この論文「Effectiveness and Cost-Effectiveness of Vaccination Against Pandemic Influenza (H1N1) 2009」(スタンフォード大学のNayer Khazeniらの研究)は、『内科開業医のお勉強日記』さんのサイトでも紹介されていた論文だが、非常に興味深い分析がされている。
妙な政治主導で、せっかく決まりかけていたワクチン一回接種の方針を覆し、結果として、一番インフルエンザ脳症にかかりやすい小学校低学年への接種を、クリスマスまで遅らせてしまった厚生労働省政務官殿に見せたい論文である。
概要は、次のとおりである。
研究目的の意図は、もっとも効果的なタイミングと範囲で、ワクチン接種を 行うには、どうしたらいいいのか、ということである。
そこで、10月から11月にかけてのタイミングにおいて、いくつかのシナリオを用意した。
対象は、アメリカの主要都市で、人口は、八百三十万人とする。
ワクチン接種は、10月中旬から11月中旬のあいだとする。
評価の手法は、感染・死亡回避可能数、コスト、QALYs (質調整余命年数=健康の質で補正した生存年数、数値が高いほど、健康な状態での長生きを表しうる。)、増分費用対効果(incremental cost-effectiveness ratio: ICER)
とする。
前提
初感染の患者が、1.5倍の二次感染者を生むとして、人口の40パーセントに対するワクチン接種を10月と11月のいずれのタイミングでおこなったら、コスト削減につながるのか?
分析の結果
ワクチン接種を10月に行った場合、
2051人の死者を回避できる。
QALYs値は、69 679である。
コスト削減は、
ワクチン接種を行わなかった場合に比して、4億六千九百万ドルの節減となる。
ワクチン接種を11月に行った場合、
1458人の死者を回避できる。
QALYs値は、49 422 である。
コスト削減は、
ワクチン接種を行わなかった場合に比して、三億二百万ドルの節減となる。
ワクチン接種のコスト節減効果は、
ウイルスの潜伏期間が長いほど
感染率が低いほど
薬剤によらない感染介入が、感染ピークに遅れれば遅れるほど
大きい。
したがって、もし、感染ピークが10月中旬より速い場合は、ワクチン接種によって人命を救う確率が低くなり、また、対コスト効果は少なくなる。
結論
早期のワクチン接種がより多くの死者を回避でき、また、コスト節減につながる。
ワクチン皆接種は、必ずしも、パンデミックの期間を 短くしうるウイルス増殖率の減少には、つながらない。
以上