笹山登生のウォッチ&アナライズ –


2009年12月26日

農家の自家消費米の市場化と戸別所得補償との関係は?

Category: 未分類 – Tatsuo Sasayama – 5:57 PM

ちょっとシミュレーションしてみましょうか。

①コメの生産拡大意欲を持たない人→
→減反に参加する→戸別所得補償をもらう。耕作放棄地は復活。自家消費分も市場にまわされ、コメ市場は、供給過剰へ→更なるコメ価格の下落につながる。

→減反に参加しない→どういうケースだろうか?受委託継続

②コメの生産拡大意欲を持っている人→

減反に参加する
→コメが安い場合→戸別所得補償をもらう。自家消費分も市場にまわされ、コメ市場は、供給過剰へ→更なるコメ価格の下落につながる。
→コメが高い場合→どういうケースだろうか?本来もっと手取りが増えるのに、機会損失となる。

減反に参加しない
→コメが安い場合→どういうケースだろうか?薄利多売型農家というか–
→コメが高い場合→本来は、作り放題に作って、機会利益を受けうるはずであるが、農地集積の可能性が低くなる限り、生産意欲は限定

ということでしょうか?

ポイントは、これまでの兼業農家の生産米の多くが、本来の自家消費から、市場にまわってきて(自家消費から個人直接販売というか、庭先販売へのシフト)、兼業農家の多くは、安心して、いわゆる販米農家(自給販米農家)に徹してくる確率が高くなる。ということなのではないでしょうか。

この結果、生産意欲のない農家が、戸別所得補償はがっちりもらいながら、これまでの自家消費米や縁故米・贈答用米を安心して市場に回し、自分たちは、飯米農家に撤するということになると、自家消費米の市場出回り量は多くなり、米の価格は、さらに下がり、農地集積のできない、生産意欲を持つ農家は、米の価格低下による相対的なコスト高の影響をモロにうけていく、という構図なのでしょうか

現在の農家の自家消費米の量については、このサイトご参照

農家自家消費量は、「生産者の米穀現在高等調査」(飯用消費分)のうるち・もちの合計値であり、全体の9パーセント、
無償譲渡数量-いわゆる縁故米・贈答用米-は、「生産者の米穀現在高等調査」のうるち・もちの合計値であり、全体の7パーセント
となっている。

意外と多いんですね。

つまり、表面上は、減反も守られ、耕作放棄地も復活(というか、戸別所得補償を受け取るがためのやむを得ざるコメ生産のポーズだけの復活)できるのですが、戸別所得補償という換金回路(というか、換金しなくとも、金になりうる回路)の存在のために、本来の農政の枠外であったニッチの農家の自家消費米が、プラスアルファの換金作物として、市場に登場し、コメ価格に影響を与える、ということなのでしょう。

減反面積はちゃんと守られているのに、市場ではコメ余り現象が一段とひどくなる、という構図が予測されますね。

そのことは、中期的には、更なる生産コストと販売コストとの乖離を招き、戸別所得補償額は、年々膨らみ、ついには、このスキームは、かつてのEU同様、巨額の財政負担のために、やむなく、崩壊する。という経路をたどるんでしょうね。

まさに、コモンズの悲劇が、この農政の場面でも展開されるというわけですね。

つまり、市場ですでに飽和状態となっているアイテムについて、品質に対するインセンティブでない、形だけの耕作継続に対するインセンティブを過剰に与えたツケとしての悲劇ともいえますね。

制度の目的として日本の食糧自給率の向上をうたいながら、すでに自給率が飽和状態に達しているコメという産品に対して、さらにこれでもかのインセンティブを与えているという戸別所得補償のスキームの矛盾の結果がここに現れているとも言えそうです。

石破茂さんの『米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向』の「選択肢3」によれば、「生産費の低下スピードと生産調整の「緩和」による米価下落のスピードを調和させることにより、財政負担を抑えることが可能となる。」という善意の麗しい予測に基づくものなのですが、現実は、そうはいかず、実際は、この農家の自家消費米というゾンビ的な伏兵にもろくも、このスキームは破られてしまうことになりそうですね。

この自家消費米と縁故米、贈答米というのは、米流通におけるのりしろ的存在というかゲリラ的存在というか、米流通における農家段階での自家消費米と出荷米との両刀使い的グレーゾーンな流通在庫というか、ふだんは正規流通の影に隠れているのですが、今回のように、米の対価としてでなく金が支払われるということになると、一躍、農家にとっての有力な換金作物として、とことん、すってんてんに売り払われる(米不作時などの庭先売りの主要供給源)、という性格を持ってくるのですね。

そのへんを農林水産省は見落としてしまっているんでしょうかね。

農林水産省は「主食用米の需給調整はこれまで以上に進む」なんてのんきなことを言ってるんですが。

つまり、この戸別所得補償は、このようなバグが隠されたスキームなのですね。

えっ? 飯米農家の市場でのコメ需要がふえるですって?

そうはいかないでしょうね。そこは、減反不参加農家の縁故米の地域内流通という、これまた、隠れた市場ってのがあるわけですから、これでこれらの漏れは、うずまっていくという仕掛けとなるんでしょう。

また、かんぐると、戸別所得補償を受ける資格要件確保のために、一応、減反を宣言するが、実際は、減反分のほうに、表面的には、水田利活用自給力向上事業の対象になるようにしといて、実は、水陸両用の新規需要米モドキの混米用の一物二価米を作って、これを、グレーゾーン米として、確保しといて、『一粒で二度おいしグリコ米』を作っておく、という裏の手をやらかすものも出てくるかも知れませんね。

ましてや、減反未達成分については、もはやペナルティは課せられないのですから、モラルハザードのオンパレード、偽装転作のオンパレードとなって、農林水産省が予測する以上の米余り現象となって、コメ価格は、予想以上に低落し、日本のコメ農家の総アウトサイダー化によって、コメ版コモンズの悲劇は、日本列島いたるところの田んぼで繰り広げられるのでしょう。

コメントはまだありません »

No comments yet.

RSS feed for comments on this post. | TrackBack URI

Leave a comment

XHTML ( You can use these tags): <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong> .