた損害に対して、これらの損害賠償に対し、政府に偶発損失準備金(emergency fund) を準備し、対応する。
以上の内容のものだ。
おそらく、今回の日本がワクチンの輸入に対して、ワクチンメーカーから免責を求められたのは、この、「公共緊急事態準備法」とのイコールフッティングの措置を求められたものと解釈される。
アメリカでは、今回のこの法律の成立によって、個人のワクチン被害への補償が果たされると同時に、政府やワクチンメーカーの不法行為賠償責任(Tort Liability)への免責が図られるようになり、パンデミック時の行政・企業一体となった、対応が、可能となっている。
もっとも、この法律には、批判がある。
それは、①PREP Act宣言を出す基準が明確ではなく、政府の裁量が大きすぎること、②あまりに、ワクチン・メーカーの主張を取り入れすぎていること、③個人の訴訟権利を事実上制限するという、米国憲法の基本原則の侵害である、④すでに5例はあるといわれるワクチンによると見られるギランバレー症候群の存在を隠蔽するものである、⑤州法において、すでに、チメロサールを含むワクチンTCVs( thiomersal-containing vaccines )の使用禁止がうたわれているものと背馳する措置がとられかねない、などの点についての批判である。
これらのアメリカの「公共緊急事態準備法」の問題点と限界を見据えた上で、日本においても、それを超える日本版「公共緊急事態準備法」の整備を図ることが、医師の安心、メーカーの安心、そして、思い切った行政の決断を促しうる、大きな意味でのセーフティー・ネットと、なりうるものと思われる。
2009年10月30日
この論文「Effectiveness and Cost-Effectiveness of Vaccination Against Pandemic Influenza (H1N1) 2009 」(スタンフォード大学のNayer Khazeniらの研究)は、『内科開業医のお勉強日記 』さんのサイトでも紹介されていた論文だが、非常に興味深い分析がされている。
妙な政治主導で、せっかく決まりかけていたワクチン一回接種の方針を覆し、結果として、一番インフルエンザ脳症にかかりやすい小学校低学年への接種を、クリスマスまで遅らせてしまった厚生労働省政務官殿に見せたい論文である。
概要は、次のとおりである。
研究目的の意図は、もっとも効果的なタイミングと範囲で、ワクチン接種を 行うには、どうしたらいいいのか、ということである。
そこで、10月から11月にかけてのタイミングにおいて、いくつかのシナリオを用意した。
対象は、アメリカの主要都市で、人口は、八百三十万人とする。
ワクチン接種は、10月中旬から11月中旬のあいだとする。
評価の手法は、感染・死亡回避可能数、コスト、QALYs (質調整余命年数=健康の質で補正した生存年数、数値が高いほど、健康な状態での長生きを表しうる。)、増分費用対効果(incremental cost-effectiveness ratio: ICER)
とする。
前提
初感染の患者が、1.5倍の二次感染者を生むとして、人口の40パーセントに対するワクチン接種を10月と11月のいずれのタイミングでおこなったら、コスト削減につながるのか?
分析の結果
ワクチン接種を10月に行った場合、
2051人の死者を回避できる。
QALYs値は、69 679である。
コスト削減は、
ワクチン接種を行わなかった場合に比して、4億六千九百万ドルの節減となる。
ワクチン接種を11月に行った場合、
1458人の死者を回避できる。
QALYs値は、49 422 である。
コスト削減は、
ワクチン接種を行わなかった場合に比して、三億二百万ドルの節減となる。
ワクチン接種のコスト節減効果は、
ウイルスの潜伏期間が長いほど
感染率が低いほど
薬剤によらない感染介入が、感染ピークに遅れれば遅れるほど
大きい。
したがって、もし、感染ピークが10月中旬より速い場合は、ワクチン接種によって人命を救う確率が低くなり、また、対コスト効果は少なくなる。
結論
早期のワクチン接種がより多くの死者を回避でき、また、コスト節減につながる。
ワクチン皆接種は、必ずしも、パンデミックの期間を 短くしうるウイルス増殖率の減少には、つながらない。
以上
このところ、一度やりたかったのと、半分ボランティア気取りで、暇をみて、近くの小学校の通学安全指導をしている。
簡単に言えば、「緑のおじさん」だ。
子供たちとの会話にも、いろいろな発見があって、面白い。
「ホットケーキの粉で、クッキー作る方法、おじさん、知っている?」なんて質問をされても、答えられるはずがない。
「大根ってのは、古代ギリシャ・ローマの時代からあったんだよ。」知らなかったぜ-。
ネットで調べたら、たしかに、古代ギリシャでは、刑罰として、大根を尻の穴に突っ込む、っていうのもあったらしい。
今の子供たちの情報源は、飛躍的に拡大しているらしい。
時に、「子供たちに注意したら、馬鹿といわれた」といって、苦情を言ってくるおばさんもいる。
今日も、そんなおばさんが来て、「このごろの子供は、どうしようもない。」っていきり立つものだから、ここは、「親に代わって」というべきか「先生に代わって」というべきか、迷ったが、結局、「子供にかわって、お詫びします。」って、謝まっている最中に、後ろから、野太い声が—-
「曲がるんだけど」そして、もう一回、「曲がるんだけど」
振り返ると、白い三輪バイクに、白いヘルメットのおっさんが—
もっとも、この道は、一方通行なので、ちょっと大きめの車は、曲がるのに、縁石ぎりぎりを使って、曲がらなければならないところだ。
でも、このおっさんの乗っているのは、三輪バイクなんで、ちょっと大回りをすれば、難なく曲がれるはずなのに—-
と思いながら、その声の主のヘルメットを見ると、黒々と「〇〇区議会」の大文字が—
そういえば、このおじさん、確か、この小学校のOBで、卒業式なんかでも、よく、見る顔だ。(お名前は、一定期間は出しません。)
しかし、このものの言い方から見る限り、区議会議員としてのノブレス・オブリージュ のひとかけらも、見当たらない。
「だったら、自分で旗振ってみたらいいじゃないか。」といいたい気持ちをぐっとおさえて、にこやかに笑みのみを返した。
水戸黄門なら、ここで、「助さん、格さん、懲らしめておやりなさい。」というところだが。
それとも、このおじさん、石*伸*さん系統なんで、政権交代で、このところ、ちょっと、余裕なくして、オヤジ同様(w)機嫌悪いんかしら?なんて、余計なことも思ってしまった。
それにしても、世間一般の挨拶と、ものの言い方もしらない絶滅危惧種的な区議会議員は、これに限らず、まだ、多く生息しているのかもしれない。
元議会人である私としては、なんとも、やり切れない気持ちになった、今日の一幕ではあった。
本日、WHOから発表された
「Experts advise WHO on pandemic vaccine policies and strategies 」
の概訳です。
WHOの免疫化に関する戦略的勧告専門家グループ(SAGE)は、10月27日から29日にわたって会議をひらき、 現在における世界の感染流行の疫学的状況について再検討し、公衆衛生的な観点からの問題を考慮した。
そこでは、ワクチンの免疫原性についての臨床実験からみてのワクチン接種の可能な状況や、現在接種中の国々における安全性のモニタリングについての速報結果などについて、議題となった。
同時に、ウイルスからの防御に必要な接種回数についてや、ことなった年齢層において、季節性と新型とのワクチンのと同時接種や妊婦へのワクチン接種の問題についても議題となった。
さらに、2010年における南半球での季節性インフルエンザワクチンの推奨構成株についても、議題となった。
①現在の状況
世界の現状は、ティーンエージャーやヤングアダルトの感染が依然として増加続けており、また、乳幼児の入院率も増加している。
患者の1パーセントから10パーセントが、入院を 必要としている状況である。
また、入院した患者の10パーセントから25パーセントが、集中治療室への入室を必要とする状況である。
そのうちの2パーセントから9パーセントが重症である。
すべての入院者の7パーセントから10パーセントが妊婦であり、一般人と比較すると、妊婦は、その10倍、集中治療室での看護を必要とする状況である。
このような現在の状況を踏まえ、 専門家は、以下の勧告をする。
②ワクチン接種は、一回を推奨する
現在認可されているワクチンについて、それが、生であろうと、不活化であろうと、アジュバ゜ント入りであろうとなかろうと、監督機関からの指示が一致している場合には、10歳以降の成人・青年への接種は、一回接種を推奨する。
生後6ヶ月から10歳以下の子どもについての免疫原性データが限られており、更なる研究が必要である。
国が子供たちに優先接種順位を 置いている国においては、て゜きるだけ多くの子どもたちにワクチン接種がいきわたるように、一回接種を推奨する。
なお、免疫障害を持つ人々に対しては、その投与量如何について、更なる研究が必要であると強調している。
③季節性インフルエンザワクチンと新型インフルエンザワクチンの同時投与について
季節性インフルエンザワクチンと新型インフルエンザワクチンの同時投与については、臨床実験が進行中であるが、CDCの見解では、弱毒化した生ワクチンについては、同時投与は避けるべきであるとしている。
季節性・新型両方のワクチンが不活化クチンであったり、片方のみ生ワクチンであった場合では、同時投与は許される、としている。
このような場合の同時投与では、有害事象のリスクを増大させる証拠は、なんら見当たらない、と、している。
ワクチンの安全性については、これまでワクチン接種したものについてのモニターでは、異常な副作用は見られていない。
いくつかの副作用例は、あるが、それらは、季節性インフルエンザワクチン投与で見られる範囲のものにとどまっている。
現在のところは、安全性は確認されているが、引き続きモニターは続ける。
④妊婦へのワクチン投与の安全性について
妊婦へのワクチンについて、実験動物への生弱毒化ワクチンの投与では、アジュバントのあるなしにかかわらず、受胎能力,妊娠、胎芽の発達、胎児の発達に対しての、直接的・間接的影響は見られていない。
これらのことから、特定の禁忌症状が確認されない限り、認可されたワクチンであれば、妊婦へのワクチン使用は可能である、としている。
⑤2010年の南半球でのワクチン推奨株について
二つのオプションについて、検討された。
ひとつは、三価ワクチン(H1N1.H3N2.B型)、
もうひとつは、二価ワクチン(H3N2.B型)である。
後者については、現在の新型H1N1ワクチンを補う形での接種となる。
専門家グループとしては、両者のオプションとも可能な選択である、とした。
以上